自己肯定感を高め「受け取り力」を育てるOJT論:指導者のノンバーバルが新人を救う

更新:2025/10/31

作成:2025/10/29

自己肯定感を高め「受け取り力」を育てるOJT論:指導者のノンバーバルが新人を救う_サムネ

OJT(On-the-JobTraining)や新人育成の現場で、指導者が共通して抱える悩みがあります。

 

「何度も教えているのに覚えてくれない」「少し指摘しただけで落ち込んでしまう」。こうした課題の背景には、伝え方の技術だけでなく、指導を受ける側の「受け取り力」や、その土台となる「自己肯定感」の問題が潜んでいる場合が少なくありません。

 

本記事では、コミュニケーションの根幹であるノンバーバル(非言語)の観点から、“伝え方”ではなく“育て方”に焦点を当て、若手社員の自ら成長する力を引き出すOJTのあり方を紹介します。

 

<目次>

伝える前に、受け止められる土台を整える

自己肯定感を高め「受け取り力」を育てるOJT論:指導者のノンバーバルが新人を救う①

 

OJTの現場では、指導側は「伝えた」つもりでも、相手には「伝わっていない」というすれ違いが頻発します。根本原因を辿ると、指導テクニックの問題ではなく、すなわち指導を「受け止められる土台」が整っていないことに行き着きます。

 

たとえば、自己肯定感が低い新入社員や部下は、指導やフィードバックを客観的なアドバイスとしてではなく、過度な個人的批判として受け取ってしまう傾向があります。その結果、失敗を恐れるあまり挑戦を避けたり、新しい知識のインプットに無意識の「拒否反応」を示したりすることもあります。

 

受け取り手がこのような心理状態では、指導者がどれだけ論理的で分かりやすい言葉を選んでも、内容は相手の心に届きません。OJTを成功させる鍵は、まず「受け取り手」の土台(=受け取り力と自己肯定感)を育む視点を持つことにあります。

 

非言語を意識した“伝え方”が部下の受け取り力を育てる

指導中に部下の表情が強張る、視線が定まらない、声が小さくなる。こうした反応に気づいた経験はあるでしょうか。これらは、言葉には出ていなくても、相手が指導内容をスムーズに受け入れられていないことを示す「非言語的な拒否反応」のサインです。

 

言葉の意味だけでなく、どのように伝えられたかという非言語情報によって、部下はメッセージを受け取ります。指導者がパソコンの画面を見ながら「話を聞いているよ」と伝えても、視線や姿勢に注意を払わなければ、部下は受け取りにくい状態になってしまいます。

 

こうした部下からの非言語的の反応を観察し注意を払うことが、部下の受け取り力の状況を理解し、適切に育てるための第一歩となります。[1]

 

指導者のノンバーバルが直接影響する、部下の「自己肯定感」

自己肯定感とは、自らの価値や存在意義を肯定できる感情であり、仕事への意欲や挑戦意欲の源泉です[2]。

 

指導者の非言語的なふるまいは、相手の自己肯定感に直接的な影響を与えます。

  1. 肯定的なノンバーバル:部下の話に穏やかな表情でうなずきながら耳を傾け、視線を合わせるーこうした肯定的な非言語メッセージは、相手に「自分は受け入れられている」「尊重されている」という安心感を与えます。この安心感が、部下が自信を持って行動できる土台となります。
  2. 否定的なノンバーバル:腕を組んで話を聞く、ため息をつく、無表情で対応するといった否定的な非言語メッセージはは、相手に「評価されていない」「歓迎されていない」という印象を与え、自己肯定感を低下させます。

指導者は、自身の非言語的なふるまいが、無意識のうちに部下の「受け取る力」を削いでいないかを常に意識し、自律的な成長を促す、受け止められる「土壌」を整える必要があります。

 

「褒め言葉」が疑心暗鬼になる部下へ:行動と貢献に焦点を当てた具体的承認

自己肯定感を高め「受け取り力」を育てるOJT論:指導者のノンバーバルが新人を救う②

 

