パーパスとは?意味やミッション・ビジョンとの違い、パーパス経営の事例を紹介

更新:2023/07/28

作成:2022/08/25

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

パーパスとは?意味とビジネスで注目される背景やパーパス経営の事例を紹介

パーパスとは、経営やHR領域で「企業の存在意義」を意味する言葉です。近年、「パーパスマネジメント」「パーパス経営」などの言葉がよく取り上げられるようになり、関心を持っている方も多いでしょう。
 
記事では、ビジネス分野におけるパーパスの意味、ミッションやビジョンとの違い、企業への導入メリットや実際の導入事例を解説します。
 

<目次>

パーパスの意味とミッション・ビジョン・バリューとの違い

パーパス(purpose)という英単語は、一般的には「目的」や「意図」などと訳されます。上記が転じて、ビジネスシーン、経営やHR領域におけるパーパスは、「企業の存在目的や存在理由」、「企業が何のために存在するのか?」ということを意味します。
 

本章では、ビジネスで用いられるパーパスの意味と、関連するミッション・ビジョン・バリューとの違いについて解説します。
 

パーパスとは?

「パーパス」とは、経営や組織開発などの文脈で用いられることが多く、企業や組織が何のために存在するのか、すなわち「企業・組織の存在意義」を指します。
 

たとえば、ある会社が「なぜわが社が存在するのか?」と自身に問いかけたときに、「“未来”である子供たちを育てる母親の幸福を実現するためだ」と答えられるなら、それがパーパスです。パーパスは、社員や顧客、社会に対して、会社の魅力や事業の価値を伝える重要な要素となります。

 

パーパスとミッションの違い

パーパスとは、社会のなかで企業が何のために存在しているのか、社会に何を提供できるのかという存在意義に対する答えです。
すなわちWhyにあたります。ミッションも、パーパスと同じように「何のために存在するのか?」「企業として何を成し遂げるのか」という存在意義、目的を示すものとして使われることが一般的であり、基本的に同じと考えて良いでしょう。

 

ただし、『ビジョナリーカンパニーゼロ』などで使われているように、ビジョンやパーパスを最上位の存在目的として扱い、ミッションは「ビジョンやミッションを具現化するための中期方針(任務)」として位置づける場合もあります。

 

ミッションを“任務”として位置づける場合、ミッションは10年程度の時間軸で何をすべきかという、Whatに当たるものが示されます。

 

パーパスとビジョンの違い

パーパス実現を目指すなかで、進むべき方向性とゴールを示すものがビジョンです。
パーパスやミッションは抽象的な表現で表わされるのに対して、ビジョンは「具体的に目に思い浮かぶように」描かれることが多いです。

 

ビジョンは「どのような未来を実現するのか」「どこを目指すべきなのか」というWhereに当たるというとらえ方もできます。

 

パーパス・ミッションとビジョンの違いとして、公民権運動で有名なマーティン・ルーサー・キング・ジュニア博士の演説が非常にイメージしやすいかもしれません。

 

キング牧師の演説内における「すべての人間は平等に作られているということは、自明の真実であると考える、というこの国の信条を、真の意味で実現させる」というものがパーパスやミッションです。

 

そして、その後ろに続く以下の有名な演説がビジョンにあたります。

 私には夢がある。それは、いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である。

私には夢がある。それは、いつの日か、不正と抑圧の炎熱で焼けつかんばかりのミシシッピ州でさえ、自由と正義のオアシスに変身するという夢である。

私には夢がある。それは、いつの日か、私の4人の幼い子どもたちが、肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国に住むという夢である。

ミッションやパーパスを実現した先にある“目に浮かぶような世界”を描写したものがビジョンです。

 

パーパスとバリューの違い

バリューは、パーパス・ミッション・ビジョンを実現するための行動指針です。
パーパス・ミッション・ビジョンはいずれも、「組織が社会に対して何を成し遂げるか」「どのような貢献するか」という外へのメッセージです。

 

一方で、バリューは、パーパスやミッション、ビジョンを実現するうえで私たちは何を大切にする組織であるのか、守るべき規範は何かという内側へのメッセージです。“企業として重視する価値観”や“企業として大切にする行動基準”としてメンバーが共通して持つべき規範を示しています。

パーパスの派生語の意味

 

パーパス経営パーパスを求心力や経営の軸とする経営手法
パーパスブランディング組織のパーパスを社内外に発信することで、企業の認知度向上やファンの獲得を目指す手法
パーパスドリブンパーパスから逆算して取るべき行動指針や目指すべき方向性を決めていくマネジメント

