マネージャーは組織の運営や管理における重要ポジションとなり、組織の成果や目標を達成させることに責任を負います。責任や求められる能力、仕事内容もプレイヤーとは異なるため、プレイヤーとしては活躍していたのに、マネージャー職に就いた途端に、パフォーマンスを発揮できなくなってしまう人もいます。
適切なマネジメントを行なうためには、マネージャーに求められる仕事を正しく理解することが大切です。記事では、マネージャーに求められる役割や具体的な仕事内容、必要な能力を解説します。
<目次>
マネージャーの役割は「組織の結果を出すこと」
マネージャーとは各組織における責任者のことで、明確な定義はありませんが、一般的には部長や課長、係長といった役職が該当するでしょう。
マネージャーの役割は、上司や部下、他部署のメンバーなどと協働して結果を出し、組織としての目標を達成することです。また中長期的には部下の人材育成を行うこともマネージャーの役割です。
また、マネージャーは時にはプレイングマネージャーとして、自分自身でも成果を上げる必要もあります。セルフマネジメント能力を高め、自身の強みやスキル、価値観を認識して活用していくのもマネージャーの役割といえるでしょう。
企業によって“マネージャー”という言葉の意味は異なりますが、下記では“マネージャー”という言葉で表現される5つの仕事を解説します。
ゼネラルマネージャーは一般的に“部長”や“事業部長”等にあたり、マネージャーという階層のなかでも上位職になります。
ゼネラルマネージャーの下には複数の課やチームがあり、多職種のメンバーが働いていることも多いでしょう。複数階層、多職種、数十~百人規模のマネジメントを行うことになり、幹部層に近い能力が求められます。
マネージャーは“課長”や“係長”など、中間管理職層が該当します。現場メンバーをまとめる責任者となり、直接的にメンバーを動かして、ゼネラルマネージャーをサポートしていく役割です。
直接的に全メンバーをマネジメントすることもあれば、マネージャーの下に、“チームリーダー”がまとめる数人のチームが複数ある場合もあります。
プレイングマネージャーは、マネジメントを行ないながらプレイヤーとしても活動する人財を指します。上述したチームリーダーぐらいの階層であることが多いでしょう。
マネージャーとしてマネジメントする範囲は少なくなりますが、プレイヤーとしての工数も取られることから、バランスのとり方や時間の使い方に苦慮しやすいポジションです。
エリアマネージャーは、流通業や小売業、飲食業などでよくあるポジションです。エリア型の販社や商社などでも使われることがあります。
基本的に複数の店舗や営業所をまとめる役割であり、店長や営業所長の上で、担当エリアの運営や管理を行なう責任者になります。ゼネラルマネージャーとマネージャーの中間ぐらいに位置するポジションとなるイメージです。
プロジェクトマネージャーは、期間が限定されたプロジェクトを運用する立場になります。プロジェクトの規模や期間は、企業や案件によって大きく異なり、数人・数ヵ月から数百人・数年におよぶものまで多種多様です。
プロジェクトを円滑に進めて目標を達成させることが役割であり、予算管理や品質管理、納期調整、メンバーのサポートなどが主な業務となります。
求められる能力は、プロジェクトのサイズによって異なりますが、プロジェクトが期間限定であり、また他社メンバーが含まれたり、社外との調整が入ったりすることが多く、高い調整や管理能力が求められます。
マネージャーに求められる仕事と能力
マネージャーには幅広い仕事と能力が求められますが、大きく分けると以下の4つが求められる仕事内容となります。
目的・目標を設定して、計画を作成する
マネージャーはチームとしての目的や目標を明確にして、やるべき業務を見定める必要があります。そのために求められるのが、主に以下の能力です。
コンセプチュアルスキルとは、複雑な情報や知識を概念化するスキルです。物事の本質や構造をとらえることで、チームや組織の進む方向性を正しく決めることができます。
