退職希望者が出た際、会社としては引き留めたいケースも少なくありません。退職希望者を引き留めることは難しいとされていますが、引き留めに効果的な方法はあるのでしょうか。
なお、退職希望者の引き留めは必ずしも成功するものではありません。そのため退職者の本音を把握し、モチベーションが低下した段階でケアすることが重要です。退職希望者を引き留める効果的な方法や注意点、本音や兆候の把握ポイントを解説します。
<目次>
- 退職の引き留めは難しい?
- 退職希望者を引き留める方法とポイント、注意点
- 退職理由をヒアリングする際のポイント
- 社員が退職する代表的な3つの理由
- 退職につながる兆候を見逃さない!退職を事前に防ぐポイント
- 退職を防ぐための組織開発のコツ
- まとめ
退職の引き留めは難しい?
退職希望者の引き留めを考える前提として、「退職希望を告げてきた時点で退職の意志は固まっている」という現状があります。転職が一般化した近年では、「退職を申し出てきた時点で転職先の入社日が決まっている」というケースも少なくありません。
したがって、退職希望者の引き留めに成功する確率は5~10%と考えるのが無難です。どのような理由にせよ説得して退職を引き留めることは難しく、仮に引き留めに成功したとしても根本的な問題は解決していないため、数年後にまた退職を申し出てくるメンバーが大半です。
退職希望者の引き留めについては、本人を引き留めることは大事ですが、それ以上に次の退職を起こさないために、退職を決めるに至った理由をヒアリングすることが大切です。
また、現実的に引き留めを図って定着率を高める上では、退職を決意する前のモチベーション低下の兆候をキャッチしてケアすることがポイントです。
退職希望者を引き留める方法とポイント、注意点
退職希望者の引き留めを成功させるには、退職希望者に寄り添った対応が重要です。以下のポイントと注意点を意識しましょう。
引き留めのポイント
メンバーが退職を申し出てきた際は、まず退職理由を把握する必要があります。会社のどのようなところに不満があるのか、退職することで不満は解決するのか、退職してどうするのかなど、退職希望者の考えを入念にヒアリングしましょう。
ヒアリング中は問い詰めるのではなく、相手が感じている不満や懸念を受け止めて、解決策を一緒に探していく、提案するというスタンスが大事です。
その後、退職理由が明確になったうえで希望の働き方や業務内容へのシフトが実現できないか、給与など待遇面の改善ができないか、他部署への異動検討など、退職希望者に寄り添う提案を行ないます。
なお、退職を決意している場合、引き留められることを避けるために、本音は言わなかったり、会社と揉めたりすることを避けるために、「家庭の事情」など引き留められない理由を伝えることも多いでしょう。
引き留めの注意点
引き留めをするうえでは、以下の3点に注意が必要です。
・不安を煽らない
ヒアリングの際は、「今辞めたら大変なことになる」「この先苦労する」といった不安を煽るような言動や、脅すような説得は絶対にやめましょう。
ネガティブな方向を伝えても引き留めに成功する可能性は非常に低いですし、仮に引き留められたとしても、会社へのエンゲージメントは下がります。会社の対応や不満を周囲に漏らして、職場のモチベーションを下げる可能性も高いでしょう。
・既存社員への影響
待遇面の改善を行なう場合は、既存社員への影響にも注意が必要です。
退職の申し出をきっかけに課題改善に取り組むことは大切ですが、「言った者勝ち」「もともと評価が公正でない」「意思決定の基準が適当」といった印象が社内に広がり、既存メンバーのエンゲージメントを低下させてしまいます。
・態度を変えない
引き留めに失敗した場合、正式に退職となるまでには1ヵ月ほどであることが多いでしょう。その間「どうせ辞めるのだから……」と業務を振り分けなかったり、いきなり仕事を取り上げたりするのはNGです。たとえ退職が決まったとしても、普段通りの仕事を続けてもらうことが大切です。
