新人研修は教えたい内容が多岐にわたるのに対して、研修に使える時間は限られているというジレンマが生じやすいものです。研修の効果性を高めるうえで、内容やコンテンツを絞り込むかに迷うこともあるでしょう。
記事では、新人研修(新入社員研修)の目的と内容を確認したうえで、効果的な新人研修にするためのコツ、一般的なカリキュラム事例を紹介します。
<目次>
新人研修(新入社員研修)の目的と内容を再確認
新人研修の目的と基本的な内容は、新卒と中途で異なります。
新卒の場合
新卒向けの新入社員研修の場合、以下の4つを通じて新人の成長、戦力化を促進することが目的となるでしょう。
- 社会人としての自覚を持たせる
- 自社の組織に馴染ませる(組織社会化)
- ビジネスパーソンとして必要な基礎的なスキルを身に付けさせる
- 職種や業務に応じた「成果を上げるために必要なスキル」を身に付けさせる
中途の場合
中途社員向けに新人研修をしている企業は少なく、中途社員を採用した場合は研修などを行なわず、いきなり部門でのOJTになるケースも多いでしょう。
しかし、自社の組織に馴染み、力を発揮するための受け入れプロセスは、中途社員の経験値に関わらず必要です。中途社員を組織に馴染ませるプロセスは、新卒の研修内容で紹介した「②組織社会化」にあたります。
中途社員の場合、受け入れプロセスは新人研修ではなく、オンボーディングと呼ばれることが多くなります。中途新人の定着と即戦力を後押しするオンボーディングは、以下の記事で詳しく解説しています。
なお、入社した中途社員の経験値によっては、基礎的なスキル研修や座学も大切です。同職種の経験がある場合でも、異業界出身などであれば、OJTだけでは力を発揮できないケースも多くなります。従って、新卒の研修目的である①~④と照らし合わせて、自社に応じた適切な受け入れプロセスを組むことが大切です。
新人研修(新入社員研修)の基本的な内容
前章で紹介した新人研修の目的①~④と照らし合わせると、基本的な研修内容は自ずと見えてきます。
職種などに関わらず、一般的に行なわれる内容
以下の①~③は、業種や職種と関係なく実施されることが多い基本的な内容です。
・①社会人としての自覚を持たせる
新卒社員は、つい昨日まで学生だった若者です。正社員経験のない新人は、ビジネスパーソンの感覚よりも消費者感覚、学生感覚がまだ強いでしょう。
早く活躍してもらうには、
- プロのビジネスパーソンとして仕事への姿勢を教える
- リアリティショックやギャップ、壁に対する心構えを教える
といった内容を通して社会人やビジネスのプロフェッショナルとしての意識付け(マインドセット)をすることが大切です。
・②自社の組織に馴染ませる
身に付けた知識や業務スキル、本人の能力は、組織に馴染んでこそ発揮できるものです。組織に馴染むためには、以下のような研修内容を通して、沿革、価値観、人、言葉といったものへの理解が必要になります。
- 企業のミッションやビジョン、沿革など
- 社風や意思決定や業務スタイルなどの暗黙知
- 業界用語や社内用語
- 社員の顔や名前
など
・③ビジネスパーソンとして必要な基礎的なスキルを身に付けさせる
新入社員が学ぶ基礎的スキルは、お客様や社内との信頼関係をつくるための基盤となる部分です。現場でのOJT研修や仕事をスムーズに進めるうえでも、以下のような社会人の基礎スキルは初期教育で身に付けさせたいものです。
- 社会人として求められる基本的なビジネスマナー
- 自社で導入されているツールの使い方
- 基本的なパソコン操作やコンプライアンス
など
④業種や職種に応じた研修内容
現場でのOJT研修にスムーズに入っていくために、配属先の職種や仕事内容に応じて、各職種に合った内容も実施することが多いでしょう。
- 営業職:商品・サービスへの理解、セールスステップ、ヒアリングスキル、プレゼンテーション能力など
- 企画職:基本的なマーケティングの原理原則や知識、企画書の作成方法など
- 事務職:自社の業務フローに関する知識、各プロセスでの操作方法など
- エンジニア職:システムやプログラミングの知識など
新人研修(新入社員研修)を効果的にするコツと注意点
新人研修の効果性を高めるには、以下のポイントが大切です。
ゴールから逆算して、「身に付ける」ポイントや意識を絞り込む
新人研修で教えないといけない内容は幅広く、すべてを研修期間中で「身に付ける」状態までもっていくことは難しいものです。だからこそ「知っている」ではなく「している」レベルまで鍛えるべきポイントや意識が何かを絞り込むことが大切です。
