企業が社員に求めるスキルとして、「ロジカルシンキング」を耳にする機会が増えました。ビジネスパーソンにとって、ロジカルシンキングはとても汎用的であり、有益なスキルです。
本記事では、ロジカルシンキングのメリットや基本思考に加え、実践に使えるフレームワークもお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
<目次>
ロジカルシンキングとは?
ロジカルシンキングは、筋道を立てて論理的に考える思考法で、日本語では「論理的思考」と訳されます。
ビジネスにおいて、ひらめきや直感も重要です。ただ、状況を整理する、課題を解決する、事業計画を立てる、施策を立案する、計画を実行するなど、多くの場面において、まずはロジカルシンキングで物事や要因を整理・分析することが有効です。
また、結論に至るまでの筋を明確に組み立てていくロジカルシンキングは、情報を分かりやすく伝えるコミュニケーション(ロジカルコミュニケーション)にも生かすことができます。
ロジカルシンキングを鍛えて得られる5つのメリット
ロジカルシンキングを鍛えると、さまざまなシーンで必要とされるビジネススキルが磨かれます。具体的には、ロジカルシンキングを鍛えることは以下の5つのメリットが得られます。
- 分析力の向上
- 提案力の向上
- 問題解決力の向上
- コミュニケーション力の向上
- 生産性の向上
分析力の向上
ロジカルシンキングの実践は分析力の向上につながります。ロジカルシンキングにおいて「何となく」はありえません。
ロジカルシンキングでは、筋道を立てて論理的に考えるために、物事を要素に分解したり各々の関係性を整理したりします。情報を整理することで物事の本質に気付きやすくなり、分析力が向上します。また、それぞれの因果関係や相関関係を考察することで、気付きを得ることもあるでしょう。
ロジカルシンキングを使って、分解することや考察することに慣れると、適切な対応策や判断を導き出す力も強まります。
提案力の向上
ロジカルシンキングは効果的な提案をすることにも役立ちます。もちろん人間は論理だけで意思決定する生き物ではありません。また、相手の真意や感情をくみ取る上ではロジカルシンキングよりも感受性や洞察力などが大事になります。
しかし、ロジカルシンキングを使えば、分かりやすい、誰もが理解しやすい提案をすることができます。論理的に意見を筋道立てて説明することで、相手に納得感のある提案ができます。
また、ロジカルシンキングを使って相手から聞き出した要望を整理・考察することで、解決したい問題や求めている提案もくっきりと見えてくるでしょう。
問題解決力の向上
問題解決力が向上することも、ロジカルシンキングのメリットです。問題を解決するためには、状況の整理や要因の分析が必要となります。それが得意なのがロジカルシンキングです。
ロジカルシンキングを使って整理・考察することで、要員を特定したり、根本的な課題を特定したりすることができるでしょう。もちろん、ロジカルシンキングだけですべての物事を解決できるわけではありません。定性的・感情的な問題であれば、論理だけでなく思考の飛躍が必要なケースもあります。
しかし、ロジカルシンキングによる状況整理や要素分解などが、問題解決の基盤となることは間違いありません。
コミュニケーション力の向上
ロジカルシンキングは、相手の意見を正確に理解すること、また自身の意見を分かりやすく伝えることの両方に役立ちます。ロジカルシンキングで相手が伝えたいことを整理すれば、論点がずれることなく、情報のやりとりを進めることができるでしょう。
また、前述の通り、自分の考えの根拠を明確にして筋道を立てて分かりやすく話したり、伝えたい情報を整理してきちんと伝えたりするロジカルコミュニケーションも、ロジカルシンキングを基盤にしたものです。
提案力のところで述べたことにも重複しますが、コミュニケーションは情報のやりとりと感情のやり取り、2つがあります。ロジカルシンキングを身に付けることで、情報のやり取りに関するコミュニケーション力が確実に向上します。
生産性の向上
ロジカルシンキングを鍛えることは、生産性の向上にもつながります。業務遂行までの道のりを論理的に考えられるため、無駄な思考やプロセスを省くことができるでしょう。
ロジカルシンキングで全体像や問題の本質をつかめば、無駄な作業や効率化できる業務にも目が行き届きやすくなります。また、目標達成に向けた計画の精度や問題解決策の質が向上すれば、より成果も出しやすくなります。
ロジカルシンキングの基本思考法
ロジカルカルシンキングの基本的な考え方として「帰納法」「演繹法」「弁証法」の3つがありますので、紹介します。
