Googleが生産性の高い「効率的なチームの条件」を調査したプロジェクトアリストテレスの結論として発表した「心理的安全性」という概念。Googleの影響により、マネジメントや組織開発の分野では、心理的安全性の考え方が一気に浸透しています。
心理的安全性が高いと、メンバーが能力発揮しやすくなるとともに、組織が高いパフォーマンスで柔軟に課題解決や目標達成を続けることが可能になります。心理的安全性を理解するうえでは、心理的安全性の低い職場や高い職場にはどういう特徴があるか?を考えてみることも有効です。
記事では、心理的安全性の概要と心理的安全性が低い職場の特徴を確認したうえで、心理的安全性の概念を組織開発に活かすメリットや、心理的安全性を高めるワークショップを紹介します。
<目次>
"ぬるま湯”とは違う心理的安全性とは?
心理的安全性とは、自分の考えをオープンにできる雰囲気のことです。前述のとおり、Googleが生産性の高い効率的なチームを作る条件として、心理的安全性が非常に重要な要素であると発表したことで、心理的安全性の概念が世界中で知られるようになりました。
「心理的安全性が高い=”ぬるま湯”や”仲良しクラブ”のような組織」をイメージする人もいますが、まったく違います。
心理的安全性とは、チームとして成果を追いかけるうえで、「初歩的な質問をしたり、失敗を公開してもバカにされない」「相手の意見と異なる見解を述べたり、反対意見を述べても、信頼関係をベースに理性的に議論できる」といった状態です。
単に「仲が良い」という状態ではありません。上記のようなことが実現するからこそ、余計な心配や配慮をせずに、質問したり、意見を述べたり、提案したり、サポートを求めたりといったことが行なわれて、チームの生産性が向上するのです。
心理的安全性が低い職場とは?
以下のような状態が生じている場合、心理的安全性の低い組織や企業である可能性が高いです。
メンバー同士の意見交換が気軽にできない
自分とは異なる価値観や意見を受け入れる雰囲気ではない。また、拒絶や批判を恐れて自分の意見や考えを言えない。メンバーがこうしたことを感じる職場の場合、結果として、組織内のコミュニケーションは活性化しなくなります。
ミスをすると批判される
ミスや失敗ができない、許されないのも、心理的安全性の低い組織の特徴です。企業が成長をするには、組織やメンバーのチャレンジが大切です。一方で、心理的安全性の低い組織の場合、失敗したときの批判を恐れてしまうため、新たな挑戦やイノベーションなども生まれづらくなるのです。
また、小さな失敗などをオープンに開示できないと、改善が生まれにくかったり、大きなトラブルが起こりやすかったりします。
個人の成果を追いかける空気が強い
心理的安全性の低い組織では、メンバー全員の協働や協力でチーム目標の達成を目指すのではなく、個人ごとにノルマを追いかけたり、組織内で競争したりしていることが多いものです。
例えば、心理的安全性の低い営業部門の場合、各自が個人の目標達成を目指してはいるものの「チームで目標を達成しよう」という空気は薄くなります。結果として、チームのための改善提案やノウハウ共有がなされることはありません。
他のメンバーに助けを求められない
各メンバーが競い合うライバルであり、拒絶や批判を恐れていると、助け合いの精神が育まれることもありません。また、心理的安全性が低ければ、助けを求めることは自分の「無能」をさらけ出す行為であり、周りの信頼を損ねるのではないかといった心配も生じて、助けを求めることに歯止めがかかります。
ほかのメンバーに助けを求められないと、施策のレベルや実行は各個人の能力に依存することになり、結果として、組織の実行力が低下します。
他メンバーや組織への愛着がない
心理的安全性が低い組織では、チーム内で自分のスキルや能力が求められている・尊重されていると感じられていません。
結果的に、ほかのメンバーやチームへの愛着やエンゲージメントが生まれにくくなります。そして、組織内のコミュニケーション減少、助け合い、自己開示の不足などに拍車をかけることでしょう。
管理職の能力が著しく不足している
心理的安全性の高い組織づくりは、管理職やリーダーが積極的に主導する必要があります。ですが、管理職に以下の特徴がある場合、心理的安全性が高い組織は作られづらくなるでしょう。
- メンバーに敬意を払えない
- スキルや能力でメンバーを差別する(“差別”と“区別”は異なります)
- メンバーの話に耳を傾けられない
- 自分の失敗やミスを開示できない
- 自分の能力や権限を誇示したい
- 会議などでファシリテーションができない
- ネガティブなフィードバックしかできない
など
心理的安全性を高めるには、管理職やリーダーの人間性やコミュニケーション力などを高めることは必須になります。
心理的安全性がもたらす多くのメリット
逆に、心理的安全性の高い組織やチームでは、以下のような効果やメリットが生まれます。
社員のモチベーションが向上する
心理的安全性が高い組織では、自分の意見を尊重してもらえることで、「もっと頑張ろう」などのモチベーションが向上しやすくなります。そして、安心した社員が業務に集中して取り組むことで、生産性も上がるでしょう。