マインドセットと組織社会化をきちんと実施する
心構えや考え方の研修は、配属後にリアリティショックを起こさない、早期戦力化するうえで実は非常に大切です。心構えや考え方の研修は、現場配属後に実施しても効果が薄くなる特徴があります。従って、初期研修でこれらをきちんと行なうことがポイントです。
OJTをしっかり設計する
現場配属後のOJTが現場に任せきりとなってしまい、結果的に成長の停滞やバラつき、早期離職の原因となってしまうこともあります。人事部が育成計画のフォーマット準備と作成依頼、過去計画の蓄積などを通じて、OJTの品質を底上げ&担保をしましょう。
現場配属後も、人事部門からフォローを行なう
新入社員の感情は、リアリティショックが生じる部門配属後こそ起こりやすくなります。また、現場で上下関係があるOJT指導者には打ち明けない悩みも出てくることでしょう。
従って、現場配属後こそ、人事部門がフォローする価値が高くなります。部門配属から数ヵ月経過時点での面談、1年後研修などを通じて、現状把握やリモチベートを行ないましょう。
現場との連携を取る
研修業界で有名な法則として、「4:2:4の法則」というものがあります。「4:2:4の法則」は、研修成果に影響を与える要素が、「研修前:4割、研修中:2割、研修後:4割」と実は研修前後の関わりこそ重要であることを示します。
新人研修の場合、例えば、研修後に「研修内容を反する行動を上司や先輩が取っている」と研修効果はガタ落ちします。上司や先輩に対しても研修内容を共有するとともに、新人研修を機にあらためて社内における「基本の徹底」などを推進するとよいでしょう。
新人研修(新入社員研修)のコンテンツ事例
新人研修で一般的に行なわれるコンテンツから、ユニークな研修の事例までを紹介していきましょう。
一般的に行なわれる新人研修の事例
一般的な新人研修では、以下のような内容やプログラムを取り入れるのがおススメです。
・基本のビジネスマナー研修
新入社員も「企業の顔」です。そのため、新人の振る舞いや服装によっても企業イメージが左右されたり、お客様の満足度や信頼関係に影響されたりすることから、新人研修では以下の基本マナーを教える必要があります。
- 服装や身だしなみ
- 敬語
- 名刺交換
など
ビジネスマナーの定着率を高めるために、ロールプレイングやケース学習を入れた実践的内容にすることがポイントです。
・電話対応、ビジネスメール
テレワークが普及した近年では、お客様と直接会う機会も少なくなり、電話やメール、チャットなどの重要性が高まっています。お客様や取引先などに失礼な対応をしないためにも、以下の内容は新人研修のうちに教えることが大切です。
- 電話の受け方・かけ方・取り次ぎ方
- ビジネスメールやビジネスチャットなどのマナーや使い方
など
ある程度実務的な慣れが必要な部分もありますが、ロールプレイングや研修期間内での実践を通じて、身に付けさせていきましょう。
・コンプライアンス
新人研修で教えるコンプライアンスは、自社で必要となる基本的な法令遵守や個人情報の保護、SNSの利用ルールなどになるでしょう。
企業活動におけるコンプライアンスには、「法令」「組織の規則」「社会から批判される行為」という3つのレベルがあります。最近は、「社会的に批判される行為」はSNS上などで一気に拡散してブランドを棄損するリスクが高まっています。
法令や組織の規則はもちろんですが、情報流出やSNS炎上、「自分たちの仕事でどんな行為がリスクになるか?」などのディスカッションやケーススタディーなどのアクティブラーニングもおススメです。
・事業紹介や社員インタビュー
新人研修では、組織社会化の一環として、自社の事業や組織、人を知るためのプログラムも大切です。
- 自社の事業やサービスをプレゼンテーションする
- 新入社員が先輩にインタビューして発表する
上記の例以外にも座学で学ぶだけではなく、新入社員にアウトプットさせることで学習効率を上げることがおススメです。
・朝礼、夕礼、日報
新人研修における朝礼や夕礼、日報の活用は、基礎研修で学んだことを身に付けたり、社会人としての習慣形成をしたりするうえで効果的です。
例えば、今日の達成目標やのミッション・ビジョン・バリューの実践箇所を宣言してもらうと、目的意識を持って新人研修に臨めるようになりますし、また、朝礼や夕礼の時間を使って電話応対や商談のアイスブレイクなど、短時間のロールプレイングをすることもおススメです。