退職理由をヒアリングする際のポイント
退職理由をヒアリングする目的は引き留めの参考にするためですが、同時に、退職を決意させた人や組織の課題を把握できる絶好のチャンスでもあります。
組織課題を把握して今後の改善につなげる
メンバーが退職を希望する理由は、マネジメントや組織の課題である可能性が高いでしょう。退職理由のヒアリングは組織課題の特定に繋がります。すぐに解決できない問題もありますが、課題を把握することは解決の第一歩ですからとても大切です。
なお、前述の通り、退職者の多くは円満退社を望んでいますので、辞める本当の理由が仕事環境や人間関係への不満だったとしても、会社に伝えない傾向があります。本音の退職理由がわからないことも引き留めを難しくする要因の一つです。
本音の退職理由を聞き出すのは難しいですが、人や組織の課題を把握して改善するためには、本音の退職理由をヒアリングできる環境を準備することが重要になります。また、「引き留め時に本音は聞けないかもしれない」と捉え、退職手続きがすべて完了したあとに再度ヒアリングを実施してみるのも有効です。
良い面と悪い面の両方をヒアリングする
ヒアリングでは、退職を考え出したきっかけや意思決定したポイント、組織の改善点などを聴きましょう。また、悪い点だけでなく会社の良い点も聞いておくと採用活動に役立ちますし、場の空気や退職者との関係性も良好に保ちやすくなります。
近年では、アルムニ(会社の退職者ネットワーク)から出戻りで採用したり、事業上のパートナーシップを組んだりするケースも増えています。
アルムニを活用していないとしても、退職希望者は既存社員とSNSなどでつながっています。会社側から見れば、「不平不満が多く辞めてもらってよかった」というようなメンバーでも、社内には必ず共感者がいます。
退職者との人間関係が決裂すると既存社員にもネガティブな情報が伝わり、退職の連鎖につながるリスクもあります。円満な退職になるよう、企業側でも配慮することが好ましいでしょう。
社員が退職する代表的な3つの理由
社員が退職する理由は、おもに「職場での人間関係」「企業の将来性とキャリアの展望」「給与や評価」の3つです。
職場での人間関係
本音の退職理由で多くの割合を占めるのは人間関係であり、なかでも「上司への不満」が理由になっているケースは非常に多いです。
人事やマネジメントの世界では「社員は会社を去るのではなく、上司のもとを去るのだ」ともいわれます。したがって、同じ上司のところで退職が続いていないかは確認したほうが良いでしょう。
なお、上司への不満が理由で退職する場合は、上司から引き留めをしても無駄ですし、上司に本音の退職理由が話されることもありません。
企業の将来性とキャリアの展望
近年では、企業の将来性やキャリアの展望への不安による退職も増えている傾向にあります。
大手企業も倒産したり買収されたりする時代のなかで、若手社員を中心にキャリアや市場価値に関する感度が上がっています。いまの若手は、会社の将来性や自分のキャリア、待遇に希望を見いだせない場合は、将来性やキャリアが見込める他社へ転職することが当たり前の感覚です。
給与や評価への不満
給与や評価への不満が退職の引き金になっているケースは意外と少ないのが現状です。ただし、待遇や評価への不満が人間関係や将来性への不安とつながると、退職を決意させる大きな引き金になります。
例えば、評価への不満が、上司への不信感や上司が育ててくれていないといった不満とつながると、「このままこの会社にいても……」という退職の決意へと繋がります。
また、将来の待遇を考えた際に「今とさほど変わらなそう……」「大きな変化はなさそう」「望むものは得られない」と思えば、気持ちは退職の方向に傾いてきます。
したがって、待遇や働き方だけを改善しても退職率は低下しにくいですが、前述2つの課題解決と連動して取り組むことで効果があがるでしょう。
退職につながる兆候を見逃さない!退職を事前に防ぐポイント
