ライン組織において必要不可欠なポジションとなるのが「ラインマネージャー(ライン管理職)」と呼ばれる役職です。ラインマネージャーのポジションは、IT業界や営業分野、外資系企業などを中心に設置されることが多いものです。本記事では、ラインマネージャー(ライン管理職)の位置づけや仕事内容、必要なスキル、育成方法を紹介します。
<目次>
ラインマネージャー(ライン管理職)とは?
ラインマネージャーとは、ライン組織において「意思決定権をもつ管理職」のことをいいます。欧米では「ダイレクトマネージャー」などと呼ばれることもあります。
“ライン”という表現を聞いて、メーカーの工場などにおける“製造ライン”を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、ラインマネージャーのラインはまったく意味が異なります。
ラインマネージャーは、ライン組織をもつ業種・業態であれば必ず存在するものであり、ライン組織とは、「トップから現場のメンバーまで単一の指揮命令系統で直線的に結ばれている組織」、いわゆるピラミッド組織の概念です。
ラインマネージャーとプロジェクトマネージャーの違い
ラインマネージャーと似た職種に「プロジェクトマネージャー(PM)」があります。プロジェクトマネージャーは、スケジュールや予算を管理し、プロジェクトを円滑に進行する役割を担う役職です。
プロジェクトは継続的な組織ではなく、特定の目的のために構築された期間限定の組織を指す概念です。マネージャーとして果たす役割はある意味では同じですが、担当する組織が違うという概念です。
ラインマネージャーがプロジェクトマネージャーを兼務する場合もあるでしょうし、ラインマネージャーが担当するライン組織内にプロジェクトが設置されて、プロジェクトマネージャーはラインマネージャーの下でプロジェクトを進行する場合もあるでしょう。
ラインマネージャーの種類
ラインマネージャーには、「ファーストラインマネージャー」と「セカンドラインマネージャー」の2種類があります。
ファーストラインマネージャー
ファーストラインマネージャーは、現場と管理職をつなぐ立場のラインマネージャーです。現場の業務をしつつも、チームメンバーのマネジメント・指揮も行います。課長や係長、プレイングマネジャーなどがファーストラインマネージャーのイメージです。
現場の指揮官として部下やチームメンバーの進捗管理をはじめ、育成や評価などが主な業務となります。また、上層部からの指示を現場に伝達したり、現場の意見を吸い上げて上層部に提言したりする役割もあります。
セカンドラインマネージャー
セカンドラインマネージャーは、ファーストラインマネージャーの上位職です。複数のファーストラインマネージャーを統括し、主に組織構築や組織全体のマネジメント業務などを中心に担当します。
日本では、複数の課をマネジメントする部長や事業部長などの役職に相当することが多いでしょう。
ラインマネージャーの仕事内容
具体的なラインマネージャーの仕事内容はどのようなものなのでしょうか。主な仕事内容を3つご紹介します。
行動計画の立案/進捗管理
経営方針に基づき、ライン組織の行動計画を定め、進捗状況をマネジメントします。ラインマネージャーの役割は、担当するライン組織の成果を上げ、目標達成につなげることです。そのためには、自チームのメンバーと目的を共有したり、コミュニケーションを取ったりしながら組織を統括していきます。
ファーストラインマネージャーという立場であれば、自分のチームの部下やメンバーの進捗管理を行うことが必要になりますし、セカンドラインマネージャーであれば、より広範囲のライン組織、複数のファーストラインマネージャーを統括することが求められます。
メンバーの育成と評価、組織開発
組織の成果を上げることを目的に、日々のマネジメントやフィードバック、また研修やOJTなどの手段でメンバーの育成を実施します。メンバー各位が能力や強みを最大限発揮できるよう、適性や強みを把握して適材適所へ人材配置・役割分担することもラインマネージャーの役割です。
また、目標に対する達成度、日々の取り組み、仕事への姿勢などを平等かつ公平に評価すること、チームビルディングやミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の浸透などの組織開発もラインマネージャーの役割になります。
