採用では、魅力付けも必要ですが、自社の組織において活躍する可能性があるかどうかを見極めることも非常に大切です。
自社で活躍する可能性を見極めるのに有効な面接手法として、よく知られているものにコンピテンシー面接があります。
たとえば、ビジネス経験のある人を獲得するキャリア採用などでは、相手の職務経歴などから一定の情報が読み取れます。
ただ、今までの実績や経験が自社で再現できるとは限りません。しかし、コンピテンシー面接を行なえば、“成果の再現性”という部分を見極められるようになります。
本記事では、コンピテンシー面接がどういうものかについて、注目された背景、コンピテンシー面接に欠かせない構造化面接の特徴、メリット・デメリットを含めて確認します。
また、コンピテンシー面接の導入ステップ、実際の進め方、コンピテンシー面接の限界と現在のトレンドなども紹介します。
<目次>
コンピテンシー面接とは?
コンピテンシー面接とは、活躍人財に共通する「コンピテンシー」に注目した面接手法です。
そもそもコンピテンシーとは何か?
コンピテンシーとは、自社で高い業績・成果につながる行動特性を指す概念です。
たとえば、営業活動でコンスタントに成果をあげているAさんがいたとします。ほかの営業メンバーと比較したとき、Aさんは、新規のお客様に対して必ず以下のことを行なっていることがわかりました。
- 最初の接触から3ヵ月間は、ただお客様の話に耳を傾け続ける
- 販売相手の組織だけでなく、お客様個人にも興味を持つ
多少極論ですが、上記を踏まえると、Aさんは、「誠実な関心を持ち、しっかり傾聴する」という行動特性(コンピテンシー)で成果をあげ続けていることがわかります。
自社におけるほかの優秀なセールスパーソンにも、Aさんと同じ姿勢が共通してみられるとすれば、「誠実な関心を持ち、しっかり傾聴する」というコンピテンシーを持っている人であれば、自社の事業や顧客、営業スタイルが合致しており、優秀な成果をあげられる可能性が高いと判断できるわけです。
コンピテンシー面接が注目された背景
日本でコンピテンシー面接が注目されるようになったのは、バブル経済が崩壊した1990年初頭です。
日本でも中途採用が一般化するなかで、「応募者の見極めをどのようにするか?」という課題が生じてきました。
冒頭で紹介したとおり、中途採用であれば相手の経歴や職歴などで、ある程度の書類選考を実施することは可能です。
ただ、前職で成果をあげていたからといって、自社で成果をあげられるとは限りません。
そもそも仕事の成果は、本人の能力や努力だけに依るものではありません。
たとえば、営業職であれば、市場の環境や製品力、出会ったり引き継がれたりした顧客、時の運による部分もあります。
また、本人の能力や努力で成果を上げていたのだとしても、商品や仕事のスタイル、顧客構造などが変われば、前職での成功パターンが自社で再現できるとは限りません。
こういった点を加味して、経歴や職歴を深掘りしていき、行動特性というところまで踏み込むことで、自社での活躍可能性を見極めようとするニーズに合致したのがコンピテンシーの考え方でした。
コンピテンシー面接に必須となる「構造化面接」
構造化面接とは、事前に決められた質問項目に沿って面接を進める手法です。ただし、事前に決められた質問項目といっても、機械的に質問していくわけではありません。
構造化面接でよく使われる一つのパターンが、STAR面接になります。
STAR面接では、以下の項目(質問)を使って、求職者の過去の実績や行動を掘り下げていきます。そうすることで、求職者の価値観や性格を探っていくやり方です。
- ・S(Situation(状況))
- ⇒具体的な経緯・状況・外部環境 など
- ・T(Task(任務・課題))
- ⇒与えられていた目標・ゴール・役割・責任 など
- ・A(Action(行動))
- ⇒課題解決(目標達成)のために行なった意思決定・行動 など
- ・R(Result(結果))
- ⇒結果や課題解決までのプロセスで学んだこと など
構造化面接と採用基準のチェックシートなどを組み合わせると、ベテランから新人までどのような面接官でも、同じ視点・基準で質問を行ないやすくなります。
コンピテンシー面接と従来型面接との決定的な違い
コンピテンシー面接と従来型面接の大きな違いは、コンピテンシー面接の場合、面接官の能力や主観に左右されにくいことです。たとえば、以下3人の求職者がいたと仮定します。
- Aさん:ハキハキと何でも話すが、実は、大して能力や実績は高くない
- Bさん:初対面で緊張するタイプだが、実は、自社での活躍適性は一番高い
- Cさん:前職で豊富な実績があるが、実は、成果をあげるポイントが自社と全然違う
従来型面接の場合、何でもハキハキ話すAさんのほうが、Bさんよりも能力が高く見えてしまう可能性があるでしょう。
また、豊富な実績を持っているCさんの経験値などに判断が引っ張られてしまいがちな部分もあります。
しかし、構造化面接で決められた質問・評価基準を用意しておくと、「自社で成果をあげるためのコンピテンシーがあるか?」を見た目の印象や実績に左右され過ぎず深堀りしやすくなります(見た目の印象や過去の実績にまったく意味がないということを言っているわけではありませんのでご了承ください)。
コンピテンシー面接のメリット・デメリット
コンピテンシー面接にも、メリット・デメリットがあります。
コンピテンシー面接のメリット
繰り返しになりますが、キャリア採用における前職の実績などと比べると、コンピテンシーには、「自社での活躍可能性」を予測しやすい魅力があります。
特にビジネス経験があれば、異業種からの転職や未経験者などを面接するうえでも活用できるのがコンピテンシー面接の魅力です。
