多くの会社の新入社員教育は、初期研修は人事部門等が担当、そして、OJTに移管すると各配属先の部門でOJT担当が任命されて、1対1で指導に当たる形になります。
そして、新人の教育係に任命されるのは、入社3~5,6年ぐらいの若手社員であることが多いでしょう。ようやく一人前となり仕事も任せられている、また、個人として業績目標なども持つなかで、新人の教育係を任せられることは実務的・精神的な負担となることも多いでしょう。しかし、新人の教育係は、教える側にとっても、新人教育を通じて自分自身を成長させる好機です。
記事では、新人の教育係に任命された若手や中堅社員にとって、新人の教育係を任せられることがなぜ成長の好機なのか、そして、新人教育を自身の成長につなげるために不可欠な心構えを解説します。
<目次>
新人の教育係に任命されることが、なぜ成長の好機になるのか?
組織の未来を創っていくうえで、新人育成はとても重要です。新人の成長が、10年後の成長を左右し、会社の未来を創るといっても過言ではありません。
それだけ重要な新人育成ですが、初期研修は人事部門が主導して手厚く実施されますが、初期研修を終えて現場に配属されてからのOJTは、実施品質がバラバラな状態になっている組織も多くあります。OJTは、先輩社員が1対1で実施するため、教育係となった先輩社員の姿勢や取り組み方によって効果が大きく変化します。
個人の教える力量等はもちろんですが、同時に「新人指導に対する心構え」や「受け止め方」も重要です。「自分自身の成長もまだまだこれからなのに、新入社員の教育係まで担当するなんて、荷が重い……」と思ってしまう教育係もいます。
こういった教育係を生み出さないためには、教育係を任命するときに、重要な新人育成を任せる意義と同時に、「教育係として新人の育成に携わることが、自らの成長、ビジネススキルの向上につながることをしっかりと伝えることが大切です。本章では、新人教育に携わることが、教育係にとっても成長の好機となる理由を確認しましょう。
理由①仕事の目的や意義を「自分の言葉」で新人に伝える
どんな会社にも会社の存在目的、すなわち「企業理念」や「会社のミッション」が存在します。同様に一つひとつの作業や仕事についても、「何のために行うのか?」「どんな価値を生み出すのか?」「顧客貢献にどうつながるのか?」といった目的や意義があります。
新人指導をする際に、仕事のやり方を教えると共に、仕事の意義や目的を伝えることは非常に大切です。仕事の手順ややり方だけを説明して、「何のために行うのか?」「お客様へのどんな貢献につながるのか?」を説明しないとどうなるでしょうか。
恐らく、何のために自分は目の前の業務に取り組んでいるのか、よくわからないまま仕事を続けることになるでしょう。言われたやり方をやる、だけになります。人は意味や目的がわかっていないと、継続的に熱意をもって取り組むことはできません。また、意味や目的がわかっていないと、工夫や改善をしたり、臨機応変に対応したりすることは困難です。
したがって、新人指導をする際、仕事のやり方を教えると共に、仕事の意義や目的を伝えることが重要です。意義や目的を伝えることで、新人は取り組むべき仕事について、理由や目的が腹落ちしたうえで、仕事に取り組めるようになります。
逆に言えば、新人に仕事を教える際には、組織や事業全体のミッションから、一つひとつの仕事まで、どんな目的があって、どんな貢献につながるのか、何のためにやっているのかを自分の言葉で説明する必要があるということです。
仕事全体の意義や一つひとつの仕事の繋がりについて、人に説明できるようにしっかり確認することは、自分自身にとっても仕事の確認となりますし、将来、部下やチームを持つときにも役立つ経験となるでしょう。
理由②効果的な「伝え方」「教え方」を身に付けられる
新人の教育係を任せられるということは、日常の業務遂行や仕事への姿勢に関して信頼されているということです。そんな教育係にとっては、日常の業務遂行を「当たり前」にできるものになっているでしょう。
しかし「自分で実施する」ことと「人に分かりやすく伝える」ことは、また違う能力が必要になります。まったく業務を知らない新人に教えるためには、どれほど簡単に思える業務でも、手順ややり方、注意を要する点について整理し、細かくかみ砕いて説明することが大切です。
相手の知識に応じて説明内容や使う言葉を工夫することも必要です。また、相手のコミュニケーションタイプによっても説明方法を変えるとよいでしょう。当然、口頭だけでなく、「いま説明したことを、これから実際にやるので、よく見ていてね!」という感じで、実演して見せることもあるでしょう。