メンバーの退職を未然に防ぐためには、退職の兆候にいち早く気付き、早急に対処することが重要です。
退職につながる12のストレスサイン
人はストレスが溜まってくると以下のような行動をとるようになります。
|
上記は「ストレス」を察知するサインですが、能動的な報連相の減少や些細な勤怠の変化、コミュニケーションに対する主体性の無さなどは、エンゲージメントが低下している兆候です。
したがって、ストレスサインのうち2~3つ当てはまる場合は、個別での対処を考えていく必要があります。
ストレスサインに気付いたら早急なケアを
必要なケアはストレスサインによって異なりますが、面談などを通じて仕事や組織へのエンゲージメントを高めたり、健全な心身状態を回復できるように働きかけたりしましょう。
具体的には心身のケア、業務量の調整、業務内容の見直し、キャリア展望の共有、マネジメントの改善などが効果的です。
ただし、前述した通り、評価者であり、最大の利害関係者となる上司が面談しても本音が出てこないケースがあります。上司の上司、人事部門、斜めで信頼関係がある相手など、メンバーによって最適な面接者を考慮すると良いでしょう。
退職を防ぐための組織開発のコツ
日本でも転職はかなり一般的なものになってきましたが、メンバーの退職がネガティブな要素として受け止められる職場はまだまだ多いでしょう。
前章では個別の兆候やストレスサインを見抜くマネジメントの視点を解説しましたが、本章では組織開発の視点から退職を防ぐコツを解説します。
自社の理念や社風とマッチする人材を採用する
退職を防ぐうえでは採用時の注意がまず必要です。採用段階で会社の理念や社風に合わない人材を採用してしまうと、入社後にミスマッチが発生し、退職につながりやすくなります。
特に中途採用では、求職者に仕事経験がある分、入社後に価値観は変わりづらくなります。そのため、社風や価値観との一致度を見るカルチャーマッチの視点が大切です。
カルチャーマッチの視点に対して、仕事内容とスキル・経験のマッチ度を見るのがスキルマッチです。採用時には両方の視点を持って選考することが重要です。
評価制度や給与体系を改善する
評価や給与はメンバーが不満を感じるきっかけになります。特に評価制度が明確ではないと、「評価や給与への不満」が「上司や組織への不満」と結びついて退職要因に繫がりやすくなります。
したがって、何をすれば評価されるかが明確な評価制度や給与体系の構築も、退職要因をなくすことに繋がります。
コミュニケーション量を増やす
退職理由で多い「人間関係(上司への不満)」は、上司と部下のコミュニケーション量や頻度を増やすことで改善が期待できます。
上司への不満は信頼関係を築けていないことが大きな原因であり、コミュニケーションを取って部下と信頼関係を築くことができれば、退職を防ぐことが可能です。また、コミュニケーションが増えることで前章のストレスサインにも気付きやすくなります。
特に昨今はリモートワークが増えているため、些細な「乱れ」に気付くのにも上司の力量が必要です。組織としては、1on1の仕組みやパルスサーベイ(意識調査)などを導入して、上司をサポートすると良いでしょう。
なお、人間関係やキャリアの悩みは直接の上司に話しにくい場合もあるので、人事部門や上司の上司とのキャリア面談などを定期的に行なうこともおすすめです。
まとめ
退職希望者を引き留めることは非常に難しいのが実情です。退職を申し出てきた時点で退職の意志はほぼ固まっており、場合によっては次の転職先と入社日が決まっているケースも少なくありません。
したがって、引き留め自体は無駄ではありませんが、中長期的には次の退職者を出さないようにすることのほうが大切です。
次の退職を防ぐ取り組みとしては、退職希望者から退職を決めるに至った理由をヒアリングするとともに、既存社員のエンゲージメント低下兆候をいち早くキャッチしてケアすることです。評価制度の整備やキャリア面談、コミュニケーション量の向上などの組織開発の視点と併せて取り組んでいきましょう。