管理職は、一定規模のチームや組織をマネジメントする人のことです。経営と現場をつなぎ、また、組織の戦略・方針を実行していくうえで、重要な役割を担うのが、“管理職”です。
したがって、管理職の選抜や育成は、組織として非常に大切です。また、管理職になると、現場のプレイヤーとは異なる責任や能力も求められるため、研修などへの切り替えも大切になるでしょう。
本記事では、管理職の定義、管理職に向いている人・向いていない人の特徴を解説します。後半では、管理職研修を提供する研修会社としての知見も踏まえて、管理職に求められるスキルと心構えを紹介します。
<目次>
管理職とは?
まずは、管理職の定義や範囲を見ながら、企業における管理職の位置付けを確認しておきましょう。
管理職の定義
管理職は、一定規模のチームや組織をマネジメントして、事業方針や計画を実行していくポジションです。“管理職”という言葉自体は、法律用語ではありません。そのため、組織内における管理職の位置付けなどは、企業によって異なります。
なお、組織における管理職は、大まかには以下の3区分に分けられます。本記事でも以降、上級管理職、中級管理職、下級管理職という言葉を使っていきますのでご了承ください。
- 上級管理職:事業部長、ゼネラルマネージャー
- 中級管理職:課長、部長、マネージャー
- 下級管理職:係長、チームリーダー
どこから管理職か?
管理職という定義を考えるとき、「どこから管理職か」という話が必ず出てきます。“どこから管理職か?”を考えるうえでは、2つの考え方があります。
まず、前述のとおり、管理職という言葉自体は、法令上の考え方ではなく、「一定規模のチームや組織をマネジメントする立場」を指す言葉です。
一方で、どこから「管理職」か?を考えるうえでは、法律上での定義がある側面もあります。定義があるのは、残業管理などの部分に関わってくるものです。
残業管理を考えるうえでの「管理職」は、法律用語としては“管理監督者”という言葉で定義されます。
労働基準法第41条第2号では、管理監督者を「監督若しくは管理の地位にある者」と定義しており、定義の条件に該当する人には、労働基準法に基づく労働時間・休憩・休日の規定が適用されません。つまり、企業は管理監督者に対して、時間外と休日労働の割増賃金を支払う義務がないわけです。
労働基準法上の「管理監督者」かどうかの判定要素は、判例によっても多少の違いがありますが、厚生労働省の文書では、以下の判断基準が示されています。
- 事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること
- 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
- 一般のメンバーに比しメンバーの地位と権限にふさわしい賃金 (基本給、手当、賞与)上 の処遇を与えられていること
たとえば、一般社員と同様にタイムカードを切って仕事している管理職は、「2. 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること」の条件から外れるため、管理監督者ではない(⇒時間外と休日労働の割増賃金の支払いが必要)と判断されることが多いでしょう。
管理職の場合、組織を運営するうえで、業務上の「管理職」と、残業管理を考える上での「管理監督者」は区分して考える必要があります。
出典:[27] 労基法41条2号の管理監督者の該当性(厚生労働省)
管理職の役割
管理職の役割は、先述の3区分のどれに該当するかで変わってきます。
- 1. 下級管理職(係長やチームリーダー)
- ⇒ プレイングマネージャーであることが多いでしょう。自分が経験してきた職種をマネジメントするようなことが多く、小さな部門やチームの数人をマネジメントするイメージです。マネジメント対象も10人未満であることが大半でしょう。
- 2. 中級管理職(課長や部長、マネージャー)
- ⇒ 中級管理職になるとマネジメントに専念することが増えてきます。管理対象も大きくなり、マネジメント対象は10人~数十人規模と人数も増えます。業種や職種によっては部下が100人を超えるようなこともあり得ます。また、中級管理職の場合、担当組織に複数の階層が存在することもあるでしょう。
- 3. 上級管理職(事業部長や経営幹部、ゼネラルマネージャー)
- ⇒ 複数の階層をマネジメントすることがほとんどであり、マネジメントスタイルも中級管理職を通じて、間接的に組織を動かしていくことが多くなります。人や組織をマネジメントする以上に、事業の戦略や方向性に関するマネジメント業務も増えてきます。
一般社員と管理職の違い
一般社員(プレイヤー)と管理職の最も大きな違いは、「チーム(組織)」として成果をあげる責任があることです。
極端なことをいえば、チームが目標達成などの素晴らしい成果を出し続けているならば、管理職自身が何もしなくても“合格”になるでしょう。一方で、管理職が個人としてはずば抜けた成果を出していても、チーム(組織)として目標達成に遠い状態であれば、管理職としての責任は果たせていないことになります。
チーム(組織)の成果をあげるうえでは、チーム全体の「ヒト(人)」と「コト(業務)」をマネジメントしていくことが必要です。また、中長期的に考えると、ヒト(人)を育成していく必要もあるでしょう。
管理職に向いている人とは?
