美しい心情に呼びかける|デール・カーネギー『人を動かす』

美しい心情に呼びかける

駅前や繁華街などで時々、戦争による難民、災害の被災者、貧困で苦しむ子供たちに手を差し伸べる募金活動の場面を見かけることがあります。

 

また、コンビニやスーパーの店頭などにも募金箱があったりします。

 

さらに最近では、「ハッシュタグをつけてSNSで投稿する」「キーワードで検索する」ことが寄付になったりすることもあります。

 

こうしたものを見て、自分も実際にやったことがあるという人も多いのではないでしょうか。

 

その場で行動しないにしても、「気持ちだけでも応援したい」「こうした募金活動が少しでも助けになれば・・・」と感じる人はさらに大勢いることでしょう。

 

このような、「困っている人の力になりたい」「自分にできることで協力したい」といった美しい気持ちは私たちの誰もが持っているものです。

 

コミュニケーションやリーダーシップ分野の権威として知られるデール・カーネギーは、こうした美しい気持ちは、私たちのような一般市民に限らず、どんな極悪人であっても抱いている普遍的なものだと言います。

 

だからこそ、カーネギーは誰もが持つ「美しい心情に呼びかける」ことが、人を説得する上でも効果的になるタイミングがあると著書『人を動かす』の中で述べています。

 

記事では、書籍『人を動かす』のなかにある「美しい心情に呼びかける」をテーマに、書籍『人を動かす』および人を説得する12原則の紹介、そして、「美しい心情に呼びかける」を実際の日常生活の中で活用するためのポイントを解説します。

<目次>

『人を動かす』とデール・カーネギー

最初に書籍『人を動かす』と著者デール・カーネギーについて簡単に紹介します。

 

デール・カーネギーとは?

デール・カーネギーは、作家、講演家、対人トレーニングプログラムの開発者として著名な人物であり、書籍『人を動かす』『道はひらける』の著者としても知られた人物です。

 

カーネギーは、1888年に米国ミズーリ州の農家で生まれました。

 

高校・大学のディベートサークルで活躍したカーネギーは、大学を卒業すると、販売職を中心にいくつかの職を転々としながら、俳優になることを目指して日々奮闘していました。

 

残念ながら俳優としてはなかなか成功できなかったカーネギーですが、ある時、YMCAが主催する「話し方教室」の講師を担当することになります。

 

カーネギーが登壇した授業は評判を呼び、彼はたくさんの学生の前で講義を行うことになりました。

 

その後、カーネギーは自身の教え方を標準化・体系化して、1冊の本として出版します。
これが書籍『人を動かす』であり、カーネギーの名を広く現在まで知らしめているものです。

 

カーネギーはYMCAから独立後、自分の研究所を設立し、コミュニケーション、リーダーシップ、プレゼンテーション、セールストレーニングなどの権威として、名前を知られるようになります。

 

現在、彼が設立した研究所のコミュニケーション講座「デールカーネギーコース」を受講した人は1000万人近くにものぼります。

 

書籍『人を動かす』

カーネギーの著書『人を動かす』は、1936年の発売以来、全世界で1500万部以上の発行部数を記録するベストセラー書籍です。

 

『人を動かす』に書かれているのは、成功する人間関係の築き方、人に影響力を与えるためのノウハウです。

 

同書には時代や文化を超えて活用できる原理原則がまとめられており、著名人の中にも、ビジネスや私生活における成功の階段を駆け上がるうえで『人を動かす』がバイブルだったと言う人が数多く存在します。

 

『人を動かす』は現代に生きる私たちにとっても、他者と強固で持続的な人間関係を築く上で不可欠なヒントをもたらす珠玉の1冊といえるでしょう。

 
『人を動かす』について知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。

人を説得する12原則

書籍『人を動かす』は、「人を動かす3原則」「人に好かれる6原則」「人を説得する12原則」「人を変える9原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

 

本記事のテーマである「美しい心情に呼びかける」は、「人を説得する12原則」のひとつです。

 

「人を説得する12原則」では、自分の要望を受け入れてもらい、相手を主体的に動かす上で重要な12の原則が書かれています。

 