 

最近のビジネスシーンでよく耳にするパーパスの派生語を紹介します。

 

パーパス経営とは

パーパスを求心力や経営の軸とする経営手法で、以前から唱えられていたミッション経営と近い概念です。
世界的にSDGsなど持続可能性や多様性、環境保護などが謳われる流れのなかで、特に若年層のエンゲージメントを高めるうえで注目されています。

 

組織の軸としてパーパスを大切にすると同時に、組織のメンバー一人ひとりが“個人のパーパス”を明確にして、「個人のパーパスと組織のパーパスがどう重なるか?」を考える取り組みが大切になります。

 

パーパスブランディングとは

パーパスブランディングとは、組織のパーパスを社内外に発信することで、企業の認知度向上やファンの獲得を目指す手法です。
企業がパーパスを掲げ、一貫した発信や経営方針を続けることは、消費者やステークホルダーからの共感や信頼を得ることにつながります。

 

先進国を中心に物質的に満たされるようになってきた中で、機能性があることは前提として、意味や価値に購買の意味を求める傾向が生じてきた中で、ブランディングにおいても、改めて“企業の存在理由”“創業のストーリー”といったものに注目が集まるようになっています。

 

パーパスドリブンとは

パーパスドリブンとは、日本語に訳すと「目的(パーパス)に駆り立てられる(ドリブン)」という意味です。

 

個人では、モチベーションエンジンがパーパスとなっている状態で内発的動機づけが実現している好ましい状態のことです。また、組織では、パーパスから逆算して取るべき行動指針や、目指すべき方向性を決めていく経営が実現している状態を指します。

パーパスが注目される背景

  • 価値観の変化
  • SDGsへの注目
  • VUCA時代の到来

パーパスは最近になって注目されるようになった概念です。なぜ今パーパスが注目されているのか、背景を共有します。

 

価値観の変化

経済活動のなかで、ミレニアル世代と呼ばれる1980年~1995年頃に生まれた世代が、経営層やマネジメントにおける影響度を増してきています。
2000年以降に成人したミレニアル世代は、企業が大きな力を持つようになった中で育ってきており、企業の社会的責任や社会的意義に対する意識が従来の世代よりも高くなってきています。

 

また、最近ではZ世代と呼ばれる1996年~2015年に生まれた若手が企業に入社して、若手社員、新入社員となっています。

 

もちろん個人差はありますが、ミレニアル世代やZ世代は物質的にはある程度満たされたなかで育ち、過去と比べると物質的・権威的な欲求よりも、体験価値や物事の意味を大切にする傾向が強いです。

 

組織でも同様であり、昇進や昇格、給与といった物質的・権威的なものだけでは求心力を作ることが難しくなり、パーパスやミッション、働きがいなどの体験価値や仕事の意味づけが、経営で重要度を増しています。

 

SDGsへの注目

2015年の国連サミットでSDGs:持続可能な開発のための2030アジェンダが採択され、SDGsは多くの人が知るキーワードとして浸透しました。
前述した個人の価値観変化と歩調を合わせるように、企業に対しても収益性や成長性だけではなく、社会的責任やSDGsへの貢献が求められています。

 

マーケティングやブランディングという視点でも、企業の社会的責任がより追及される、また、消費者も“意味”を求めて“環境に優しい商品などを買う”なかで、パーパス等が重要性を増してきています。

 

VUCA時代の到来

現代は、先行きが不透明で将来を予測することが困難な、VUCA時代であるといわれています。

 

VUCAとは以下の英単語の頭文字をとった言葉です。

  • V(Volatility:変動性)
  • U(Uncertainty:不確実性)
  • C(Complexity:複雑性)
  • A(Ambiguity:曖昧性)

VUCA時代で企業を安定的に成長させていくためには、自社に関わる幅広いステークホルダーの共感と信頼を得る必要があります。

 

そのため、社会における自社の存在意義を掲げ、行動指針や方向性を示すことで共感や信頼の獲得につなげられる取り組みとして、パーパスが求められています。

 

また、外部環境の変化等が激しいなかでは、方向転換や修正の意思決定を求められる頻度も増えていきます。さらに、経営陣だけでなく組織内のより多くのメンバーが意思決定を求められるようにもなっています。

 

そうした際の判断軸として、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューを統一することが大切になっています。

企業がパーパスを掲げるメリットは?