また、自分の考えやアイデアを受け入れてもらい、考えやアイデアがチームの課題解決などに役立った場合、仕事へのやりがいも生まれやすくなります。
社員のパフォーマンスが向上する
チーム内で自分の意見が尊重されると、以下のような不安や恐れがなくなり、仕事に集中できるようになります。
- 失敗したらどうしよう
- 批判されたらどうしよう
- ノルマ達成できなかったらどうしよう
など
心理的安全性によるパフォーマンスの向上は、組織やメンバーの生産性を上げるうえでも非常に役立ちます。そして、リラックスして仕事に取り組むことで、集中力低下を原因とするミスが生じにくくなるでしょう。
また、相互の協力が生まれた場合、個々の社員が持っている能力以上のパフォーマンスを発揮できるようになります。
社員のエンゲージメントが向上する
社員の離職率が下がることも、心理的安全性を高める大きなメリットです。居心地のいい職場で働き、成果を出すことができれば、組織や仕事へのエンゲージメントは向上します。
そして、結果的には、優秀な人材の流出が防げるようになるでしょう。また、優秀な人材が組織のために協働するようになっていきます。
イノベーションが生まれやすい環境になる
異なる意見などを活発に出し合える職場では、それぞれのメンバーが持つ考え方やアイデアが飛び交います。こうした環境では、今までにない新しい考え方の発見ができるようになるのです。
VUCAともいわれる変化が激しく未来を見通しづらい時代に、競合に負けない変革を続けるには、一部の優秀な人材だけに依存するのではなく、心理的安全性を高めて各組織でイノベーションが生まれやすい環境を作ることが大切です。
心理的安全性を高めるのに有効なワークショップ
職場の心理的安全性を高めるうえで有効なワークショップを紹介しましょう。
相互理解を促すワークショップ
心理的安全性を高めるベースは、チーム内での相互理解であり、相互尊重です。相互理解や尊重を生み出すためには、以下のようなワークショップを通して、人格を持った一個人として相手を認めたり、プライベート、個人としての側面を知ったりすることが有効です。
・価値観ワークショップ
まず、ワークライフバランスやお金、結果、楽しさなどのカテゴリで30個ほどの価値観ワードのカードを用意します。そして、1対1でペアをつくり、それぞれが5枚の価値観ワードを選びましょう。それから、価値観ワードを選んだ理由を2人で共有します。
ペア同士の共有が済んだら、メンバー全員で回し読みをしながら感想を言い合いましょう。価値観ワークショップで最も大切なのは、ペア共有・全体共有のどちらも、格好をつけずに素直な想いを話すことです。
自分と違う価値観には、「どうして◯◯を選んだの?」とざっくばらんに質問をしていきます。
・じぶん共有ワークショップ
じぶん共有ワークショップでは、まず、一人のメンバーが自己紹介をします。そして、ほかのメンバーからの質問を受け付けます。数分間の質問に答えたら、本人は退出します。続けて、残ったほかのメンバーで、以下のような話し合いをしてみましょう。
- 彼女の前職◯◯ってどういう仕事だったんだろう?
- □□の仕事は△△△△みたいな感じだよ!
- さっき言ってた××スキルのこと、もっと聞いてみたいな!
退出していた本人が戻ったら、メンバーの話し合い内容を共有します。大事な注意点は、本人退出中のネガティブ発言は、禁止ということです。
失敗や恥への抵抗をなくす「インプロ」ワークショップ
心理的安全性を高めるには、メンバーに「今のチームでは失敗しても大丈夫」という安心感を与えることも大切になります。安心感を与えるにはインプロという、台本や設定がない状態からストーリーを生み出す「即興劇」を実施します。
インプロは即興で行なうため、ミスや失敗などが起こりやすいものです。しかし、参加者同士でインプロの失敗を共有することで、失敗への恐怖感が軽減されるようになります。インプロのワークショップには、メンバーのコミュニケーション力や傾聴力、観察力などを高められるメリットもあります。
まとめ
心理的安全性が高い職場とは、周囲と異なる意見や自分の失敗や無知を発言することに対して心理的なリスクを感じない環境のことです。心理的安全性が高くなると、チーム内のコミュニケーションが活性化して、チームの生産性は向上しやすくなるでしょう。
一方で、心理的安全性が低い職場には、以下の特徴があります。
- メンバー同士の意見交換が気軽にできない
- ミスをすると批判される
- 高いノルマや個人間の競争が多い
- 他のメンバーに助けを求められない
- 他のメンバーや組織への愛着がない
- 管理職の能力が著しく不足している
組織の心理的安全性を高めると、以下の効果やメリットが得られやすくなります。
- モチベーションが向上する
- パフォーマンスが向上する
- エンゲージメントが向上する
- イノベーションが生まれやすい環境になる
心理的安全性を高めるには、相互理解を促したり、失敗や恥への抵抗をなくしたりするワークショップを、朝礼や研修に取り入れるのがおススメです。組織の心理的安全性を確認したいときには、以下のページでダウンロードできる心理的安全性のチェック表を活用してみてください。