社員研修は繰り返しているとマンネリ化してしまいがちです。しかし、ユニークな研修を取り入れることで、マンネリ化を打破して受講者のモチベーションを向上させたり、知識や記憶の定着性を高めたり、チームビルディングの効果を得たりといったことが可能です。
この記事では、社員教育の中にユニークな研修を取り入れるメリットや効果、注意点と共に、実際に行われているユニークな研修をご紹介します。
<目次>
ユニークな研修を社員教育に取り入れる目的と3つのメリット
「ユニークな研修」を社員教育に取り入れる目的と導入で得られる効果を確認しておきます。
受講者のモチベーション向上
ユニークな研修を社員教育に取り入れるメリットとして、まず受講者のモチベーション向上が挙げられます。普段の社員研修が座学で、なおかつ実務に直結しているものばかりだと、受講者の中には、「研修=つまらない」というイメージを持っている人もいます。
事実、半日/1日の研修で参加者の集中力や受講姿勢をつくり続けるのは難しい側面があります。ユニークな研修は「研修=つまらない」というイメージを壊し、受講者の集中力やモチベーションを高めるために効果的です。
知識や記憶の定着性を高める
研修の種類にもよりますが、ユニークな研修というのは大半がゲームやエンターテイメント要素を取り入れた体感型のプログラムです。単に「見る、聞く、書く」といった経験よりも「体感する」「感情を伴う」経験のほうが記憶に定着することは検証されている通りです。
また、ユニークな研修は面白さゆえに「滝登りの研修」「パスタの研修でやったやつ」といったような記憶を思い出すためのアンカーが設定されやすく、記憶を取り出すことも容易になります。
チームビルディングに繋がる
ユニークな研修は、リーダーシップやコミュニケーションに関するプログラムが多くなっています。ゲーム要素やエンターテイメント要素を取り入れたプログラムを実施する過程において、チームで協力したり、職場から離れたコミュニケーションを取ったりすることはチームビルディングにも繋がります。
ユニークな研修を「効果のある社員教育」に繋げるためのポイントと注意点は?
研修を行う目的は、社員の成長であり、個人と組織のパフォーマンス向上です。従って、ユニークさはあくまで手段であり、研修としての効果が発揮されなければ実施する意味はありません。ユニークな研修を「効果のある社員教育」に繋げるためのポイントと注意点を確認しておきます。
「ユニークさは手段」である
ユニークな研修を「効果がある研修」に繋げるための第一のポイントは、研修のユニークさはあくまでも「手段」であることをしっかり認識することです。「研修内容が社員教育の全体像ときちんと紐付けられている」こと、および「どのような課題を解決するのか、あるいはどのような状態を実現したいのかという研修の目的・目標が明確になっている」ことが重要です。
ユニークな研修は、ユニークであるがゆえに、研修内容の面白さや得られる効果のうたい文句に飛びついてしまいがちであり、「1回限り」の研修になってしまいがちです。社員教育の全体像との紐づけが行われ、研修をおこなう目的・目標がしっかりと設定されたうえで、研修効果を高めるための手段として、ユニークな研修を選ぶという構造が大切です。
研修の満足度に引っ張られない
ユニークな研修をおこなう際には、受講者の「研修に対する満足度」に引っ張られないことも重要なポイントです。研修に対する満足度は、研修の効果と必ずしもイコールではありません。研修をおこなう目的は満足度ではなく効果です。
ユニークな研修ほど「4:2:4の法則」を重視する
ユニークな研修ほど、「4:2:4の法則」を重視する必要があることも大きなポイントです。4:2:4の法則は、研修効果に影響するのは、
・研修前の意識付けが「4割」
・研修そのものが「2割」
・研修後のフォローが「4割」
というものです。つまり、じつは研修効果を左右する「8割」は研修そのものではない、という考え方です。
ユニークな研修は、大がかりなものほど通常の研修以上に「非日常」になりがちです。研修時の学びが大きく、面白いものであったとしても、職場での実践とリンクが切れてしまうと何の意味もありません。
ユニークな研修、特に大がかりな研修を行うときほど、研修前の意識付けおよび研修後のフォローアップ(実践への紐づけ、実践の確認)をしっかり行いましょう。特に、研修後に関しては、社内で別途フォロー研修を行うことまで見越して設計することも1つのやり方です。
ユニークな社員研修で参加者の意欲を高める!研修事例13選
参加者の意欲を高めるユニークな研修13事例をご紹介します。ユニークな研修は大がかりなものから、1日研修の中に取り込めるようなものまで色々な種類があります。
