業績を上げるためには、適切な目標設定が不可欠です。一方で、新規事業などの場合には「本当に目標は必要なのだろうか?」と感じることもあるでしょうし、形骸化した目標管理制度(MBO)などに対して「目標設定なんて意味がない」「形だけのもの」と感じている人もいるかもしれません。
記事では、目標設定の必要性や、目標が「意味がない」状態を避けるための4つの基本、設定時に活用できる5つの法則を紹介します。
<目次>
なぜ目標設定を行なう必要があるのか
会社や仕事で目標設定が必要とされる理由は、以下の3つです。
目標を定めることでモチベーションが高まる
人は無意識に目標を達成しようとするものです。また、設定した目標を達成することに喜びを感じる性質もありますので、明確な目標があることは業務に対するモチベーションを高めます。
目標を達成することで正当な評価がもらえる評価制度と組み合わせると、仕事への向き合い方も良い方向へ変化するでしょう。
ただし、目標を定めることでモチベーションが高まるのは、目標を達成することに意味や価値を感じた場合です。しかし、組織における目標設定は、組織にとっては意味や価値があっても、個人にとっては上から与えられた目標になりがちな傾向があります。
後述する目的・目標の4観点などの方法を使って、目標に個人としての意味付けをしっかりとすることが大切になります。
目標がメンバーを自走させる
組織内で上司とメンバーが目標設定を通じて、達成すべき目標や実施すべきタスクをお互いが合意したり把握したりすることで、上司はメンバーに仕事を任せられるようなります。また、メンバーも、自分で方針や施策を考えて意思決定したり自走したりしやすくなるでしょう。
目標設定を通した上司とメンバーの関係は、目標という共通ゴールを持つからこそ、方法論に自由や裁量が生まれるといえます。
目標達成のプロセスが人材育成になる
目標設定からゴールまでの間に以下の取り組みをすることで、メンバーは目標達成に向けて、自ら考えて行動する力が身に付きます。
- 達成に向けた行動計画やアクションプランを描く
- 計画をきちんと実行する
- 現状に対する進捗確認や振り返りをする
- 達成に向けて施策を練り直す など
具体的な目標に落とし込んで責任や役割を明確化し、そのなかで仕事を任せていくことで、主体性や責任感も養われるでしょう。
「意味ない」とならないための目標設定4つの基本
目標を「意味がないもの」にしないためにも、以下4つの基本ポイントを押さえて、目標設定や計画の実施を進めていくことが大切です。
明確な目標(ゴール)を定める
設定する目標は、具体的かつ明確なものにすべきです。漠然とした目標を設定しても行動にはつながりません。以下のように漠然としたものは「目標」ではなく、「理想」や「心がけ」です。
- 「新商品をたくさん売ろう」
- 「お客様の問い合わせに素早く良心的な対応をしよう」
上記でいえば、たくさん売るの「たくさん」は、人によってとらえ方が大きく異なります。担当者Aの「たくさん」と担当者Bの「たくさん」に乖離があれば、組織が求める売上目標や個数などに到達するかわからなくなるでしょう。
したがって、目標は抽象的なものではなく具体的な数値や状態を用いて設定します。そして、達成できたかどうかを誰もが判断できる表現にすることが大切です。
上位目標との整合性があるようにする
仕事における目標は、事業計画からブレイクダウンされて、部門や個人目標へと落とし込まれます。
重要となるのは、各部門や個人が目標達成することで事業計画が達成する、という関連性になっていることです。したがって、上位目標を部門や個人で分担したり、上位目標の達成で肝になるポイントを目標にしたりといった関係性が重要になります。
上位目標に関連しない目標を設定すると、「とりあえず目標を設定しただけの状態」になるでしょう。管理職もメンバーの目標への関心が薄れ、進捗をチェックしない・期末に数字を振り返るだけ、といったことが起こります。
努力すれば達成できる目標を設定する
先ほど、目標はモチベーションアップにつながると解説しました。ただし、達成できないことがわかっている無理な目標設定は、逆にモチベーションの低下を招きます。したがって、現実的にチャレンジできる難易度の目標設定にすることが大切です。
また、「3年間で売上1.5億円達成」のように、金額が大きかったりゴールまでの期間が長かったりする場合は、「次四半期で1,200万円」のように現実的に計画を立てられる時間軸で設定しましょう。また、そこからさらに行動計画に落とし込む際には「1週間100万円」のようにミニゴールを設定するのもおススメです。