とりわけ日報を通じて、「1日の振り返りをする」「明日の予定と目標を確認する」などの習慣が身に付くと、現場配属後の成長が加速されます。ぜひ活用してください。
・自主学習やプロジェクト
詰め込みすぎの新人研修は、新人を「受け身」にしてしまいます。主体性を身に付けさせるためには、新人研修の中で意図的に隙間をつくり、新人自身が主体的に取り組む自主学習やプロジェクトを設けることも効果的です。
・OJT
OJTは、座学で学んだことを実践によって身に付けるものです。新人研修のOJTは、会社によって「人事部門が主導するOJT」と「現場配属後のOJT」に分けられます。
効果的なOJTを実施するときには、最終ゴールの設定、必要なスキルの洗い出し、ミニゴールの整理などの設計・準備を行なう必要があります。
現場配属後のOJTも、現場に任せきりにしてしまうのではなく、人事が計画づくりのテンプレート提供や作成指示などを行なって、OJT品質の担保&底上げを行なっていくことが大切です。
ユニークな新人研修の事例
新人研修は、組織が行なう研修の中でも長期間にわたる研修です。研修がマンネリ化してしまわないように、ユニークな新人研修プログラムを取り入れることもおススメです。
面白いだけの新人研修をしても意味がありませんが、目的や目標をしっかり踏まえたうえでユニークな研修を取り入れれば、新人のモチベーションや学習定着率の向上、受講者同士の交流に使えるなどのメリットがあります。
・ウォーキング研修
その名のとおり、オリエンテーションをしたり、目的地に向かってグループで歩いていったりする研修です。新入社員を何人かのグループに分けて、ルートやルールなどを決めて目標を達成します。仲間とともに計画や目標達成に取り組むことで、チームワークや同期の絆、また目標意識を育むことが可能です。
・無人島研修
無人島に数泊して、グループで生活する研修です。島で暮らすには、新人のそれぞれが火起こしや資材集め、調理といった役割を担わなければなりません。研修を通じて、主体性の発揮や役割分担を学ぶ、一緒に生活をした新人同士の絆が深まるなどは、ウォーキング研修と近い要素があります。
・マナーファイト
ビジネスマナー動画を撮影し、ほかのチームに間違い探しをさせるというプログラムです。
ビジネスマナーの学習はマニュアルを覚えるような内容になりがちですが、ゲーム的な要素を盛り入れることで新人のモチベーションを高めやすくなります。また、動画をつくるプロセスを通じてビジネスマナーの理解も深まります。
さらにチームメンバーと動画内容を考える過程で、協同や交流を行なえるメリットも期待できます。
・竹とんぼづくり研修
竹とんぼづくりは、世界有数の電子部品メーカーであるTDKで実際に行なわれている研修です。プログラムのミッションは、QCD(品質・費用・期限)の制約がある中で「3.5秒の滞空時間をクリアする竹とんぼをつくること」になります。
限られた費用や期間内で顧客ニーズに応える「ビジネスにおけるものづくり」を体験するプログラムです。メーカー以外でも、研修の目的やエッセンスは取り入れることができるでしょう。
・インプロ研修
インプロ研修とは、「即興劇」を実施する中で気付きをえる研修です。即興劇を通じて、以下のように多彩なスキルを身に付ける目的と効果があります。
- 感情表現力
- 想像力
- 観察力
- 傾聴力
- 即時対応力
- コミュニケーション力
インプロ研修には、新人同士が打ち解けるきっかけにもなる効果もありますので、研修期間の初期に行なうこともおススメです。
まとめ
新人研修は、大きく分けると以下4つのコンテンツから構成されます。
- 社会人としての自覚を持たせる
- 自社の組織に馴染ませる
- ビジネスパーソンとして必要な基礎的なスキルを身に付けさせる
- 業種や職種に応じた成果を上げるためのスキルを身に付けさせる
新人研修というと、ビジネスマナーや敬語など「基礎スキル」が中心になりがちです。しかし、新人の戦力化を促進するためには、実は「社会人としての自覚」や「組織に馴染むこと」プロセスが大切です。しっかりと研修に盛り込んでいきましょう。
また、新人研修は教える内容が多岐にわたるからこそ、「自社で重視されることが何か」「現場配属時に実践レベル(身に付いている/している)で必要な心構えや行動が何か」をしっかり絞り込むことが大切です。
記事で紹介した事例やコツを参考に、ぜひ効果的な新人研修を実施してください。