グローバル化やIT化が進むなかでビジネス環境に生じる変化は早く激しくなり、また、自動化などが進むことで、人にはより創造的な仕事や感情労働が求められています。そのなかで、ストレス対応や集中力の向上策として注目されているのがマインドフルネスの考え方です。
マインドフルネスはGoogle社が導入していることでも一躍有名となり、最近では国内でも多くの企業で導入されるようになりました。記事ではマインドフルネスの定義や、実際に取り入れた企業の事例、職場で実践できる方法などを紹介していきます。
<目次>
マインドフルネスとは?
マインドフルネスとは「雑念にとらわれたり、余計な判断をしたりすることなく、目の前の出来事に意識を集中する状態」のことです。
また、最近ではマインドフルネスな状態だけでなく、「自分自身に意識を集中させ、“今この瞬間の気持ちや身体状況”などをありのままに受け入れる練習や過程(マインドフルネスな状態を作るための瞑想やトレーニング)」のことも含めて“マインドフルネス”と呼ばれることが多くなっています。
マインドフルネスが普及・注目されたきっかけ
マインドフルネスは現在、経営者やビジネスマンをはじめ幅広い層から注目されています。
マインドフルネスの概念や手法はマサチューセッツ大学医学校名誉教授のジョン・カバットジン博士が医療分野にマインドフルネス瞑想を取り入れ、ストレス低減法として開発したことがきっかけで誕生しました。
医療分野での臨床研究によって脳や身体への有効性が示され、また、Google社などシリコンバレーの著名企業がマインドフルネス瞑想の研修プログラムを導入したことやApple社の創始者スティーブ・ジョブズ氏が実践したことが、マインドフルネスの認知度を世界中に高めるきっかけになりました。
マインドフルネスを取り入れる効果
マインドフルネス瞑想などを習慣化して、日常のなかでマインドフルネスな状態をつくり出せるようになると、個人や組織には以下のようなメリットが生じます。
集中力や記憶力が向上する
個人への効果で最も注目したいのは、集中力や記憶力、正確性などが向上することです。ワシントン大学やハーバード大学などでも多くの調査が行なわれ、企業で実際に働く現役ビジネスパーソンを対象にした実験でも、マインドフルネスで集中力などが高まると、仕事のミスや失敗も起こりにくくなり、作業スペースもアップすることが証明されています。
集中力や記憶力などの向上は、記憶力や学習力などをコントロールする脳の機能が良くなることに起因します。ある実験では、1日30分のマインドフルネス習慣を8週間続けることで、能力の向上が見られることが証明されています。
組織の生産性が向上する
マインドフルネス瞑想などでメンバー一人ひとりの力が高まれば、個人の生産性が向上しますし、集中力を持ったメンバー同士が協働することで、プロジェクトの課題解決や創造的なアイデアの創出など、組織レベルにも良い影響が生じるでしょう。
また、マインドフルネスの習慣化によってストレスへの対応能力を身に付けたメンバーが増えれば、問題解決の施策を実行したり、出てきた新たなアイデアにチャレンジしていったりすることにも非常に効果的です。
ストレス対応力が向上する
組織で求められる変化対応、スピード対応、感情労働、創造性の発揮、正解がわからない意思決定などの仕事はメンバー一人ひとりにストレスをもたらします。ストレスに対応するうえでも、マインドフルネスの習慣化はストレス対応力やレジリエンスを高める効果があります。
医療分野では、うつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった精神疾患の治療に、マインドフルネスによるストレス低減法や認知療法が活用されています。
そのなかでは、マインドフルネス瞑想によって、怒りなどの気持ちをつかさどる扁桃体の活動が低下した、と報告されています。
マインドフルネス瞑想を行なって落ち着いた精神状態を維持する能力を高めることは、集中力などの能力を高めると同時に、ストレスに対応する力を高める効果もあるのです。
職場でできる!マインドフルネス瞑想の実践方法
