採用活動の中で「内定取り消し」はどこまで認められるものなのでしょうか。
本記事では、内定と内定取り消しの法的な意味合い、内定取り消しが認められるケース、違法になるケースなども紹介します。
また、内定取り消しをスムーズに実施するための流れも解説しておきますので、ぜひご覧ください。
<目次>
そもそも「内定」とは?
採用活動における内定とは、雇用契約(労働契約)の成立に向けて、企業側が応募者に対して採用の意思を表明することを指します。
よくある流れとしては、内定通知書と労働条件通知書を兼ねた書面を発行し、候補者から内定承諾書が提出されることで労働契約(雇用契約)が成立します。
そして、企業が内定を出してから入社するまでの期間が「内定状態」となります。
なお、労働条件通知書は雇用契約の締結に際して、企業が必ず発行する必要がある書類です。
一方で、内定通知書や内定承諾書などは、法的に定めがある書類ではありません。
内定と内々定の違い
内々定とは、企業が正式に内定を表明する前段階で、内定を予定している旨を内々に伝えることを指します。一般的に書類等が発行されることはありません。
日本においては、新卒採用の慣行として政府が実施する「就職・採用活動に関する要請」(過去には経団連が定めていた「採用選考に関する指針」に相当するもの)があり、大学卒・大学院卒の採用活動について、以下のように定めています。
- ●採用広報解禁:卒業・修了前年度の3月1日以降
- ●採用選考の解禁:卒業・修了前年度の6月1日以降
- ●内定解禁:卒業・修了前年度の10月1日以降
- *参照:就職・採用活動に関する要請
2018年に経団連が採用選考に関する指針を自らは定めないことを発表して以降、さらに形骸化が進んでいますが、10月1日の内定解禁は「内定式」という形になり一般に浸透しています。
結果として、9月30日まで、もしくは5月31日の採用選考解禁までを内々定として取り扱うケースが多くなっています。
口頭による内定に法的効力はある?
法的には口頭であっても契約等は成立します。従って「企業による意思表示」としては十分に効力があるものです。
ただし、口頭のみでの意思表示になると、後から“言った/言わない”の問題にもなりますので、法的に争う際は材料として弱くなってくるでしょう。
なお、雇用契約に関しては、労働基準法第15条、労働準法施行規則第5条の規定により、非雇用者に対して労働条件通知書を書面(2019年4月以降は電磁的方法も含む)で通知することが義務となっています。
従って、労働条件通知書がきちんと提示・通知されていない限り、口頭、また労働条件通知書で定められた労働条件の記載がない内定通知書と承諾書だけで雇用契約が成立することはありません。
内定取り消しとは?
まず、労働条件通知書を兼ねた内定通知書に対して内定承諾書が提出された状態は、労働契約(雇用契約)が成立している状態であり、内定の取り消しは「解雇」に相当するものと考えられます。
したがって、そもそも内定を出したプロセス自体に大きな瑕疵があった、もしくは会社として解雇せざるを得ない客観的・合理的かつ社会通念上相当であると判断される要件がなければ、内定取り消しは不当なものであり、違法とみなされます。
本記事の以下では、上述した「雇用契約が成立している状態に対する内定取り消し」に関して、詳細に解説していきます。
なお、雇用契約が成立していない状態だとしても、会社として「雇用契約を結ぶ」意思表示をした以上は、基本的に上記に準ずると考えられます。
内定取り消しが認められる正当な理由・条件ここでは、採用内定の取り消しが認められる可能性が高い6つのケースを紹介します。
5つのケースは内定者個人に関する要件、1つは会社の経営状況に起因する要件です。
傷病で働けなくなった場合
内定者が病気や怪我、事故などで長期入院が必要となり、通常の業務を行えなくなった場合、内定取り消しが認められる可能性があります。
ただし、内定者の持病や既往歴を企業側が把握している場合、また、就労に大きな影響を与えない程度の病状である場合は、正当な内定取り消し事由にはなり得ません。
経歴詐称や虚偽の記載が発覚した場合
経歴とは、学歴や職歴、犯罪歴などを含むすべてです。
例えば、学歴をよく見せるために虚偽の記載をした、大手会社で常駐業務をしていただけなのに「大手会社勤務」と、誤認されるような職歴記載をしている、犯罪歴を秘匿するなど、大小さまざまです。
経歴詐称といっても、軽微なものや故意ではないものに関しては、正当な内定取り消し事由とは認められない可能性が高いです。
内定取り消しが認められるケースとしては、下記のようなものが考えられます。
- 過去複数回にわたり、業務に関わる重大な犯罪を犯している
- 学卒であるのに、院卒と詐称するなど、賃金設定等にも関わる学歴詐称
- 保有していない免許や資格があるように記載するなど、業務遂行に関わる職歴詐称
逮捕された場合
本採用の前に、内定者が刑事事件などで逮捕された場合、内定取り消しが認められる可能性が高いです。
ただし、逮捕後、すぐに釈放となったり、無罪判決が下されたりした場合は、内定取り消しが認められないことがあります。
反社会的勢力とのつながりが発覚した場合
内定した後に、内定者が反社会的勢力とのつながりがある、または内定者自身が反社会的勢力であることが発覚した場合は、内定取り消しを行うことができます。
