ビジネスマナーは、ビジネスにおける基本であり、社員のビジネスマナーの良し悪しが企業やサービスの品質イメージにも繋がりかねません。身だしなみなどに関して10年前と比べると社会的な基準が様変わりしている中でも、基本の「型」を知ったうえで意図して崩す場合と、初めから知らない、出来ない場合では相手が受け取る印象も変わってきます。
従って、新人に対するしっかりしたビジネスマナー教育の重要性は、今も昔も変わりません。本記事では、ビジネスマナー教育のポイントや注意点を解説します。
<目次>
新人へのビジネスマナー教育が重要な理由
ビジネスマナー教育の具体的な方法やポイントに入る前に、ビジネスマナー教育が必要な理由を確認しておきます。
企業のイメージを左右する
社員が外部と接する際には、たとえ新入社員であろうが、その社員が「会社の顔」であり「代表」です。従って、社員の振る舞い1つで企業イメージは良くも悪くも大きく左右されてしまいます。
ビジネスマナーは基本的であるからこそ、“企業の教育品質”、“社員の質”、“サービスの提供品質”にイメージが連想されます。そのため、ビジネスマナーの欠落によって、本来は受注できた案件を失注したり、商談が進まなかったりすることは容易に有り得ます。
信頼関係の入り口に立つ
さまざまな価値観や背景、年齢層の人間が混在するビジネスシーンでは、ビジネスマナーは信頼関係を構築するための入口です。冒頭で記載した通り、時流や相手との関係性、相手の所属する業界などに応じてビジネスマナーを崩すことはまったく問題ありません。
しかし、TPOに応じた適切なビジネスマナーを示せないことで、商談が進まない、情報をヒアリングできない、信頼関係が構築できないといったリスクがあります。
顧客満足度、企業の競争力に影響する
顧客満足度や企業の競争力などの指標にも、ビジネスマナーは関連してきます。顧客満足度や企業の競争力は、サービス品質と対応品質で構成されており、顧客がどちらか一方にでも不満を覚えていると、顧客満足度は伸び悩む傾向があります。
サービス業の場合には、社員一人ひとりがサービス品質を作り出しますし、どの業界においても対応品質を担うのは社員です。どれだけ商品・サービスの質が高かろうと、対応品質が顧客の期待を下回ると、結果的にサービス全体に不満が溜まり、顧客満足度は向上せず、企業の競争力にも悪影響を及ぼします。
ビジネスマナー教育で盛り込むべき項目
ビジネスマナー教育では、業界や業種を超えて普遍的な要素を「基本」の型として、しっかり教育することが大切です。そのうえで各業界のビジネス慣行を伝えることで、応用の利くビジネスマナーとなるでしょう。
以下、一般的には「ビジネスマナー」と思われていないものもありますが、ビジネスの基本言語という視点で、業界や業種、職種を超えて、普遍的な基礎として教えるべき項目を挙げてみました。
1.責任感
『責任感はビジネスマナーとして教えるもの?』とも思われるかもしれません。しかし、責任感はビジネスパーソンとして信頼を得るための一番基本的な心構えです。
プロとして、相手との約束や納期、時間に対する責任感を持たせることが新人教育においては重要です。新人は業務スキル、知識がありませんので、「分からない」「失敗する」「約束を守れない」ことも多いでしょう。約束を守れないときの対応や報連相も責任感によって左右されます。
2.挨拶
挨拶は、社内外における自分の第一印象を左右します。気持ちよい挨拶が出来ることで、話を聞いてくれる姿勢や、協力関係を積極的に構築してくれるといった相手の受け入れ姿勢も変わってきます。
人は先入観に左右されてしまう部分がありますので、相手が「あばたもえくぼ」になるのか、「重箱の隅をつつく」姿勢になるのか挨拶1つで変わってくることもあります。
3.聴き方
