思いつかせる|デール・カーネギー『人を動かす』

思いつかせる|デール・カーネギー『人を動かす』

私たちは、他人から「あぁしろ、こうしろ」と言われてやると、やらされ感が生まれモチベーションは上がらないものです。

逆に、自分自身で考えた行動・アイデアであれば、やる気を持って積極的に取り組めることが多いでしょう。

これは、ビジネスに限ったことではありません。たとえば、子供に勉強して欲しい時の声がけを想像してみると分かりやすいかもしれません。

「テストが近いんだから、勉強しなさい!」と勉強させるようとする時と、「○○になるには、どんな知識が必要だと思う?」と問いかけながら、本人に勉強の意義や目的を考えさせた時、どちらの方が子供はやる気を出すでしょうか。

後者の方が、子供もやる気になるに違いありません。

コミュニケーションと人間関係づくりの大家であるデール・カーネギーは下記のように言っています。

 「人から押しつけられた意見よりも、自分で思いついた意見のほうを、我々は、はるかに大切にするものである。すると、人に自分の意見を押しつけようとするのは、そもそも間違いだと言える。暗示を与えて、結論は相手に出させるほうが、よほど利口だ。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

本記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』より、「人を説得する12原則」のひとつとして紹介されている「思いつかせる」について解説します。

なお、本原則は書籍では「思いつかせる」ですが、デール・カーネギー研修の受講者に配られるゴールデンブックでは「相手に思いつかせる」と表記されています。

記事内では、よりシンプルに表記された書籍の表現に合わせて解説していきます。

<目次>

『人を動かす』とデール・カーネギー

最初に、書籍『人を動かす』と著者デール・カーネギーについて簡単に紹介します。

デール・カーネギーとは

書籍『人を動かす』の著者として名を知られているデール・カーネギーは、1888年、アメリカ・ミズーリ州の貧しい農家で生まれました。

学生時代のカーネギーは、弁論術に興味を持ち、ディベート・クラブで積極的に活動します。

大学卒業後は、ネブラスカで販売職をしたり、ニューヨークで俳優の卵として活動したりしますが、どの仕事もあまりうまくいかず、職を転々とすることになります。

そんなカーネギーでしたが、ある日のこと、YMCAが開催する話し方教室の講師の仕事が舞い込みます。

元より弁論術に深い興味関心を持っていたカーネギーは、さっそくこの仕事を引き受け、話し方やコミュニケーションに関する講義を学生に行いました。

カーネギーの授業は瞬く間に評判となり、彼はようやく天職を見つけます。

カーネギーはその後、YMCAから独立して自分自身の研究所を設立。自己啓発やコミュニケーション分野の権威として名を馳せることになります。

そんなカーネギーが、自らの経験を踏まえてまとめたコミュニケーションの体系が書籍『人を動かす』です。

書籍『人を動かす』の概要

カーネギーが1936年に出版した書籍『人を動かす』は、世界中で大ベストセラーとなり、現在までに日本国内で430万部、全世界で1500万部以上の売り上げを記録しました。

カーネギーは本書の中で、好ましい人間関係を作り成功を収めるためには、個人の態度や言動が重要であることを強調しています。

これらの恩恵を誰もが手にできるようになるためのノウハウやテクニックが、本書にはギッシリ詰まっています。

『人を動かす』には、時代を超えた普遍的なコミュニケーションと人間関係の原則が書かれているのです。

「人を説得する12原則」

書籍『人を動かす』は、「人を動かす3原則」「人に好かれる6原則」「人を説得する12原則」「人を変える9原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

