当事者意識を持って仕事に取り組むことが、組織で目標達成をしたり、改善やイノベーション起こしたり、結果を生み出したりすることができます。
しかし、「当事者意識の高さに自信がない」「部下や従業員の当事者意識が低い」と思われている方も多いのではないでしょうか。
当事者意識は組織の中でリーダーなどを任せられるためには不可欠です。
また、グローバル競争、変化の激しい外部環境、顧客ニーズの多様化などを考えると、直面した課題を主体的かつ積極的に解決しようとする従業員の当事者意識こそが、企業の競争力につながってくるでしょう。
記事では、当事者意識の概要を確認したうえで、メンバーが当事者意識を持てない原因や、当事者意識が下がる兆候、仕事への主体性や当事者意識を高めるコツと方法を紹介します。
<目次>
当事者意識とは何か?
当事者意識とは、オーナーシップや主体性に近い概念です。つまり、「この仕事は自分のものであり、自分に責任がある。だからこそ、掲げた目標を達成したりより良くしたりするために私は全力で取り組む」という意識です。
類語であるオーナーシップの「owner(オーナー)」は所有者という意味であり、ポイントは「この仕事が自分のものである」という意識です。
当事者意識がどういうことを指すかについては、当事者意識が低い人・当事者意識が高い人の具体的な特徴を見ていくとイメージしやすいでしょう。
当事者意識が低い人の特徴
当事者意識が低い人には、以下のような特徴があります。
当事者意識が低い人は、「自分がやらなくても、誰かがやってくれるだろう」という考え方です。同時に「誰かから言われたらやろう」と考えています。
つまり、自分の仕事ではないということであり、それは、他人任せ・他責の姿勢になります。リーダーなどから仕事を任されても、「指示されたからやっている」というスタンスです。そのため、責任感や積極性がありません。
当事者意識が低い人は、仕事に対して他人事です。そのため、「どうしたら確実に目標達成できるか?」「失敗しないための工夫はなにか?」などを考えることはありません。仕事は行きあたりばったりになりがちです。
失敗の理由を振り返り、自ら改善することもないため、何度も同じミスを繰り返したりします。成功に対しても、「どうやれば再現できるか?」を振り返ることがないので、1回だけの偶然で終わってしまう傾向があります。
当事者意識が低い人は、チーム内で「AよりBのほうがいいのではないか?」「その方法はあまりよくないのでは?」といった提案や主張をすることもありません。
基本的には余計なことをいわずに黙っていて、消極的な反対をしたり、誰かが決めたことに従ったりするスタンスです。従うときにも、あくまで「誰かが決めたことだから従う」だけであり、決めた責任を自分のものとはしていません。
当事者意識が高い人の特徴
当事者意識が高い人には、以下のような特徴があります。
当事者意識が高い人は、任せられた仕事や自分の人生に対して主体的であり、責任感があります。この「責任感」は、結果を引き受けるという意識だけではなく、自分は影響を与えられるという自己効力感からくるものです。
また、業務フローなどの課題に対しても「誰かが解決するだろう」「どうにかなるだろう」といった他責や楽観的な姿勢ではなく、自分事として早期の解決を図ろうとします。強い責任感を持ち、チームが良い方向に進むために積極的に意見するのが特徴です。
当事者意識が高い人は、与えられた仕事や役割を果たすために、目標や行動指針、ミニゴールを設定し、計画的かつ確実に仕事をこなしていこうとする姿勢があります。
実行レベルは、持っているスキルによって高低があるでしょう。しかし、当事者意識が高い人は、定期的な振り返りをとおして、要領の悪さやスケジュールの遅れなどがあれば、積極的に改善策を考えようとします。
当事者意識が高い人は、企業の仕事や役割だけでなく、自己成長やプライベートにおける以下のような人生の側面でも強い達成意欲があります。
・ 資格試験
・ キャリアアップ
・ 資産形成 など
コロナ禍などの厳しい状況下では、集客できない・売上が下がるなどの要因で、多くのメンバーのモチベーションが下がりがちです。一方で、当事者意識の高いメンバーが多い組織では、目の前の目標や課題を確実にクリアする達成意欲があるため、組織の苦境も良い形で乗り切れるようになります。
結果的に、当事者意識が高いメンバーは周りから信頼されますし、高い成果をあげていきます。
メンバーが当事者意識を持つメリット
メンバーが当事者意識を持つと、組織に以下の効果やメリットが生まれます。