人の話を聴く姿勢も、人間関係や本人の成長スピードを大きく左右します。新入社員はまだ「知識」がありませんので、社内においても、対顧客において、どれだけ「教えてもらえるか」が重要です。本人のスキルアップ・キャリアアップを支援する意味でも、早いうちに「聴き方」の基礎を定着させることが大切です。
4.報連相
報連相は新人が成果をあげるために非常に大切なスキルであり、同時に、組織で働くうえでの義務や配慮です。報連相をビジネスマナーと言われると違和感があるかも知れませんが、どんな業種や職種においても、成果をあげる、人間関係を作るための基本要素です。
5.敬語や言葉遣い
敬語や言葉遣いは、ビジネスマナーの中でも、新入社員が苦戦する項目の1つです。大学生活において世代の違う相手と喋ることは少ないため、敬語を使う経験が少ないことが大きな要因です。
スマートフォンを使うことが当たり前になり、固定電話の使用経験がない人も少なくありません。結果、「電話するとき/電話を取るときに名乗る」習慣がなくなっているといった状況もあります。同様に、LINE等の浸透により、ビジネスメール等も苦手とする人が増えています。
6.電話・来客対応、名刺交換などの所作・立ち居振る舞い
言葉遣いと並んで、ビジネスマナー教育の定番が電話や来客対応、名刺交換などの所作・立ち居振る舞いに関するものです。言葉遣いと並んで、「相手からすぐ分かる」からこそ、重要です。細かい所作や立ち居振る舞いを身につけていく過程で、社会人としての自覚が育ってくる側面もあります。
たとえ本人の業務として、直近では直接お客さんと接触する機会がないとしても、基礎を徹底しておくことは、本人のその後のキャリアにとってプラスとなるでしょう。
7.服装や身だしなみ
服装や身だしなみもビジネスマナー教育の定番ですが、最近では指導の難易度が上がっている側面もあります。以前と違って、クールビズの定着、業界による慣習の違い、雇用形態の多様化なども受けて、「適切な服装や身だしなみ」を画一的に教えることが難しくなってきたからです。
ただし、多様化しているからこそ、スーツに白のワイシャツ、ネクタイ、髪形といったベーシックな「型」、そして、相手にとって“清潔感”があり、違和感や拒否感なく信頼関係を築けることが服装や身だしなみの基準であるといった「心」を教える必要性を感じます。
そのうえで、「うちの業界・うちの会社ではどこまで崩していいか?」を伝えることが適切でしょう。
ビジネスマナー教育のコツと注意点「型」と「心」
ビジネスマナー教育においては、ビジネスマナーの知識やスキルを教えればいいと思われがちです。しかし、実際には「研修が終わった後にしっかり実践する」「TPOに応じて使い分けることが出来る」ようになるためには、教えるうえでのポイントや注意すべき点があります。
ビジネスマナーの本質「心」を理解してもらう
ビジネスマナーの教育は、マナーの根底にある「心」を伝えることが大切です。
ビジネスマナーは「ビジネスマナーを守るため」にあるわけではなく、相手を不快にさせず、信頼関係を作るための基盤として存在します。それを形式的・表面的な「べき/べからず集」のとして伝えていくだけでは応用が利きません。また納得感が得られず、研修が終わると徐々に実践度が落ちていくといったことが起こります。
例えば、「挨拶」という言葉1つをとっても、本来の意味は「心を開いて相手に近づく」という意味です。だからこそ、「相手の目を見て、相手に届く声で」といったマナーがあり、『おはようございます』の後ろにある心の声、『おはようございます。今日もOJTの指導よろしくお願いします!』『おはようございます。今日も頑張ります!』のような気持ちをのせて伝えるといった心構えが重要です。
形式的・表面的に、「明るい表情で、大きな声で、お辞儀の角度は敬礼の30度」と教えても身につきませんし、応用が利きません。やり方を知識として教えるだけではなく、「何のためにやるのか」という本質をしっかりと伝えることがビジネスマナー教育では大切です。