マインドフルネスや瞑想と聞くと、実行が大変そうなイメージがあるかもしれません。しかし、マインドフルネス瞑想は、職場での休憩時間や在宅勤務の昼休みなどに、気軽に一人で実施できるものです。マインドフルネス瞑想の実践方法を3タイプご紹介します。
静座瞑想法
静座瞑想法は、呼吸に意識を集中することでマインドフルネス瞑想を実践するやり方です。静座瞑想法は、背筋をまっすぐにできれば、床に座っている状態でも、オフィスの椅子などに座っている状態でも実践できます。
頭と首、背筋をまっすぐにして、床に対して垂直に座ります(椅子に座った状態でも大丈夫です)。そして、息を吸い込んだときに静かに膨らみ、吐いたときに引っ込むお腹の状態を感じながら意識を集中させていきましょう。
自分の意識が呼吸から離れたことに気付いたら、対象が何かを確認してから、静かにお腹に意識を戻していきます。座禅を組むときなどを同じように、薄く目を閉じるような状態が一番やりやすいかもしれません。
静座瞑想法は、呼吸に集中することから始めて、慣れてくるにしたがって徐々に時間を伸ばしたり、意識の使い方を変えたりしてステップアップしていきます。
- 最初は呼吸に注意を向けることに集中、1回10分から始めて30分以上継続できるように少しずつ時間を延ばします。
- 呼吸への意識集中ができたら、自分の心と呼吸の一体感を味わいます。
- マインドフルネス瞑想の間は、周囲の音だけに意識を向けます。
- 瞑想中に浮かんでくる考えや想いに意識を向けて、ひたすら観察します。(最初は2~3分程度から)
- 何もせずにただ座って意識を解放し、あるがままの自分をじっと観察します。
ボディー・スキャン
ボディー・スキャンは、自分の身体のさまざまな部位に順番に意識を集中させながら、集中させる場所を動かしていくという集中瞑想の一種です。
ボディー・スキャンは、目を閉じて呼吸を感じることからスタートします。そして、以下の流れで意識を集中させる部位を移動させていきます。
- まずは身体全体に意識を向けていきます。はじめは呼吸とともに上下するお腹の中心部へ意識を向けるとよいでしょう。
- 足の小指から順番に親指まで、そして足の裏、甲、ふくらはぎ、腿へと意識を向けていきます。片足が終わったらもう片足を同じように小指から順番にやりましょう。
- 同じようにして、手の指、手、腕を意識します。
- そしてお腹から背中へ、心臓が動いているのを感じましょう。
- そこから腰から背骨、首へと順番に意識を向けていきます。
- そして、顔に注意を向け、喉、唇、鼻、額など一つひとつのパーツを意識しましょう。
- 最後に再び身体全体、お腹の中心へと意識を向け、身体全体で穏やかに呼吸していることを意識します。
はじめは仰向けで手をお腹の上にのせてやるとやりやすいかもしれません。慣れてくると、椅子に座った上でも実施できるようになります。その場合、手は腿の上に軽くおきます。そして、頭のてっぺんを天井から糸でつるされていることをイメージしてスッと上半身を伸ばしましょう。
ボディー・スキャンは、意識をマインドフルネス状態に持っていくことで、余計な緊張がなくなって集中力が増したり、感情コントロールがうまくなったりする効果があります。また、自分の身体に意識を向けることで、ストレス状態などにも早く気付けるようになります。
上記は最も丁寧な進め方ですが、より手短にボディー・スキャンをするだけでも、マインドフルネス状態に入ったり、集中力を高めたりすることができます。休憩時間はもちろん、ミーティングの合間などに実施することもおすすめです。
歩行瞑想法
歩行瞑想法は、Googleの社員研修プログラムSIYでも実践されているものです。歩行瞑想法の流れは、以下のとおりです。
- 頭のてっぺんを天から糸につるされている感覚で背筋をスッと伸ばしから身体を脱力し、手と腕をリラックス状態にする。そして深呼吸する。
- 地面に立つ自分の足の感覚に意識を集中する。
- リラックスして普通の呼吸に戻し、ゆっくりしたペースで歩き始める。
- 歩くときに足の感覚に意識を向けて、「かかとが上がる」、「つま先が上がる」、「移動する」、「着地する」の4つの動作に集中する。