本記事のテーマである「思いつかせる」は、上記の中の「人を説得する12原則」のひとつです。

「思いつかせる」の詳細に入る前に、本章では「人を説得する12原則」の一覧を簡単に紹介します。

1.議論を避ける
私達が誰かと議論をすると、つい感情的になり、相手を論破したいと思ってしまいがちです。

しかし、自分が正しく相手が間違っていると論破できたとしても、相手は気分を害してあなたに反発心を抱く結果になることが大半です。

つまり、議論に勝っても相手の心を動かすことは難しいのです。従って、人を説得する上では、議論を避ける、真っ向から議論になる状況に陥らないことが大切です。

2.誤りを指摘しない
周囲の誰かが、間違った物言いや言動をするのを目にすると、私達は思わず指摘したくなりがちです。

しかし、面と向かって間違いを指摘したところで、相手が言動を改めることは意外と少ないものです。

むしろ、言動を改めるどころか、指摘されたことにへそを曲げて、あなたに反発心を抱いたり、意固地な態度を取り続けたりする結果になってしまうことが多いでしょう。

3.誤りを認める
人は自分の過ちを認めることに対して、不安を感じたり、面子が傷つく思いをしたりするものです。

そのため、誤りを素直に認めるのではなく、他人のせいにしたり、言い訳を考えたりして、そこから逃れる方法を探そうとしがちです。

しかし、もしあなたが間違いを犯した事に気づいたのであれば、自分の過ちを認めることを恐れてはいけません。

素直に過ちを認め、相手にハッキリと謝罪したほうが、結果的に良い状況になることが多いでしょう。

4.穏やかに話す
感情的な態度や物言いは、人を遠ざけ、人間関係に大きな悪影響をもたらします。

感情的・威圧的な態度で接すれば、相手は警戒し、ガードを固め、あなたに協力しようとは思わないでしょう。

人とコミュニケーションをするとき、とくに相手を説得したいときは、穏やかな姿勢・物言いで接して、相手に「私は仲間です。安心してください」というメッセージを送ることを忘れないようにしましょう。

5.”イエス”と答えられる問題を選ぶ
相手を説得したいときには、会話の冒頭で相手にノーを言わせてはいけません。ノーを言うことで、相手はあなたと対立するモードに入ってしまいます。

そうではなく、まずは相手と合意できる話題から入り、相手がイエスと答えられる質問を重ねていきましょう。

たとえば、新しいスマートフォンを提案したいのであれば、「操作は直観的でわかりやすい方がいいですよね」「バッテリーは長持ちして欲しいですよね」「アプリなどのセキュリティがしっかりしているのは大切ですよね」というように、イエスを答えやすい質問をしていくとよいでしょう。

イエスを重ねていくことで、相手を望み通りの方向へ導いていくことができるでしょう。

6.しゃべらせる
殆どの人にとって、一番の関心事は「自分自身」です。だからこそ、私たちは自分の話を誰かに聞いてもらえると、深い満足感を得ることができます。

もし信頼関係を築きたい、説得したい人がいるのであれば、まずは相手に思う存分、相手自身の話をさせてあげると良いでしょう。

心置きなくしゃべらせることが相手とのラポールにつながり、相手の中にあなたの話を聞くスペースが生まれます。

7.思いつかせる
人は誰でも、誰かから言われたことよりも、自分で思いついたアイデアを大切にしたいものです。

だからこそ、説得したい相手に、「これは自分のアイデアだ」「自分が決めたことだ」と思わせることができれば、相手がそれを熱心に実行する可能性は高くなるでしょう。

「思いつかせる」の詳細は、次章で詳しく解説します。

8.人の身になる
相手の信頼を得るためには、相手がどのようにその結論に至ったのか? なぜそう考えるのか? を理解しようとすることが大切です。

「しゃべらせる」の原則と同様に、相手が「この人は自分のことを理解してくれた」と感じれば、相手の中にあなたを受け入れる心の準備が整ってくるものです。

9.同情を寄せる
相手の立場に立ち、考えや感情の背景を理解して、共感するようにしましょう。

共感を示すことで、相手はあなたを信頼し、自分の心情を話してくれるようになりますし、あなたの話を聞いてくれるようになるでしょう。

10.美しい心情に呼びかける
人は皆、自分のことを分別のある立派な人間だと思いたいものです。

ですから、誰かに動いて欲しい時は、相手の心の中にある崇高な動機に訴えかける、また相手を立派な人物として扱うことも有効です。これによって、相手は依頼を断りづらくなり、あなたの要望に応えてくれる可能性が高まります。

