企業に必要なデジタル人材とは?定義や採用・育成のポイントを紹介

更新:2023/07/28

作成:2022/06/10

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

企業に必要なデジタル人材とは?定義や採用・育成のポイントを紹介

経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」を前に、近年の日本企業では、デジタル人材の採用や育成への関心が高まっています。

 

しかし、「デジタル人材」はかなり漠然とした概念です。そのため、デジタル人材の採用・教育をするにあたり、具体的に何をすべきかわからないこともあるでしょう。

 

記事では、デジタル人材の定義を明確にしたうえで、日本企業が抱えるデジタル人材育成の課題やデジタル人材の採用・社内育成のポイントを紹介します。

<目次>

デジタル人材とは?定義やIT人材との違い

 

まず、デジタル人材が求められる背景として、近年の日本企業では、デジタル技術を活用した経営改革の重要性が高まっていることがあります。

 

デジタル技術での経営改革は、最近のビジネス領域で注目されているDX(デジタル・トランスフォーメーション)です。DX推進のプロジェクトでは、大きく分けて以下3ステップの施策が求められます。

  • デジタル技術の活用
  • 顧客や社会ニーズに合った製品やビジネスモデルの変革
  • 組織・プロセス・業務そのもの・企業風土の変革

たとえば、企業が「1.デジタル技術の活用」だけを目的とする場合、IT技術の導入・運用ができる人材さえいれば、目標も容易に達成できるでしょう。

 

一方で、それ以降の「2.ビジネスモデルの変革」や「3.企業風土の変革」を実践するには、
単なるIT知識ではなく、高いビジネススキルや対人スキルを併せ持つ人材が必要です。

 

また場合によっては、必要なITスキルもAIやビッグデータなどの先端領域を扱える技術や知見のある人材が必要となるかもしれません。

 

一般に、「AIなど高いレベルのスキルやIT知識×ビジネスの知見を併せ持ち、DX推進にも携われる人」のことを、デジタル人材やDX人材と呼びます。

デジタル人材の明確な定義と職種

ただし、デジタル人材に、明確な定義はありません。情報処理推進機構の「IT人材白書2020」では、DXに対応する人材の定義として、以下のようにさまざまな職種や役割を記載しています。

  • プロダクトマネージャー
  • ビジネスデザイナー
  • テックリード
  • データサイエンティスト
  • 先端技術エンジニア
  • UI/UXデザイナー
  • エンジニア/プログラマー

IT人材白書2020(独立行政法人 情報推進機構 社会基盤センター編)

 

デジタル人材の具体的な職種や定義は、各企業のDX推進の状況などによって変わります。

デジタル人材とIT人材の違い

これまで、デジタル人材と同じようなニュアンスで言われてきたのがIT人材です。両者はどのように異なるでしょうか。

 

IT人材に求められるのは、IT技術を駆使して情報システムを導入し、運用することです。IT人材の仕事は、業務やビジネスのIT化やデジタル化であるといえます。

 

一方で、デジタル人材やDX人材は、ビッグデータやAIなどの高度なIT技術を使い、企業やサービスに新しい価値を提供することです。

 

デジタル人材は、IT人材と比較すると、より「ビジネス」自体を変えていくことが求められ、マーケティングやサービス提供に関する知見が必要となります。

 

デジタル人材の採用や育成をするときには、IT人材とデジタル人材の違いを把握したうえで、自社に合う人材の要件定義をする必要があるでしょう。

日本企業が抱えるデジタル人材育成の課題

日本国内では、多くの企業がデジタル人材を求める一方で、以下の理由から獲得や育成が難しくなっています。

 

デジタル人材の不足

AIやビッグデータ活用などの最新技術は、まだ歴史が浅いことから、豊富な知見を持つ人材自体が日本国内に少ない実情があります。

 

また、DX推進を主導できるハイレベルなデジタル人材は、テックベンチャーや外資IT企業に集中しやすく、一般の中小企業ではデジタル人材の獲得が難しくなっています。

人材育成の怠り

欧米と比較した場合、日本企業は、デジタル人材に限らず、優秀人材や技術への投資が不足している傾向があります。

 