「教えることは学ぶこと」とよく言いますが、人に教えるためには、半ば無意識に自分がやっていることを「どうすれば伝わるか」を考えて整理する、かつ、相手の反応を見ながら伝えていく必要があります。伝え方や教え方を試行錯誤していくプロセスは大変ですが、将来マネジメント職や管理職になるための良いトレーニングとなります。また、試行錯誤するなかで、業務の改善や効率化ポイントを発見できる可能性もあるでしょう。
新人の教育係に任命された人が持つべき3つの心構え
新人の教育係を実施する際、教育係に任命された人はどんな心構えを持つ必要があるでしょう。
実際に指導を始めると、「覚えの悪さに思わずイラっとしてしまう」「新人の態度に、こちらのやる気が損なわれる」といった経験をすることもあるでしょう。新人は一人ひとり、意欲も違えば、能力、覚えるスピードや理解しやすい説明方法も違ってきます。ですから、たとえ教育係として、懇切丁寧に精力的に指導したとしても、相手の新人が期待通りにならない、ということは往々にしてあります。
しかし、新人が期待通りに育たないからといって、指導を投げ出したり、感情に任せてダメ出しをしたり、新人の成長を諦めてしまっては、新人の成長はもちろん、自分自身の成長にも蓋をしてしまう結果となります。本章では、新人育成で望ましい結果を出し、同時に、自分自身の成長機会として最大限に活かすための心構えを3つお伝えします。
心構え① 教えたとおりにできなかったときは、まず自分の教え方に問題がないか振り返る
「何度か教えて、もう一人でできるようになっただろう」と思って、新人に仕事を任せた際、「ぜんぜん上手くできない!」となってしまうことは良くあります。このとき、つい新人のやる気や理解度のせいにして、苛立ちや怒りを感じてしまいがちです。
しかし、まず教えた新人の問題ではなく、指導した側の教え方や伝え方に原因を求めてみましょう。
説明が分かりにくかったのかもしれないし、肝心なポイントが抜けていたのかもしれません。じつは新人は理解が浅かったけど、遠慮して質問できなかったのかもしれません。自分の教え方やコミュニケーション、成長スピードへの期待など、どこかで教える側のミス、勝手な思い込みなどがなかったか振り返ることを大切にしましょう。
心構え② 新人が失敗したときは、優しくフォローして、自信喪失を回避させる
新人が業務でミスやトラブルを起こしてしまったときは、心強くフォローしましょう。もちろん、ミスやトラブルに本人の責任があれば、叱責すべき点はきちんと伝えて改善を求めましょう。
一方で、多くの場合ミスやトラブルで気を落としているのは本人であり、フォローを誤ると自信喪失につながってしまいます。小さな自信喪失が積み重なると、「上司や教育係の顔色をうかがう」「言われたことだけをやる」といった受け身の姿勢が染みついてしまいます。指摘すべき点は指摘したうえで、「次」に向かってしっかりとフォローしましょう。
心構え③ 新人の模範となるような行動、仕事への取り組み方を率先垂範する
新人の教育係となったら、新人の模範となるような行動、仕事への取り組み姿勢や考え方を示すことを心がけましょう。この数年の傾向としては、新人が信頼するのは、仕事ができる人、ではなく、人間的に尊敬できる人です。
心構えの一つ目などにもつながりますが、仕事のやり方や成果の上げ方だけでなく、結果への向き合い方、顧客への姿勢、仕事への考え方などで、ぜひ新人の範となるような言動を意識しましょう。それによって、新人からの信頼を得られると共に、自分自身の人格的な成長へとつながるでしょう。
まとめ
会社の将来を担う新人の教育係に任命されることは、会社や上司から信頼されている証です。一方で、多くの場合、自分自身の業務目標もあるなか中で、新人の指導を任せられることは精神的・実務的な負担となる部分もあります。
新人の教育係を一方的な負担と捉えるのではなく、自分自身にとっての成長機会と捉えて、新人教育に向き合いましょう。新人教育は
- ①仕事の目的や意義を整理する
- ②人への教え方や伝え方のスキルを身に付ける
ための良い機会になります。
また、自責で捉える、新人の自己肯定感や自己効力感を高める、新人の範となる姿勢や考え方を見せる、といった心構えを持つことで、新人の教育係を担うことは、自分の人間力を大きく鍛える機会にもなるでしょう。ぜひ記事の内容も参考に、新人の教育係に任命されたことを自分の成長機会につな繋げていきましょう。