リスクヘッジは、もともと金融業界で使われていた言葉で、起こりうる危険や障害に対して防止策を講じることを指します。
ビジネスにおいて、事業を成長させていくうえでは挑戦が必要です。ただし、挑戦にはリスクもともないます。
近年では、外部環境や社会情勢が著しく変わるなかで、既存のビジネスをやるうえでもリスクはつきものになっています。
こうした時代にリスクを適切に扱うためには、適切な“リスクヘッジ”が大切です。
本記事では、リスクマネジメントやリスクテイクなどの類似用語と比較しながら、リスクヘッジがどういうものかを確認します。
確認したうえで、ビジネスにおけるリスクヘッジの重要性、具体的な事例、リスクヘッジを適切にするうえで必要な能力、リスクヘッジ能力を高める方法を紹介します。
<目次>
リスクヘッジとは?
リスクヘッジの英語(risk hedge)を日本語にすると、riskは「危険」、hedgeは「垣根、障壁、障害、生け垣、防止策」などになります。
つまり、リスクヘッジは、将来的に起こりうる危険に対して、垣根のような防止策を講じることです。
リスクヘッジは、もともと金融業界でよく使われる言葉でした。たとえば、資産運用をする場合、景気の変動などによって資産価値の急激な下落が生じる可能性があります。
金融業界におけるリスクヘッジとは、こうした場合の価格変動リスクを抑えて、安定運用するための手段のことです。
例えば、資産運用における、初歩的なリスクヘッジでいえば、安定性が高い国債、また、投資信託とハイリスクハイリターンの株式やベンチャーや途上国株式などに分散投資をするといった形です。
最近は、金融業界のみならず、様々なビジネスシーンで、「リスクヘッジはどうなっている?」「リスクヘッジする」といった表現で使われるようになっています。
リスクマネジメントとの違い
リスクマネジメントは、言葉のとおり、リスクを適切にマネジメントすることです。
本章でいうマネジメントには、危険の回避・被害を最小限に抑えるための計画や管理のほかに、きちんとリスクを見積もったうえで、“リスクを取る”決断をすることも含まれます。
つまり、「リスクを下げる」を前提にして「リスクを取る」意思決定をするのがリスクマネジメントです。
なお、リスクを最小限に抑えるための計画や管理とは、具体的には、以下のような一連のプロセス・管理です。
- リスクの特定
- リスクの分析
- リスクの優先順位づけ
- リスク防止策の立案、実施
- リスクの監視
- リスクが起きたときの対処 など
上記のプロセスや管理は、リスクヘッジでの取り組みと基本的に同じです。管理の意味では、リスクマネジメントの一部として、リスクヘッジがあるイメージになります。
リスクテイクとの違い
リスクテイクは、リスクが生じる危険性を受け入れて行動することです。
仕事やビジネスを進めるうえで、リスクを完璧に回避することは難しいでしょう。そのため、ビジネスでは、あえてリスクを引き受けることで、高いリターンを狙う場合があります。
たとえば、「新製品Aを携えて、競合の多い市場にあえて新規参入してみる」などのチャレンジはリスクテイクにあたります。
また、「企業の成長に向けて、企業をM&Aする」といったことも大きなリスクがともなうでしょう。
リスクテイクは、リスクに対して、チャレンジなどのように“攻める”の姿勢を指すものとなります。
姿勢の意味では、リスクテイクもリスクマネジメントの一部です。
ただし、リスクテイクの場合、“リスクを取る”ことにフォーカスしているため、リスクマネジメントのように“リスクを最小限に抑えながら”といったニュアンスは薄くなります。
“攻め”のリスクテイクと“守り”のリスクヘッジ、両方を状況に応じて適切にバランスさせるのがリスクマネジメントということになります。
ビジネスにおけるリスクヘッジの重要性
近年は、コロナ禍やウクライナ侵攻といった世界的に影響を与える出来事が続いています。
また、インターネットを前提としたテクノロジーの進化やDX化によって、市場環境の変化が急激に起こりやすくなりました。