また、日本企業には、大企業を中心にシステム開発や運用を外部企業へ丸投げしてきた慣習がありました。丸投げの結果、内部のIT人材・デジタル人材の育成が阻害されてきたことも、デジタル人材が不足している要因になっています。

 

マネジメント力の不在

多くの日本企業には、デジタル人材の能力を引き出し、活躍させるための目標管理や評価制度が整備できていません

 

また、そもそも経営陣がデジタル技術やDX推進への理解が薄く、優秀なデジタル人材を獲得できない、そもそも自社のDX方針を企画できないといった傾向もあります。

デジタル人材を採用するための取り組み

企業に必要なデジタル人材とは?定義や採用・育成のポイントを紹介

 

先述のとおり、デジタル人材の採用・育成は、多くの企業にとって急務でありながらも、実際にはなかなか進んでいない実情があります。

 

こうした状況下で、自社のニーズに合ったデジタル人材を獲得し、企業変革などを続けてもらうには、採用活動で以下のポイントを押さえておく必要があります。

能力を活用できる環境の用意

高度なスキルを持つデジタル人材は、仕事を通して活躍して、また、知見や技術をもっと増やしたいと考えています。

 

そのため、デジタル人材を採用するには、給料や役職などの待遇だけでなく、実際に活躍できるプロジェクトの用意も必要です。入社時点で能力を活かせる仕事がない場合、早期離職されてしまう可能性が高まるでしょう。

 

幅広い採用手法の活用

デジタル人材は、IT転職の市場でも引く手あまたです。そのため、一般企業が求人を出して待っているだけでは、基本的に獲得できません。デジタル人材を獲得するには、自社に合った幅広い採用手法を使うことが大切になります。

 

たとえば、人材紹介(エージェント)には、一般の求人サイトよりもハイレベルな人材が多く登録しています。エージェントによる登録者との調整代行サービスなどを活用すれば、優秀なデジタル人材を獲得するまでのコストも抑えられるでしょう。

 

また、優秀なデジタル人材に積極的なアプローチをしたい場合は、攻めの採用と呼ばれるダイレクト・リクルーティングや、自社メンバーに友人知人などを紹介してもらうリファラル採用もおすすめです。

充実した待遇の用意

デジタル人材に高いモチベーションで仕事をしてもらうには、以下のような待遇面の充実も大切です。

  • 給与
  • 労働条件
  • 福利厚生 など

前述のとおり、デジタル人材は待遇面だけで惹きつけられるものではありませんが、現在のデジタル人材不足の状況下において、デジタル人材が希望する待遇面が自社の給与テーブルや等級制度に合わず、中途採用に苦労している企業が多いことも事実です。

採用だけでなく定着させる戦略

デジタル人材の採用は、簡単なものではありません。だからこそ、獲得した人材に長く活躍してもらえる仕組みをつくることも大切になります。

 

株式会社NTTデータ経営研究所の調査結果によると、デジタル人材の定着には、自社のワークライフバランスの充実化が大きく関係しています。

 

前述のやりがいを感じるプロジェクトや環境に加えて、以下のような仕組みや制度があると、デジタル人材のワークライフバランスの充実から、定着率もアップさせやすくなるでしょう。

  • 有給休暇をとりやすい雰囲気
  • レクリエーションや健康管理などの福利厚生の充実
  • 柔軟な働き方ができる仕組み
  • 資格取得やスキルアップのサポート など

「デジタル人材定着に向けたアンケート調査」デジタル人材の定着には、上司の選定とワークライフバランスの推進が重要~多様化するデジタル人材の活用に向けて~(株式会社NTTデータ経営研究所)

適切な目標設定・評価制度の運用

デジタル人材に高いモチベーションで仕事をしてもらうには、適切な目標設定も大切です。デジタル人材の採用段階では、いままでの評価や給与テーブルで対応できない場合も多いです。
場合によっては、イレギュラーを作ることが必要なケースもあります。