ロジカルシンキングは論理的思考であり、現状や課題、目標とのギャップなどを分析し、問題解決や目標を達成する道筋を見出す思考法です。マネージャーには必須スキルといえます。
計数能力とは、数字を把握して使う意味を理解し、適切な対策を取る力のことです。
組織における目標は多くが数値化されています。目標達成に向けて、ゴールの数字に対して現状がどうなっているのか、それまでのステップ数値がどのように影響してくるのか、目標達成をどういう数字の組立で構成するのかといったことを考えるために、計数能力は必要となります。
信頼関係を作り、人を動かす
マネージャーは目標達成に向けて人財というリソースを活用していくため、メンバーそれぞれや関係者と信頼関係を築く必要があります。良好な人間関係の構築に求められるのが、以下の能力です。
人間性とは、人格や愛情、公平性、思いやり、仕事への姿勢といった人間の内面を指します。コミュニケーションのテクニックや技術はさまざまありますが、根本的にはメンバーから「人としての尊敬」を得られなければ、中長期的な人間関係は築けません。
人間性は、短期間で劇的に高められるようなものではありませんが、人をマネジメントするうえでは「人間性を磨く」ことが不可欠です。
コミュニケーション力とは、相手とスムーズに意思疎通する能力全般を指します。人を動かして成果をあげるマネージャーにとって、コミュニケーション力に代表されるヒューマンスキルは非常に大切です。
なかでも大切なものは聴く力と伝える力です。信頼関係を築くうえでは聴く力が、人を鼓舞し動かすには伝える力が大切です。
コーチングとは、適切な質問によって相手から答えを引き出し、行動に導くスキルになります。答えを教えるのではなく、メンバー自ら考えさせることで、メンバーのモチベーションを高めたり、主体性の高い人材を育てたりすることが可能です。
ファシリテーションとは、会議やプロジェクトの進行などを活性化させるスキルです。コーチングが“1対1”で相手の意見を引き出すスキルだとすれば、ファシリテーションは“会議の場”で参加者の意見を引き出すことに役立ちます。
ファシリテーションスキルを活用することで、論点の整理や合意形成、アイデアの創出等によって良質な結果が得られるとともに、メンバーのモチベーション向上への効果も期待できます。
コンセプチュアルスキルは効果的な計画作成等に大切な能力ですが、チームを動かすうえでも役立ちます。チームのミッションやビジョン、施策のコンセプト等を伝えることで、やるべきことが明確になり、メンバーのパフォーマンスを引き出しやすくなります。
計画を実行する
計画を実行するためには、メンバーとコミュニケーションを図り、モチベーションを高めることも大切ですが、実務的な実行力もプレイヤー時代以上に求められます。メンバーがスムーズに動ける、力を発揮できるようにするためには、以下のような能力が必要です。
段取り力とは、計画をスムーズに実行するためにやるべきタスクを整理したり、スケジュールを決めたりして準備する能力です。マネージャーが高所大所からしっかりと段取りを組むことで、メンバーがスムーズに各タスクに取り組み、計画をスピーディーに進めることができます。
調整力とは、業務が円滑に行なわれるよう、さまざまな過不足や意見を調整する能力になります。計画を円滑に実行するうえでは、他部署や上司との調整が欠かせません。
また、例えば、メンバーのリソース状況によって仕事を再配分したり、他部署からのリソースを借りてきたりすることも、マネージャーに求められる調整力のひとつです。
振り返り力とは、計画の進捗や成果などを整理して、計画とのギャップ、うまくいったこと、うまくいっていないこと、改善点などを洗い出して、次の計画・実行に反映していく力です。いわゆるPDCAサイクルの、“C(check)”と“A(Action)”を動かす力です。
現場のメンバーは目先のタスクに精一杯になりがちです。定期的に計画の進捗を振り返って、目標達成に向けて軌道修正していくことがマネージャーの役割です。また、チームやメンバーの状態に大きな影響を与える自分の言葉や行動を客観的に捉え、改善点を洗い出すことも大切です。
メンバーを育てる