管理職の役割を担い、チームの成果をあげ続けられる人には、以下のような特徴があります。
リーダーシップがある
リーダーシップとは、チームが目指すべきビジョン・方向性を示し、メンバーを鼓舞するスキルのことです。
チームが成立する条件に、バーナードの3要素(共通目的・貢献意欲・コミュニケーション)というものがあります。リーダーシップの最も大きな役割は、バーナードの3要素にも含まれる共通目的や目標を定めて浸透させることです。
共通目的や目標は“Why”や“What”にあたります。共通目的・目標を定めて浸透させる、同時に信頼関係をつくることで、チーム内に貢献意識やコミュニケーションも生まれていくでしょう。
セルフマネジメント力が高い
他人(メンバー)のマネジメントは、自分のマネジメントができてこそ行なえるものです。管理職としてチームをマネジメントするうえでは、以下のようなセルフマネジメントでメンバーの模範になる状態が求められます。
- 自分のパフォーマンスや感情をコントロールできている
- 自分のモチベーションや集中力を高める技術を持っている
- 予期せぬ課題に直面したときにも、柔軟な対応を行なえる
- タスク管理、時間管理ができている など
ロジカルシンキングができる
論理的思考力のことです。物事に筋道を立て、根拠を示しながら結論に導くのがロジカルシンキングです。
管理職の場合、ゴールや目標達成に向けた計画を作成する、必要なリソースを計算する、課題解決するなどの工程でロジカルシンキングが求められます。
信頼関係を作れる
管理職として組織をゴールに導くには、チームメンバーの協力を仰ぐ必要があります。そのために大切になるのが、メンバーと信頼関係を築くことです。
メンバーと信頼関係があるからこそ、率直な意見をもらう、逆にときにはトップダウンで指示・命令することもうまくいくようになります。
また、そもそもプレイヤーから管理職になるには、上司との信頼関係も大切になるでしょう。
意思決定ができる
管理職としてチームをゴールに導くうえでは、明確な正解がないなかで、意思決定を続ける必要があります。
たとえば、管理職として意思決定が求められるのは、以下のようなことがあるでしょう。
- チームの目標設定
- 目標達成に向けた方針の策定
- 計画の策定
- トラブルに対する対処方法の決定 など
管理職に向いていない人の特徴
以下のような特徴がある人材は、管理職としてあまり向いていません。
自己管理できない
セルフマネジメントのところで触れたとおり、管理職自身が、パフォーマンス、モチベーション、また、時間やタスク管理をできていなければ、メンバーへの適切な教育やフィードバックなども行なえません。
また、自己管理ができない管理職は、メンバーとの信頼関係も築きにくいでしょう。
なお、愛嬌や人格、ずば抜けたリーダーシップなどによって、「セルフマネジメント力や実務能力は不足しているけど、メンバーが助けたくなるリーダー」も確かに存在します。
ただ、ある種の例外であり、ベーシックにはセルフマネジメント力などの実務力をきちんと高めることは大切です。
承認欲求が高すぎる
管理職は、どちらかといえばメンバーを承認する側の立場です。
管理職の承認欲求が高すぎる場合、自分の話ばかりをしてしまいメンバーの話に耳を傾けなかったり、自分の評価を気にしすぎてメンバーに寄り添わなかったり、メンバーの手柄を自分のものにしてしまったりといった問題を起こしやすくなります。
人に興味がない
管理職の仕事は、メンバー(人)を動かしてチームの成果をあげることです。人を動かすためには、相手と信頼関係を構築し、各メンバーの特徴を見極め、当人に合った役割を与えることが必要となってきます。
人に対する関心の強い/弱い、人のマネジメントが強みかどうか?は個人差があるものです。
しかし、根底として人に一定の興味がなければ、信頼関係の構築につながるコミュニケーションは図れないでしょう。
管理職に必要なスキル