デジタル人材を社内で育成する方法

優秀なデジタル人材の獲得の難易度は非常に高いです。中小企業の場合は、特に獲得の難易度が高まります。

 

コストや認知度などの問題でデジタル人材の採用が難しい場合、以下のステップを実践しながら既存社員をデジタル人材として育成することも選択肢として考えるとよいでしょう。

 

自社が取り組みたいデジタル化領域を明確にする

先述のとおり、デジタル人材の職種や役割、活躍領域は、非常に幅広いです。そのため、自社でデジタル人材の育成・採用をした場合、どのようなデジタル化を進めたいのかを検討することが大切です。

  • デジタルツールの活用
  • デジタルマーケティング
  • UXデザイン
  • AI活用
  • 事業のDX化 など

注目される育成手法「リスキリング」とは?

リスキリングとは、仕事の変化に適応するために、必要な技術や知識の獲得をする(させる)取り組みです。

 

デジタルツールを導入することで、いままで手作業でやっていた作業を自動化すれば、その仕事をしていた人には新たなスキルを覚えてもらって違う仕事を担当してもらう必要があります。

 

また、職場の人に新たなツールを使いこなせるように学んでもらう必要もあるでしょう。DX化にともなって、リスキリングが必要なるケースが多くなります。

 

リスキリングとは ‐DX時代の人材戦略と世界の潮流‐(リクルートワークス研究所 石原直子氏)

育成のためのコンテンツは社外からも調達できる

IT以外の事業を行なう中小企業の場合、「誰がデジタル教育を実施するのか?」という課題も生じやすいでしょう。
育成のためのコンテンツは、GoogleやMicrosoftなどが提供しているマイクロ・クレデンシャルなどを有効活用することもおすすめとなります。

 

また、各ツールベンダーなどでも、自社ツールを活用するための研修やコンテンツを提供しています。DX推進で導入予定のツールやシステムがある場合は、ベンダーに教育コンテンツがあるかどうかを問い合わせてみてもよいでしょう。

学びのインセンティブを用意する

たとえば、デジタルネイティブである若手社員にデジタル技術を学習してもらうとします。

 

このとき、企業に年功序列の古い評価制度が残っており、どれだけデジタル技術への知見を高めても地位や給料なども変わらなければ、若手社員のモチベーションが下がってしまうでしょう。
それどころか、学び終わったところで、好待遇が期待できる企業に転職してしまうこともよくあります。

 

デジタル人材の学びへのモチベーションを高めるには、成長によるインセンティブ(処遇)を与える制度や仕かけも必要になります。

実践の機会を提供する

外部コンテンツや外部研修などで学んだことは、実践と振り返りを繰り返さなければ身に付きません。知識やスキルを本当の意味で習得させるには、外部コンテンツでの学習だけでなく、DX推進プロジェクトなどの現場で実際にアウトプット、活用することが必要です。

 

当たり前の話ですが、学ばせるからには実際にやってもらう、自社のDX化を進めるという決意が必要です。

まとめ

デジタル人材とは、高度なデジタル技術を活用してビジネスモデルや企業風土などの変革ができる人材の総称です。DX人材と呼ばれることもあります。

 

近年では、「2025年の崖」を前に多くの日本企業がDX推進に取り組む必要に迫られており、デジタル人材への注目度も高まっています。結果的にデジタル人材は、売り手市場となってます。デジタル人材の採用に取り組む場合、以下のポイントを大切にしましょう。

  • デジタル人材を採用するための取り組み
  • 能力を活用できる環境の用意
  • 幅広い採用手法の活用
  • 充実した待遇の用意
  • 採用だけでなく定着させるための戦略
  • 適切な目標設定・評価制度の運用

高い待遇などを用意できない中小企業の場合、優秀なデジタル人材の獲得はとくに難しい実情があります。既存社員をデジタル人材として育成する場合、以下のポイントを大切にしましょう。

  • 自社が取り組みたいデジタル化領域を明確にする
  • 育成のためのコンテンツを社外から調達する
  • 学びのインセンティブを用意する
  • 実践の機会を提供する

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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