メンター制度とは? 実施するメリットと導入・運用のポイント

メンター制度とは? 実施するメリットと導入・運用のポイント

近年、新人の定着・戦力化を促進する施策としてメンター制度を導入する企業が増えています。

 

記事では、メンター制度の概要と取り入れることによる効果、導入・運用におけるポイントを詳しく解説します。

<目次>

メンター制度とは?

メンター制度とは、先輩のメンター社員を、後輩社員(メンティ)の相談役として配置して、後輩社員のキャリア上や人間関係、職場内の悩みのサポートを行なう制度です。

 

メンター制度と

メンター制度と、OJTやエルダー制度との大きな違いは、「どういった内容に重きを置くか?」と「誰を支援者として設定するか?」という2つです。

 

まず、OJTやエルダー制度の支援内容は、現場の仕事などの「実務上・スキル面のサポート」が中心になります。一方で、メンター制度の場合、精神的なところやプライベート、人間関係、組織へ馴染むことなどの「実務・スキル以外のケア」が中心となります。

 

また、エルダー制度では、年齢の近い同部署の先輩が“エルダー”として支援を行うことが一般的です。対してメンター制度の場合は、同じ部署の先輩ではなく実務で関わることのない他部署の先輩や、悩みを解決できるレベルの力量を持つ上級者などがメンターとなることが一般的です。

 

昔から組織内に相談相手を持つことが難しく、困難な意思決定を迫られる経営者や政治家などが、先輩経営者や思想家などをメンターとして相談する事例が多くあります。“精神的な相談役”となる人を持つことを、組織内の身近な形で仕組み化したものがメンター制度です。

 

 

メンター制度が注目される背景

メンター制度が注目される背景には、企業をとりまくいくつかの問題が関係しています。

 

まず、少子化のなかで人材の育成・定着がより重視されています。とくに従来までの労働集約社会から知識やアイデアがより大きな価値を持つ知識社会に変わる中で、人材の確保・定着・育成が今まで以上に組織の成長や業績に大きなインパクトを与えるようになっています。

 

また、管理職がプレイングマネージャー化する傾向もあるなかで、人材育成を管理職やOJTの指導者一人に任せるのではなく、組織内で分担・協力して進めようという意図で導入する企業も多くあります。

 

さらに、最近では働き方改革やテレワーク導入による就業形態・環境面の変化で、職場の人間関係、雑談等が希薄になるような変化も生じています。テレワークやリモートワークなどの環境下で人材のケアを行う施策の一つとしても、メンター制度は導入されています。

メンター制度を取り入れる効果とメリット

身振り手振りで説明するビジネスマン

 

組織にメンター制度を導入すると、以下の効果が生まれます。

 

 

メンティのモチベーション向上

メンティのモチベーション向上は、メンター制度導入に関する厚生労働省による調査でも上位に入っているプラス効果です。

 

組織のメンバー、とくに新人は新卒・中途を問わず、組織に馴染めない、人間関係がうまくいかないなど、保有能力や知識ではない部分の悩みや不安でパフォーマンスが低下しがちです。

 

新人に限らず、組織で働く人であれば、業務の実務的なところでなく、人間関係、意思決定、プライベートなどで悩んだ経験がきっとあるでしょう。こうしたときにメンターが話を聞き、アドバイスをすることで、「スッキリした」「これを試してみよう」といったやる気が生まれやすくなります。

 

 

部署間のコミュニケーション促進

一般的なメンター制度では、他部署の先輩がメンターとなることが多くなります。メンター制度によって、異なる部署のメンターとメンティが関わることは、部署間の相互理解や組織の活性化に繋がります。

 

 

環境への素早い適応

メンター制度は、新人などにいち早く組織に馴染んでもらう施策(オンボーディング)にもなります。配属されたばかりの新人は、忙しそうな先輩や上司に話しかけにくい、年代が離れすぎていて話が合わないなどの悩みを抱えがちです。

 

そんなときに他部署のメンターが話を聞いたり、客観的にアドバイスしたりすることで、メンティ側から馴染むための努力や工夫もしやすくなります。また、常に話に耳を傾けてくれるメンターがいるからこそ、組織に適応するための挑戦や試行錯誤も行ないやすくなるでしょう。

 

 

メンティの離職を防止

不安や悩みをメンターと共有し、問題を解決して仕事がしやすくなることで、新人の定着率が高まります。

 

新人や若手の離職は、採用や育成にかけた費用が無駄になってしまうことを示します。離職による経済損失は200万を超えるというデータもありますし、機会損失を考えれば、実際の経済損失以上の金額になります。

 

組織の成長や将来性を考えるうえでも、新人を個別にサポートできるメンター制度で定着率や活躍率を高める取り組みが大切です。

 

 

メンター自身の成長

メンティの悩みや不安に寄り添う経験は、メンターの成長にも繋がります。例えば、若手リーダー等であれば、メンティの置かれた状況や心情を把握し、適切な解決策を見出す作業はロジカルシンキングの向上に役立ちます。また、信頼関係をつくり、相手の情報を受け取る傾聴力の向上も可能です。

 

また、より上位の管理職にとっても、組織に起こっている問題を把握したり、経験が浅い人に生じる悩みや戸惑いを知ったりすることは、リーダーシップやマネジメント力の向上に繋がるでしょう。

メンター制度を導入・運用するポイント

後輩に指導する女性社員

 

メンター制度を効果的に運用するためには、以下のポイントを押さえて準備や運用すると良いでしょう。

 

 

目的・ゴールの設定

メンター制度の効果を高めるには、自社の目的に合ったルールを決めることが必要です。導入に際しては、下記のような問いを考えて、きちんと目的・ゴールを設定しましょう。

 

<メンター制度の目的とゴール>
  • 何のために導入するのか?
  • 何が実現すれば良いのか?
  • 導入効果をどのように測るのか?
  • 定量的にどんなゴールを目指すのか?