  • メンバーのエンゲージメントが高まる
  • 社会や投資家からの共感と信頼が高まる
  • ファンの創出と認知度向上につながる

企業がパーパスを掲げて活用するメリットを解説します。

 

メンバーのエンゲージメントが高まる

パーパスを掲げることで、メンバーのエンゲージメントが高まります。
企業としての存在意義や目指すべき方向性が明示されていることで、メンバーは自分が何に貢献し、何を達成できたのかを感じられるため、モチベーション向上につながるのです。

 

前述のとおり、ミレニアル世代やZ世代は、以前の世代と比べて精神的な価値や意味を重視する傾向が強まっています。パーパスに基づいて事業を考えたり人事制度に取り込んだりすることで、業務内でパーパスを意識する頻度を高め、エンゲージメント向上につなげることができるでしょう。

 

社会や投資家からの共感と信頼が高まる

パーパスを掲げることで、メンバーだけでなく、社会や投資家からの共感と信頼も高まります。自社の利益を追求するだけでなく、社会全体の課題に取り組む姿勢、社会における存在意義を示すことが重要です。

 

ファンの創出と認知度向上につながる

企業のパーパスに共感する人が増えることで、認知度向上につながります。
消費者が購入に「意味」を求める現代では、「安く良い」「便利な」製品・サービスを提供するだけでは足りません。

 

企業のパーパスやビジョンに共感してもらいファンになってもらう、ともに目指す世界を作っていくマーケティングがますます大切になってきます。
商品やサービスを購入することに意味を設定することが、自社のファンを獲得することにもつながります。

パーパスを導入している企業の事例

パーパスを導入している企業の事例

  • SONY
  • ASKUL
  • 講談社
  • パタゴニア
  • 資生堂

国内では、2019年にSONYがパーパスを導入して以降、次々とパーパスを導入する企業が増えています。パーパスを導入している企業の事例を紹介します

 

SONY

SONYは、国内のパーパス導入のパイオニアといえます。2019年から、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げています。

 

パーパス策定後は、メンバーへの浸透に取り組み、事業部ごとにあるビジョンや事業戦略も、パーパスに基づいて作るように変えました。結果として、メンバーのエンゲージメントの向上やステークホルダーからの共感を得ることにつながり、翌年2020年には過去最高益を出しています。

 

ASKUL

通販事業などを展開するASKULは、パーパス・バリューズ・DNAからなるASUKULWのなかで、「仕事場とくらしと地球の明日にうれしいを届け続ける。」というパーパスを掲げています。

 

2011年の東日本大震災での被災を経て、企業の存在意義に立ち返った経験をもとに、パーパスが策定されています。
パーパスと、パーパスを実現するためのバリューズ「変革と最速」「多様性と共創」「誠実と誇り」、DNA「お客様のために進化する」をメンバーに浸透させ、組織づくりと人材育成を進めています。パーパスに基づく経営は功を奏し、右肩上がりで成長を続けています。

 

講談社

講談社は、「Inspire Impossible Stories」というパーパスを掲げています。2021年に創業112年目を迎えるタイミングで、パーパスを刷新しグローバル展開を強化すると宣言しました。

 

創業以来の合言葉「おもしろくて、ためになる」を世界に広げるべく、新たな発見や創造性をうながし(Inspire)、あり得ない、見たことのない(Impossible)、物語(Stories)を提供するという新しい合言葉に企業のパーパスを込めています。

 

パタゴニア

アウトドア用品のブランドで有名な「パタゴニア」は、環境保護に力を入れていることで知られています。パタゴニアが掲げるパーパスは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。ビジネスを手段として、環境危機へのより良い解決策を実行していく」というものです。

同社はこのパーパスに基づいて、「気候変動や食糧問題などの社会的な課題解決のために全売上の1%を寄付する」といったさまざまな取り組みを行っています。

 

資生堂

資生堂は、化粧品や美容サービスを提供する日本企業で、「美しさを通じて社会を豊かにすること」というパーパスを掲げています。創業経緯ともつながる上記のパーパスに基づいて、環境や社会に配慮した製品やサービスの開発・提供、美容や健康に関する教育や支援活動の展開などを行ってきました。資生堂は、パーパス経営の実践者としても広く知られています。

 

まとめ

若い世代の価値観の変化や社会環境の変化を受けて、ビジネスシーンにおけるパーパスの重要性が増しています。企業がパーパスを掲げることで、社会のなかでの企業の存在意義が定義され、社内外に進むべき方向性を示すことができます。

 

パーパスを策定することは、組織の求心力を高めたり、社内外に対するブランディング効果を高めたりすることにつながるのです。
組織力やブランディング効果を高めて組織をより成長させたいという企業は、ぜひパーパスの策定を検討してみてください。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
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