11.演出を考える
伝えたいアイデアや訴えたいテーマがある時、単純に事実を伝えるのではなく、それをドラマチックに演出することを考えましょう。

演出を工夫することで、同じ内容でも相手が受け取る印象は大きく変わり、相手の感情を揺さぶることもできるでしょう。

12.対抗意識を刺激する
私たちは自分自身を人より優れた人物、有能な人物だと思いたいものです。

だからこそ、相手の競争心や対抗意識を刺激することで、時には相手を説得したり、高いモベーションで動いてもらったりすることも出来ることでしょう。

「思いつかせる」の詳細と実践のポイント

本章では、記事のテーマである「思いつかせる」について、実際の人間関係の中で実践するためのポイントを3つお伝えします。

「思いつかせる」を実践するポイント1.相談を持ち掛けて、相手の意見を取り入れる

「思いつかせる」を実践するひとつ目のポイントは、相談を持ち掛けて、相手の意見を取り入れるということです。

カーネギーは『人を動かす』の中で、セオドア・ルーズベルト大統領が重要ポストに就かせる人を決めたときのエピソードを紹介しています。

ルーズベルトはある時、重要ポストにふさわしい候補者について、政治家のボスたちに相談をすることにしました。

ボスたちが最初に推薦した人物は、ろくでもない人間だったため、ルーズベルトはこれを退けます。

二番目に挙がった人物も、ことなかれ主義の役人に過ぎないとして、やはり却下します。

三番目に名前の出た人物は、あともう一息という水準ではありましたが、ルーズベルトは『もう一度だけ、考え直してくれ』とボスたちに伝えました。

彼らが四番目に推薦したのがようやく眼鏡にかなう人物だったため、ルーズベルトは政治家のボスたちに感謝して、この人物を任命することにしました。

ルーズベルトは任命する際、『あなた方に喜んでいただくためにこの人物を任命しますが、次はあなた方が私を喜ばせてくださる番ですね』と伝えました。

つまりルーズベルトは、『私はあなたたちの意見を汲んで決めました』と、相手に花を持たせたわけです。

この言葉を聞いたボスたちは『自分たちの意見が取り入れられた』とルーズベルトに恩義を感じ、喜んで協力したのでした。

国のトップであるルーズベルト大統領は、自分で候補者を決めようと思えば、政治家のボスたちに相談せずに決めることもできました。

しかし、それでは政治家たちは快く思わず、協力してくれなかったかもしれません。

相談を持ち掛け、相手の意見を取り入れることで、「これは自分の発案だ!」と相手に思わせ、快く協力を引き出すことができるのです。

ルーズベルトが実践したように、「次はあなた方が私を喜ばせてくださる番ですね」とまで伝える必要はないかもしれません。

しかし、「あなたの意見が反映されてこの決定になりました」「あなたのアイデアを基にした案です」ということはしっかり伝えるといいでしょう。

それによって、相手は満足度し、実際のその案を実行するに際して相手の協力も得やすくなるでしょう。

「思いつかせる」を実践するポイント2.問いを投げかけて、相手に答えを考えさせる

相手に思いつかせるための2つ目のポイントは、適切な「問い」を投げかけて、相手自身に答えを考えさせるということです。

この話を読むと、マネジメントや人材育成のスキルとして最近注目されている「コーチング」を思い出す人もいるかもしれません。

コーチングは「適切な質問を通じて、相手から答えを引き出す」方法です。

コーチングと対比されるティーチングは、指導者が答えやアドバイスを相手に教えるやり方です。

相手に知識がなかったり、体系的な知識を身に付けさせたかったりする場合は、ティーチングが有効ですが、相手の主体性やモチベーションを引き出したい場合にはコーチングが有効だといわれます。

コーチングの、相手に自分自身で答えやアイデアを発見させることで相手を動かす、行動への意欲を高めるというポイントは、カーネギーの「思いつかせる」の原則と共通するものです。