「美しい心情に呼びかける」の詳細に入る前に、本章では「人を説得する12原則」の一覧を簡単に紹介します。

 

1.議論を避ける

意見が異なる人を説得しようとする際、議論して自説の正しさを証明しようとしてしまうことは少なくありません。

 

確かに議論で相手を負かすと、自分の意見が正しいことは証明できるかもしれません。

 

しかし、負けた相手の自尊心は傷つき、相手はあなたに反発心を抱くことも多いものです。

 

そうなれば、議論で勝っても、相手を説得することはできません。

 

意見が異なる相手を説得したいのであれば、正面から議論して相手を論破するようなことは避けるべきです。

 

2.誤りを指摘しない

メンバーや同僚、子供が何か間違っているとき、指摘して修正する必要があります。

 

しかし、議論で自分の意見を論破されるのと同様、正面から間違いを指摘されるのは、誰でも自尊心が傷つくものであり、感情的な反発心を生み出すことにつながります。

 

相手の誤りを指摘する必要がある時は、「自分が間違っているかもしれないが…」などワンクッション置いた表現を枕詞に加えるなど、相手に反発心を生まないよう婉曲に指摘することが有効です。

 

3.誤りを認める

人間には、ミスや失敗はつきものです。自分がミスや失敗をしてしまった時に重要なのは、「自分は間違ったことをした」と素直に認めることです。

 

自分の過ちを認め謝罪することで、相手も寛容になり、それ以上あなたの落ち度を責めようとはしなくなるでしょう。

 

その上で、ミスのリカバリー策などを伝えることで、相手が受け入れてくれる可能性も増えるものです。

 

4.穏やかに話す

穏やかな話し方は、相手に「自分はあなたの味方」だと印象付ける効果があります。

 

相手と友好的に対話をするためにも、穏やかで物腰柔らかな話し方で接することが大切です。

 

5.“イエス”と答えられる問題を選ぶ

人間は「イエス」と繰り返し口にすることで、「ノー」を言いにくい心理状態になります。

 

また、「イエス」と答えられる質問をくれる相手には「自分のことをよく分かってくれている」「仲間である」といった心情を抱きやすくなります。

 

このようにして、最初に信頼関係、また合意に向かうムードを作ったうえで、すり合わせが必要なテーマに入っていくことで、前向きなコミュニケーションができるでしょう。

 

6.しゃべらせる

人は誰でも「自分自身」のことに一番関心があり、自慢話や成功体験、そして自分の話を聞いて欲しいと心の底で思っているものです。

 

相手と信頼関係を築きたいのであれば、とにかく良い聞き手になり、相手に思う存分しゃべってもらいましょう。

 

相手は自分の話を聞いてもらうことで、自己重要感が満たされ、こちらに好感を持ってくれますし、こちらの話に耳を傾ける余裕ができます。

 

7.思いつかせる

人は他人から強制されることを好みません。そして、他人の意見や指示よりも、自分の考えやアイディアの方が、価値があると思うものです。

 

だからこそ、一方的に自分の主張や意見を相手に押し付けようとすると、期待する結果にはなかなかなりません。

 

相手を動かすためには、相手が「自分自身で決めた」「自分自身のアイディアだ」と思えるように、質問を投げかける、意見をもらう、提案して委ねるといったアプローチが有効です。

 

8.人の身になる

誰かを説得したいのであれば、まず相手を理解しようと努めることが不可欠です。相手の気持ち・相手の立場になって考えましょう。

 

「相手の立場だったらどう感じるだろうか?」「どうすれば動きたい!と思えるだろうか?」「何を得たいだろうか?」と相手の身になって想像してみることで、より適切なアプローチも見えてくるでしょう。

 

9.同情を寄せる

SNSで「いいね」を欲しがる心理などからも分かるように、私たちは他者から共感されることを望んでいます。

 

「あなたがそう思うのは、もっともです。もし私があなただったら、やはりそう思うでしょう」といった形で、相手の気持ちに共感を示すことで、相手はあなたを信頼し、あなたの意見に耳を傾けてくれるようになるでしょう。

