“OJT”は、実際の現場業務を通じて業務に必要なスキルやノウハウを習得する教育手法です。新卒や中途入社、部門異動者に対する人材育成の一環として、殆どの企業でOJTが導入されています。本記事では、OJT指導をテーマに、OJTのメリットとデメリットを確認したうえで、効果的にOJTを行なう方法を解説します。
<目次>
OJTの概要
OJTとは?
OJTとは“オン・ザ・ジョブ・トレーニング(On the Job Training)”の略で、実際の業務を通じて仕事を習得する教育手法の一つです。OJTでは、現場の上司や先輩社員が指導者(トレーナー)となり、実際の業務をやりながら、業務を行なううえで必要となる知識やスキルの実践的な指導を行ないます。
OFF-JTとの違い
Off-JTは(Off the Job Training)の略で、その名のとおり“Off the Job=実務外”で行なわれる教育すべてを指します。OJTが実務のなかでスキルや知識を学ぶのに対し、OFF-JTは座学や研修など、実務から離れた環境で体系的な知識をインプットする点が大きな違いです。
主なOFF-JTとして、入社後の新入社員を対象にした新入社員研修や新任管理職を対象にした管理職研修などが挙げられます。先述のように、OJTは上司や先輩社員が指導役を担うのが一般的ですが、OFF-JTは社内の教育担当者や外部の研修講師を呼んで実施します。
厚生労働省の調査によると、令和元年、正社員に対するOFF-JTを実施した事業所は全体の75.1%に上り、OFF-JTもOJTと同じように多くの企業で行なわれている人材育成手法といえます。
OJDとの違い
最近、HR分野で出てきたキーワードにOJTとよく似たOJDというものがあります。OJDは「On the Job Development」の略で、現場での実践を通して実務的な知識やスキルを身に付けるという点ではOJTと共通しています。
OJDとOJTの一番の違いは、OJTが当面の業務遂行に必要な知識や技術を習得することに重点を置くのに対し、OJDはより中長期的な時間軸や人材育成方針に基づいて、社員が将来的に求められるスキル、特にマネジメントを中心としたスキルの開発が目的である点です。
つまり、OJTとOJDは「実務を通じた人材育成」である点は共通する一方で、OJTは「トレーナーが指導することによる短期的な戦力化」、OJDは「実務を通じて中長期的なキャリア開発」を目的とする点で異なります。
OJT指導の5つのメリット
1.実践的なスキルやノウハウが身に付く
業務と切り離して実施するOFF-JTの場合、目的とする知識やスキルを体系的に習得できるというメリットがある反面、学んだことを実際に活用できるレベルに至るためには実務経験が必要となるでしょう。それに対して、実業務のなかで学ぶOJTは、学んだことと実務が直結していますので、早期に現場で活躍できる人材を育成できます。
2.受講者に合わせた指導ができる
OJTは基本的に、トレーナーの上司や先輩社員がマンツーマン、もしくは1対数人程度の少人数で指導を行ないます。そのため、教える相手の理解度に合わせて指導できます。
OJTを始めて間もないうちは教える相手のことを知らないケースがほとんどですが、指導を続けるうちに少しずつ相手のこともわかってきます。個人の成長速度や特性に合わせた指導することで、相手が吸収しやすい状態となり、成長スピードを加速させることができます。
3.その場でフィードバックができる
OJTの現場では、指導者はマンツーマン等で相手を見守りながら進めます。そのため、良かった点や改善点をその場の適切なタイミングでフィードバックできる点もOJTのメリットです。
初めて挑戦する業務の場合「自分はちゃんとできているのだろうか」「求められているレベルはもっと高いのではないか」など、教わる側も多くの不安を感じています。OJTであれば、受講者は疑問点や不安点を逐次確認できますし、指導側も適切なタイミングでフィードバックを逃さずできます。
4.指導者や上司と人間関係を築くプロセスになる
業務を円滑に進めるためには、お互いのコミュニケーションが不可欠です。OJTでは、新人が上司や先輩社員にわからないことを質問したり、反対に、指導する側が疑問点や不明点がないかを確認したりといったコミュニケーションが頻繁に生まれます。結果として、指導する側と教わる側の間に信頼関係が生まれ、好ましい人間関係を築くきっかけになるでしょう。
5.指導する側の人材育成にもなる
OJTは教わる側だけでなく、指導する側の人材育成にもなります。OJT指導をするためには、指導の計画書を作って、手順等を整理する必要があります。その中では、仕事を棚卸しして、業務手順を整理して、成果をあげる、また失敗しないためのポイントを言語化することになります。「教えることで学ぶ」という通り、今の仕事への理解を深めるきっかけとなるでしょう。
また、整理した内容を新人に教えるプロセスは、若手や中堅社員にとってマネジメントを学んでいくスタート地点としても最適です。たとえば、OJTのなかで、業務の理解に苦戦する新人がいたとします。指導者は「どこでつまづいているのだろう?」「どのように教えれば分かりやすいだろうか?」といったことを考慮して進める必要が出てきます。
相手に合わせて教える、相手のモチベーションを高める伝え方やコミュニケーションを取る、相手に成長して成果をあげてもらえるようにする等は、すべてマネジメントに通じることであり、OJTは教わる側だけでなく教える側にとっても価値があります。
OJT指導のまとめ
記事ではOJT指導の方法について、OJTメリットと注意点、また、OJTを効果的に行なうための基本となる“4段階職業指導法”を解説しました。
OJT指導のメリットは、
- 1)実践的なスキルやノウハウが身に付く
- 2)受講者に合わせた指導ができる
- 3)その場でフィードバックができる
- 4)指導者や上司と人間関係を築ける
- 5)教える側にとってもメリットがある
の5点です。
一方で、
- 1)OJT指導者のスキル・能力に教育効果が左右される
- 2)体系的・汎用的な知識を得にくい
- 3)OJT指導者に負荷が生じる
の3点には注意する必要があります。
また、OJTを効果的に行なうためには、基本となる“4段階職業指導法”のステップを押さえることが大切です。
- 1)Show(してみせる)
- 2)Tell(説明する)
- 3)Do(させてみる)
- 4)Check(評価・追加指導)
厳しい経営環境が続く現在、多くの現場で人材のいち早い戦力化が求められています。実際の業務を通じたOJT教育は、戦力化に向けて非常に重要なステップです。今回の記事内容が、自社のOJT教育をブラッシュアップするヒントとして役立てば幸いです。