オーナーシップとは、自己責任や主体性、所有者意識といった意味を持ちます。具体的には、自分自身や自分の仕事に責任を持ち、自発的に行動することを意味します。
急激な外部環境の変化も生じる中で、組織の行動力や変化対応力を高めるために、メンバーのオーナーシップを育む取り組みに改めて注目が集まっています。
オーナーシップを持った社員が多い組織では、コミュニケーションやリーダー育成、顧客満足度といった幅広いところで、好循環が生まれやすくなります。記事では、オーナーシップの概要と育むメリット、環境整備のポイントを解説します。
<目次>
オーナーシップとは?
オーナーシップとは、自らが属する組織や課題、自らの仕事等に対して、「当事者意識を持って向き合う姿勢や関係性」を指します。ownershipは、英語の「owner(オーナー/所有者)」等と同じく、「own(所有する)」が語源であり、当事者意識や責任感といった意味があります。
オーナーシップのポイントは、組織の課題や自らの仕事に対して、「上司から言われたからやっている」といった他人事ではなく、「自分の仕事」と認識して、積極的かつ主体的に取り組む姿勢です。昔で言う「経営者感覚」に近いニュアンスもあるかもしれません。
リーダーシップやフォロワーシップとの違い
オーナーシップと近い「仕事への姿勢や取り組み方」といった概念に、リーダーシップやフォロワーシップがあります。オーナーシップとの関係性や違いを解説しておきます。
オーナーシップとリーダーシップの違い
リーダーシップとは、向かう方向やビジョンを示して、メンバーを鼓舞する力です。他者を動かすリーダーシップの原点となるのは、自らに対するリーダーシップ、すなわちセルフリーダーシップです。
オーナーシップは、セルフリーダーシップに極めて近い概念です。「自らの意思に基づいて適切な決定を行い、自らの選択に責任を持って主体的に行動する」セルフリーダーシップと、「この仕事や課題は自分が解決するものだと決める」オーナーシップは、表裏一体の関係と言ってもいいかもしれません。
オーナーシップとフォロワーシップの違い
フォロワーシップとは、「組織やリーダーの方針や施策に自らの意思で賛同し、能動的に支援する姿勢」です。フォロワーシップを「付き従う」という受け身のイメージで捉えている人もいますが、じつは、海外では「フォロワーシップがリーダーシップ開発の原点である」とも言われるほど、能動的・主体的な意味合いがある言葉です。
能動性や主体性という点においては、フォロワーシップとオーナーシップもまた非常に近い関係だと言えます。ポイントは、「自らの意思で貢献すると決める」ことです。これが、オーナーシップ、セルフリーダーシップ、フォロワーシップの共通点と言えるでしょう。
社員のオーナーシップを育む効果とメリット
オーナーシップが育まれると、仕事に対して自立性を持ち、能動的な姿勢を持つようになります。社員の多くがオーナーシップを持つことで、以下のようなメリットが生まれます。
ミスやトラブルが減り、仕事の品質が向上する
社員のオーナーシップが発揮されない組織は、それぞれが受け身で「自分がやらなくても誰かがやってくれるだろう」と捉える他責の文化です。一方で、オーナーシップが発揮されると、「この業務を動かしているのは自分である」という責任感が生まれます。
一人ひとりの社員が「自分の仕事である」という責任感を持つことで、各プロセスの納期が守られたり、品質が上がったりすることに加えて、工程と工程、役割と役割の間で生まれるミスやトラブルも減少します。
顧客満足が向上する
社員がオーナーシップを発揮する効果は、ミスやトラブルの減少に繋がりますので、顧客満足度は向上します。
また、顧客へのサービス提供は、営業や販売、そして、製造や物流、事務など、さまざまな部門が関わります。関わる一人ひとりが「顧客に約束した品質でサービス提供するのは自分の責任である」と考える組織では、顧客に提供されるサービス品質が確実に向上し、顧客満足は更に向上するでしょう。
社内コミュニケーションが活性化する
社員がオーナーシップを持つ組織では、自分がコミットした仕事を進めるために自然と周囲のメンバーとの関わりが生じ、社内のコミュニケーションが活発になります。
責任を押し付けあうような他責の文化がないことはもちろん、単なる“仲良しクラブ”の雑談でもなく、仕事への責任感に基づくコミュニケーションです。コミュニケーションの活性化は日常の仕事が円滑に進むことに加えて、失敗や成功事例の共有、新しいアイディアの創出などが生じやすい環境に繋がります。
人材育成の効果が高まる
社員が受け身の姿勢だと、どんなに質の高い研修を企画しても、参加者は「会社が研修をするから受けている状態」になり、企画側が求める効果は得られにくくなります。
しかし、社員がオーナーシップを持っていると、「自分の役割を全うするために、どんな成長が必要か、どんな改善が出来るか?」という能動的な姿勢で研修に参加します。研修が終わった時点で、「自分の仕事でどう役立てるか?」「明日から何をするか?」という実践事項が決まっている可能性も高く、研修効果が得られやすくなります。
従って、若手の早期即戦力化などを目指す企業では、人材教育の初期段階でオーナーシップを身に付けさせるのがおすすめです。
リーダーが育ちやすくなる
