当事者意識とは?心理学を踏まえて当事者意識が低い原因や高め方を解説!

更新:2023/03/14

作成:2022/03/08

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

当事者意識とは?心理学を踏まえて当事者意識が低い原因や高め方を解説!

当事者意識とは、課題や問題に対して「自分が解決・行動する」という意識です。当事者意識の低さには心理学的な要因も関係しており、なぜ当事者意識を持てないのかを理解することで、当事者意識を高めるための適切な対策をとれるようになります。

 

本記事では、心理学を踏まえて当事者意識が低い原因や高め方を解説します。メンバーや従業員の当事者意識が低いことにお悩みの方は参考にしてください。

 

なお、本記事で取り上げる当事者意識は、「アドラー心理学」の課題の分離(人間関係のトラブルにおいて、自分の課題なのか相手の課題なのか、切り分けて考えること)における当事者意識とは異なる考え方です。ご了承ください。

<目次>

当事者意識とは?

ミーティング風景

 

当事者意識とは、目の前にある課題や問題などに対し「自分が解決・行動する」という意識です。物事を他人事にせず、自分も関係者であるという自覚を持って仕事に臨む姿勢は、多くの企業が求めているものでしょう。

 

なお、当事者意識と同じ概念に「オーナーシップ」があります。オーナーシップとは、自分が属する組織や課題などに対して当事者意識を持って臨む姿勢や関係性のことです。詳しくは以下の記事をご覧ください。

 

当事者意識やオーナーシップに関する有名な実験に、ハーバード大学の社会心理学者エレン・J・ランガー氏が行なった実験があります。自己決定が当事者意識の向上に寄与することを証明した実験で、以下のような内容と結果になっています。

 

実験では参加者を2つのグループに分けたうえで、一方にはランダムな宝くじの抽選番号を与え、もう一方には自分で抽選番号を書くよう指示しました。

 

指示したあと、抽選前に「あなたの宝くじを買い戻したい。いくらなら譲ってもらえますか?」と尋ねると、自分で抽選番号を書いたグループのほうが宝くじに高い値段を付けたたのです。実験結果は「コントロールの錯覚」と呼ばれ、人は自己決定した物事に対しては強いコミットメントを示す傾向があることを明らかにしました。

 

本実験からは、自己決定が当事者意識の向上に大きく寄与することがわかります。

当事者意識が高いことのメリット

組織メンバーの当事者意識が高いことで得られるメリットには、以下の3つが挙げられます。

・主体性を持った行動の実現
・リーダーの育成
・メンバー同士による相乗効果の発生

以下で詳しく確認しましょう。

 

主体性を持った行動の実現

当事者意識が高ければ、他人のせいにしたり、他人任せにしたりといった態度や行動は生じません。「これは自分の仕事である」という意識から、一人ひとりが主体性や責任感を持って行動するようになり、仕事の質は高まるでしょう。一人ひとりの仕事の質が高まれば、当然、組織の目標達成度や顧客満足度の向上にもつながります。

 

リーダーの育成

組織のリーダーやマネージャーは、自分の責任領域に対して当事者意識を持てる人材であるべきです。さらに理想的なリーダーのあり方を考えれば「自分の責任領域を超えて当事者意識を持てる人材」といえるでしょう。組織内で起こるすべてのことに対して当事者意識を持つ姿勢が、俗にいう「経営者意識」です。

 

実務能力の成長と同時に当事者意識の対象範囲が広がっていくことが、リーダー候補の育成成功だと言うこともできるでしょう。

 

相乗効果の発生

当事者意識の高いメンバーが増えれば、他人と積極的に関わりながら課題を解決しようとするため、社内コミュニケーションが活性化します。メンバー同士の相乗効果が発揮される機会も必然的に増えるでしょう。

 

互いに連携・協力して役割分担したり、新たなアイデアを生み出したりすることで、個人の力を足した以上のパフォーマンスを発揮でき、組織の生産性向上に直結します。

当事者意識を持てない7つの原因や心理

ダルそうにする男性

 

当事者意識の低さには心理学的な要因が強く関係しています。当事者意識を持てない原因や心理を知ることで、当事者意識を高めるための適切な対策が見えてきます。

 

以下で、当事者意識を持てない7つの原因や心理を理解しましょう。

 

仕事における目的や目標が不明瞭

1つ目は、「何のための仕事なのか?」「顧客にどのような貢献をするのか?」「どのような目標・数字を追うのか?」など、仕事の目的や目標が曖昧になっているケースです。メンバーはなんとなく目の前の仕事をこなしており、より多くのことを進んでやろうとはしない状態に陥ります。

 

目的や目標に価値を感じていない

2つ目は、自分がしている仕事に意義や価値を感じられていないケースです。組織としては目的や目標がしっかりと定められており、個人に対しても目標が設定されていたとします。

 

しかし、設定された目標が本人にとって「企業や上司から与えられたもの」「上から落ちてきたもの」という認識になってしまうと当事者意識は生まれません。当事者意識を持てるようにするためには、価値がある、社会に貢献している、達成することで収入が増える、成長できる、キャリアが広がるなど、仕事や目標を達成することに対する個人的な意味付けが必要です。

 

仕事で主体性を発揮する余地がない(自己決定権)

3つ目は、当事者意識を持とうとしても、主体性を発揮できる組織環境が整っていないケースです。冒頭で紹介した心理実験のとおり、自己決定権がないと当事者意識は生まれにくくなります。極端なトップダウン型で自己決定権がなかったり、自由な提言や行動が許されなかったりする組織では、メンバーは主体性を発揮できず当事者意識は生まれません。