なお、「努力すれば達成できる」の難易度は、目標管理制度の目的によって考えていくことが大切です。一般的なMBOのように達成率を評価制度に直結させるような場合は、ある程度現実的な数値にする必要があります。
一方で、OKRのように人事評価に直結させないときには、達成できたらワクワクするようなチャレンジングな目標を掲げることが効果的な場合もあるでしょう。
定期的な振り返りを実施する
目標やそれにともなう行動計画を作っただけでは「絵に描いた餅」です。
目標を設定したら、必ず行動計画に落とし込み、しっかりと実行して、定期的なMTGを設けて振り返りや方向修正を上司とともに行なうことが重要です。そうすることで、ゴール(目標)到達までのスピードが上がったり、進捗を良くするためのより確実な方法を見出したりできます。
なお、明確な目標が設定されていない、上位目標としっかりとリンクされていない場合、「目標設定のために目標を決める」状態になり、期首に目標設定だけして期末に結果だけ振り返る、という状況が起こりがちです。
したがって、定期的に振り返る意味がある目標、為すべき貢献や日々の業務と紐づいた目標をきちんと設定することが大切になります。
なお、新規事業などの場合は目標の妥当性がつかみづらいこともあります。また、外部環境の変化などによっては数ヵ月前に設定した目標がいまの市場環境に合わなくなることもあるでしょう。その場合は、定期的な振り返りを通じて、期間内であっても目標自体を変更することも大切です。
目標設定の際に活用できる8つの法則やフレームワーク
企業の仕事の目標設定、そして、行動計画を考える際に活用できる法則やフレームワークを8つ紹介します。
ベーシック法/3点セット法
ベーシック法/3点セット法は、以下の各ステップを通じて目標を設定する方法です。両者に共通するポイントは、大まかな目標と達成計画とをセットで考えていくことになります。目標設定したら達成計画を作る、この2つをセットにすることが大切です。
- 目標となる項目を設定する
- 明確な達成基準を決める
- 期限を決める
- 具体的な達成計画を作成する
- テーマ(大きな目標)を決める
- 定量的な達成レベルを決める
- 目標達成に向けてやるべき手段を決める
ランクアップ法
目標を設定するとき、「どのような切り口で目標を決めればいいのか」が閃かないこともあるかもしれません。こうした場合に使えるのが、ランクアップ法です。
ランクアップ法では、以下の6つの観点・切り口から目標項目を考えていきます。先述のベーシック法もしくは3点セット法と組み合わせることで、質の高い目標を立てられるようになるでしょう。
- 改善:現在の問題を「改善」する項目を目標に設定する
- 代行:自分よりレベルの高い人の仕事を「代行」できるようになることを目標に設定する
- 研究:新しいことを始めるときに、利点などの「研究」を目標に設定する
- 多様化:今の自分や事業にない「多様」な知識やスキルの習得、モデルや顧客展開につながる目標を設定する
- ノウハウの普及:自分の保有する「ノウハウ」やスキルを第三者が身に付けられるように、その内容をまとめることを目標に設定する
- プロ化:ノウハウやスキルを「プロや専門家レベル」まで向上させる目標を設定する
ベンチマーキング
ベンチマーキングも、ランクアップ法と同様に目標を探すときに使える方法です。また行動計画、達成方針などを考えていくうえでも非常に役立ちます。
ベンチマーキングとは、他社や他のメンバーの優れたところを分析・比較することで、自分の改善点を見出す考え方です。
例えば、営業成績トップのA先輩が年間5,000万円を売り上げていたとします。実際に5,000万を実現しているA先輩をベンチマークすることで、年間売上をいくらに設定するかの参考になります。また、目標設定後、A先輩が何をしているかをインタビューすれば、行動計画の作成にも役立つでしょう。
KPIツリー
KPIツリーとは、設定した目標に対して行動計画を立てるとき、また大目標を分解していくときに活用できる考え方です。例えば、営業の仕事で売上を前年比20%上げる場合、「売上」という大テーマを以下のように数値分解することで、目標設定や具体的に何をすればいいのかの行動計画を落とし込めるようになります。
Ex)売上 = 商談数 × 提案率 × 提案単価 × 受注率
上記の例であれば、売上という大テーマを分解することで、「商談数を〇件にする」「商談からの提案率を〇%に改善する」「提案単価を〇万円に引き上げる」といったもう一段詳細な、行動につながるような目標や行動方針に落とし込むことができます。