セカンドラインマネージャーも役割としては同じですが、ファーストラインマネージャーのように現場に直接働きかけることよりも、人材育成の仕組みの構築や適切な人員配置の決定、ファーストラインマネージャーの育成などを行うことが中心となります。
意思決定
ファーストラインマネージャーは、担当するライン組織のメンバーと密にコミュニケーションを図りながら、タスクの進捗管理やメンバーの育成・評価に対して意思決定を行います。また、ファーストラインマネージャー間でのコミュニケーションを通じて、ライン間のスムーズな連携を実現することも大切です。
セカンドラインマネージャーは、ファーストラインマネージャーよりも大所高所から意思決定をする役割であり、全体の方針やビジョン、ゴールなどを意思決定する役割を担います。ときには経営陣や事業部長、社外のパートナーとの連携や調整もセカンドラインマネージャーとの役割となるでしょう。
ラインマネージャーに求められる能力・スキル
ラインマネージャーは行動計画の立案や進捗管理、メンバーの育成や評価、意思決定など、多くの業務に携わるため、広範な能力・スキルが求められます。
人格・人間性
経営陣をはじめとした上層部や社外のパートナー、現場のメンバーなど多様な人たちと信頼関係をつくるための「人格・人間性」はラインマネージャーにとって不可欠です。
プレゼンスキルやコーチング、ファシリテーションなど、さまざまなコミュニケーションスキルを身につけていても、根本的な信頼関係を築けなければスキルの効果は半減し、小手先のものとして終わってしまい、組織の成果をあげることはできません。
コミュニケーション力
ラインマネージャーは人を動かして組織の成果をあげる役割であり、高いコミュニケーション力が必要です。先ほど“スキルだけでは意味がない”と記載しましたが、“信頼関係を基盤にしてスキルを身に付けることで高い成果をあげる”ことが求められれているのです。
周囲と円滑なコミュニケーションをするには、自身の考えを伝える発信力と、反対に、相手の意見をくみ取る受信力、双方が欠かせません。
ロジカルコミュニケーションやプレゼンテーション、また、褒める・叱るなどの発信系コミュニケーション力、同時に、傾聴やファシリテーション、コーチングなどの受信系コミュニケーション能力をバランスよく身に付ける必要があります。
思考力
ラインマネージャーは目標設定から計画立案、まだ問題解決など、ロジカルシンキングの能力を多く求められます。ロジカルシンキングは、客観的に物事を捉えたり、因果関係をつかんだり、ゴールから逆算して計画を作成したりするために不可欠な能力です。
特にセカンドラインマネージャーになると、より広範囲に、長い時間軸で、組織の方針やビジョンを描いていかなければいけません。ロジカルシンキングにくわえて、抽象度の高い情報や複雑な事象を概念化し、本質をつかむコンセプチュアルシンキングも求められるようになってくるでしょう。
多角的な視点
ラインマネージャーは、人を動かして組織の成果をあげることが求められます。異なるバックグラウンド、そして、立場、また違う価値観を持った人が集まれば、意見の相違が生じます。ラインマネージャーはこうした意見の相違を調整する、また、立場や見解の違いを想像しながら意思決定していく必要があります。
単一の視点にこだわるのではなく、社内と社外、管理職と現場のメンバー、経験の有無などさまざまな切り口から考察することで、課題解決や意思決定に向けた有益な情報や気づきを得られるようになるでしょう。
業務遂行能力
ラインマネージャーが、すべての業務に精通している必要はありません。とくにセカンドラインマネージャーになってくると現場の実務に携わることは殆どなく、マネジメントに専門する状態になってくるでしょう。
ただし、ファーストラインマネージャーであれば、自分の担当するライン組織で行われる業務について一定の見識は必要です。実務への理解がなければ説得力に欠けてしまい、メンバーがついてきません。
また、ラインマネージャーが身に付けるべき業務遂行能力は、現場での実務能力もありますが、時間管理、タスク管理などのポータブルスキル、セルフマネジメントやセルフリーダーシップとなる部分も大きいでしょう。
やり抜く力(グリット)
