アクティブラーニングとは?導入事例や実践のポイントを解説

更新:2023/07/28

作成:2022/04/09

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

アクティブラーニングとは?メリットやデメリット、導入事例を紹介

アクティブラーニング受講者が能動的に授業や研修に取り組む学習スタイルを指します。

 

主体性を持って学習に参加してもらうことで、知識の定着率向上などさまざまな効果が期待されています。記事では企業の教育担当者に向けて、アクティブラーニングのメリットや注意点、実践の技法や事例を紹介します。

<目次>

アクティブラーニングとは

アクティブラーニングとは

 

教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。

参照:文部科学省「アクティブラーニングに関する議論」

 

アクティブラーニングは受講者が能動的に参加する学習形式を指します。講師が受講者に対して一方的に発信するのではなく、受講者と講師、また受講者間で双方向のコミュニケーションを実施しながら学習が進行していくのが一般的なアクティブラーニングの特徴です。

 

アクティブラーニングへの対比として、一方的に講師が話すタイプの座学などをパッシブラーニング(受身の学習)と言うこともあります。アクティブラーニング形式の講義・研修はディスカッションやゲーム、グループワークなどさまざまな形で取り入れられます。

 

アクティブラーニングが注目されるようになった背景

アクティブラーニングが注目されるようになった背景には、日本を取りまく社会情勢の変化があります。高度経済成長期は大量生産・大量消費の時代とも呼ばれ、同じものを大量に作るため「標準化」が求められていました。

 

その一方で現代は、インターネットの普及やグローバル化が進み、ものごとの移り変わりが急激に進む変化の激しい時代です。現在のグローバルな情報化社会を生き抜くには自ら情報を収集し、課題を考え、解決に導ける主体的な人材が必要とされるようになっているのです。

 

このような状況を背景に、主体性や自律的思考を育むことのできるアクティブラーニングに注目が集まっています。

 

アクティブラーニングの3つの分類

 

アクティブラーニング3つの分類
レベル1 知識の共有と反すう学習者同士で学んだ知識の共有(反すう)を行う
レベル2 葛藤と知識創出学習者同士で意見のぶつかり合いが起き、新たな知識が生まれる
レベル3 問題の設定と解決学習者同士で問題を設定し、解決する

 

アクティブラーニングと一言でいっても、その種類は数多くあります。そのままでは実態を捉えにくいアクティブラーニングを「レベル」という概念で分類しているのが上記の表です。

 

数多くあるアクティブラーニングの取り組みは、「知識の共有と反芻」「葛藤と知識創出」「問題の設定と解決」の3段階に分けることができます。研修の目的や対象に応じて、より高いレベルのアクティブラーニングを取り入れていくと良いでしょう。

企業の教育でアクティブラーニングを導入する4つのメリット

アクティブラーニングを取り入れるメリットは上記4つが挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

学習定着率の向上

企業の教育でアクティブラーニングを導入する4つのメリット

 

上の図は、授業の形式別に学習定着率を表したラーニングピラミッドと言われる図です。実験では、「授業で学んだ内容を2週間後にどれだけ記憶しているか」をみた場合,講義はわずか5%の定着率でした。

 

定着率が高いのは、グループ討議や体験、そして他者に教えるという、いずれもアクティブラーニングによる授業という結果が出ています。

 

実験は限定された環境や設定ですので、「5%」といった数字を現実の研修等にそのまま当てはめることは出来ませんが、ディスカッションなどでアウトプットする、自ら体験するといったことが学習定着率の向上に大きな効果があることはよく理解できます。

 

対応力の向上

アクティブラーニングでは、自分自身で答えを考えアウトプットする機会が増えます。その過程で「自分で得た情報を整理する」「不足している情報を自ら補う」などの手順が必要となります。これを繰り返すことで問題解決能力や発信力の向上が期待できます。

 

複数名のチームでグループワークを実施することも多く、チームワークや対人スキル、リーダーシップや協調性も含めた対応力の向上も期待できます。

 

主体性の向上

「課題に対して思考して答えを出す」、「個人やチームで選択・意思決定をしていく」などの過程を通じて、日常業務における主体性・自発性の向上が見込めます。

 

高レベルのアクティブラーニングにおいては、講師は「教える」立場ではなく、「サポートをする立場」に徹します。一般的なグループワークなどでもコミュニケーションの主体性は鍛えられますが、プロジェクトベースドラーニング(一定期間を通じて何らかのプロジェクトに取り組むタイプのアクティブラーニング)等においては、よりはっきりと受講者の主体性が強化される、判別できます。

 

発想力の向上

アクティブラーニングでは正解のない課題に取り組むこともあります。答えのない課題に対してアプローチをする中で、思考が整理され新たな答えが出ることもあるでしょう。また、このようにアイデア創出の経験を積むことで発想力の向上も期待できます。

