企業が採用活動を行なう際、以下のような問題が起こることがあります。
- 求人広告をたくさん出稿しているのに、求める人材がまったく集まらない
- 入社した新人の多くが、1年以内に離職してしまう
- 入社後の活躍状況の個人差が大きい
こうした課題を抱える企業でよくある要因の一つが「新卒採用の採用基準が不明瞭」という問題です。
本記事では、まず採用基準とは何か、また、採用基準の欠如で起こる問題を整理します。
加えて、新卒採用で重視すべき項目、新卒の採用基準を作る際のポイント、作成した採用基準の運用方法を解説します。
<目次>
採用基準とは?
採用基準とは、求職者が「自社の求める人材かどうか?」を判断するための基準です。
採用活動をする前に、明確な採用基準を決めておくことで、求職者本人のスキルや受け答え、過去の経歴などに関して、客観的な判断ができるようになります。
採用基準の欠如で起こる問題
採用基準が明確になっていない場合、求職者の評価が、面接官の価値観や感覚に依存しやすくなります。
そうすると、“面接官が変わると判断基準が変わってしまう”“面接官の状態によって採用基準が上下する”“面接などで生じる心理バイアスに影響されやすくなる”といった問題が生じてしまいます。
面接などで生じる心理バイアスは、例えば以下のようなものです。
- 第一印象が良い→きっと営業で活躍してくれるだろう
- ◯◯大学の出身だ→私と同じだから何か良いな
- 前職は株式会社◯◯だ→新卒で大手に入ったならきっと優秀だ
- 前職が同業界だ→経験があるからきっと即戦力になる
- 口下手で話がおもしろくない→成果を出せる人材ではない など
新卒採用で重視すべき項目とは?
新卒採用の採用基準に盛り込むべき項目は、何でも良いわけではありません。
もちろん詳しい項目には、企業や職種によって異なる部分もありますが、基本的には、以下の3項目を軸に採用基準を考えていくとよいでしょう。
行動特性(コンピテンシー)
コンピテンシーとは、自社で活躍するうえで必要となる以下のような行動特性のことです。
- コミュニケーションにおいて「理解するために傾聴する」習慣がある
- レスポンスが早い
- 自分で考えて決断する習慣がある など
コンピテンシーは、自社で実際に成果を出しているハイパフォーマーの分析を通して把握するものとなります。
実際の面接では、構造化面接の手法で過去の体験やエピソードを深掘りすることで、コンピテンシーを見極められるでしょう。
性格特性や動機
性格特性や動機は、人間の内面のことです。性格特性や動機は、幼少期・青年期に構築されて、成人後は変化しにくい傾向があります。
また、性格特性や動機は、行動パターンや意思決定の要因になってくるものです。
一方、面接では、性格特性の見極めが難しい部分もあります。したがって、面接だけに依存するのではなく適性検査などと併用することがおすすめです。
なお、性格特性には、良い/悪いがあるわけではありません。例えば、性格特性のひとつに「ストレス耐性」があります。
ストレス耐性は高ければ高いほど良いと思われがちですが、実際には異なります。
確かに“後天的に身に付けたスキル(≒レジリエンス)としてのストレス耐性”は高いほうが良いのですが、性格特性レベルのストレス耐性は一種の“鈍感さ”を示すものでもあります。
ストレス耐性が高すぎると対人感受性の鈍さにつながってきますので、ホスピタリティを大切にしたい会社などでは活躍しにくい要因となることも有り得ます。
このように性格特性は、コンピテンシーと同じように、自社(採用ポジション)で活躍するために「どのような性格特性が必要か?」という自社モデルを作成することが大切です。
地頭や思考力
コンピテンシーや性格特性・動機がマッチしたとしても、仕事内容によっては地頭力や思考力が一定レベル以上なければ、仕事で成果を出すことができません。
たとえば、経営コンサルタントやエンジニア、研究開発職など、知識のインプットや論理性、思考力などが必要な仕事を想像するとわかりやすいでしょう。
地頭力や思考力は、適性検査のうち能力検査で見極めるのがおすすめです。ただし、論理や数理、認知など、どの分野の思考力がどの程度必要なのかは、仕事によって変わります。
したがって、コンピテンシーや性格特性と同じように、社内で既存社員を対象に分析することが大切です。
新卒の採用基準を作る際のポイント