歩いていると、つい目や耳に飛び込んでくるものに意識が向いてしまいます。そのときには再び足の動きに注意を引き戻しましょう。
はじめは素足に近い状態で芝生の上や体育館のようなフロアで実施するとコツをつかみやすいでしょう。慣れてくれば、通勤で最寄り駅まで歩く時間や、昼休みにお弁当を買いに行くときなどにも実践できるようになります。
マインドフルネスを導入した企業例
最後にマインドフルネスを導入した企業の事例を紹介します。
Googleは、マインドフルネスを取り入れた先駆け的な企業です。Googleでは、社内エンジニアによって開発されたマインドフルネス瞑想を含めた研修プログラムSIY(Search Inside Yourself)を設立に導入しています。
Googleでは当初、「平和・喜び・思いやり」などの価値観を社内で広める目的でマインドフルネスに注目しました。しかし、この目的だけではなかなか浸透しないということで、実践するメンバーの直接的な価値につながる「集中力向上・創造性向上・ストレス低減」などに導入目的を変えて再浸透させました。
初期に行なわれていた自主参加のプログラムは、7の瞑想をする形のものでした。Googleでは、社員がマインドフルネス瞑想への関心を持ちやすいように、宗教色は取り除き、科学的な裏付けをわかりやすく説明しています。また、社内には瞑想ルームも設置されています。
プログラムに参加したGoogleの各メンバーからには、生産性の向上、集中力UPによる作業時間の短縮、昇進、人間関係の改善などにつながったという声が寄せられています。
Apple
Apple社は、創業者のスティーブ・ジョブズ自身がマインドフルネスを実践していたことで知られます。新端末の発表などの大事なプレゼンテーション前に必ずマインドフルネス瞑想を行なっていたとされます。
現在、Apple社では、マインドフルネスの「創造性が高まる」効果に注目をして、エンジニアに瞑想を推奨しています。具体的な取り組みとしては、正しい方法でマインドフルネスができるように、ヨガや瞑想の社内講習を実施しています。また、職務時間内の30を瞑想にあてられるように、社内には専用の瞑想ルームも完備されています。
Appleにおいても、マインドフルネス瞑想を取り入れたことでGoogleと同じように生産性の向上や新端末や新サービスの開発につながる創造性の向上といった効果が生まれたとされます。
Sansan
Sansan株式会社は、日本で初めて全社規模のマインドフルネスプログラムの導入を行なった企業です。
Sansan株式会社では当初、生産性向上などを目的に社内研修の一環としてマネージャー職を対象にマインドフルネスを取り入れていました。全マネージャーを対象とする研修で、脳神経科学などに基づくマインドフルネスの基礎を座学で学び、研修後の1、マインドフルネス瞑想の個人ワークを実践してもらうというプログラムです。
研修を実施したところ、参加者の約8割にモチベーションUPやリーダーシップ向上などの効果が得られたため、2018年1月に全社員を対象とした研修に切り替えています。現在は、外部講師を招いて本格的なマインドフルネス研修も実施されています。
まとめ
マインドフルネスとは、呼吸や自分の身体に意識を向けることで、過去や未来から解き放たれて「今このとき」に集中した状態です。マインドフルネスは、もともと仏教の瞑想にヒントを得て医療分野で取り入れられたものです。
そのなかで集中力や記憶力の改善、ストレス対応力の向上などが証明されたことから、経営者やトップビジネスパーソンが取り組み始め、近年ではAppleやGoogleといった世界的企業でも導入されたことで、世界的に認知度が拡がっています。
マインドフルネスや瞑想というと難しいものだと思ってしまいますが、自宅や職場、また歩きながらでも実践できるのがマインドフルネス瞑想の良いところです。記事で紹介した実践方法を参考にぜひマインドフルネスに取り組んでみてください。個人で実践して成果を感じることができれば、ぜひチームや組織に取り入れてはいかがでしょうか。