上記のような細かなKPIはさらに、
- 商談数:テレアポを毎日5件以上やる
- 提案率:お客様とのラポール形成に力を入れる、サービス勉強会に参加する
- 提案単価:オプション商品の提案を習慣化する
といった形の行動計画へ落とし込むことができます。
SMARTの法則
SMARTの法則は、目標設定をするときの大原則です。
- S(Specific) :「具体的」な目標を設定する
- M(Measurable) :「測定可能」な表現で設定する
- A(Achievable) :「達成可能」な基準で設定する
- R(Related) :「上位目標の達成」につながる目標を設定する
- T(Time‐bound) :「達成の期限」を明確にする
MBO(目標によるマネジメント)を行なう場合、「実現できない目標」や「漠然とした目標」では評価や振り返りができません。目標を仕事のゴールや人材育成につなげるには、上記のSMARTに基づく目標を設定することが大切です。
目的・目標の4観点
企業におけるチームや個人の目標は、事業計画などから落とし込まれたものになりがちです。こうした目標に対してメンバーが「上から指示されたもの」と他人事にとらえていた場合、せっかく作成した実施計画なども主体的に取り組むことは困難です。
問題を解消するには、目的・目標の4観点を使うのがおススメです。目的・目標の4観点とは、他人事になってしまいがちな目標を自分事にできる手法です。
目標達成によって「どのような素晴らしいことが起こるか?」を、「自分-他者」「有形-無形」という2つの軸、4分類で表現することで、設定した目標に対するワクワク感や高いモチベーションが生まれやすくなります。
- 自分:自分にもたらされる利益や良いこと
- 他者:自分以外の人にもたらされる利益や良いこと
- 有形:表彰やお金などの形ある良いこと
- 無形:気持ちや感情などの精神的な良いこと
マンダラチャート(目標達成シート/マンダラート)
目標を達成するために必要な行動計画やアイデアを出すときに使えるフレームワークです。1つの目標に対して64個以上のアイデアを出せることから、オープンウィンドウ64と呼ばれることもあります。
目標設定のあと、行動計画を作成する際にマンダラチャートを作成すると、目標達成のための行動アイデアを豊富に出し、精度の高い行動計画、うまくいかない場合の二の手、三の手の準備につながります。
長期目的・目標設定用紙
プロスポーツ選手なども実践してきた目標達成メソッド原田メソッドで使われる「長期目的・目標設定用紙」は、目標設定、目標への動機づけ、行動計画の作成などを1枚で実施できるツールです。
さらに、行動計画を実施するうえで一番のハードルとなる自分自身の心身やモチベーションを維持したり、目標達成に役立つルーティン行動(習慣化)なども設定したりすることができ、目標設定後に、達成計画を作って実行するために役立ちます。
まとめ
組織で行なわれる目標設定は、組織全体の目標を各部門やチームでどう役割分担するのかを明確にして、個人やチームの動きを組織の目標達成につなげる働きがあります。
また、適切な目標設定を実施することで、メンバーのモチベーションを高めたり、人材を育成したりする効果もあります。また、的確に目標設定・運用することで公正な人事評価制度の運用も実現可能です。
メンバーから「意味がない」と思われない目標にするには、以下4つの基本を押さえることが大切です。
- 明確な目標(ゴール)を定める
- 上位目標と整合性を取る
- 努力すれば達成できる目標を設定する
- 定期的な振り返りを実施する
また、意味ある目標設定を実施して達成するためには、役立つ法則やフレームワークを知っておくことも役立ちます。
- ベーシック法/3点セット法
- ランクアップ法
- ベンチマーキング
- KPIツリー
- SMARTの法則
- 目的・目標の4観点
- マンダラチャート
- 長期目的・目標設定用紙
目標設定の意味や考え方、ゴールに向かってワクワクしながら取り組むためのモチベーションアップの方法、そして達成ノウハウを身に付けさせるには、HRドクターを運営する研修会社ジェイックが提供する「原田メソッド」研修もおススメです。
「原田メソッド」には、目標設定や達成方法のスキルだけでなく、セルフマネジメント力や人格形成につながる効果もあります。「原田メソッド」研修に興味があれば、ぜひ資料をダウンロードして詳細をご覧ください。