 

10.美しい心情に呼びかける

人は心のどこかで、自分自身を「正しい行いをする立派な人物である」と思いたい感情を持っています。

 

だからこそ、人を説得する時には相手がスムーズに頷ける「崇高な動機」「道徳的に正しい」と感じられるような伝え方をするとよいでしょう。

 

メリットだけで説得しようとするのではなく、名誉や大義名分、倫理を大切にする人だと思って相手を扱ってみましょう。

 

「美しい心情に呼びかける」の詳細を次の章で解説します。

 

11.演出を考える

同じ事実を伝えるにしても、伝え方や演出次第で結果が大きく変わることも多々あります。

 

カーネギーも、事実は生き生きと、面白く、劇的であるべきだとして、演出の大切さを強調しています。

 

相手が興味・関心を持てるような演出を添えて伝えることが大切です。

 

12.対抗意識を刺激する

私達は多かれ少なかれ、人よりも秀でていたい、優秀でいたいと、心の底で思っているものです。

 

誰かに動いてもらう上では、人間が持っている“対抗意識”を刺激することも効果的な方法の一つです。

 

仕事に競争やゲーム要素を持たせるなど、対抗意識を刺激することで、相手のパフォーマンスが意外なほどあがることも少なくありません。

「美しい心情に呼びかける」の詳細と実践のポイント

本章では、記事のテーマである「美しい心情に呼びかける」について、実際の人間関係の中で活用するためのポイントを詳しく解説します。

 

1.私達は誰もが、心の底では良い人間でありたいと思っている

冒頭で触れたように、「困っている人の力になりたい」「できることであればなんとかしてあげたい」といった美しい気持ちは、私達の誰もが持っているものです。

人間は誰でも理想主義的な傾向を持ち、自分の行為については、美しく潤色された理由をつけたがる。そこで、相手の考えを変えるには、この美しい理由をつけたがる気持ちに訴えるのが有効だ。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

上記のように、カーネギーは『人を動かす』の中で、人はみな美しく理想主義的な傾向を持っていると話しています。

 

当記事のテーマである「美しい心情に呼びかける」とは、人が持つ「美しく理想的な人間でありたい」「自分を美しい立派な人間だと思いたい」という心情に訴えかけることで、相手の考えや行動を期待する方向に導いていく原則です。

 

カーネギーは、美しい心情に呼びかけた具体例として、大富豪として世間の注目を集めていたロックフェラー二世のエピソードを紹介しています。

ロックフェラー二世も、彼の子供たちの写真が新聞に出ることを防ぐために、人間の美しい心情に訴えた。
「子供たちの写真を新聞に発表することは、この私が不賛成だ」とは言わず、幼い子供たちを傷つけたくないという万人共通の心情に訴えた──
「あなた方の中にも子供のある方がいておわかりだと思いますが、あまり世間が騒ぎ立てるのは、子供にとってかわいそうです」“
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

ロックフェラー二世は、子供の写真が世間にさらされることを何としても避けたいと考えていました。

 

しかし、彼は「子供の写真を新聞に載せるなんて、言語道断だ!」と主張するのではなく、「あなた方の中にも子供のある方がいておわかりだと思いますが、あまり世間が騒ぎ立てるのは、子供にとってかわいそうです」

 

と、記者たちの美しい心情、道徳心に訴えかけたのです。

 

こう呼びかけられて、「子供たちが犠牲になってもいいから話題にしよう」と思える、そして、周囲に言える人はほとんどいないでしょう。

 

このように「美しい心情に呼びかける」ことは、人間として当たり前の気持ち、良心に背いた行動に強い嫌悪感を持つ私達に対して、強く訴えかけるものなのです。

 

2.「美しい心情に呼びかける」の原則は、どんな時にも効果を発揮するのか?