この記事では、少しエンターテイメント要素、非日常感が強いものを取り上げてみました。どんな意図で行われるか、自社でどう取り入れられるかも解説していますので、『こんな研修もあるんだ』と同時に、『うちの企業ならこういう研修ができるかも』と想像していただければ幸いです。
幼稚園研修
幼稚園研修は、自動車販売会社などのサービス業で実施されていることが多い研修です。幼稚園で数日間、保母・保父として、子供と遊び、食事の世話をする等の経験を通じて、子供および保護者とのコミュニケーション能力(初対面からの関係構築、聴くスキル、トラブルへの対応、相手の目線に合わせた話し方・伝え方など)を身に付ける効果があるとされます。
顧客との関係構築、コミュニケーションが顧客満足の重要な要素となることから、サービス業で多く実施されています。「コミュニケーション能力とは?」といった座学から入るのではなく、実体験からまず入り、その後に改めて、体感したことを体系化された知識として整理することで、学習効果が高まる、知識と実践が紐づいて記憶されることが期待できます。
ライオンキング研修
ライオンキング研修は、サービスや顧客満足の事前レクチャーをおこなったあと、劇場へ移動して、ミュージカル『ライオンキング』を鑑賞するという研修です。ライオンキングの鑑賞は、ミュージカルそのもののサービス精神や、顧客満足を生み出すための手法を学ぶことを目的としています。
「知識としての学び」+「一流での実践を見る」という組み合わせの研修は他にもディズニーのホスピタリティ研修など、多くのパターンがあります。ライオンキング研修の場合には、ミュージカルの鑑賞を通じて感情の動きが伴うことで、研修で得られた知識が記憶に定着しやすくなったり、受講者の共通言語が生じたりする効果も高いでしょう。
森林整備研修
森林整備研修は、サントリーグループで実施されている研修です。森林の整備作業をチームで行うことを通じて、連帯感や一体感、チームワークの養成に大きな効果があるとされます。
また、サントリーグループの企業理念は「人と自然と響きあう」であり、企業の理念や大切にしている価値観を浸透させる研修でもあります。企業理念とリンクした研修を実施して、外部に発信することは、企業ブランドを強化する効果も期待できます。
ヒッチハイク研修
ヒッチハイク研修は、ある人材派遣会社が行っている新人研修です。受講者は携帯電話と財布を預けたうえで、50~100km離れた場所まで移動します。当然、徒歩では移動できないため、ヒッチハイクせざるを得ない状況となり、対人交渉能力が短期間で大幅に向上する効果があるとされます。
社外の人を巻き込んでしまう研修の是非、ということは様々な意見があると思います。ただ、「仕事の中で必要となる突破力を培う、自分の壁を超える体験をする、達成する喜びを体験させる」という研修の目的が自社に沿うようであれば、研修のやり方は他にもいろいろと考えられるでしょう。
竹とんぼ研修
竹とんぼ研修は、電子デバイスなどを製造するTDK株式会社で実施されている研修です。新入社員(おもに技術系)研修の一環として行われるプログラムで、「日本一の竹とんぼを作ろう」をテーマに、3人1組のチームで竹とんぼを作るという研修です。
ただ、日本一をテーマに楽しんで作ればいい、自己満足の製品を作ればいいわけではありません。研修では材料の原価や竹とんぼの滞空時間(3.5秒)などの条件が定められ、かつ「顧客が欲しいと思う価値があるものを作る」といった条件があります。
品質基準や原価の制限がある中で価値がある、つまり、「売れて儲かる」製品づくりを疑似体感するという製造業らしい研修です。同様に、「自社の事業、仕事で重要なポイントを疑似体感させる」と考えると、さまざまな業界で取り入れる方法があるでしょう。
ウォーキング研修
ウォーキング研修は、タクシー会社である国際自動車株式会社が実施している新入社員研修です。東京タワー、帝国劇場、皇居、銀座、日本橋、秋葉原、上野公園、浅草、東京スカイツリー、明治座など都心の観光スポットを歩いて巡るという研修です。
歩く距離は12時間で35km。チームで励ましあい協力してひとつの目的を達成することで同期の絆が非常に強くなる、という効果があります。同時に観光スポットを巡っていく途中では自社の営業所や整備工場などがチェックポイントになっており、そこで先輩社員や経営幹部、またドライバーやエンジニアとの接点もあり、企業へのエンゲージメントを高める効果も期待できます。
“観光スポットはタクシー会社としても関わりが深い場所“という側面もあります。自社の事業内容等に応じて、同じコンセプトでの研修は設計できるでしょう。
漫才研修
漫才研修は、中古車買取・販売会社で実施されているプログラムです。名前の通り、新入社員が2人1組となり、ネタを考えて漫才を披露するという研修です。ペアでの共同作業ということに加えて、の構成力や度胸を養う効果話があります。