アクティブラーニングを導入するデメリット・注意点

アクティブラーニングのデメリットや注意点としては上記の3点が考えられます。デメリットというと語弊があるかもしれませんが、アクティブラーニングを実施するうえでは考慮すべきポイントです。

 

受講者の質に研修の質が依存してしまう

アクティブラーニングは個人やチームで思考したり、ディスカッションしたりすることを通じて学んでいきます。そのため、積極性が欠如していたり、持っている知識レベルがあまりに異なる参加者が混じると、学習効果に悪影響が出ます。

 

デメリットが生じないようにするには、「参加者選定」や「プログラム内での意欲向上施策」「知識レベルの平均化」などのがポイントです。

 

講師の力量が求められる

アクティブラーニングにおける講師の役割は、研修の目的や目標から逸れないように場をファシリテーションすることです。参加者とのコミュニケーション量も多くなることから、想定していない質問やトラブルが生じることもあるでしょう。

 

自分が持っている知識を一方的に教える講義形式と比べると、講師の臨機応変な対応力が求められることになります。

 

体系的な知識習得には向かない

アクティブラーニングは体系的な知識習得には適していないという側面があります。

 

参加者が自ら学ぶことで学習定着を促したり、主体性を向上させたりする点がアクティブラーニングの特徴です。実践や課題解決に重きを置いている場合、自由度が高い分だけ、学ぶ内容もコントロールしにくくなります。

 

従って、アクティブラーニングだけで体系的な学びをすることは難しく、座学とアクティブラーニングを組み合わせるなどの工夫が求められます。

アクティブラーニングを実践する時のコツ

 

雰囲気作りを行う
質問で刺激する
話させる・書かせる
相互学習させる
経験や事例から学ばせる

 

アクティブラーニングを成功させるためには、上記の通りコアとなる5つの要素があります。この5つの要素の中でも特に雰囲気作りが重要です。

 

人前で自分の意見を発信することに慣れていない方も多く、こうした方も研修へ積極的に参加してもらうことが大切です。リラックスして誰もが発現できる雰囲気作りを心がけ、全員が主体的に参加できるよう心がけましょう。

 

具体的な施策やプログラム、テーマは、研修自体の目的や参加者、期間などに応じて調整する必要があります。

アクティブラーニングの実践技法

アクティブラーニングは子供たちの教育分野を中心として発展してきた技法です。以下で代表的なアクティブラーニングの実践技法を9つ紹介します。

 

耳慣れない技法が多いと思いますが、内容を読んでいただくと企業研修等で既に取り入れている/取り入れられる要素が多々あることがわかるでしょう。

 

ジグソー法

ジグソー法とは、米国の社会心理学者エリオット・アロンソンによって発案された技法です。4~6人のグループを作り、各メンバーに異なる役割や知識を与え、自分の役割における「専門家」としてグループに戻り、協力して課題を解決します。

 

インプットした内容をアウトプットするためには、十分に理解を深める必要があります。集中してインプットする、また分かりやすくアウトプットすることのトレーニングに役立ちます。

 

ラウンドロビン

4~6人のグループで順番にアイデアや意見を出していく手法です。ブレーンストーミングの簡易版ともいえるものです。案に対しての評価や質問はせず、新しい考えを次々に生み出していくことに主眼をおいています。

 

LTD

LTDは「Learning Through Discussion」の略で、話し合いによる学習を指します。インプット・情報収集する個別の予習とミーティング(ディスカッションによる共同学習)を組み合わせて進めていきます。

 

アウトプットやディスカッションを前提としてインプットすることで集中力や理解度が高まり、さらにそれをディスカッションすることで自分とは異なる視点、また、論理的・批判的思考スキルや学習意欲の向上が期待できます。

 

Think-Pair-Share

特定の問題について個人で考えをまとめたのちに、グループを組んで考えを紹介しあう手法です。企業の会議やグループワーク等でもよく利用されています。

 

グループワークやディスカッションにいきなり入る前に、個人で考える(付箋に書く等)の時間を設けることで、全員が発言できるようにする効果があります。自分で考える力と議論のスキルをバランスよく高めることができます。

 

ピア・レスポンス

レポートやプレゼンなどの資料構成において、感想や改善点を互いにフィードバックする手法です。資料の製作者が構成を説明し、それに対してもう一方は良かった点や改善点をフィードバックします。

 

説明する際は分かりやすくアウトプットする能力、またフィードバックする際も自分の感想や意見を整理して相手に伝える能力が鍛えられ、思考や表現力の向上が期待できます。

 

マイクロ・ディベート

短時間で行う簡易的なディベートです。議題に対して賛成・反対のどちらかの立場を選択し、限られた時間の中で議論を交わします。自分の意見を伝えるだけでなく、反対意見に対する反論を考える必要があるため、相手の主張を予測する能力が必要となります。

 

短時間で発言の時間制限があることから、要点をまとめる力を身につけるのにも役立ちます。企業内の研修、また、採用選考等で使われる場面もよく

 

