在職老齢年金とは?令和4年4月の改正による影響と企業が取るべき対応

更新:2023/01/24

作成:2022/08/13

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

在職老齢年金とは?令和4年4月の改正による影響と企業が取るべき対応

令和4年4月に年金制度の改正が行なわれたことで、在職老齢年金という仕組みに注目が集まっています。在職老齢年金の制度改正は、60歳以上の高齢者を雇用する企業にとっては押さえておくべきトピックです。

 

本記事では、在職老齢年金の概要と仕組み、令和4年4月の在職老齢年金制度改正の背景と内容、制度変更で企業に生じる可能性のある問題を解説します。

<目次>

在職老齢年金とは?

困った顔のシニア社員

まず、厚生年金の加入期間が1年以上あり、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていれば、60歳~64歳まで老齢厚生年金が特別に支給される制度を「特別支給の老齢厚生年金」と呼びます。

 

なお、厚生年金の適用事業所で働いていれば、60歳をすぎて年金を受給していても、70歳まで厚生年金への加入が義務付けられています。したがって、厚生年金の適用事業所で働き続ける60歳以上70歳までの人は、厚生年金に加入しながら、勤務先からの収入と併せて特別支給の老齢厚生年金を受給することになります。

 

60歳以上の高齢者が特別支給の老齢厚生年金を受給していた場合、賃金と年金の両方を受け取るわけですから、年金の分だけ所得が多くなってしまいます。そこで所得の不公平さを防ぐために、法律で定めた水準以上の収入がある高齢者の年金額を減額する仕組みが在職老齢年金の制度です。

 

在職老齢年金の基本的な考え方は、「年金額+月給・賞与」の額に応じて、支給される年金額が減額されるというものです。場合によっては、年金が全額支給停止になることもあります。

 

 

基本月額と総報酬月額相当額とは?

基本月額と総報酬月額相当額は、在職老齢年金の計算式や、後述する令和4年4月の制度改正を理解するうえで大事なキーワードになります。

 

先述の「年金額+月給・賞与」にあたるものが、行政用語でいう「基本月額+総報酬月額相当額」です。具体的には以下の数式で考えます。

基本月額(年金月額)
  • →老齢厚生年金(年額)を12で割った額
総報酬月額相当額
  • ⇒月給(標準報酬月額)に直近1年間の賞与を12で割った額を足した額

 

なお、標準報酬月額とは、社会保険料の計算をしやすくするために用いられる報酬月額の等級ごとに設定されている区切りの良い計算用金額を指します。

令和4年4月の在職老齢年金制度改正

法改正

在職老齢年金制度は、令和4年4月に改正されました。本章では、改正が必要となった背景、すなわち在職老齢年金制度や高齢者雇用の現状を確認したうえで、具体的な改正ポイントを紹介します。

 

 

在職老齢年金の改正が必要となった理由と背景

まず、高齢化社会が進む日本では、企業に勤める65歳までの高齢者の安定した雇用の確保が必要となっています。そのため、令和4年3月までの在職老齢年金の仕組みでは、65歳以上よりも65歳未満のほうが減額される年金の基準額が低く設定されている、つまり、働く人をより増やす形で設定されていました。

 

在職老齢年金の仕組みは、企業の定年年齢が60歳以上であり、65歳までの雇用義務が企業に課せられていることに関係しています。なお、65歳までの継続雇用は、高年齢者雇用確保措置という義務3つの一つです。

<高年齢者雇用確保措置で生じる企業の義務>

 

  • 65歳までの定年引き上げ
  • 65歳までの継続雇用制度の導入
  • 定年制の廃止

 

そもそも「年金」は労働者が退職をして収入がなくなったあとの所得を保障するためにつくられた制度です。

 

先述のとおり、厚生年金の適用事業所で働き続ける64歳未満の高齢者は、勤務先から月給・賞与が支払われ続けるうえに、60歳から支給される特別支給の老齢厚生年金も受け取れることになります。

 

したがって、収入が多い働く高齢者と無職の高齢者の不公平感、所得の差を減らすために、従来は65歳以上と比べて支給停止の額が低く設定されていました。

 

