働くということは【人を残すvol.169】

いつも大変お世話になっております。
ジェイックパートナー講師の梶田です。
 
2019年の夏から毎月お届けしてきたこのメルマガですが、
今回をもって、私は、卒業させて頂くことになりました。
 
これまでお読みくださった皆様、誠にありがとうございました。
 
私は、2012年に40歳でジェイックに転職し、
「7つの習慣®」のインストラクターになり、以来多くの企業様に
研修をさせて頂いています。
 
「7つの習慣®」では「ミッション・ステートメント」なるものを
書き上げるというパートがあります。
 
ミッションとは「使命」、ステートメントは「文章」、
それは言うなれば「自分自身の生き方の指針」です。
 
現在は20歳になる息子が、中学2年生の時、私にこう聞いてきました。
 
 “働くってどういうこと?”
 
私は、その時、自分自身の仕事の内容よりも、亡くなった父親の姿を
思い出しました。
 

 
父は「紙器(紙製の包装容器)」を製造する町工場を経営していました。
自宅兼工場を借り、父子家庭でしたので、兄と3人で暮らしていました。
 
主に陶磁器メーカーからの孫請けのような仕事で、
40坪程の手狭な工場に、わずかですが大型の機械が並んでいました。
 
入り口から工場までの通路には原材料となる真っ新な段ボールと、
切りくずを入れる大きな麻袋が並んでいました。
 
毎日、夜遅くまで機械を動かして働いても生活はギリギリでした。
 
 “今月もヤクテ(約束手形)か…”
 
取引代金は現金ではなく殆どが手形で、恨めしそうに呟いていました。
 

 
そんな父の姿を思い出し、私は、息子にこう答えました。
 
 “仕事というのはお金を稼ぐことだ。
  それは、お前たち家族を養うことに繋がる。
  たくさんの人がそのために働いている。
  でも、それだけじゃダメだ。
  毎日、少しでも喜びを感じること。
  お客さんから「ありがとう」と言われることや、
  一緒に働く人と笑い合うこと。
  そうやって、心の面でも豊かになること。
  それが、働くってことだと思う”
 
息子は「ふーん」とだけ返事をして、自分の部屋に宿題に行きました。
 
翌朝、息子の勉強机を見てみると一枚の紙が置いてありました。
 
「家族の職業についての感想を書いてみよう」と印字された紙には、
鉛筆書きでこう書かれていました。
 
 “仕事というのは、朝早く起きて、夜遅くまでずっとで
  すごく大変だなと思っていました。
  でも、そういう大変さの中から喜びや楽しさが得られるという事が
  分かりました。
  ぼくたち家族のためや、お客さんのために、毎日大変だけど、
  がんばってくれているので、感謝したいし、
  これからも頑張っていってほしいと思いました。”
 
それを読んで、私は、自分の「ミッション・ステートメント」を
こう書き換えました
 
 「できるだけ多くの人たちに、
  経済的な豊かさと心の豊かさを与え続ける」
 

 
最近、父の姿をよく思い出します。
 
ちょうど今ぐらいの時期、年末になると夜遅くまで残業をしていて、
パートのおばさんが帰った後、兄と私は工場での作業を手伝わされました。
 
父は、くわえタバコでダンボ―ル紙を加工していきます。
 
工場内には、ガチャン、ガチャンという機械の音の隙間から、
ラジオの歌謡曲が聞こえてきます。
 
石油ストーブの上でシュンシュンというヤカンが沸騰する音もします。
 
冷たい板張りの床に、せんべいのような座布団を敷いて座り、
兄と私は、互いにちょっかいを出しあいながら、父が加工した紙器を
組立て、それらをまとめてビニール紐でしばっていきます。
 
冷たい紙をずっと触っていると、まるで指紋がなくなるような感覚で、
なんども指に息を吹きかけたり、ストーブにかざしたり。
 
いつ終わるのか、何度もそれを父に訊くのですが、「まだまだ」としか
答えてくれません。
 
ため息をつきながらダラダラと作業をしていると、バイクの音がして、
「こんばんはー」と近くの定食屋のおじさんがジュラルミンの岡持ちを
持って入ってきます。
 
「めしにするか」
 
父はそう言って自分も床に座布団を敷き、3人向かい合って座ります。
機械オイルやタバコのにおいが染みついた工場の中で食べたラーメン。
 
それはとても暖かくて、優しい味でした。
 
食事の後ストーブのやかんで入れたお茶を入れてくれた父の姿は、
記憶では、とても大きく見えました。
 

働くということの、私の原体験は、あの小さな工場の中にありました。
その記憶は、今となっては、私の心に豊かさをもたらしてくれます。
 

最後までお読み頂きありがとうございました。
これからも心豊かに働いて参りたいと思います。
 
皆さまのご健勝と貴社のさらなるご発展をお祈り申し上げます。
 
株式会社ジェイックパートナー講師
梶田 貴俊

働くということは

著者情報

梶田 貴俊

元株式会社ジェイック シニアマネージャー(現ジェイック契約パートナー)

梶田 貴俊

前職、通信機器ベンチャー商社勤務時代にリーマンショックを経験。代表取締役として、事業再生計画を推進し同社のV字回復を実現した。現在はジェイックの講師として研修事業を牽引している。

著書、登壇セミナー

『会社を潰さないためのSunday Management List ―中小企業のリーダーがやるべき日曜日のマネジメントリスト』

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