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パフォーマンスする管理職を育成するには、以下のスキルを向上させる必要があります。
人間力(ヒューマンスキル)
人間力とは、周囲との健全なコミュニケーションを図り、信頼関係を築く土台となるスキルです。
人間力の位置付けは、ハーバード大学の経営学者であるロバート・カッツによって提唱された「カッツ理論」で考えるとわかりやすいでしょう。
カッツ理論では、仕事のパフォーマンスを高めるうえで必要な能力、特に、管理職に求められる能力を、以下3つに分類しています。
- テクニカルスキル:業務に必要な知識・技術・ノウハウなどの「業務遂行能力」
- ヒューマンスキル:周囲と信頼関係を築き、人を動かすために必要な「対人関係力」
- コンセプチュアルスキル:ミッション・ビジョン・経営戦略などの抽象的な考えを扱ううえで必要な「概念化能力」
また、ロバート・カッツは、組織内の階層を以下のように分類しています。
- 経営者層 ⇒上級管理職(CEOや取締役、幹部など)
- 管理者層 ⇒中級管理職(部長、課長、拠点長など)
- 監督者層 ⇒下級管理職(チームリーダーや主任など)
以下の図を見てわかるように、特に真ん中の管理者層になっていくと、テクニカルスキルからヒューマンスキルにウェイトが移っていくことになります。
イメージとしては、プレイングマネージャーである下級管理職の場合は、実務能力をベースにメンバーとの関係性を築くことができますし、実務能力で組織の成果を引っ張ることも可能でしょう。
一方で、中級管理職の場合は、マネジメント専任に近づきメンバーを動かすことで組織の成果を達成する必要があります。メンバーと信頼関係を築くことができなければ、管理職としての成果をあげられません。
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セルフマネジメント
セルフマネジメント(自己管理)は、自分に対するマネジメントです。前述のとおり、自分に対するマネジメントできていなければ、他人のマネジメントはできません。
セルフマネジメントを身につけるコツや関連書籍などは、以下の記事をチェックしましょう。
目標設定&計画力
管理職が、組織の成果をあげるうえでは、目標設定と達成に向けた計画立案のスキルが欠かせません。設定した目標に対して、計画を策定していくうえでは、ロジカルシンキングが必要となってくるでしょう。
なお、目標設定には、経営方針や事業計画との紐づけ、具体的であることなど、いくつかのポイントがあり、SMARTの法則を遵守することが基本です。
- Specific(具体的)
- Measurable(測定可能)
- Achievable(達成可能)
- Related(上位目標に紐づく)
- Time-bound(明確な期限)
目標設定に使えるフレームワークなどが知りたい人は、以下の記事を参考にしてください。
決断力
決断力とは、正解がわからないなかで、迅速に意思決定していったり、また、“いま意思決定しない”ことを決めたりするスキルです。
決断するうえでは、自社のミッション・ビジョン・バリューの理解、現状分析、また意思決定の不可逆性や選択のリスクを見極めることなどが求められます。
本質を見抜く能力
いわゆるコンセプチュアルスキル(概念化能力)です。先述のカッツ理論の図のとおり、コンセプチュアルスキルは、上級管理職になっていくと求められるウェイトが高まっていくスキルです。
管理職としての担当組織が大きくなり、領域が広がっていくと、事業戦略や事業計画の立案など、複雑な事象を概念化して本質を見極めるコンセプチュアルスキルが求められるわけです。
コンセプチュアルスキルは、ミッションやビジョンを扱う能力でもあります。
管理職としての領域が広がると、実務的なマネジメントは中級や下級の管理職に任せて、ミッションやビジョンなどでメンバーを鼓舞していくことが求められることになります。
管理職に必要な心構え ~2つの責任感とは?~
