生産性向上に取り組む際のポイントとは?5つの施策と注意点を紹介

更新:2023/07/28

作成:2022/09/05

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

生産性向上に取り組む際のポイントとは?5つの施策と注意点を紹介

生産性の向上は、企業が利益率を高めたり社員の待遇を改善したりするうえで、不可欠なものです。また、政府が主導する働き方改革なども、生産性を高める必要性につながっています。

 

本記事では、生産性向上の概略と、企業が生産性向上を目指すべき理由・背景を確認します。そのうえで、生産性向上に向けて企業が取り組むべき施策と、生産性向上を目指す際の注意点を解説します。

<目次>

生産性向上とは?

まず、生産性とは、「インプットに対するアウトプットの比率」です。計算式では、「生産性=成果物(アウトプット)÷ 投入物(インプット)」とあらわせます。

 

企業における生産性とは、「ヒト・モノ・カネなどの投入資源に対して、どれだけの成果を出せたか?」ということです。生産性は、ビジネスモデル、メンバーのパフォーマンス、市場環境、設備やシステムの効率性……といったさまざまな要因で変化します。

 

企業が目標を達成し成長を続けていくうえでは、今と同じもしくは、少ない労力や人員などの投入物で、より多くの利益を出せる状態(生産性向上)にすることが大切です。

 

物的労働生産性と付加価値労働生産性の定義と計算式

企業の生産性を向上させるには、現状の振り返りや業務改善、目標設定の基準となる指標が必要です。経営学者であるドラッカーは、「計測できないものはマネジメントできない」と言っています。

 

生産性を測る考え方には大きく2つ、物的労働生産性と付加価値労働生産性があります。

 

物的労働生産性は、アウトプットの対象を“売上高”や“生産量”などの総量で考えるものです。一方で、付加価値労働生産性は、アウトプットの対象を“付加価値”で考えるものになります。それぞれの計算式は、以下のとおりです。

  • 物的労働生産性=生産数量(売上高の場合もある)÷ 労働量
  • 付加価値労働生産性=付加価値額 ÷ 労働量

企業が生産性向上を目指すべき理由・背景

組織における生産性向上は、以下のような理由や背景で非常に重要なものです。

 

生産性の向上が待遇改善や賃金アップの原資となる

採用市場で競合との差別化を図り、優秀な人材の獲得・定着を促すには、自社の待遇を改善することが大切です。

 

賃金アップや福利厚生の充実といった待遇を改善させるには、自社の生産性を向上させて、原資を十分に確保することが必須となってきます。逆にいえば、生産性を向上させなければ、メンバーの待遇改善は難しいといえるでしょう。

 

生産性の向上が利益を生み出す

たとえば、100万円の費用で120万円の売上が出ていたものを、80万円の費用で120万の売上を出せるようにする、もしくは100万円の費用で160万円の売上につなげるといったことが生産性の向上です。

 

企業が自社のサービス、設備などに投資していくためには、利益の確保が不可欠です。生産性の向上は、利益確保を実現する大切な手段です。

 

日本におけるホワイトカラーの労働生産性が低い課題を解決する

スケールを全世界に拡大してみると、日本の労働生産性は、決して高いとはいえない水準です。米国と比べると、日本の労働生産性の水準は約6割程度にとどまります。また、2019年の調査では、G7各国のなかで最下位でした。

 

日本企業を部門別に見たときに、特に労働生産性が低いとされているのが、ホワイトカラー部門です。専門家の間では、ホワイトカラー部門の低い生産性が、経済低迷の根源であるかのような議論も生まれています。

 

こうした背景もあり、近年の日本ではホワイトカラーを中心とした生産性向上が強く求められています。

 

参考:日本のホワイトカラー部門の生産性は低いのか?-電気機械企業55社による全要素生産性の計測 -
参考:令和3年情報通信白書 第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済(総務省)

生産性向上に向けて取り組むべき施策

生産性向上を実現するには、さまざまな施策から自社に合うものを選び、しっかりと取り組む必要があります。本章では生産性向上の主な施策を紹介します。

 

設備投資

設備投資は、製造業や物流業などの生産性向上でとくに大切になるポイントです。設備投資には、工場や物流倉庫の新設といった大規模なものから、機械や設備の導入など部分的なものまでさまざまなものがあります。

 

要件に該当すれば、業務改善助成金などが使える場合もありますので、参考にしてください。

 

参考:生産性向上のヒント集(厚生労働省)
参考:ESG投資(経済産業省)

 

IT活用

IT活用は以下のようなIT技術を使って生産性を向上させる方法です。

  • パソコン・タブレット端末の導入
  • 業務システムの導入
  • 自社のオンラインストア開設
  • さまざまなクラウドサービスの活用
  • ITによる自動化 など

