ここでは、採用内定の取り消しが認められる可能性が高い6つのケースを紹介します。
5つのケースは内定者個人に関する要件、1つは会社の経営状況に起因する要件です。
傷病で働けなくなった場合
内定者が病気や怪我、事故などで長期入院が必要となり、通常の業務を行えなくなった場合、内定取り消しが認められる可能性があります。
ただし、内定者の持病や既往歴を企業側が把握している場合、また、就労に大きな影響を与えない程度の病状である場合は、正当な内定取り消し事由にはなり得ません。
経歴詐称や虚偽の記載が発覚した場合
経歴とは、学歴や職歴、犯罪歴などを含むすべてです。
例えば、学歴をよく見せるために虚偽の記載をした、大手会社で常駐業務をしていただけなのに「大手会社勤務」と、誤認されるような職歴記載をしている、犯罪歴を秘匿するなど、大小さまざまです。
経歴詐称といっても、軽微なものや故意ではないものに関しては、正当な内定取り消し事由とは認められない可能性が高いです。
内定取り消しが認められるケースとしては、下記のようなものが考えられます。
- 過去複数回にわたり、業務に関わる重大な犯罪を犯している
- 学卒であるのに、院卒と詐称するなど、賃金設定等にも関わる学歴詐称
- 保有していない免許や資格があるように記載するなど、業務遂行に関わる職歴詐称
逮捕された場合
本採用の前に、内定者が刑事事件などで逮捕された場合、内定取り消しが認められる可能性が高いです。
ただし、逮捕後、すぐに釈放となったり、無罪判決が下されたりした場合は、内定取り消しが認められないことがあります。
反社会的勢力とのつながりが発覚した場合
内定した後に、内定者が反社会的勢力とのつながりがある、または内定者自身が反社会的勢力であることが発覚した場合は、内定取り消しを行うことができます。
2007年に政府が発表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」により、各都道府県は「暴力団排除条例」を制定しています。
そして、条例制定後には、企業は「反社会的勢力に対する基本姿勢の宣言」や、契約書に反社条項(暴排条項)を記載することが義務付けられました。
ただし、反社会的勢力との関連性が低く確たる証拠がない場合は、内定取り消しが困難なこともあります。
入社要件を満たせない場合
業務上必要な資格や免許の取得が間に合わなかった、単位が足りず大学や専門学校などを卒業できないなど、入社要件を満たせなかった場合、内定取り消しが認められることがあります。
整理解雇が必要な場合
内定取り消しが認められる最後のひとつは、会社自体が既存の従業員も含め整理解雇(会社都合による解雇)を検討せざるを得ない状況です。
整理解雇が認められるには、以下の4つの要件を満たすことが必要です。
1.人員削減の必要性
会社の経営が困窮しており、すぐさま人員削減をしないと倒産の危機を迎えるような状況を指します。
経営状態を示す売上や負債など具体的な根拠が必要になります。
2.解雇回避の努力
希望退職者の募集や、役員報酬の削減、配置転換など、解雇回避をした努力があるかが重要です。
3.解雇する人材の合理性
合理的かつ適正な判断でなされた解雇なのか。人事や経営層の個人的かつ感情的な意思決定であれば、不当解雇とみなされます。
4.解雇手続きの妥当性
解雇の根拠や必要性、また解雇の時期や方法が適切であったかが問われます。
以上4つすべてを満たせば整理解雇が認められます。
この場合は「解雇する人材の合理性」を満たしたうえで対象に内定者が含まれれば、内定取り消しは妥当と判断されるでしょう。
内定取り消しが違法になるケース・事例
ここでは、内定取り消しが違法・無効になるケースや事例についてご紹介します。うっかりやってしまいがちな項目もあるため、ぜひチェックしてみてください。
水商売で働いた経験があることが分かった
水商売で働いていたことを理由に、内定取り消しを行うことは、職業選択の自由を侵害する行為にあたるため、違法と判断されます。
日本国憲法第22条第1項において、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転および職業選択の自由を有する。」と規定されており、合理的な事情がない限り、内定取り消しは認められません。
妊娠が発覚した
男女雇用雇用機会均等法9条4項において、妊娠中の女性および出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇または内定取り消しは無効とされており、正当な取り消し事由になり得ません。
また、採用面接の段階で、結婚の予定や妊娠の有無を尋ねることも、男女雇用機会均等法第5条で禁止されているため、注意しましょう。
もし、入社前に妊娠や出産が発覚した場合は、産休(産前産後休業)や育休(育児休暇)で対処する必要があります。
宗教や信仰に起因するもの
宗教や信仰などを理由に内定取り消しをすることは、日本国憲法第19条で規定されている「思想信条の自由」に反するため、違法と認められる可能性が高いでしょう。