新卒の採用基準を作るときには、以下のポイントを大切にする必要があります。
自社の業務内容や社風にマッチした採用基準を作る
自社で活躍する可能性の高い人材の基準は、「どういう環境でどのような仕事をするか?」によって異なります。世間一般的な基準を参考にした場合、採用ミスマッチを起こしやすくなるでしょう。
自社で活躍できる新卒を採用するには、社内のハイパフォーマーを参考にして、自社オリジナルの基準を作ることが大切です。
採用基準の認識を社内で一致させる
たとえば、上層部・人事担当者・現場の管理職の「優秀な人材の基準」が異なる場合、実際の現場配属のあとでミスマッチが生じたり、離職者が続出したりする可能性が高くなります。
採用後の現場で活躍できる新卒学生を採用するには、上層部・人事担当者・現場が連携し、統一された認識で採用基準を作る必要があります。
現実的な採用基準を設定する
採用基準を作る際には、自社の採用力と現状を踏まえた設定が重要です。
自社の集める力(採用ブランド×マーケティング力)や、口説く力(求人内容×営業力)とかけ離れたところで採用基準を作っても、基準を満たす人は応募してこないでしょう。
また、もし基準を満たす人材を採用できたとしても、既存社員との間にレベルの開きがあると、早期離職の要因になってしまいます。
特に新卒の優秀層は、先輩や上司に失望すると容易に離職が生じます。
採用基準を作る際には、こうしたことを踏まえて、ある程度は現実的な基準にすることが必要となります。
現実的な基準を作るためには、採用基準において必須条件と希望条件を区分けすることも有効です。
作成した採用基準の運用方法
採用基準は、作って終わりではありません。採用基準の効果性を高めるには、以下のポイントを大切にしながら運用する必要があります。
選考ステップごとに採用基準は変えても良い
最終的な採用基準は、もちろん企業内で統一されている必要があります。
ただし、場合によっては、選考ステップ内で採用基準のどこを重点的に見て合否を決めていくかを分担してもよいでしょう。以下のようなイメージです。
- 一次面接:基本的な就業意欲とコミュニケーション力、論理性を見る
- 適性検査:性格特性と地頭を確認
- 二次面接:主体性(リーダーシップ)と動機を中心に深掘りする
- 最終面接:キャリア志向と志望度を確認する
主観が入らないように定義や確認プロセスを言語化する
たとえば、主体性(セルフリーダーシップ)は、多くの企業が採用基準に加える単語です。
主体性(セルフリーダーシップ)という基準が悪いわけではありませんが、抽象的な単語だけの採用基準にすると、面接官によって解釈が違ったり、適切に面接内でヒアリングできなかったりする場合があります。
「採用基準の主体性(セルフリーダーシップ)」とは、“自らの意思でゴールを決めて、達成に向けて自分で選択して決める力”を指します。
- 1.進学、サークルやクラブ・ゼミの選択、ガクチカなどにおける“ゴール設定と達成に向けた選択”プロセスをヒアリングしたうえで、
- 2.“ゴール設定、また目標達成に向けて(困難を乗り越えて)、自分自身の意思と責任で選択した”経験がどれぐらいあるかを確認して評価する
といった形で、採用基準の単語を具体的に説明、また見極め方法まで言及することで、採用基準への認識にズレが生じないようにすることが大事です。
構造化面接との併用もおすすめ
採用基準の多くは、抽象的な基準となります。しかし、抽象的な基準を確認するのに、抽象的な質問をしているとミスマッチが生じやすくなります。
したがって、自社の求める新卒学生を採用するには、上述した主体性の確認方法のように、構造化面接のアプローチと組み合わせて、エピソードなどをしっかりと深掘りしていくことが大切です。
まとめ
新卒採用を成功させるには、明確な採用基準を作り運用することが大切です。新卒採用の採用基準では、以下の3分野を組み合わせて項目を考えるとよいでしょう。
- 行動特性(コンピテンシー)
- 性格特性や価値観
- 地頭や思考力
新卒の採用基準の作成では、自社の業務内容や社風を踏まえて自社独自の基準をつくり、基準への認識を社内で一致させる必要があります。
採用活動を成功させるためには自社の採用力や現状を踏まえたうえで現実的な採用基準を作ることも大切です。
また、採用基準を運用するにあたっては、構造化面接や適性検査なども上手に活用することが有効です。