お伝えしたように、人としての道徳心や高潔さ、大義名分などに訴えかけられると、ほとんどの人は頷き、Noとは言えなくなるものです。

 

一方で、ビジネスなどで相手を説得したり動かしたりすることを考えると、「言っていることは分かるが、“美しい心情に呼びかける”原則は、あまりにもヒューマニズムや情緒的に過ぎるのではないだろうか。実際の状況では、キレイごとや理想論で切り捨てられてしまいそうだ…」このように感じる人もいるかもしれません。

読者の中には、「そういう手は、ノースクリフやロックフェラーや感傷小説の作家にはうまくいくかもしれないが、手ごわい相手から貸金の取り立てをするような場合に、果たして通用するだろうか」と疑う人があるかもしれない。もっともな話だ。役に立たない場合もあるだろうし、人によっては通用しないかもしれない。もしあなたがこれ以上の方法を知っていて、その結果に満足しているなら、別にこんな方法を用いる必要はない。しかし、そうでないのなら、一度これを試してみてはどうだろうか。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

上記に引用したように、カーネギーも美しい心情に呼びかけることが役に立たない、通用しないこともあると話しています。

 

相手を説得するに当たっては、別のやり方・アプローチが効果を発揮する場面も多々あるでしょう。

 

「美しい心情に呼びかける」原則は、どんな場面に通じるわけではありません。

 

ただ、いろいろな手を検討して効果が表れなかった時には試してみる価値はあるでしょう。

 

前述した通り、カーネギーは、『人を動かす』の中で「人を説得する12原則」を紹介しています。

 

自分の“人を動かすための手札”のひとつとして、ぜひ考えてみてください。

 

3.「ピグマリオン効果」によって、人は期待するように育つ

カーネギーは「美しい心情に呼びかける」の章の最後に、以下のジェイムズ・トーマスという人の言葉を紹介しています。

相手の信用状態が不明な時は、彼を立派な紳士と見なし、そのつもりで取引を進めると間違いがないと、私は経験で知っている。要するに、人間は誰でも正直で、義務を果たしたいと思っているのだ。これに対する例外は、比較的少ない。人をごまかすような人間でも、相手に心から信頼され、正直で公正な人物として扱われると、なかなか不正なことはできないものなのだ
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

繰り返しになりますが、私達はみな「誠実で良い人間でありたい」と思っています。少し表現を変えると、「自分は誠実で立派な人間である」と思いたいのです。

 

だからこそ、他人から信頼されて“誠実で立派な人物”として扱われると、その相手の期待を裏切ることは、なかなかできないものです。

 

逆に言えば、良い人間でありたい、誠実な人間になりたいという心情に働きかけ、相手を信じるメッセージを送り続ければ、人は期待に応えてくれるようになるということです。

 

この話を聞いて、教育や人材育成で馴染みのある「ピグマリオン効果」を思い出した人もいるかもしれません。

 

「ピグマリオン効果」とは、「他者から期待されることで、学習成績や仕事の成果が向上する心理効果」です。

 

カーネギーのいう「美しい心情に呼びかける」というのは、信頼や期待のメッセージを相手に送り続けることでもあります。

 

このように考えると、この原則は人を説得する場面だけでなく、職場の人材育成でも活用できる考え方にもなるのです。

 

HRドクターでは、部下を持つ上司・管理職向けに、部下メンバーの成長につなげるための褒め方、期待のかけ方を分かりやすく解説した記事を用意しています。

 

ピグマリオン効果を活用した部下育成のやり方として、ぜひ参考にしてみてください。

まとめ

記事では、デール・カーネギーの『人を動かす』で紹介されている「美しい心情に呼びかける」の原則を解説しました。

 

「困っている人の力になりたい」「自分にできることで協力したい」・・・このような気持ちは、私たちの誰もが持っているものです。

 

こうした美しく人間らしい心情は、私たち人間の本質に強く訴えかけるものです。

 

だからこそ、美しい心情、道徳心に訴えかけることが、相手の考えや行動を期待する方向に導いていく上でも、効果を発揮しうるのです。

 

一方で、実際のビジネスや交渉の場で、美しい心情に呼びかけることが、どんな場面でもどんな相手にも有効になるわけではありません。

 

美しい心情に呼びかける原則は、相手を説得するための選択肢の一つとして捉えるとよいでしょう。

 

なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。
 

「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
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