そのため、企業の競争相手も、従来の競合だけとは限らなくなってきています。
たとえば、Amazonの発達によって、書店業界が一気に衰退していることなどは、ITがもたらしたわかりやすい市場環境の変化です。
また、企業の社会的責任やSDGs、コンプライアンスや人権、個人情報などに対する社会的な感覚が変わるなかで、既存ビジネスのなかにも、さまざまなリスクが潜んでいます。
たとえば、IT化が進んだことで便利になった一方で、個人情報の大量流出は起こりやすい環境になっていると考えられます。
また、たとえば、複数のアパレル企業などの生産委託先が途上国で低賃金労働をさせていたり、人権侵害が懸念されるエリアで生産をしていたりしたなどの理由で糾弾させたことをご存じの方も多いでしょう。
SNSなどを通じて、個人が発信力を持ち、また、拡散スピードも圧倒的に早まったなかで、風評被害などのリスクも過去よりも大きくなっているといえるでしょう。
上記のDX化などのように、近年では、ビジネス自体の成果とは少し違うところにも多くのリスクが潜むようになっています。
こうしたなかでビジネスを続け、企業を成長させるには、常に現在と未来のリスクを予想し防止策を講じるリスクヘッジの姿勢が必要となります。
ビジネスでのリスクヘッジ事例
ビジネスをするうえで必要なリスクヘッジは、一つとは限りません。以下のように幅広い種類のなかから、自社のリスクを最小限に抑えられるものを見つけ、対策を講じていく必要があります。
ミスやトラブルに備えた対策
- わかりやすいマニュアルをつくる
- ミスが生じにくい仕組みをつくる
- 現場のレイアウトを変える
- チェックリストを導入する
- ダブルチェック体制を導入する
- ヒヤリハットを報告してもらう
- クライシスマネジメントを実施する など
情報漏えいに備えた対策
- セキュリティソフトを導入する
- パソコンの持ち出しを禁止する
- 情報リテラシーの教育を強化する
- データの誤送信が生じにくい仕組みをつくる
- チェック体制を強化する
- ID/パスワードの管理を徹底する
- リモートワーク用パソコンに強固な認証方式を導入する など
人材管理や損失に備えた対策
- 被災時などにも業務継続できる体制を整備する
- ナレッジマネジメントで仕事の属人化を防ぐ
- 次世代リーダーを早めに育成しておく
- 社員の早期離職を防ぐ対策を講じる
- 採用にリファレンスチェックを導入する など
市場環境の変化に備えた対策
- つねに新規サービスや新規事業に取り組む
- 5年先10年先の市場や顧客変化を予測する
- 自社事業やサービスを陳腐化させるような商品を自ら開発していく
- 一つの取引先や商品に依存し過ぎない体制をつくる
リスクヘッジを適切にするために必要な能力
先述のとおり、ビジネスには、さまざまなリスクが潜んでいます。リスクのなかで、自社のリスクを最小限にするリスクヘッジを考えるには、以下のような能力を身につけておくことが大切です。
論理的思考力
論理的思考力とは、筋道を立てて論理的に考える思考法のことです。ロジカルシンキングとも呼ばれます。
たとえば、あるリスクを回避する施策を立案・実施する場合、立案などの理由が“なんとなく”では説得力もありませんし、現場で示した施策が“不必要”と判断されれば、継続的な実施も難しくなってしまいます。
リスク回避の施策を立案・実施するには、論理的な視点で現状分析を行ない、適切な対策を考え、メンバーの協力を仰ぐ必要があります。
メンバーの協力を仰ぐうえでも、論理的なコミュニケーション力(ロジカルコミュニケーション)も必要になってくるでしょう。
クリティカルシンキング
いわゆる“批判的思考法”です。大きなトラブルを防ぐうえでは、思考や現状の前提条件になっているものに着目し、客観的な分析・検証を通じて、本質的な解決策を見出すことが大切になります。
近年では、市場環境や顧客ニーズが著しく変化し、ビジネスなどの正解がわからないことが増えています。
こうしたなかでリスクを回避するには、「そもそも、いまの前提は正しいのか?」などの前提を疑うクリティカルシンキングの視点も持っておきたいところです。