ただし、強引な手段で他内定者を勧誘している、過去に勧誘などを理由にトラブルを起こしているなどの事情がある場合は、その限りではありません。
定員がいっぱいになった
定員はあくまで会社都合です。たとえば、「内定を10人に出して、採用予定であった5名から承諾をもらったので、残り5名の内定を取り消す」といったことは認められない可能性が高いでしょう。
ただし、内定を通知する時点で「内定を承諾するか否かの返事をいつまでにして欲しい。
期限までに返答がなかった場合は、内定は辞退するものとみなす」という条件を合意することは違法にはなりません。
社風に合っていない
「社風に合わないことが分かった」といった理由で内定取り消しをすることは認められません。
社風への適合度等は選考段階で十分に見極めることはできるはずのものであり、内定を出してから“選考段階で見極められるはずの情報”を基に内定取り消しにすることは認められません。
内定取り消しによって発生するリスク
内定取り消しの判断が適切であったとしても、内定者からすれば“人生の設計が狂う”ような話です。
内定者からは悪印象を抱かれがちですし、真摯に対応をしなければ、悪評が立ったり、訴訟リスクなどにつながったりする恐れもあります。
ブランドイメージの毀損
SNSやブログ、口コミなどによる情報の流布で、ブランドイメージが毀損する恐れがあります。
近年は、影響力を持たない個人が発信した投稿が、数分、数時間で広く拡散されてしまう例も少なくありません。
最悪の場合、炎上騒動に発展して事業活動や資金調達などにマイナスの影響をもたらします。
訴訟リスクや損害賠償請求
繰り返しますが、内定取り消しは内定者にとっては人生設計が狂うような事案になりえます。
たとえ正当な理由であっても、状況によっては訴訟リスクが生じます。訴訟に負ければ、損害賠償請求が認められるケースもあるでしょう。
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内定取り消しを行う手順
内定取り消しをする際、内定者に一方的に通告するような形で実施すると、前述したようなトラブルが生じがちです。
取り消しに至った背景や事情をしっかり説明するとともに、内定取り消し通知書を送付します。
また、必要であれば示談や和解交渉を行い、合意書を締結することが大切です。ここでは、内定取り消しをスムーズに行うための手順を解説します。
手順①内定段階で内定取り消しになり得る事由を明記する
万が一、候補者に非があったとしても、内定取り消しを撤回するように請求されることもあります。
内定通知書や労働条件通知書に、内定取り消しがあり得ることや内定取り消し事由について記載をしておくことが、トラブルを回避することにつながります。
手順②事情の説明
いきなり内定取り消し通知書を送付するのではなく、事前に事情説明を行いましょう。いきなり通知書を送付すれば、候補者は困惑してしまうでしょう。
対面または電話で背景や事情を丁寧に説明し、また聞かれた質問や不明点には真摯に対応することで、のちの訴訟リスクや損賠賠償請求といったリスクを防ぐことができます。
内定取り消しの通知書を送付
口頭による事情説明だけでなく、内定取り消し通知書という形でエビデンスを残すことで、「言った言わない」の水掛論になることを防げます。
内定取り消しの通知が早ければ、候補者は転職活動または就職活動の時間が確保できます。
従って、内定取り消しが決まった時点からなるべく早く対応した方がトラブルが深刻化しにくいです。
内定取り消しの通知が遅れるほど、訴訟や損害賠償などに発展する危険性が高まります。
なお、解雇予告は30日前までにしなければいけない決まりがあります。内定取り消しも解雇同様、30日以内に行うことがベターでしょう。
示談・和解交渉
たとえ正当な取り消しだとしても、「内定取り消しによって就職できなかった」といった経済的損失から、「人生に失望した」といった精神的な苦痛まで、さまざまなトラブルは想定できます。
円満に解決するために、示談・和解などの手段を残しておきましょう。
合意書の締結
内定取り消しについて本人の同意を得られたら、合意書を作りましょう。
トラブルを回避できるだけでなく、誹謗中傷を禁止する取り決めをしておけば、後の炎上リスクを防ぐことができます。
まとめ
内定取り消しは、候補者の人生を左右しかねない影響があることです。
意図せず、不当な内定取り消しをしてしまえば、訴訟リスクや炎上といった事態に発展することもあります。
また、合理的かつ社会通念上相当の内定取り消しであっても、トラブルに発展する可能性もあります。
まず記事で紹介したような内定取り消しが認められる事由、認められない事由についてきちんと理解したうえで、内定通知時点であらかじめ内定の取り消し事由を通知するなど、トラブルを回避できるように手順を踏むことが大切です。
内定取り消しは実施しないほうが良いものですが、万が一のケースに備えて知識を身に付けておく参考になれば幸いです。
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