経営陣や一部のメンバーを除き当事者意識が低い社員が多い組織は、全体的に計画性がなくのんびり仕事しています。こうした組織では、誰かの指示や意思決定待ちとなり、なるべく現状維持で仕事を進めようとします。
一方で、当事者意識が高い社員が多い組織は、その逆です。誰もが自分たちの目標を達成する、より良くするために計画を組み、改善策を考え、スピーディーに行動していきます。目標達成や課題解決への意欲が高いからこそ、積極的なコミュニケーションも行なわれます。意思決定も迅速です。
周りで起こっている事柄への興味・関心も高まり、部署間連携も強化されます。そして、新しいアイデアなども生まれやすくなるのが一般的です。意思決定に主体的に関わるからこそ、決まったことがきちんと実行され、組織の実行力も高くなります。
当事者意識のあるメンバーが多い組織では、先輩や上司の背中を見て、新人の責任感や達成意欲も向上しやすくなります。また、当事者意識を高める文化が生まれやすいのも大きな特徴です。
HR業界の雄であるリクルートのカルチャーを示すものとして「圧倒的な当事者意識」という有名な言葉があります。リクルートでは、新人や若手でも入社半年ぐらい経つと、上司や先輩に質問や相談した際「で、あなたはどうしたいの?」という逆質問が投げかけられるといわれています。
この質問は、「自分で考える」「自分の意見を持つ」という当事者意識の基本を育むものです。
結果として、疑問や問題が生じたときに「とりあえず上司に相談する」「上司の指示を待つ」「上司の指示を鵜呑みにする」のではなく、まずは自分なりに考えて、自分の意見や結論を持って報連相する習慣が育まれます。
メンバーが当事者意識を持てない原因
メンバーの当事者意識が低いのは、本人だけの問題ではありません。組織の人材育成、マネジメントや意思決定プロセスなどに課題がある場合も、メンバーが当事者意識を持てなくなることが多くなります。
メンバーの当事者意識が低いと感じた場合は、きちんと原因を理解することが大切です。ここでは、メンバーの当事者意識が低い原因を3つ紹介します。
他責思考である
当事者意識を持てないメンバーは、物事の状況や結果などを周りの環境や他人のせいにする癖が付いてしまっています。また、自分自身の能力や可能性を諦めて蓋をしてしまっている傾向も高いです。
これは意識や考え方の問題ともいえます。したがって、組織内での教育や体験を通じて、自己効力感を高めていく、自責(インサイド・アウト)の精神を身に付けていくことが大切です。
目的・目標が自分事になっていない
そもそも、目的や目標がなければ、主体的に行動したり当事者意識を発揮したりすることは難しいでしょう。
仕事にやりがいを感じていなければ、仕事に対する当事者意識は生まれにくくなりますし、明確な目標がない場合も、役割意識や責任感は生まれにくいです。
さらに、目標が「上から与えられたもの」になっている場合も同様です。とりわけ組織の目的や目標が「組織のもの」「経営陣のもの」になっており、「自分のもの」になっていないケースがよくあります。本人の目標設定力、意味付け力の課題でもありますが、マネジメントの課題でもあります。
トップダウン型の組織になっている
メンバーが当事者意識を持つには、自分が意味を感じる仕事であり、そこに自分が責任を持つ目標や役割があり、自分の意思で選択・実行している状態が必要です。したがって、トップダウンや上位下達が強すぎる組織では、社員は当事者意識を持てません。
経営者や管理職のなかには、メンバーが当事者意識を持てないことに悩む人も多いですが、経営者や管理職がすべて自分で意思決定して指示を出していることが、メンバーの当事者意識を奪っている可能性もあります。
当事者意識低下に伴う危険な兆候とは
当事者意識の低下は、組織の実行力やパフォーマンス低下につながります。当事者意識が低い人には特徴があり、その特徴を見抜いて対策をすることが重要となります。
ここでは、当事者意識の低下に伴う危険な兆候の特徴をご紹介します。
受け身・指示待ち
当事者意識の低い人の特徴として、受け身や指示待ちといった態度がまず挙げられます。
受け身や指示待ちは、「自分がやらなくても他の誰かがやってくれる」「誰かに言われたらやろう」という気持ちから生じます。
自分の仕事だという意識が低いため、行動や意思決定を他人任せや人のせいにしてしまっており、仕事の効率が下がってしまう可能性があります。
責任感がない
受け身の姿勢からも分かるように、当事者意識の低い人は仕事を「自分のやるべき仕事」だと捉える気持ちが低いのが特徴です。