マネージャーの役割として、組織の成果を出すこと以外にメンバーを育てることもあります。メンバーを育てるにあたっては以下のスキルが求められます。
ティーチングとは、経験や知識が乏しいメンバーに対して答えを教え、成長を促す手法です。経験の浅いメンバーに対して、業務に必要な知識・スキルを習得させるのに効果的で、具体的な答えややり方をわかりやすく教えることで、部下はスムーズに成長できるでしょう。
ティーチングと違い、適切な質問によって相手から答えを引き出すのがコーチングです。ある程度の知識やスキルがあるメンバーに実施すると効果的で、内発的動機や主体性を高めることができます。ティーチングとコーチングを相手や状況に応じてうまく使い分けられることが効果的な人材育成につながります。
モチベートとは“動機づけ”のことで、自分自身はもちろん、部下を鼓舞してモチベーションを高める力です。よくできたときはメンバーをしっかりと褒める、また、改善点として具体的な解決策を提示する、仕事の価値や意味づけをするといったことが求められます。
マネージャーの能力開発
マネージャーに求められる能力は幅広く、プレイヤーとは大きく異なります。マネージャーの能力開発には3つのポイントを押さえるとよいでしょう。
トレーニングや研修の実施
マネージャーは組織を動かす要となる存在であり、プレイヤーとは異なる責任や役割、能力が求められます。したがって、とくに新任マネージャーに対して、人を動かして組織の成果を上げることの意味や方法、部下との信頼関係の構築方法、計画の進め方、部下の教育方法などを習得させる必要があります。
マネージャーとしての実務能力は仕事のなかで身に付けていくものですが、役割意識や体系的な知識を身に付けるためには研修が有効です。
研修は社内で行なう方法と研修会社を使う方法がありますが、マネージャーの絶対数が少ない中堅中小企業は研修会社を使うのが一般的です。また、対象となるマネージャー人数が多い大企業でも、社内で独自の教育プログラムを実施しつつ、外部の公開研修も利用するといったケースも見受けられます。
自分の強みに適したスタイルを選択する
マネージャーに求められる能力は幅広く、優秀なマネージャーでもすべての能力を均等に身に付けることは難しいでしょう。そのため、成果をあげるうえで致命傷とならない必要最低限の能力は身に付けたうえで、本人の強みを活かしたマネジメントを行なうことが有効です。
特に小規模なチームであれば、最初のうちから強みに応じたスタイルを選択するというのも方法の一つです。例えば、人材育成に関しても、業務遂行能力が高くて言葉で教えることが苦手なタイプは、時には言葉ではなく行動で示すことが有効な場合もあるでしょう。
マネージャーは求められる能力が幅広いからこそ「型」にはめてしまうと、逆に育ちづらくなるケースもあります。「強みを生かす」と「ボトルネックとなるスキルは磨く」、2つの組合せを意識して育成しましょう。
横のつながりを作り、メンターを確保する
組織の階層を上がっていくと、相談できる人が加速度的に減り、どうしても孤独になりがちです。また、マネージャーになると、プレイヤー時代と比べるとフィードバックを得られる機会も減少し、自ら成長を求める強い意欲がないと停滞しやすくなります。
マネージャー同士での相談会を定期的に実施したり、経営陣とコミュニケーションできる場を増やしたりして、横とのつながりを強化することが大切です。また、メンターを付けて、いつでも相談できる環境を作っておくことも有効です。
まとめ
マネージャーの役割は、「組織として成果をあげる」ことです。人を動かして成果を生み出し、より大きなスケールで目標を達成することが求められるマネージャーに求められる仕事や能力は幅広く、プレイヤー時代とは異なります。
マネージャーに必要な能力を整理して、新任マネージャーに対して役割意識と体系的な知識を身に付けるトレーニングや研修を必須で提供して、能力開発を行っていくことがおススメです。
ただし、どんな優秀な人財だとしてもすべての能力を均等に身に付けることは難しく、個人の強みや資質に合ったマネジメントスタイルを見つけ、強みを生かしていくアプローチが有効です。