帰納法
帰納法は、複数の事例から共通点を見つけ、そこから結論を導き出す手法です。
- 店舗Aでは商品aが売れている
- 店舗Bでも商品aが売れている
- ネットショップでも商品aの売れ行きが好調である
- 売り切れ店舗では商品aの再入荷問い合わせが多い
例えば上記のような事例がある場合、「商品aは人気がある」と結論付けられます。帰納法で結論を導き出す際は、事例が少なすぎたり偏りがあったりしないように気を付けましょう。
「商品aが1点も売れていない店舗C」がある場合、その存在を省いて結論を出すのは論理的とはいえません。全部で100店舗あるうちの2店舗しか見ていない場合も同様です。
たとえば、ビジネスにおける顧客の声などは、「声が大きな顧客」「直近で接触した顧客」などの印象に左右されがちです。上記のような点に注意する必要があります。また、共通点や結論を導き出すうえで論理が飛躍していると、そもそも帰納法は成り立ちませんので、その点も注意が必要です。
演繹法
演繹法(えんえきほう)は、決められたルールや一般論に事例を当てはめることで、結論を導き出す手法です。分かりやすいところでは、三段論法「A=B、B=C、よってA=C」があります。
- 人間はいつか死ぬ
- わたしは人間である
- わたしはいつか死ぬ
演繹法は、アリストテレスの三段論法とも言われ、上記事例のように決まったルールや一般論といった前提に対して、具体的な事例を当てはめて結論を導くやり方です。
前提が基準となるため、筋道を立てて組み立てやすいでしょう。ただし、前提や組み立てを間違うと、誤った結論が導き出されますので注意が必要です。
弁証法
弁証法は、事例に対する反対意見を出し、そこから解決案を導き出す手法です。対立する意見や矛盾する事例を統合して、新しい理論を見つけます。そこに、さらなる反対意見をぶつけることを繰り返せば、結論がより磨かれます。
●摂取カロリーを減らすことがポイントである
↓
反対意見:食べることを我慢したくない
上記のように対立する意見を出すことで、たとえば、「摂取カロリーを減らすのではなく、運動して消費カロリーを増やせないか?」「摂取カロリーが低い食べ物は何か?」といった新たなアイディアを導き出すきっかけになります。
対立意見を統合することで、どちらも叶えるより良い意見を創出することが弁証法のポイントです。
ロジカルシンキングに用いるフレームワーク
ロジカルシンキングでは、思考する際に多くのフレームワークを活用します。フレームワークは、簡単にいうとロジカルシンキングの枠組みです。
フレームワークに当てはめて考えることで、思考を簡単に整理できますので、ぜひ参考にしてください。
ピラミッドストラクチャー
「ピラミッドストラクチャー」は、結論や根拠をピラミッド形で表したフレームワークです。「ピラミッド構造」「ピラミッド原則」とも呼ばれます。
ピラミッドの頂点は、最も伝えたい主張や結論です。そして、主張や結論の根拠をピラミッドの下部に配置していきます。結論に対する根拠や結論に至った道筋をしっかりと示すことで、伝えたいことへの説得力が増します。
ロジックツリー
「ロジックツリー」は、原因や問題の解決策を明確にするためのフレームワークです。理論の木という名前のとおり、枝分かれして広がるように、事例を要素に分解できます。全体像を把握しながら、枝葉にあたる原因や解決策を突き詰めやすいのが特徴です。
ピラミッドストラクチャーと似たイメージですが、ピラミッドストラクチャーは頂点に当たる部分がゴールや結論、ロジックツリーは一番はじめに配置するものが問題や思考の起点であるという点が異なります。
ロジックツリーには以下の3種類があります。
- 原因分析:Whyツリー
- 構造把握:Whatツリー
- 課題解決:Howツリー
どういった要素に展開していくのか、それぞれのツリーについて簡単に解説します。
whyツリー
「whyツリー」は、発生した課題や問題の原因を解明することが目的です。起こった問題に対して「その原因は(Why?)」と問いかけ、考えられる原因を展開していきます。
例えば、「事業の売上が低い」ことが問題だとしましょう。その場合、以下の原因が考えられます。
- 新規顧客が減少している
- リピート率が低い
- 客単価が低い
そして、考えられる原因をさらに深掘りしましょう。新規顧客が減少している原因であれば、「広告出稿していない」「検索順位が下がっている」などが考えられます。
このように、それぞれの原因を深掘りすることで、当初の「事業の売上が低い」から直接結びつかない要因を発見できます。