 

同じメンター制度でも組織の課題によって、目的とゴールは異なります。

 

<組織の課題とメンター制度の目的の事例>
  • 鬱になる若手が多い →安心できる居場所づくり
  • 女性の離職率が高い →ロールモデルとなる女性メンターによる支援
  • 次世代リーダー育成問題 →メンター制度を通じた人材育成

 

なお、スタート地点では、定量目標が設定できなくても、運用アンケートなどで定量化していくことは大切です。人事制度は導入してやりっぱなしになってしまう傾向もあります。アンケートなどで定量化することでPDCAを回せるようにしましょう。

 

 

運用ルールの作成

自社の目的を達成する、また、導入後のトラブルやメンターによる質の違いを最小限にとどめるためにも、一定のルールや運用計画が必要です。

 

具体的には、以下のような項目をきちんと検討しましょう。

 

  • 実施期間
  • メンター/メンティ同士の面談方法や頻度
  • 成果の確認方法

など

 

必要であれば、メンター用のノウハウ集や運営マニュアルを作成してもいいでしょう。なお、メンターの負担が大きくなり、本人の仕事などに支障が出ては意味がありません。メンターの負担を限度内に抑えつつ、きちんと効果の上がる運用を目指しましょう。

 

 

メンター、メンティの決定

メンターとメンティの組み合わせを決めるには、以下の方法があります。

 

  • アサインメント方式 :人事担当者がメンターとメンティの組み合わせを決定する
  • ドラフト会議方式 :メンターリストを提示し、メンティが自分でメンターを選ぶ

 

状況に応じて、どちらのやり方でも良いでしょう。運用が楽なのはアサインメント方式ですが、ドラフト会議方式の方が信頼関係の構築はスムーズです。

 

どちらにしても、メンター制度の効果を高めるには、適任者をメンターにすることが大切です。メンターの適任条件としては下記の要素が上げられます。

 

  1. 幅広い経験を持ち、メンティの疑問や問題に適切なアドバイスができる
  2. セルフマネジメントやセルフリーダーシップが十分に出来ている
  3. 人材育成に関心がある
  4. メンター自身に成長志向、学習意欲がある
  5. 人格的にメンティのロールモデルとしてふさわしい

 

 

事前の研修を実施

メンター制度を効果的に導入するためには、メンター向けの事前研修を実施することも有効です。

 

<メンター研修の内容>
  • メンターとしての自覚
  • 制度を導入する意図や期待、メンターが得られるメリット等による動機づけ
  • 信頼関係の構築や傾聴、コーチング等のスキル
  • 運用ルールやトラブルの対処方法
  • フォロー体制や相談窓口

 

具体的な研修内容としては、テキストを使った座学、グループディスカッション、トレーニングを組み合わせて、以下のようなことを教えていくのがおススメです。

 

 

メンター制度の実施

メンターには、運用ルールどおりにサポートをしてもらいますが、細かな進め方は当事者に任せた方が良いでしょう。ただし、面談の効果的な実施方法などのガイドラインは、人事部門側から示してあげることがおススメです。

 

ただし、メンター・メンティのペアをつくった場合、初めはお互いに少し遠慮が発生してしまう傾向があります。そのため、スタート時には「どちらからの働きかけで、こういう面談をこういう頻度で実行する」といった項目を決めておくのも一つです。

 

 

振り返り

メンター制度は、導入して終わりではありません。社内の人材育成をより良くしていくためにも、運用ルールの改善や見直しを続けていく必要があります。

 

具体的な方法としては、メンター・メンティ双方へのヒアリングやアンケートを実施するのがおススメです。また、適切な改善を行なうためにも、率直な意見を聞ける体制づくりをすることも大切になります。

 

企業によっては、メンターをフォローする「シニアメンター」を導入することで、メンターの意見をうまくヒアリングしつつ、メンターをフォローする仕組みを作っています。

まとめ

メンター制度は、先輩社員が後輩社員のメンターとなり、精神的な相談、人間関係や組織への馴染み方などをサポートする仕組みです。メンター制度には、メンティのモチベーションアップや定着率アップといった効果に加えて、メンター側の成長に繋がるという利点もあります。

 

メンター制度を効果的に運用するためには、導入の目的・ゴールの明確化、運用ルールの作成、適切なメンターとメンティのマッチング、メンター研修の実施、定期的な振り返りとPDCAなどがポイントです。

 

これからメンター制度を導入しようという方は、記事も参考にして、ぜひ効果的なメンター制度を導入・運用してください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
・オンライン研修の「今と未来」、社員育成への上手な取り入れ方
・社長が知っておくべき、業績達成する目標管理と人事評価
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