
ビジネスマナー教育は、ビジネスマナーの知識やスキルさえ教えればいいと思われがちです。しかし、実際には「研修が終わった後にしっかり実践する」「TPOに応じて使い分けることが出来る」ようになるためには、教えるうえでのポイントや注意すべき点があります。
ビジネスマナーの本質「心」を理解してもらう
ビジネスマナーの教育は、マナーの根底にある「心」を伝えることが大切です。
■意味を教える
ビジネスマナーは「ビジネスマナーを守るため」にあるわけではなく、相手を不快にさせず、信頼関係を作るための基盤として存在します。形式的・表面的な「べき/べからず集」のとして伝えていくだけでは応用が利きません。なんのために行うのか、という意味を教える必要があります。また、意味がわかっていないと、納得感が得られず、研修が終わると徐々に実践度が落ちていくといったことが起こります。
「挨拶」という言葉1つをとっても、本来の意味は「心を開いて相手に近づく」という意味です。だからこそ、「相手の目を見て、相手に届く声で」といったマナーがあり、『おはようございます』の後ろにある心の声、『おはようございます。今日もOJTの指導よろしくお願いします!』『おはようございます。今日も頑張ります!』のような気持ちをのせて伝える、といった心構えが重要なわけです。
形式的・表面的に、「明るい表情で、大きな声で、お辞儀の角度は30度」と教えても身につきませんし、応用が利きません。やり方を知識として教えるだけではなく、「何のためにやるのか」という本質をしっかりと伝えることがビジネスマナー教育では大切です。
■責任感
『責任感はビジネスマナーとして教えるもの?』とも思われるかもしれません。しかし、責任感はビジネスパーソンとして信頼を得るための一番基本的な心構えです。
プロとして、相手との約束や納期、時間に対する責任感を持たせることが新人教育においては重要です。新人は業務スキルや知識がないので、「分からない」「失敗する」「約束を守れない」ことも多いでしょう。しかし、約束を守れないときの対応や報連相も、責任感によって変わってきます。責任感が心にあれば、本心から申し訳ない気持ちを抱き、真摯な姿勢で謝罪することができるでしょう。
だからこそ、ビジネスマナーとして責任感を新入社員に教えることが重要なのです。
正しいビジネスマナーの「型」を教える
新入社員へのビジネスマナー教育では、正しい「型」の知識を教えることも重要です。心の話と矛盾するようですが、ビジネスマナーにおいては「本質」と共に「やり方」が重要であることも間違いありません。
■型の重要性
ビジネスマナーでは基本となる「型」が確立されており、自己流や先輩の真似では通用しないケースもあります。社内で指導する先輩や上司のビジネスマナーが誤っているケースも意外と多いものです。誤ったビジネスマナーを覚えてしまうと、将来、後輩を持ったときに誤ったビジネスマナーを教育してしまい、どんどん劣化コピーになってしまう可能性があります。
だからこそ、初めに正しいビジネスマナーの型を覚えてもらうことが大切です。知識がないまま実務の中で失敗しながら学んでいくやり方は、本人にとって成長実感よりも失敗体験になってしまいがちです。ビジネスマナーに関しては、研修でしっかりと正しい知識を教えることで「しなくて済む失敗」は回避させた方がよいでしょう。
少なくとも、“自分のビジネスマナーが合っているか/崩しているか/間違っているか”を理解できるようにしておくことが大切です。
■型の崩し方も教える
ビジネスマナーに正しい「型」はあっても、時代とともに「OK」の基準は変わります。服装/身だしなみで言えば、クールビズが完全に定着し、夏場のノーネクタイ、ノージャケットが、ほぼすべての業界で「OK」になったことは時代による変化の典型です。
また、デジタルツールの進化によって、手紙からメールにコミュニケーションツールが変化した中で「時候の挨拶がなくなった」ように、ビジネスチャットが普及するにかけて「宛先の記載や定型文」も変わってきました。たとえば、ビジネスチャットでは宛先の記載や定型文を省略したり、簡略化したりすることが普通です。
一方で、ビジネスにおいては、異業界の人、50代・60代の経営者とコミュニケーションすることもあれば、クレーム対応をすることもあります。そのときに正しい「型」を知らないと、営業チャンスを潰したり、火に油を注ぐこともあります。
だからこそ、正しい「型」を教えたうえで、TPOや自社に応じた崩し方を伝えることが大切です。
デジタルネイティブ世代の「コミュニケーションの常識」には注意が必要
「心」と「型」に加えて、最近ではデジタルネイティブ世代の「コミュニケーションの常識」は意識的にフォローしておきたいポイントです。
デジタルネイティブ世代と呼ばれる若年層は、SNSの普及により対人での会話が以前より大幅に減っており、「相手を気遣って話す」ことに慣れる機会が少なくなってきています。また、スマホとLINEが普及したことで、長い文章を書くことにも慣れていません。ビジネスメールや電話対応を指導するうえでは注意が必要です。
さらに若手はSNSやLINEの利用に伴って、スタンプや絵文字を介したやり取りを標準として育ってきています。そうした影響からか、感情表現に関するボキャブラリーが少なくなっており、文字や言葉で感情や意思を伝えることに苦労する傾向もみられます。
スマートフォンが浸透した結果、「固定電話を使ったことがない」新人も一定割合います。そして親世代を含めて、地域のコミュニティがなくなってきた結果、年上とのコミュニケーションに慣れていない傾向も強くなっています。
コミュニケーション分野に関していえば、以前よりも「育ってきた環境の常識」と「ビジネス社会の常識」のギャップが広がっていると言えます。新入社員にビジネスマナー教育をするうえでは、このようなコミュニケーション分野は意外と注意が必要なポイントです。