正しいビジネスマナー「型」を教える
ビジネスマナー教育では正しい「型」の知識を教えることも重要です。先ほどと矛盾するようですが、ビジネスマナーにおいては「本質」と共に「やり方」が重要であることも間違いありません。
知識がないまま実務の中で失敗しながら学んでいくやり方は、本人にとって成長実感よりも失敗体験になってしまいがちです。ビジネスマナーに関しては、正しい知識を教えることで「しなくて済む失敗」は回避させた方がよいでしょう。
ビジネスマナーは基本となる「型」が確立されており、自己流や先輩の真似では通用しないケースもあります。また、社内で指導する先輩や上司のビジネスマナーが誤っているケースも多々あります。誤ったビジネスマナーを覚えてしまうと、将来、後輩を持ったときに誤ったビジネスマナーを教育してしまい、どんどん劣化コピーになってしまうことがあります。
少なくとも、“自分のビジネスマナーが合っているか/崩しているか/間違っているか”を理解できるようにしておくことが大切です。
またビジネスマナーに正しい「型」はあっても、時代とともに「OK」の基準が変わります。事例でもご紹介しましたが、服装/身だしなみで言えば、クールビズが完全に定着し、夏場のノーネクタイ、ノージャケットが「OK」になったことは時代による変化の典型です。時代による変化もありますし、業界による違いも大きなものがあります。
デジタルツールの進化によって、手紙からメールにコミュニケーションツールが変化した中で「時候の挨拶がなくなった」ように、ビジネスチャットが普及するにかけて「宛先の記載や定型文」も変わってきました。ビジネスチャットでは宛先の記載や定型文を省略したり、簡略化したりすることが普通です。
一方で、ビジネスにおいては、異業界の人、50代・60代の経営者とコミュニケーションすることもあれば、クレーム対応をすることもあります。そのときに正しい「型」を知らないと、営業チャンスを潰したり、火に油を注ぐこともあります。だからこそ、正しい「型」を教えたうえで、TPOや自社に応じた崩し方を伝えることが大切です。
デジタルネイティブ世代の「コミュニケーションの常識」には注意が必要
「心」と「型」に加えて、最近ではデジタルネイティブ世代の「コミュニケーションの常識」は意識的にフォローしておきたい点です。
デジタルネイティブ世代と呼ばれる若年層は、SNSの普及により対人での会話が以前より大幅に減っており、「相手を気遣って話す」ことに慣れる機会が少なくなってきています。また、スマホが普及したことで、長い文章を書くことにも慣れていません。ビジネスメールや電話対応を指導するうえでは注意が必要です。
また、SNSやLINEの利用に伴って、スタンプや絵文字を介したやり取りを標準として育ってきています。そうした影響からか、感情表現に関するボキャブラリーは少なくなっており、文字や言葉で感情や意思を伝えることに苦労する傾向もみられます。
前のブロックでもご紹介した通り、スマートフォンが浸透した結果、「固定電話を使ったことがない」新人も一定割合います。そして親世代を含めて、地域のコミュニティがなくなってきた結果、年上とのコミュニケーションに慣れていない傾向も強いです。
コミュニケーションの分野に関しては、以前よりも「育ってきた環境の常識」と「ビジネス社会の常識」のギャップは広がっていると言えます。ビジネスマナー教育をするうえでは、注意が必要なポイントです。
まとめ
ビジネスマナーの習得は、社会人生活の土台となる部分ですので、しっかりとした教育が必要です。ビジネスマナーは時代と共に変わっていくからこそ、「守・破・離」の考え方で、基本となる「心」と「型」をしっかりと教えて、TPOに合わせて応用していく力を育んでいくことが大切です。新人の成長や現場・顧客との信頼関係を円滑に作ってもらうためにも、きちんと教えて基礎を築いていきましょう。