コーチングでは、上司やリーダーが一方的にアドバイスや指示をするのではなく、適切な「問い」を投げかけ、相手に考えてもらうことを重視します。

人からあぁしろ、こうしろと言われるのではなく、質問を通じて自ら考えることで「自分で考えて決めたことだからやる!」と相手に主体性が生まれるのです。

冒頭でも触れたように、人は自ら考えて選択したことに対して高いモチベーションを発揮して行動し、逆に人から押し付けられた事に対しては無意識レベルで反発心を抱くものです。

この感情を心理学では心理的リアクタンスと呼びます。

コーチングのスキルは、この心理的リアクタンスを踏まえて、相手に「思いつかせる」というカーネギーの原則を、具体的に実践するプロセスともいえるでしょう。

HRドクターではコーチングのやり方を分かりやすく解説した記事を用意しています。ご興味あれば以下の記事をご覧ください。

「思いつかせる」を実践するポイント3.相手のタイプや性格を見極めて関わり方を変える

ここまで相手に“思いつかせる”ための実践のコツを解説しました。

紹介したやり方を実践する際、相手のタイプや性格を見極めて関わり方を変えることが最後のポイントです。

たとえば、上司から部下へ指導する場面を考えてみましょう。

相手によっては、具体的な指示やアドバイスがなく、毎回考えさせられたり質問されたりすると、ストレスを感じたり、無責任だと思ったりする可能性もあります。

大まかな方向性だけを示し、後は本人に考えさせることで積極的になれる人ももちろん沢山います。

しかし、具体的な指示がないと不安に覚える人も少なくありません。

相手によっては、事細かに指示を出してあげた方が、嬉しいし取り組みやすいという場合もあるでしょう。

「思いつかせる」という原則は、人が持つ心理を踏まえた本質的な原則です。ただし、どんな関係性、どんな場合でも同じように使えるものではありません。

相談したり、相手の意見を聞いたり、相手に質問したり、選択肢を示したりすることは大切です。

ただし、関係性や状況など、相手によっては、指示してしまった方が良いことも有ります。

相手の気質や性格に応じて、関わり方の匙加減を考えていくことが大切です。

なお、どのようなタイプの相手にどんな関わり方が効果的なのかの全般については、『ソーシャルスタイル』という考え方が分かりやすく参考になります。

HRドクターでは、「個人のコミュニケーションを4つのタイプに分類する『ソーシャルスタイル』」を分かりやすく解説した資料を用意しています。

以下のURLより無料でダウンロードできるので、参考にしてみてください。

まとめ

記事では、デール・カーネギーの『人を動かす』で紹介されている「思いつかせる」の原則をテーマに解説しました。

私達人間は、「自分のことは自分で決めたい」という心情を持っています。

だからこそ、「ああしろ」「こうしろ」と人から指示・命令されると、なかなか積極的に行動できません。

一方で、自分自身で思いついたことや考えたアイデアであれば、やる気が生まれ、高いモチベーションで行動することができるわけです。

したがって、説得したい相手に、「これは自分のアイデアだ!」「自分で決めたことだ!」と思わせることができれば、相手がそれを喜んで実行する可能性はグッと高まるのです。

相手自身に思いつかせるポイントとして、大きく3つです

  • ①相談を持ち掛けて、相手の意見を取り入れる
  • ②問いを投げかけて、相手に答えを考えさせる
  • ③相手のタイプや性格に応じて関わり方を変える

本記事が周囲の人に快く動いてもらったり、モチベーション高く行動してもらったりするヒントとして、少しでも役立てばうれしく思います。

なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。

「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えであれば、ぜひ下記の資料をご覧ください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
・オンライン研修の「今と未来」、社員育成への上手な取り入れ方
・社長が知っておくべき、業績達成する目標管理と人事評価
・社長の右腕 ~ナンバー2の上司マネジメント / 部下マネジメント~
・オーナー経営者が知っておきたい!業績があがる人事評価制度と組織づくりのポイント
・社長の右腕 10の職掌 など

関連記事

  • HRドクターについて

    HRドクターについて 採用×教育チャンネル 【採用】と【社員教育】のお役立ち情報と情報を発信します。
  • 運営企業

  • 採用と社員教育のお役立ち資料

  • ジェイックの提供サービス

pagetop