多人数双方向型授業

大人数での講義における、アクティブラーニングの手法です。課題別に7~8人のグループをつくり、各グループが検討・発表を行います。発表の際には質疑応答を取り入れ、質問の内容を補足してから発表内容をレポートで提出する、というのが一連の流れです。

 

グループを細かく分けて質疑応答の場を設けることで、ディスカッションによる学習効果促進が確認されています。参加者が大人数になるとアクティブラーニングの実践が難しくなる側面がありますが、細かいグループを作って、座学と組み合わせるやり方は有効です。

 

チーム対抗型多人数討論

競争原理とチーム感覚を利用した討論の手法です。いくつかのテーマの中から、興味のあるテーマを選んだもの同士がチームを組みます。そのテーマに対する意見をチームでまとめ、2チームが発表を行い聴衆はチームに質問を行います。

 

最後に聴衆はより優れた意見のチームに投票を行い、発表の勝ち負けを決定します。対戦形式を取ることで受講者の参加意欲が高まる効果があります。

企業におけるアクティブラーニングの導入事例

企業におけるアクティブラーニングの導入事例

 

新人研修における導入事例

ビジネスマナーや電話応対などを「講師が新入社員に教える」形式ではなく、「新入社員が講師として教える」アクティブラーニング形式で新人研修を実施するやり方です。

 

参考テキストなどを用意したうえで、新入社員同士で担当パートを分担して自習。その上で、自分の担当パートについて同期のメンバーにレクチャーする形をとります。学習ピラミッドにおける「他者に教える」という手法を取れ入れたものです。

 

別のケースでは、事業内容や各職種の役割、やりがいなどについて、新入社員をグループ分けし、各グループで先輩社員へインタビューを行い発表する研修を実施。前述のビジネスマナーなどの相互レクチャーと同様に「アウトプットの場」を用意することで学習定着度を向上させています。

 

若手社員、中堅社員向け研修における導入事例

予習をしてから講義に臨む「反転学習」を導入した事例です。研修の実施前に研修内における学びの内容などについてはすべて動画で配信し、受講者は研修の内容をあらかじめ確認します。

 

全員が時間を調整して参加する研修時間は「自分の仕事にどう落とし込むか?」「こういう状況ではどう適用したらいいか」というグループディスカッションを中心としたプログラムを作成します。学習定着率を高めると共に、限られた研修時間の効果を最大限高めるための取り組み事例です。

 

また、例えば、違う事例では、開発、営業、マーケティングなどの各職種を混合してチームを作成。実際の顧客へのインタビュー等を実践しながら、自社サービスの強みと差別化ポイント・改善ポイントを整理して、事業幹部に対してプレゼンテーションを行った研修プログラムがあります。

 

インタビューの体験等を通じて自社サービスの強みや価値を認識するだけでなく、顧客志向を軸とした職種間の連携を促すアクティブラーニングプログラムです。

 

管理職、リーダー向けの研修における導入事例

行動変容・結果変容を実現するためのトレーニングプログラム事例です。管理職研修を単発ではなく、1か月に1回×12か月間の継続研修として実施。「研修⇒職場実践⇒振り返り」というサイクルを回すタイムスペースラーニングを採用しました。

 

1回の研修が終わるたびに、自分の職場、マネジメント、部下とのコミュニケーションにおける実践課題を受講者自らに設定させます。次回の研修を実践の振り返りと共有からスタートさせることで、課題の実行度を向上させることが可能です。

 

また、他の事例としては、屋外でのグループワークやオリエンテーリングなどを実施。自分たちの行動、コミュニケーションに対する振り返りとフィードバックを経たうえで、チームビルディング、マネジメント、リーダーシップに関するディスカッションと自分たちが目指すリーダー像のアウトプットを行いました。

 

テキストではなく、実際の行動・体験を教材として、議論を通じて自分たちで答えを決めていくタイプのアクティブラーニングです。

 

幹部候補向けの研修における導入事例

「新規事業の提案」というプログラムの事例です。半年間のプログラムを組み、実際に市場調査や顧客ヒアリングなどを実施しながら新規事業プランを構築。最終的には、経営陣に対して新規事業の発表を行います。

 

承認を得たプログラムについては実際に一定の予算が与えられ、事業化に挑戦することができます。そのため単なる研修に留まらず、仕事の成果にもつながる究極のアクティブラーニングといえるでしょう。

まとめ

本記事では、企業の教育担当者に向けて、アクティブラーニングのメリットや注意点、実践の技法や事例を解説しました。

 

アクティブラーニングは能動的な学習参加で研修効果を高める技法です。ラーニングピラミッドが示すように、グループワーク・体験・アウトプットなどを研修に取り入れることで、受講者の主体性や対応力などの向上が見込めますので、ぜひ研修にうまく取り入れていってください。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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