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管理職の役割を担っていくには、以下2つの心構えが必要です。管理職教育のプログラムを設計するときには、2つの心構えのマインドセットをするパートも盛り込むことが大切です。
組織の成果に対する責任感
繰り返しますが、管理職に求められる最大の責任は「組織の成果をあげる」ことです。
管理職にも、プレイングを得意とする、人のマネジメントを得意とする、コト(物事やタスク)のマネジメントを得意とするなど、人によって強みや弱みがあります。管理職としても“自分の強みを生かすこと”が重要である点は、プレイヤー層などと変わりません。
一方で、「組織の成果をあげることが管理職の責任である」という軸だけは、絶対にブレてはいけません。
組織の成果を上げるうえでは、目標設定や計画立案、タスク管理といったことが必要になるでしょう。
また、各メンバーが最大限のパフォーマンスを発揮できるように、働きやすい組織・環境になっているかどうかをチェックし、必要に応じて改善・整備する姿勢が必要となります。
メンバーが協働・共創し相乗効果(シナジー)を生み出すには、チームメンバーの相互理解を促し、士気が高まる人間関係かどうかにも気を配ることも大切です。
現在のリソース(ヒト・モノ・カネ)で成果が出ない可能性があるときには、経営陣や他部署の管理職に相談・交渉することも必要になるでしょう。
メンバーの成長に対する責任感
メンバーの育成は、マネジメントにおける重要課題です。
“経営の神様”と呼ばれた松下電機(現在のPanasonic)の創業者 松下幸之助氏は「ものをつくる前に、人をつくる」と語っています。
中長期的に組織が成果をあげ続けるには、構成メンバーの成長が不可欠です。
そして、メンバーの成長を現場で担うのも、管理職の大切な仕事になります。
なお、成果を上げると同時にメンバーを育てることで、自分自身が次のステップに進めるという側面もあります。また、自社を選んでくれたメンバーのキャリアに対する責任感も、信頼関係をつくるうえでは大切になるでしょう。
“人”をつくり育てるうえでは、相手を信頼し権限委譲などをする勇気が必要です。
また、Z世代などの多様な価値観を持つメンバーが増えるなかで、それぞれの考え方を受け入れ、強みを活かす方向で業務分担することなども求められるでしょう。
まとめ
管理職は、一定規模のチームや組織をマネジメントしながら、企業戦略・方針を現場で実行していく役割のことです。管理職という言葉自体には、法律的な定義がありません。
ただ、上述したような「役職・役割としての管理職」と「残業管理などにおける管理職」(労働基準法第41条第2号で定められた“管理監督者”)は概念が異なるため、少し注意が必要です。
管理職は、大きくは以下の3区分に分けられます。
- 1. 下級管理職(係長やチームリーダー)
- ⇒ プレイングマネージャーであることが多い。小さな部門やチームの数人をマネジメントする。
- 2. 中級管理職(課長や部長、マネージャー)
- ⇒ マネジメントに専念する。管理対象も部署・部門などと大きくなるため、人数も増える。下に複数の階層が存在することもある。
- 3. 上級管理職(事業部長や経営幹部、ゼネラルマネージャー)
- ⇒ 大きな組織のマネジメントのほかに、事業の方向性の決定や計画立案などを行なう。
管理職に向いている人には、以下の特徴があります。
- リーダーシップがある
- セルフマネジメント力が高い
- ロジカルシンキングができる
- 信頼関係が構築できる
- 意思決定ができる
なお、記事内で紹介した管理職に必要な2つの心構え(「組織の成果」と「メンバーの成長」に対する責任感)と基本スキルを身につけさせたい場合、HRドクターを運営する研修会社ジェイックの提供する「JAICリーダーカレッジ」という管理職研修がおすすめです。
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