「成果を上げるには?」「ミスをしないためには?」などと考えることが殆どなく、仕事の取り組みもその場しのぎで行います。
仮に目標達成しても、意図して生み出した成果ではないため再現性は低く、逆に、ミスをした場合は改善することがないので、同じミスをくり返すことが多くあります。
自分の仕事以外に関心を持たない
当事者意識の低い人は、仕事に関する責任感が低いため自分に与えられた仕事以外、関心を持たない傾向があります。
仕事に関しても指示されてから動くスタンスなので、それ以上の行動を取ることがありません。
従って、困っている同僚を助ける、何かの改善を提案する、懸念点を指摘する等、組織の目標達成のために自発的な行動を取ることは望めません。
部下や後輩の当事者意識を高める方法
メンバーに仕事への当事者意識をもたせるには、以下の方法がおススメです。
仕事の意味ややりがいを浸透させる
自分が働く企業や仕事への誇り、やりがいを感じていなければ、当事者意識は生まれません。そのため、メンバーの当事者意識や主体性を高める場合、まずは、社員から見た自社や仕事のイメージを良くするインナーブランディングが大切になります。
例えば、以下のような機会を設けるのがおススメです。
・ 仕事へのやりがいに関するディスカッションをする
・ 自社のミッション・ビジョン・バリューを考える など
仕事の意味ややりがいを考えるうえでは、クレドの浸透で有名なリッツカールトンのように、朝礼の時間を有効活用するのも有効です。
メンバーが、ミッション・ビジョン・バリューにつながる良い価値観や仕事の意味に日常のなかで触れ、自分の仕事に誇りややりがいを感じている状態をつくることが当事者意識を生み出すためには大切です。
なお、仕事の意味ややりがいを浸透させる過程では、「個人にとっての意味」をしっかりと考えてもらうことが大切です。
組織のミッションや仕事のやりがいなどを真の意味で浸透させるには、個人のビジョンや価値観に紐付ける必要があります。
また、仕事の成果に対して正当な評価や分配が行なわれていること、基本的な納得感があることは、やりがいを感じさせるうえでの大前提です。
物理的な環境を提供せず、理念などだけでやりがいを継続させることは難しいでしょう。
仕事を任せて権限委譲する
自分で意思決定できない仕事に対して、当事者意識は生まれません。メンバーが主体性を持つには、上司がメンバーに仕事を任せる風土をつくり、意思決定権や決済権などを委譲することが大切になります。
一方で、権限移譲には「鶏が先か?卵が先か?」という議論もあります。主体性や責任感がないメンバーに権限移譲することは、さまざまなリスクがあることも事実です。しかし、権限移譲によってメンバーが自己決定権を持つことで、主体性が育まれるという側面も確実にあります。
したがって、権限移譲では、各メンバーや仕事の特徴に合わせて、以下のような方法を組み合わせたり、平行して進めたりしていくことがポイントです。
・ 権限移譲をスムーズに進めるためのフレームワークをセットで提供する
権限移譲をスムーズに進めるためには、目的、目標、守るべきルール、報告頻度、提供する支援などを合意することが大切です。
また、権限移譲の一歩手前で、上司がファシリテーションやコーチングのスキルを身に付け、メンバーの意見を引き出して意思決定に反映する環境をつくることも有効です。
知識教育と情報共有を進める
適切な意思決定をするためには、一定の知識や情報が必要です。経営陣や管理職と同じ視点で組織のことを考えてもらいたいのであれば、同じレベルで情報を共有することが大切になります。
例えば、組織の収益状況や構造、管理職の会議資料などは共有されているでしょうか。また、資料や情報をただ共有するのでなく、「どの項目を見るのか?」「数字をどのように活用するのか?」を理解するためには、マーケティングやフレームワークなどの知識教育も必要となるでしょう。
これらの知識は、一朝一夕で身に付くものではありません。ですが、メンバーに正しい判断をさせたいのであれば、正しい知識と情報が必要になります。
なお、経営層とメンバー、組織のリーダーとメンバーの間に大きな距離感があったり、メンバーに組織の問題共有が行なわれていなかったりする場合、経営者や上司の危機感や問題をメンバーが自分事としてとらえることはありません。
そのため、まずは経営者のメッセージに対してメンバーが興味を持てるように、経営層とメンバーの距離感を縮める以下のような工夫や仕掛けをすることも有効です。