 

自己効力感がない

4つ目は「自己効力感」がないケースです。自己効力感とは、自分の能力への自信の度合いのことで「自分はこれをやれる」という感覚を指します。

 

自己効力感は過去の成功体験の積み重ねで強化されます。自己効力感が低いと「自分にできるはずがない」「どうせ失敗する」と思ってしまいます。ネガティブに考える状態では主体的な行動を起こせず、当事者意識も生まれません。仮に当事者意識が生まれたとしても、「できるはずがないけれど、やらなくてはならない」と過度のプレッシャー要因になる恐れがあります。

 

楽をしたいという心理

5つ目は、楽をしたい、すなわち「なるべく仕事を増やしたくないから黙っておこう」などという心理があるケースです。なお、楽をしたいという心理自体は、誰もがある程度持つものではあります。楽をしたい心理を上回る仕事や目標への意味付け、責任感、達成意識などが存在することで、当事者意識は高まります。

 

損したくないという心理

6つ目は、損したくない、すなわち「当事者意識を発揮して自分から動いた結果、責任をとらされたり、評価を下げられたりするのは嫌だ」という心理があるケースです。自分のチームや組織内が「当事者意識を持つことはリスクにならない」と思える環境でなければなりません。

 

例えば「発言すると上から睨まれる」「言い出した人が損をする」「上司や組織からのサポートは得られない」といった環境では、当事者意識を発揮することは損することになります。当事者意識を発揮した人を評価して、挑戦をサポートする。そして、失敗を許容できる組織風土をつくりましょう。

 

他人がなんとかしてくれるという心理

7つ目は、他人がなんとかしてくれる、すなわち「上司や同僚、経営者が問題を解決してくれるだろう」という心理があるケースです。企業の危機や市場環境の変化に対しても関心がなく、上層部が対処すべき問題として認識しています。問題を自分事として受け入れられないこと自体、当事者意識の欠如からくる心理です。

当事者意識の高め方

当事者意識を持てない原因や心理を踏まえ、自分自身、または従業員やメンバーの当事者意識を高める方法をそれぞれ解説します。

 

自身の当事者意識の高め方

自分自身の当事者意識を高める方法として、以下の点を意識するとよいでしょう。

 

●対象に取り組む意味付けをする(目的・目標の4観点)
取り組む仕事や課題に、個人として意味付けされなければ当事者意識は高まりません。目的・目標の4観点は、「自分/他者」「有形/無形」という2つの軸、4つのマトリックスを活用して、目標への意味付けを行なうメソッドです。

 

●どうすればできるのか?という思考を心がける
「どうすればできるか?」と可能性や選択肢を拡げる質問を自分に投げかける習慣を持つことで主体性を発揮するための行動のアイデアに目を向けやすくなります。

 

●影響の輪に集中する
著名なビジネス書籍『7つの習慣』で取り上げられている「影響の輪」と「関心の輪」という概念を意識する方法です。自分自身が影響をおよぼせる「影響の輪」に集中する習慣を身に付けることで、自らの主体性を強化できます。

 

「影響の輪」と「関心の輪」の詳細は以下の記事をご覧ください。

 

後輩やメンバーの当事者意識の高め方

後輩やメンバーの当事者意識を高めるには、以下の点を意識するとよいでしょう。

 

●価値あるビジョン、具体的で明確な目標・役割を設定する
当事者意識の醸成には、自分の仕事に意味があると確信できることが必要です。組織のミッションやビジョンを浸透させ、ミッションやビジョンに基づく目標や、組織に必要とされていると感じられる役割を設定しましょう。メンバーは仕事や組織へのエンゲージメントが高まるはずです。

 

●個人にとっての意味付けをする
目標を設定する際は、組織にとっての意味、合理性ではなく、メンバー個人にとっての意味付けが大切です。1on1などの対話を通じて、目標や仕事に対する個人的な意味付けを行なうサポートをしていきましょう。

 

●指示するときには必ず理由を説明する
「なぜ指示された仕事をする必要があるのか?」という疑問を抱いたままでは行動する気にはなりません。何かを指示する際は、取り組む理由や意図、目的を説明し、相手に納得してもらうことが重要です。

 

●自己決定権や裁量を与える
自己決定権のない仕事に対して、当事者意識を持つことは困難です。「当事者意識とは?」の章で解説したとおり、人は自己決定した物事に対してはコミットメントを強める傾向があるとわかっています。いきなりすべての裁量を与えるのはリスクがあるかもしれませんが、特に当事者意識を発揮する意欲のある社員に対しては、積極的に決定権や裁量を与えていくべきでしょう。

 

●適切に褒めることで自己肯定感や自己効力感を高める
自己肯定感が低ければ、他人の目や反応が気になったり、「どうせやっても失敗する」という感覚になったりして、主体的な行動は起こしにくくなります。メンバーを適切かつ積極的に褒めて、メンバーの自己肯定感や自己効力感を高めることも当事者意識を向上させるうえで重要です。

まとめ

チームや組織が成長するうえで、メンバーの当事者意識は重要なポイントです。当事者意識が高ければ、主体性を持った行動が増え、メンバー同士による相乗効果や次世代のリーダー育成への効果も期待できます。

 

本記事の内容を参考に、当事者意識の向上に取り組んでみてはいかがでしょうか。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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