日ごろから“コミュニケーションで人の感情を動かす”漫才や落語、コントなどのお笑い分野から学んでいる、というトップセールスマンの方にはよくお会いします。通常のプレゼン研修でも、同様の効果を期待することはできますが、漫才というテーマ選択で、受講者の興味を高めるプログラムになることが期待できます。
マサイ族酋長から学ぶ研修
北極点などの極地遠征、7000m級登山、砂漠やジャングル踏破など、世界の辺境を旅してきた冒険家が立ち上げたIWNCという研修会社が提供するリーダーシップ研修のプログラムです。名前の通り、「アフリカのケニアへ行き、マサイ族の酋長の話を聞く」研修です。
昼間35度ある気温が夜5度まで下がるという過酷な環境であり、干ばつ等もあるアフリカの大地でコミュニティをまとめ、生死をかけた意思決定をするマサイ族の酋長。そこから、リーダーシップとは何か、何を軸として自らをリードするのか、組織の意思決定を下すのか、話を聞きながら自らとの対話を行っていく研修です。
オリエンテーリング研修
3~5人のチームで「オリエンテーリング」をおこなう研修です。渡されたマップを見ながらチームで計画を立て、チェックポイントを回っていくプログラムです。
行動する中では、リーダーシップの取り方、意思決定の癖、チームへの関わり方、コミュニケーションなど、「自分の行動の癖」が出てきます。オリエンテーリング後には「自分がどう振舞っていたか」をフィードバックされ、自らのリーダーシップやコミュニケーションに向き合います。
また、チームの成果をあげるためのリーダーシップやコミュニケーションとはどんなものかをグループで話し合いながら探求していきます。座学で「あるべき」論を学ぶのではなく、「自らの振る舞い」と向き合いながら学んでいくことで、深い納得感が得られます。
マネージャーゲーム
マネージャーゲームは、若手リーダーや管理職層を対象とした経営研修です。2~6人ほどでチームとなり、財務諸表を使用しながら資金と人材の投資をおこない、企業を大きくしていくシミュレーションゲームです。
P/LやB/S、商品や新規事業への投資、撤退の意思決定などの経営視点を、ゲームを通じて学ぶことができます。財務諸表を読む基本的な視点、不確実性がある中での判断、競合がいる中での意思決定というゲーム理論の基本などは、座学として学ぶと、取っつきづらいものです。
しかし、マネージャーゲームを通じて体感することで、ゲームの場面、実践と知識を紐づけてイメージすることができ、吸収・定着が促進される効果があります。
マシュマロ・チャレンジ
マシュマロ・チャレンジは、研修ゲームの中でも非常に有名なプログラムの1つです。乾燥パスタとマスキングテープ、ヒモ、およびマシュマロを使用して「自立できるタワー」を作ります。3~5人ほどのチームに分かれて、制限時間の中で最も高いタワーを建てたチームが優勝するという、30分ほどで終わるプログラムです。
オリエンテーリング研修と同じように、制限時間がある中で、誰がどんな振る舞いをしていたか、チームとしてどんなコミュニケーションをしたか、どうやって意思決定したか、などを振り返ることで、リーダーシップやコミュニケーション、意思決定に関する学びを得ることができます。リーダーシップ研修などの冒頭でアイスブレイクとしてよく行われるプログラムです。
NASAゲーム
NASAゲームは、「意思決定」に関するゲームです。「月に不時着した宇宙飛行士が母船に戻る」という設定で、制限がある中で、手元にある15個のアイテムに使用する優先順位を付けていきます。
同じような研修ゲームは、「無人島に行くとき…」といった形で、新卒採用のグループワークなどで行われることが良くあります。マシュマロ・チャレンジと同じように「制限時間がある中で“組織の合意”を作る」ということに対するコミュニケーションの原則やリーダシップに関する学びを得られる研修です。
ペーパータワー
ペーパータワーは、20~30枚の紙を使用して、どれだけ高い「自立できるタワーを作れるか」という研修ゲームで、マシュマロ・チャレンジとよく似ています。マシュマロ・チャレンジやNASAゲームと同じように「意思決定」や「合意形成」「コミュニケーション」に関する学びを得ることができるプログラムです。
まとめ
ユニークな研修の事例として、13個の事例を紹介しました。お読みいただいて分かるように、ユニークな研修は単に面白さを追求しているわけではなく、「実際の仕事において必要な能力」を学ぶための研修です。
研修自体の中に学びや目的が組み込まれていることもあれば、「体感するプログラム」の前後で振り返りやフィードバック、理論と実践の紐づけをすることで、学びの吸収や定着を高めることもあります。
自社の社員教育の中で取り込めそうなプログラムがあれば、マンネリ感の解消、受講者のモチベーション向上に繋げることが出来るかも知れません。ただし、研修をおこなう目的は教育効果を得ることです。形だけユニークな研修を取り入れることがないように注意して導入してください。