冒頭で軽く紹介したとおり、自社で活躍するコンピテンシーを持った人を採用すれば、知識やスキルを身に付ければ入社後に活躍する可能性が高いと考えられるわけです。
コンピテンシー面接のデメリット
大前提として、自社(採用ポジション)における活躍のコンピテンシーが何かをきちんと分析しなければ、コンピテンシー面接を実施する意味がありません。
また、ビジネス環境での行動経験がない新卒の場合、コンピテンシー面接は実施が難しくなります。
サークルやゼミなどにおける立ち居振る舞い、行動特性は参考にはなりますが、ビジネス現場における行動特性とイコールになりづらいためです。
コンピテンシー面接の導入ステップ
コンピテンシー面接を導入するときには、以下の段階を踏む形になります。各ステップでのポイントと併せて紹介します。
活躍人財のコンピテンシー分析
コンピテンシー面接を導入する場合、まずは、自社のハイパフォーマーへのインタビュー、現場を巻き込んだディスカッションなどを行なって、活躍要因となる行動パターンを見出していきます。
なお、同じ職種等においても、必ずしもコンピテンシーが1パターンとは限らないので注意が必要です。
コンピテンシー基準の作成
次に、「こういった行動や考えができる人は該当のコンピテンシーのレベルが高い(低い)」という評価基準を明確化します。
インターネット上では、一般的なコンピテンシーを網羅したコンピテンシーマップなどが公開されています。こうしたマップを参照すると、コンピテンシー基準の作成を容易に行なえるでしょう。
コンピテンシーを見極める質問内容の考案
コンピテンシー基準だけ作成しても、面接官のスキルが不足すると、しっかりと相手のエピソードを深掘りできません。
これはコンピテンシーではありませんが、たとえば「主体性」というキーワードがあったとき、経験が浅い面接官だと、何が主体性なのか、相手のエピソードをどう深掘りすれば「主体性が高い」と判断できるか分からないでしょう。
コンピテンシー面接を複数の面接官が実施できるようにするには、また、求職者が特定のコンピテンシーを備えているかを見極めるには、「エピソードや体験のこういうポイントを深掘りしていく」「こういう質問をすると良い」というものを準備することが有効です。
コンピテンシー面接の進め方
コンピテンシー面接では、構造化面接の手法を用いて、応募者を以下のように深掘りしていきます。
応募者A:はい、あります
面接官:どういう失敗をしましたか?(状況の確認)
応募者A:新商品の発表イベントがあり、私は準備チームのリーダーでした。しかし、私がうっかりしていて、会場で展示する新商品の注文が遅れてしまいました。
すると、運悪く製造部門からの発送日に大型台風が上陸することになり、輸送の遅れからイベントの準備が進まない問題が生じた次第です。
面接官:そこでAさんは、どのような対応をされたのですか?(行動・意思決定の確認)
応募者A:運送企業の話では、1日遅れで商品が届くということでした。
しかし、イベント当日に間に合わないことから、周辺地域の同期に電話をして、実店舗用の新商品在庫を持ってきてもらうことにしました。
面接官:イベントは開催できたんですか?
応募者A:はい、無事に開催できました。
面接官:良かったですね。失敗をしたことで、何か気付きや学びは得られましたか?(結果の確認)
応募者A:はい、得られました。まず、トラブルが起きても、最後まで諦めないことが大事だということです。
問題に気付いたのは夜だったのですが、同僚が店舗や支社で残業をしていることを信じて電話をしてみました。
すると、みんなはとても協力的で、なかには、マイカーで新商品を運んでくれた人もいました。
また、こういうトラブル時に相談できるように、日頃から良好な関係を築いておくことも大事だと思った次第です。
上記は話の流れだけを記載して表面的なものとなっていますが、実際には深掘りしたいポイントに応じて、応募者の回答をさらに深掘りしていきます。
たとえば、以下のような質問をするとよいでしょう。
- 「リーダー」というのはどのようなポジションで、どの時点から関わっていたのか?
- 注文が遅れたのはどのようなミスなのか?
- 普段からどのようなタスク管理をしているのか?
- トラブルが発覚した時点でまずどのような行動をしたのか?いきなり同期に電話したのか?
- 普段から人間関係を築くために意識している行動はあるか? など
コンピテンシー面接の限界と現在のトレンド
コンピテンシー面接は優れた手法ですが、万能ではありません。また、コンピテンシー面接には、実践難易度が高いという壁もあります。
そこで最近では、コンピテンシーの高低からもう一段踏み込んで、内面的な性格特性などが「自社の活躍基準」と合うかどうかが重要という考え方が主流になっています。
まとめ
コンピテンシー面接とは、優れた人財の行動特性に注目した面接手法です。
過去の実績や面接でのパフォーマンスではなく、行動特性(コンピテンシー)を確認することで、入社後に活躍する可能性、成果の再現性を予測できるという考え方になります。
コンピテンシー面接を実施することで、相手の経歴や職歴、過去の成果等に左右されず、自社での活躍可能性を見極められる、また、異業界や他職種からの転職などでも実施できるという利点があります。
ただし、新卒学生の場合、そもそもビジネス経験がないため、過去のサークルやアルバイトなどの経験から多少予測はできても、きちんとしたコンピテンシー面接を実施することが難しいでしょう。
そうした点もあり、近年では、コンピテンシーに加えて性格特性などの内面に注目する面接がグローバルトレンドになっています。
採用基準のグローバルトレンドに興味がある方は、ぜひ以下の資料に目を通してみてください。