近年では、IT技術の導入を単なる業務改善や生産性向上だけでなく、顧客への提供価値の拡大、事業内容の変更までつなげるDX(デジタル・トランスフォーメーション)も注目されています。

 

IT活用やDXは、物理的な設備投資と同様に、要件に合った場合は、業務改善助成金などが使える可能性もありますので調べてみるとよいでしょう。

 

参考:DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~
参考:生産性向上のヒント集(厚生労働省)

 

業務プロセスの見直し

業務プロセスの改善を通して生産性を向上させる場合、業務効率化とBPRという2つの考え方があります。

 

業務効率化は、既存の業務プロセスや業務フローから無理・無駄などを省き、限られた資源をより効率よく有効活用する考え方です。業務効率化をする場合は、ECRSの原則に当てはめて考えることがお勧めです。

  • E(Eliminate、削除)⇒そもそも工程や作業をなくしてしまえないか?
  • C(Combine、結合)⇒別の作業をまとめてしまうことで効率化できないか?
  • R(Rearrange、交換)⇒順番を入れ替えたりすることで効率化できないか?
  • S(Simplify、単純化)⇒作業をもっと単純にできないか?

また、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)は、業務プロセスや業務フローを根本から見直して再設計することです。

 

業務効率化は、今ある業務プロセスや業務フローを改善していくイメージですが、BPRの場合は、プロセスの目的や位置づけを踏まえてゼロベースで再設計するような考え方です。優劣があるわけではないので、うまく使い分けが考えられるとよいでしょう。

 

人材育成

既存の人材を育てたり成長を促したりすることでも、個人や組織の生産性を向上させることができます。人材育成による生産性向上も2つの視点で考えるとよいでしょう。

 

・能力開発
能力開発とは、各人材が本来持っている能力や資質を高めて、また生かしていくアプローチです。研修などを通じて能力開発、また、場合によっては強みを生かせるように適材適所に役割付与することなども含まれます。

 

・ワークエンゲージメント向上
ワークエンゲージメントとは、メンバーがポジティブな状態で仕事に没頭できている度合いを示すものです。メンバーがポジティブな気持ちで仕事ができれば、集中力やパフォーマンスがアップすることで、生産性も向上します。

 

「能力開発」が発揮できる能力そのものを高めるアプローチだとすると、「ワークエンゲージメント向上」は能力を発揮する人のやる気を高めるアプローチです。

 

ワークエンゲージメントを向上させるためのアプローチは大きく分けると、仕事資源へのアプローチと個人資源へのアプローチという2つの方法があります。

 

仕事資源のアプローチの基本は、各メンバーが抱える仕事の負荷、また能力を発揮するための環境などを以下のように整備していくやり方です。

  • 上司による適切なスケジュールと仕事量の調整
  • 集中力アップにつながるハードとソフトの整備
  • 心理的安全性の高いチームの構築 など

また、個人資源へのアプローチとは、以下のように各メンバーの内面の要素を向上させることで、ワークエンゲージメントを高める施策です。

  • 仕事の意味づけ
  • 成功体験や成長実感が得られる目標設定
  • リフレクションの習慣化 など

能力開発とワークエンゲージメント向上をうまく組み合わせて、人材育成を実施していきましょう。

 

組織力の向上

人材育成は“個人”に対するアプローチでの生産性向上ですが、個人が集まった“組織”に対してアプローチすることで生産性向上を図るアプローチもあります。個人が単に集まった状態から以下のようなチームワークや知の共有を行うことで、生産性を向上させることができます。

 

・ナレッジマネジメント
組織内で働く各メンバーの頭のなかには、言語化されていない以下のような「暗黙知」があります。

  • 早く作業するコツ
  • 経験から身につけた顧客対応の工夫
  • ベテランだから知る独自のノウハウ など

ナレッジマネジメントは、「暗黙知」を、組織内で共有・アクセスできる「形式知」にすることで、組織・個人の生産性を向上させる方法です。個人の視点で見ると一種の能力開発でもありますが、多くの人が集まった組織だからこそできる、生産性向上の方法です。

 

・相互理解
相互理解とは、各メンバーの異なる価値観や資質、考え方などを互いに理解し合うことで、信頼関係を高め、協働や共創につなげることです。

 

人間関係におけるさまざまなコミュニケーションの問題などは、「人間関係」という言葉のとおり、個人と個人の「間」に発生します。また、組織における仕事の連携などの問題も部門と部門の「間」、職種と職種の「間」に発生しがちです。

 

相互理解が深まり、信頼関係がつくられることで、こうした「間」の問題が解決され、組織全体の生産性が向上するようになります。

 