社員のオーナーシップ育成は、多くの企業が抱える次世代リーダーの育成問題を解消させるうえでも非常に役立ちます。
組織における「リーダー」とは、すなわち、「組織のことを自分のことのように考えられる人」です。組織の問題、組織の収益、組織の将来を自分事として考えられることこそが、いわゆる組織が求める“経営者感覚”です。
逆境に強い組織になる
多くの企業が頭を抱える外部環境の激しい変化を乗り切るうえでも、オーナーシップは非常に重要です。
オーナーシップが低い社員が多い組織では、社員は「外部環境の変化に対する対応」を経営陣の仕事、会社の話として捉え、「誰かが解決してくれるだろう」と他人事で見ています。結果として、経営陣だけが奔走して、情報収集して、意思決定して、陣頭指揮を執ることになります。
一方で、オーナーシップが高い社員の場合、外部環境の変化に対する対応は自分事として捉えられます。もちろん、大きな意思決定をすることは経営陣の役割です。しかし、各現場においても主体的に小さな変化を起こして変化対応します。
情報を経営陣に上げたり、提案して決裁を仰いだりすることで、商品やサービス、組織を変化に対応させようとします。社員一人ひとりが、自分の出来る範囲で変化に対応しようとするのです。
100人の組織で、数人の経営陣だけが変化対応に奔走する組織と、100人全員が対応を考える組織。どちらが変化対応に強いかは言うまでもありません。
オーナーシップを育む3つのポイント
情報共有と知識教育
オーナーシップを発揮するうえで、情報共有が欠かせません。「正しい判断は正しい情報の上に立脚する」とも言われます。「現場の社員に、管理職と同じ視線で考えて欲しい」「管理職には幹部と同じように物事を捉えて欲しい」と考えるのであれば、必要な情報を提供する必要があります。
例えば、組織のP/L、経営陣の課題感、管理職の会議で検討されていることが共有されていなければ、組織の問題を自分事として捉えて考えることは難しいでしょう。
情報を共有するうえでは、正しく理解するための知識教育も必要です。例えば、基本的なP/Lやマーケティングに関する知識、考えるための知識があれば、仕事へのオーナーシップも持ちやすくなるでしょう。
社員に仕事を任せ、権限を委譲する
仕事に対してオーナーシップを持つためには、決定権や決裁権を委譲していくことが必要です。自己決定権のない仕事にオーナーシップを持つことは困難です。人は「自分が決めた」ことにこそ、強い責任感を持てるものです。
オーナーシップと権限の委譲は、「鶏が先か、卵が先か」と同じような問題が付きまといます。つまり、「オーナーシップがない社員に権限を委譲することはリスクがある」、一方で、「自己決定権を持つことでオーナーシップが生じる」という問題です。
どちらが先かと一概に決められる問題ではありません。現実的には、「オーナーシップを発揮しようとしている社員に積極的に権限移譲していく」「情報共有や意思決定・考え方の基準について教育していく」「コーチングやファシリテーションを取り入れてメンバーから意見を引き出して上が決裁するところから始める」など、いくつかの手段を並行して実施していきましょう。
失敗を許容する組織風土を作る
社員のオーナーシップを発揮するには、社員が安心感を持っていることが必要です。「出る杭は打たれる」「失敗すれば過剰に責任を取らされる」組織では、オーナーシップを発揮することはリスクであり、言われたことだけを粛々と実行している方が安全です。
階層が上がれば結果に対して評価されることが基本となりますし、気の緩み・怠惰による失敗はきちんと叱責する必要があります。
しかし、経験不足による失敗、挑戦による失敗に対して過剰に責任を取らされる組織では、社員は消極的な姿勢しか取れなくなります。決裁権を委譲したとしても、前例に従ったり、上司へのお伺いを立てて意思決定したりする状況になってしまうでしょう。
仕事と組織へのエンゲージメントを高める
仕事へのオーナーシップを高めるためには、「自分がやっている仕事に意味がある」という確信が必要です。意味があると確信を持てるからこそ、「この仕事を自分の責任で成し遂げよう」という意欲が高まるのです。
従って、情報共有や権限移譲と、仕事の意味付けはオーナーシップを発揮してもらうための両輪です。組織のミッションやビジョンの浸透、顧客からの「感謝の声」等が「自分がしている仕事には意味がある」という確信に繋がります。
まとめ
オーナーシップとは、自分の仕事に対する責任感や当事者意識です。オーナーシップの発揮度合いが高まっていくと、「自分の仕事」として捉えられる範囲も広がっていきます。結果として、組織の問題を自分の問題として捉える意識、それがいわゆる“経営者意識”です。
オーナーシップの高い社員が増えると、仕事への責任感が強まり、自分の仕事として捉えられる範囲が広がっていきますので、組織の生産性、提供するサービス品質、顧客満足等にプラスの影響をもたらします。オーナーシップは自分や組織に対する健全な問題意識をもたらし、社員教育の効果性も高まります。
社員のオーナーシップを高めるためには、情報共有や知識面の教育、また権限移譲や失敗を許容する風土形成、そして、ミッションやビジョンの浸透などが必要です。短期的に一気に高まるものではありませんが、ぜひ記事を参考にしてオーナーシップ向上に取り組んでみてください。