自己肯定感を育む上で「褒める」ことが大切とよく言われます。しかし、自己肯定感が低い部下に対しては、「すごいね」「よくやった」といった抽象的な褒め言葉は、逆効果になることがあります。本人が「何が評価されたのか」を具体的に理解できず、「お世辞ではないか」と疑ってしまうことがあるためです。[3]

 

効果的なのは、「事実」と「貢献」に基づいたフィードバックです。

 

例えば次のように伝えるといいでしょう。

【フィードバック例】

「先日の会議で使ってくれた資料、あのグラフのおかげで議論のポイントが非常に明確になったよ。準備が大変だったと思うけど、チームにとって大きな助けになった。本当にありがとう。」

具体的な行動と成果を承認し、加えて周囲やチームに与えたプラスの影響を伝えることで、部下は自分の価値を客観的に理解しやすくなります。小さな成功体験を事実として承認し、共に喜ぶプロセスを積み重ねることが、揺らぎやすい自己肯定感を着実に育てていく鍵となります。

 

「安全な土壌」を育むために今日から実践できるノンバーバル・スキル

新入社員や若手社員が健やかに成長するためには、挑戦と失敗が許容される「心理的安全性」の高い職場環境が不可欠です。そして、職場の心理的安全性は、リーダーや先輩社員が日々発信するノンバーバルコミュニケーションによって大きく左右されます[1]。

 

OJTや1on1ミーティングの場で、指導者が意識的に実践すべき非言語スキルは次の3つです。

  1. 傾聴の姿勢(アクティブ・リスニング):体を相手に向け、少し前傾姿勢で聞く。適度な相槌とアイコンタクトで関心を示します。
  2. ミラーリング(同調):相手の姿勢や表情、声のトーンなどを自然に合わせることで、親近感や安心感を生み出します。
  3. 笑顔とアイコンタクト:穏やかな笑顔と適度なアイコンタクトは、「あなたを歓迎し、受け入れている」という分かりやすいサインです。特に、承認の場面では、笑顔を意識することが重要です[3]。

指導者自身がノンバーバルコミュニケーションを意識的に整えることで、部下が安心して指導を受け止められる土台を作ることができます。この「受け取り力と自己肯定感の土台」を育むことこそ、伝える側と受け取る側双方にとってストレスの少ない、より生産的な育成関係を築く第一歩となります。

 

参考文献

[1]経営プロ.(2024,May10).第28回:部下の行動を左右する上司の「ノンバーバルコミュニケーション」とは.
Retrieved from https://www.hrpro.co.jp/keiei/articles/series/3913

[2]賢者の人事.(2024,April12).自己肯定感の低い部下と向き合う方法.
Retrieved from https://blog.people-resource.jp/how-to-boosting-employee-self-esteem/

[3]Asana.(2025,July30).コミュニケーションの質をアップする、非言語コミュニケーションのコツ10選.
Retrieved from https://asana.com/ja/resources/nonverbal-communication

 

著者

塚本 敦未(つかもと あつみ)
ノンバーバルコミュニケーション協会 代表
塚本 敦未(つかもと あつみ)
1992年静岡県生まれ。幼少期から舞台・ミュージカルに親しみ、日本大学芸術学部映画学科演技コースにて演技・音声・身体表現を幅広く学ぶ。卒業後はモデル・MCとして活動する傍ら、ウォーキング講師・スピーチ講師として延べ1,000名以上を指導。その中で、「自己表現が苦手な日本人が、自分の価値に気づけずにいる」現実を痛感し、非言語コミュニケーションの重要性に目覚める。身体や声といった“言葉以外”で伝える力こそが、個性の開花と他者とのつながりに直結すると確信。現在は企業との連携を中心に講座を展開し、今後は教育機関や行政とも協力しながら、「誰もが自分を表現できる社会」の実現を目指している。

一般社団法人ノンバーバルコミュニケーション協会
公式HP:https://nca-japan.or.jp/

 

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