2007年に政府が発表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」により、各都道府県は「暴力団排除条例」を制定しています。
そして、条例制定後には、企業は「反社会的勢力に対する基本姿勢の宣言」や、契約書に反社条項(暴排条項)を記載することが義務付けられました。
ただし、反社会的勢力との関連性が低く確たる証拠がない場合は、内定取り消しが困難なこともあります。
入社要件を満たせない場合
業務上必要な資格や免許の取得が間に合わなかった、単位が足りず大学や専門学校などを卒業できないなど、入社要件を満たせなかった場合、内定取り消しが認められることがあります。
整理解雇が必要な場合
内定取り消しが認められる最後のひとつは、会社自体が既存の従業員も含め整理解雇(会社都合による解雇)を検討せざるを得ない状況です。
整理解雇が認められるには、以下の4つの要件を満たすことが必要です。
1.人員削減の必要性
会社の経営が困窮しており、すぐさま人員削減をしないと倒産の危機を迎えるような状況を指します。
経営状態を示す売上や負債など具体的な根拠が必要になります。
2.解雇回避の努力
希望退職者の募集や、役員報酬の削減、配置転換など、解雇回避をした努力があるかが重要です。
3.解雇する人材の合理性
合理的かつ適正な判断でなされた解雇なのか。人事や経営層の個人的かつ感情的な意思決定であれば、不当解雇とみなされます。
4.解雇手続きの妥当性
解雇の根拠や必要性、また解雇の時期や方法が適切であったかが問われます。
以上4つすべてを満たせば整理解雇が認められます。
この場合は「解雇する人材の合理性」を満たしたうえで対象に内定者が含まれれば、内定取り消しは妥当と判断されるでしょう。
内定取り消しが違法になるケース・事例ここでは、内定取り消しが違法・無効になるケースや事例についてご紹介します。うっかりやってしまいがちな項目もあるため、ぜひチェックしてみてください。
水商売で働いた経験があることが分かった
水商売で働いていたことを理由に、内定取り消しを行うことは、職業選択の自由を侵害する行為にあたるため、違法と判断されます。
日本国憲法第22条第1項において、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転および職業選択の自由を有する。」と規定されており、合理的な事情がない限り、内定取り消しは認められません。
妊娠が発覚した
男女雇用雇用機会均等法9条4項において、妊娠中の女性および出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇または内定取り消しは無効とされており、正当な取り消し事由になり得ません。
また、採用面接の段階で、結婚の予定や妊娠の有無を尋ねることも、男女雇用機会均等法第5条で禁止されているため、注意しましょう。
もし、入社前に妊娠や出産が発覚した場合は、産休(産前産後休業)や育休(育児休暇)で対処する必要があります。
宗教や信仰に起因するもの
宗教や信仰などを理由に内定取り消しをすることは、日本国憲法第19条で規定されている「思想信条の自由」に反するため、違法と認められる可能性が高いでしょう。
ただし、強引な手段で他内定者を勧誘している、過去に勧誘などを理由にトラブルを起こしているなどの事情がある場合は、その限りではありません。
定員がいっぱいになった
定員はあくまで会社都合です。たとえば、「内定を10人に出して、採用予定であった5名から承諾をもらったので、残り5名の内定を取り消す」といったことは認められない可能性が高いでしょう。
ただし、内定を通知する時点で「内定を承諾するか否かの返事をいつまでにして欲しい。
期限までに返答がなかった場合は、内定は辞退するものとみなす」という条件を合意することは違法にはなりません。
社風に合っていない
「社風に合わないことが分かった」といった理由で内定取り消しをすることは認められません。
社風への適合度等は選考段階で十分に見極めることはできるはずのものであり、内定を出してから“選考段階で見極められるはずの情報”を基に内定取り消しにすることは認められません。
内定取り消しによって発生するリスク内定取り消しの判断が適切であったとしても、内定者からすれば“人生の設計が狂う”ような話です。
内定者からは悪印象を抱かれがちですし、真摯に対応をしなければ、悪評が立ったり、訴訟リスクなどにつながったりする恐れもあります。
ブランドイメージの毀損
SNSやブログ、口コミなどによる情報の流布で、ブランドイメージが毀損する恐れがあります。
近年は、影響力を持たない個人が発信した投稿が、数分、数時間で広く拡散されてしまう例も少なくありません。
最悪の場合、炎上騒動に発展して事業活動や資金調達などにマイナスの影響をもたらします。
訴訟リスクや損害賠償請求
繰り返しますが、内定取り消しは内定者にとっては人生設計が狂うような事案になりえます。
たとえ正当な理由であっても、状況によっては訴訟リスクが生じます。訴訟に負ければ、損害賠償請求が認められるケースもあるでしょう。
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