・ 経営陣とメンバーが一緒に悩みや喜びをわかち合うイベント開催する など
褒める文化を形成する
前述のとおり、当事者意識や責任感を持つには、仕事へのやりがいなどとともに、「自分が結果に影響を与えられる」という自己効力感も大切です。
自己効力感を高めるには、適切なタイミングや方法で褒めることが効果的です。結果を出したとき以外にも、思考や言動、プロセス、成長を褒めることが重要となるでしょう。
思考や言動、プロセス、成長を褒めることで、良い思考や言動、プロセスを習慣化したり、成長を促進して自信を持たせたりすることも可能となります。適切に褒める文化がない場合、管理職に褒め方やポジティブフィードバックの教育を実施するのもおススメです。
失敗を許容する
「失敗したら怒られる」「ミスの責任をとらされるのが怖い」とメンバーが感じる組織では、当事者意識は育まれづらいです。
このような組織では、メンバーは失敗を恐れて挑戦をしなかったり、消極的な姿勢を取ったりするようになります。そのため、仕事に対する当事者意識を高めるには、心理的安全性の高い組織や風土を目指すことも大切です。
心理的安全性の高い組織では、組織内で自然体の自分でいられることで穏やかな気持ちになり、適度な緊張感をもって仕事に集中することができます。心理的安全性を高めるには、上司がメンバーの存在を承認したり、メンバーの挑戦に対して上司が見守ったりフォローしたりすることも大切です。
「挑戦して失敗しても怒られない、大丈夫」と思える環境があって初めて、人は主体的に行動できるようになります。
自身の当事者意識を高める方法
自身の当事者意識が向上すると、仕事にやりがいを感じられ責任を持って行動することができます。結果的に組織に必要な人材と認識され、自身の評価や存在価値も高まるでしょう。
ここでは、自身の当事者意識の高め方についてご紹介します。
誰かの責任ではなく、自分の責任と考える
人から指示をされた仕事であっても、関わった以上「自分に任された仕事」だと考えることが大切です。自分が請け負う以上、自分に責任があるということです。
ここでいう責任感とは、「失敗した時の責任を引き受ける」といった責任感ではなく、「自分が結果に影響を与えることができる」という自覚です。
自分は結果、成功や失敗に影響を与えることができるという自覚を持って、自分事として取り組みましょう。
最後までやり切るクセをつける
日本において「責任」はネガティブな意味で使われることも多いことばです。従って、「当事者意識を持つために、責任感を高めよう」と考えても、あまり上手くいかない人もいるでしょう。
そんな時は、まずは「任された仕事をしっかりと最後までやり切る」ことを大切にしましょう。ひとつの仕事をやり切ることが、仕事への自信につながり、結果的に責任感へとつながります。
まずは、仕事を人任せにせず、最後までしっかりとやり切るというステップが大切です。それをくり返すことで、自然と仕事へのやりがいを感じられるはずです。
とにかく行動する
当事者意識の低い人は、都合の悪いことが起こると「○○のせい」と言い訳しがちです。しかし、言い訳ばかり言っていても状況は良い方には変わりません。
物事が思い通りに進まない時は「どうしたらいいのか?」を考え、とにかく行動することが大切です。行動することで、周りの人とのコミュニケーションが生まれます。
あなたが行動し成長することは誰かの役に立ち、それがあなたの自信につながるでしょう。
まとめ
市場環境の変化が著しい時代に、迅速な意思決定を下したり、スピーディーに対応策を実行したり、業務フローやサービス品質を改善したりするには、メンバーが当事者意識を持って仕事に取り組むことが大切です。メンバーの当事者意識が低い場合、以下の原因が考えられます。
- 他責思考の文化になっている
- 仕事の目的・目標が自分事になっていない
- 過度にトップダウン型の組織になっている
仕事への当事者意識や主体性を高めるには、以下の方法を組み合わせて実践していくのがおススメです。
- 仕事の意味ややりがいを浸透させる
- 仕事を任せて権限委譲する
- 知識教育と情報共有を進める
- 褒める文化を形成する
- 失敗を許容する
HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、社員の当事者意識や主体性を引き出す「7つの習慣®」研修を実施しています。組織に当事者意識の文化をつくり、「自ら考え、自ら動く」メンバーを増やしたいと考えている方は、ぜひ以下の研修資料をダウンロードしてみてください。