グリット(GRIT)とは、Guts(困難に立ち向かう力)、Resilience(失敗しても諦めずに続ける力)、Initiative(自分で目標を見据える力)、Tenacity(最後までやり遂げる力)の英単語の頭文字を組み合わせた造語で、自発的に目標を設定し、困難に見舞われても諦めずに最後までやり抜く力を意味します。
組織で目標達成に取り組んでいくうえで、計画通りに進むことは殆どありません。どれだけきちんと計画を考えても、外部環境の変化、計画通りにいかないこと、組織内の問題などが発生します。
この時、ラインマネージャーがグリットを備え、問題解決の先頭に立つことで、メンバーの生産性や士気にも良い影響をもたらすでしょう。
決断力
ラインマネージャーが優柔不断では、組織は動かず、メンバーからの信頼も損ねてしまいます。決断は何も良い決断ばかりではありません。ときには、失敗を認める決断や、撤退を決断しなければいけないときもあります。
また、ビジネスにおける決断には正解がないことがほとんどです。どれだけロジカルシンキングなどに基づいてきちんと考察しても、最後はラインマネージャーが「決断する」ことを求められます。ラインマネージャーがきちんと決められる決断力を持っていると、ライン組織がきちんと前に進んでいくことができるでしょう。
ラインマネージャーの育成方法
最後に、ラインマネージャーの育成方法をご紹介します。
育成対象と求める役割やスキルを明確にする
一口にラインマネージャーといっても、組織によって求められる役割やスキルは異なります。また、ファーストラインマネージャーとセカンドラインマネージャーでも求められることが変わります。まず、ラインマネージャーに求める役割やスキルを明確にしましょう。
但し、重要なのが、プレイヤーとマネジメントでは適性がまったく異なる点です。どれだけ優秀なプレイヤーでもマネジメントができるとは限りません。プレイヤーとして活躍しているからといって、適性がない人をラインマネージャーに任命すると、結果的に機能しなくなる恐れがあるので注意が必要です。
育成計画の立案
次に、ラインマネージャーを育成するための計画を立案します。前述のとおり、プレイヤーとラインマネージャーは役割が異なり、求められる責任感やスキルも変わってきます。従って、新任のラインマネージャーの育成プログラムは必須といえるでしょう。
一方、研修だけでは、必要なスキルなどが身に付くわけではありません。スキルや姿勢を身に付けるためには「知識のインプット → 実務での実践 → 振り返りによる学び → 次の実践」というサイクルを回すことが必要です。育成計画を立案するうえでは、上記のサイクルを回すことを意識して設計しましょう。
研修やサポートの実施
ラインマネージャー業務をスムーズに開始できるよう、Off-JTと合わせてOJT等の研修も実施します。
特に新任のラインマネージャー研修(新任管理職研修)では、Off-JTで一気に体系的な知識をインプットすることが大切です。ただし、意向は上述した学びと実践のサイクルを回し、実践を通じて知識を定着させることがポイントです。
とりわけ、ファーストラインマネージャーにおいては、セカンドラインマネージャーによる1on1やフィードバックなど、マネジメントを通じた育成も非常に有用な方法の1つとなるでしょう。
まとめ
ライン型組織をマネジメントして、組織の成果に責任を持つのがラインマネージャーです。日本企業では、ラインマネージャーという役職は一般的ではありませんが、ピラミッド型組織における管理職をイメージしてもらえば間違いありません。
ラインマネージャーは、プレイヤーとは異なる広範囲な能力を求められます。記事で紹介した必要能力や育成のポイントを参考に、自社なりの育成手法を構築いただければと思います。
なお、HRドクターを運営するジェイックでは、新任ラインマネージャーが身に付けるべき管理職の役割やヒューマンスキルを学べる「JAICリーダーカレッジ」を提供しています。「Off-JTでの学び⇒職場で実践⇒振り返りと次の学び」のサイクルを実現する継続学習サービスとなっていますので、ご興味あれば資料をご覧ください。
また、ラインマネージャーに必要となるコミュニケーション能力に特化した『人を動かす』リーダーシップ&コミュニケーション研修も提供しています。コミュニケーション研修の権威であるデール・カーネギーのプログラムを基にした公式プログラムです。こちらもご興味あれば資料をご覧ください。
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