トヨタ式と呼ばれる問題解決法「5回のなぜ」は、whyツリーを深掘りするプロセスです。whyツリーを利用すると、課題や問題の真因を明らかにして根本解決することに近づけます。
whatツリー
「whatツリー」は、事例を構成する要素に細かく分解します。形としては、結論から広がっていくピラミッドストラクチャーと同じです。それぞれの要素について検討したり、複数の要素を比較したりできます。
「事業の売上」のように大きな事例だと分かりにくくても、構成する要素レベルに分解することで見える部分がたくさんあります。問題が発生している部分やこの先の課題となる部分、ボトルネックとなっている部分を可視化できるでしょう。
また、事例によっては原因の深掘りが適さないケースがあります。その場合は、whatツリーで構造を把握し、全体を見ながら個別の問題や課題に対応するとよいでしょう。
howツリー
「howツリー」では、「どうすれば実現するか?(how?)」を問いかけて展開していくものです。原因や構造ではなく、解決や実現に焦点を合わせたロジックツリーです。そのため、木の起点となる部分は、達成したい目標や解決したい問題となります。
たとえば「事業の売り上げを上げたい」という達成目標の場合、実現のためには以下の方法が考えられます。
- 顧客数を増やす
- 来店回数を増やす
- 客単価を上げる
そこから、上記の目標をどう実現するかを問いかけ、具体的な手段を洗い出しましょう。要素を深掘りしていくほど、具体的で実現しやすい方法をピックアップできます。
So What?/Why So?
「So What?/Why So?」は、結論と根拠を探るための手法です。事例や要素に対して問いかけることで、表面だけでなく、より本質的な部分を探ります。「So What?(つまり、どういうこと?)」は結論に対する問いかけです。問いかけることで、要素全体から結論を導き出します。
また、「Why So?(それはなぜ?)」です。逆に、結論や事象に対して、Why So?を問いかけることで、原因を深掘りしていきます。Why Soだけを切り取ると、Whyツリーと同じです。
Why So?で結論に対する根拠を、So What?で根拠から導き出される結論を繰り返し問いかけることで、課題の深掘りが可能となります。
ひとつひとつの要素に対して「つまりどういうことなのか」「なぜそうなるのか」と考え続けることで、深く思考し、また、結論と根拠がしっかりとつながります。結果、論理の飛躍や抜け漏れなどがなく、端的に分かりやすく伝えられる状態になるでしょう。
MECE
「MECE」は「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字をとったもので、「ミーシー」と読みます。
それぞれの単語の意味は以下のとおりです。
- Mutually:互いに
- Exclusive:重複せず
- Collectively:全体に
- Exhaustive:漏れなく
まとめると「漏れなく重複なく」という意味で、MECEは何かを分類したりするときに非常に役立つフレームワークです。漏れなく重複なく列挙するためには、軸の設定が大切です。
例えば、「日本の企業」を分類するとします。この時に従業員数という軸を設定することで、MECEな分類が可能になります。
- 10人未満
- 10人~100人未満
- 100人以上
分類する軸が明確なので、漏れなく重複なく列挙できます。
例えば、これが「関東の会社」「従業員100人以上」「製造業」といったばらばらの軸で分類すると、同じ企業が複数のグループに所属したり、どこのグループにも所属しない企業が生じたりしてしまいます。
マーケティング分野のフレームワークなども、(疑似的な)MECEの考え方をベースにしています。
- 3C分析
- PEST分析
- SWOT分析
たとえば、上記のフレームワークなどは、事業に影響を与える主要な要素を、MECEを意識して取りまとめたものだと解釈できます。完全なMECEではありませんが、MECEの考え方を理解して利用すると、有効に活用しやすくなるでしょう。
まとめ
日本語で「論理的思考」と訳されるロジカルシンキングは、筋道を立てて論理的に考える思考法です。そのため、ロジカルシンキングを鍛えることで、ビジネスシーンで役立つ分析力、提案力、問題解決力の向上などが見込めます。
また、ロジカルシンキングを鍛えれば、第三者に自分の意見を分かりやすく伝えるロジカルコミュニケーションも自然と実践できるでしょう。ロジカルシンキングは考え方の一種ですので、概念を理解しても、繰り返し実践しなければ身に付きません。
ロジカルシンキングの基本思考法やフレームワークを参考に、日常生活の中で繰り返し鍛えていきましょう。