多面的な知識・視点
ビジネスをするなかでは、リスクはどこに潜んでいるかわかりません。
- 製造
- 販売
- オペレーション
- ブランディング
- マーケティング
- システム
- 法務 など
リスクヘッジを考え、実施する場合、さまざまな側面から検討できる視点・知識が必要となります。
リスクヘッジ能力を高める方法
適切なリスクヘッジを行なう能力を高めるには、日々の仕事のなかで以下のポイントを大切にしていく必要があります。
失敗事例の知識
競合他社や社内の失敗事例は、リスクヘッジの検討に役立つ情報です。日頃からニュースや書籍などを通じて、失敗事例や原因をインプットしておく習慣を持つとよいでしょう。
特に同業他社のニュース、自社でも起こりうる失敗事例は、特に敏感となって原因などを確認して、自社で同じことが起こらないか確認する必要があります。
幅広い業務の経験
業務の中身がわからなければ、リスクの分析調査や施策の検討ができません。また、業務内容の理解が薄ければ、施策を実施する現場メンバーの理解も得られにくいでしょう。
効果性の高いリスクヘッジを行なっていくうえで多面的な知識や視点をえるには、幅広い業務を経験することも有効となります。
論理的思考力
論理的思考力は、普段のトレーニングやフレームワークを習得・活用することで、高められるスキルです。
想像力
リスクヘッジを検討する場合、業務プロセスを俯瞰しながら、“リスクを想像する力”が大切になってきます。
そこでは、以下のような視点も大切になってきます。
- 「自分と他者には、異なる世界が見えていること」を理解する
- 相手の背景にあるものを想像しようと努める
たとえば、ベテランにとってたやすい仕事も、新人にとっては、とても危険で緊張の連続である可能性もあります。
こうしたなかで、リスクを想像するには、そもそも「自分が見えている世界」と「相手が見ている世界」が異なることを認識することが大切です。
また、メンバーとの会話のなかで、高い傾聴力を通じて相手の背景にあるものを想像する姿勢も必要となります。
たとえば、製造業の新人が、上司との1on1で「最近、よく工具を落としちゃうんですよね……」と話したと仮定します。
落とす話を表面的にとらえると、「工具をうまく扱えてないのかな?(⇒現場での指導が必要)」などの印象・判断になります。一方で、印象の背景にあるものを深く想像するために、積極的傾聴などを行なうと、「残業続きで疲れている(⇒過労やうつ病)」や「工具を足に落としたらケガをするかもしれない」などのリスクが見えてくるかも知れません。
また、多面的な知識や視点から「オペレーションの側面で見るとどうだろう?」「法律的にトラブルが起きるとすると、どのようなところだろう?」「顧客視点で見たときにどのような誤解や誤用からトラブルが起こるだろう?」などと想像することも大切になります。
ITツールの導入
オペレーションやヒューマンエラーなどを減らすには、ITツールなどの活用も有効です。
ITツールによる効果性を最大化するには、実現したいことに優先順位をつけ、自社に合うツールやサービスを選ぶことが大切になります。
まとめ
リスクヘッジは、将来的に起こりうる危険への防止策を指す言葉です。
リスクヘッジは、リスクマネジメントの一部であり、“リスクを取る”という攻めのリスクテイクと、“リスクを減らす・事前に対策する”という守りのリスクヘッジを適切に組み合わせることが大切になります。
リスクヘッジを適切に行なうには、論理的思考やクリティカルシンキング、多面的な知識や視点が必要になります。
また、日々の仕事のなかでリスクヘッジに取り組むには、日々の仕事のなかで以下のポイントを押さえていくことが有効です。
- 失敗事例の知識
- 幅広い業務の経験
- 論理的思考力
- 想像力
- ITツールの導入
リスクヘッジを適切に行なうには、記事でも触れたとおり、さまざまな角度からモノを見たり想像したりする力が必要です。
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