一方で65歳以上の場合、高年齢者雇用確保措置の対象から外れるため、大半の人にとってメインの収入源が老齢厚生年金になります。

 

なお、令和4年3月までに65歳未満に支給されていた特別支給の老齢厚生年金の額は、段階的に引き上げられています。特別支給の老齢厚生年金の段階的引き上げは、男性が2025年度、女性は2030年度に終わります。

 

よって、令和4年3月までの在職老齢年金の仕組みでは、支給停止になる高齢者がどんどん減っている状態になっています。

 

こうした現状に合わせて年金制度の仕組みを大きく変えたのが、令和4年4月の在職老齢年金制度改正です。

 

 

令和4年4月の在職老齢年金制度改正における2つのポイント

令和4年4月の在職老齢年金制度改正におけるポイントは、以下の2つです。

<令和4年4月の改正ポイント>

 

  • 減額もしくは支給停止になる基準額を、65歳未満と65歳以上を同額にする
  • 在職定時改定を導入する

 

 

本項では、各ポイントの概要と計算式を解説しましょう。

 

 

・改正のポイント①年金額における支給停止の基準が変更になった
まず、従来の制度では、在職老齢年金の減額もしくは支給停止額が「65歳未満」と「65歳以上」で異なっていました。

  • 65歳未満:月額28万円を超えた場合
  • 65歳以上:月額47万円を超えた場合

 

一方で令和4年4月の改正では、65歳未満の人の基準額も、47万円まで緩和されることになりました。そして、在職老齢年金の支給停止(全部または一部)の判断をする計算式は、以下のとおりになります。

 

支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)×1/2×12

 

上記の計算式によって、令和4年4月以降は支給停止(全部または一部)の判断と額の決定は以下のように行なわれるようになります。

【基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円以下の場合】

 

  • 支給停止額=0円(全額支給)

【基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円を超える場合】

 

  • 支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)×1/2×12

 

 

・改正のポイント②在職定時改定の導入
在職定時改定とは、65歳以上の高齢者が厚生年金に加入しながら働いている場合、毎年1回決まった時期に、年金額の再計算をする新たな仕組みを指します。

 

毎年決まった時期がくると、厚生年金の加入の有無や年齢は関係なく、再計算までの加入実績を踏まえて年金額が増額していくというものです。実際には、9月1日時点で厚生年金に加入している場合、8月までの加入実績で増額を行ない、10月分(支払いは12月から)より増額された年金が支払われます。

 

従来の年金制度では、厚生年金の保険料を毎月納めても、65歳以上の高齢者の年金額はすぐ増えるわけではなく、以下のタイミングで行なわれていました。

  • 厚生年金をやめたとき
  • 70歳になったとき

 

一方で、在職定時改定が導入されると、高齢者が働き保険料を納めた結果が、毎年、年金額に反映されることになります。詳しくは、以下の記事も参照ください。

在職老齢年金により企業に発生する問題とは?

令和4年4月に在職老齢年金の制度改正が行なわれると、60歳以上の社員から「年金がカットされない範囲の給与にしてほしい」といった要望が出てくる可能性があります。

 

また、在職定時改定により年金の基本月額が増えた場合、在職老齢年金の対象になることで、年金額がカットされる社員が増えるかもしれません。

 

企業側では、老齢年金制度の改正にともない、60歳以上の社員からの「給与形態や雇用形態の変更の要望にどう応えるか?」という対応が必要になるかもしれません。対象者が多い場合には、事前に検討しておくとよいでしょう。

まとめ

令和4年4月の年金制度改正では、在職老齢年金における支給停止の基準が47万円に統一されることになりました。また、在職定時改定という新しい仕組みの導入も、今回の制度改正で注目されるトピックになります。

 

こうした制度改正にともない、企業には60歳以上の社員から給与額の変更に関する要望が生じる可能性があります。国による高齢者雇用や就業の環境整備は、今後も進んでいきます。企業側でも、従業員の年齢構成を踏まえて、必要であれば高齢化社会に合った体制や仕組みづくりなどの対策を早めに行なうとよいでしょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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