ビジネスモデルの見直し

ビジネスモデルとは、どのように価値を生み出し、どんな顧客に届けるかということです。マクロな視点でみると、ビジネスモデルによって生産性の高低が左右される側面があります。従って、生産性向上を考える上で、ビジネスモデル自体の見直しも大切です。

 

一般的な生産性向上は、設備投資や人材開発といった部分的な施策や改善活動に目が行きがちです。改善の積み重ねももちろん素晴らしいものですが、同時に、ゼロベースで見直しをかけることで飛躍的な生産性向上が実現する場合もあります。

 

ビジネスモデルの見直しは、業務プロセスの見直しにおける業務改善とBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)のような関係です。

 

たとえば、

  • 商社や問屋経由で流通させていたものを、中間マージンなどをすべて省いたオンラインでの直販にする
  • 高付加な商品サービスを開発して、高価格帯で販売していく
  • 売り切り型だった商品を、クラウドサービスとしてサブスクリプションモデルで提供する

といったものがビジネスモデルの見直しです。

 

当然、リスクもあり、上手くいかない可能性も大いにありますが、成功した場合には飛躍的な生産性の向上や成長が見込めるかもしれません。

生産性向上を目指すうえでの注意点

生産性向上の施策を考える実施する上では、以下のような点には注意しておきましょう。

 

部分最適化では効果は薄い

たとえば、A→B→Cという流れで進める分業制度を導入していた場合、真ん中のB部門だけの部分最適化を行なっても、AとCがそのままであれば、全体としての大きな生産性向上が見込めない可能性もあります。

 

また、たとえば、Bの作業スピードだけがずば抜けてアップした場合、Cの処理速度が追いつかず、結果的にBとCの間で作業の停滞が起こるなどの問題も生じやすくなります。

 

業務プロセスの改善などは、各部門で改善や見直しをしていくことも大切ですし、効果も期待できます。ただし、組織全体のパフォーマンスなどを考える場合には、上記のように「全体の最適化」や「ボトルネックの解消」という視点を持っておくことも大切です。

 

業務効率化が生産性向上を妨げる場合もある

仕事のなかで一見無駄と感じられることが、顧客満足度などにつながる意外な価値を生んでいるケースもあります。

 

たとえば、注文商品に同梱する手書きのメッセージカードやお礼状が、じつは商品・サービスを提供する社員とお客様の距離を縮めて満足度を高めているかも知れません。喫茶店でゆったりした席間がリラックスできる雰囲気を生みリピートにつながっているかも知れません。

 

しかし、カードを手書きする時間を無駄と決めつけ、作業をやめてしまう、印刷された定型文にした場合、社員からのメッセージを楽しみにしていた顧客が離れる可能性があるかもしれません。

 

同じように、席間を狭くすることで効率化しようとしたことで、お店の魅力が失われてしまうかも知れません。業務効率化に取り組む際には、作業の効率化を考えると同時に、顧客にとっての価値という視点でも物事をとらえておくことが大切です。

 

目標設定と効果検証

生産性向上を目指すときには、具体的な目標と達成するための計画を立てて、中長期で取り組むことも大切です。行き当たりばったり、手当たり次第で取り組んでいると、短期的な施策、動かしやすい施策ばかりになり、すぐに行き詰まってしまいます。

 

具体的な目標設定には、SMARTの原則を使います。生産性向上の場合、前例がなかったり、目標の難易度が分からなかったりする側面もありますが、仮設定でもいいので定量的に目標設定することが大切です。定量的に目標設定することで、現状とのギャップが明確になり、取り組みやすくなります。

 

また、計画した施策を実施したら、必ず検証→改善→再計画→実施のPDCAを回すことも大切です。最初はうまくいかないことがあるかもしれませんが、PDCAを回すことで効果性が高くなります。生産性向上につながるノウハウが、徐々に蓄積されていくでしょう。

まとめ

企業における生産性は、「ヒト・モノ・カネなどの投入資源に対して、どれだけの効率で成果を出せたか?」を示すものです。

 

企業が実施できる生産性向上の施策には、能力開発やワークエンゲージメント向上などの「人」に対するものから、設備投資やIT化などの「物」に対するもの、ビジネスモデルや業務プロセスの見直しまでさまざまな種類があります。

 

生産性の向上は利益を生み出すものであり、従業員の待遇改善や新たな投資等の原資となるものです。日本の生産性、とくにホワイトカラーの生産性は先進国の中でも低いとされており、生産性向上への取り組みが必要です。

 

本記事の内容を参考に、ぜひ組織の生産性向上に取り組んでみてください。なお、人材育成や組織力の向上から生産性向上を図りたい場合には、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでも協力できますので、お気軽にお声がけ下さい。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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