メンター制度では、ベテランや先輩社員を新人や若手社員の精神的な相談役(メンター)として、サポートする仕組みです。近年、社員の成長を促すとして、多くの企業に注目されているのがメンター制度です。記事では、メンター制度によって得られる効果やメンターの役割、選定方法、導入・運用のポイントを解説します。
<目次>
メンター制度の概要
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メンター制度とは、新人や若手社員に「相談役」であるメンターを配置する制度のことで、社員の成長をはじめ、早期即戦力化や離職防止、組織社会化の促進といった効果が期待できます。
メンター制度とは?
メンター制度とは、先輩社員を後輩社員の相談役として配置し、後輩社員のキャリアや人間関係、職場内の悩みをサポートする制度です。メンター制度は仕事の業務やスキルというよりも、プライベートや人間関係、組織に馴染むといった、精神的なサポートがメインとなります。
したがって、本音で相談しやすいよう、実務で関わることのない他部署の先輩社員や、悩みを解決できる上級者などをメンターに選定するのが一般的です。
もともとメンターは、正解がない意思決定と重い責任を担う経営層や政治家などが、精神的なよりどころとして思想家や哲学者、宗教家や先達などに相談を求めたものがはじまりです。
ただし、現在のビジネス社会におけるメンター制度はより気軽に実施するものとして、新人や若手、中堅層などを対象とすることが増えています。本記事もそれに倣っていますが、企業によっては管理職を対象としてメンター制度、また、上級管理職や幹部層を対象として社外メンター制度などを取り入れている会社もあります。
メンター制度が注目される背景
メンター制度が注目される背景には、企業をとりまく幾つかの問題が関係しています。
まず、少子化のなかで人材の育成・定着がより重視されるようになりました。とくに従来までの労働集約社会から、知識やアイデアがより大きな価値を持つ知識社会に変わる中で、優秀人材の確保・定着・育成が、今まで以上に組織の成長や業績に大きなインパクトを与えるようになっています。
また、管理職の負荷が重くなる傾向がある中で、人材育成を管理職やOJTの指導者一人に任せるのではなく、組織内で分担・協力して進めようという意図で導入する企業も多くあります。
最近では働き方改革やテレワーク導入による就業形態・環境面の変化で、職場の人間関係、雑談等が希薄になるような変化も生じています。テレワークやリモートワークなどの環境下で人材のケアを行う施策の一つとしてメンター制度が導入されるケースもあります。
メンター制度の効果やメリット
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メンター制度は、企業、メンター役の先輩社員、メンティー役の後輩社員それぞれに、以下のような効果が期待できます。主なものを詳しく解説します。
- 社員の定着、離職防止
- 社員の組織社会化の促進
- 社員の早期戦力化
- 社員の成長
- 部署間の相互理解や組織活性化 など
- 責任感から生じるモチベーションの向上
- コミュニケーション能力の向上
- マネジメントスキルの向上
- 後輩社員の成長による自信獲得 など
- 安心して仕事に取り組むことができる
- 上司には訊きにくいテーマに対してアドバイスが得られる
- 不安や悩みを相談できる
- 先輩たちの経験や仕事に対する姿勢を知ることができる
- 今後のキャリアやライフワークバランスなどのテーマを相談できる など
メンティのモチベーション向上
メンティのモチベーション向上は、メンター制度導入に関する厚生労働省による調査でも上位に入っているプラス効果です。
組織のメンバー、とくに新人は新卒・中途を問わず、組織に馴染めない、人間関係がうまくいかないなど、保有能力や知識ではない部分の悩みや不安でパフォーマンスが低下しがちです。
新人に限らず、組織で働く人であれば、業務の実務でなく、人間関係、意思決定、プライベートなどで悩んだ経験がきっとあるでしょう。こうしたときにメンターが話を聞き、アドバイスをすることで、「スッキリした」「これを試してみよう」といったやる気が生まれやすくなります。
部署間コミュニケーションの促進
一般的なメンター制度では、他部署の先輩をメンターとすることが多くなります。メンター制度を通して異なる部署間の交流が生まれることは、部署間の相互理解や組織の活性化に繋がります。
環境への適応
メンター制度は、新人などにいち早く組織に馴染んでもらう施策(オンボーディング)にもなります。配属されたばかりの新人は、忙しそうな先輩や上司に話しかけにくい、年代が離れすぎていて話が合わないなどの悩みを抱えがちです。
そんなときに他部署のメンターが話を聞いたり、客観的にアドバイスしたりすることで、メンティ側から馴染むための努力や工夫もしやすくなります。また、常に話に耳を傾けてくれるメンターがいるからこそ、組織に適応するための挑戦や試行錯誤も行ないやすくなるでしょう。
メンティの離職防止
不安や悩みをメンターと共有し、問題を解決して仕事がしやすくなることで、新人の定着率が高まります。
新人や若手の離職は、採用や育成にかけた費用が無駄になってしまうことを示します。離職による経済損失は1人当たり200万を超えるというデータもありますし、機会損失を考えれば、実際の経済損失以上の金額になるでしょう。
組織の成長や将来性を考えるうえでも、新人を個別にサポートできるメンター制度で定着率や活躍率を高める取り組みが大切です。
メンターの成長
メンティの悩みや不安に寄り添う経験は、メンターの成長にも繋がります。例えば、若手リーダー等であれば、メンティの置かれた状況や心情を把握し、適切な解決策を見出す作業はロジカルシンキングの向上に役立ちます。また、信頼関係をつくり、相手の情報を受け取る傾聴力の向上も可能です。
より上位の管理職にとっても、組織に起こっている問題を把握したり、経験が浅い人に生じる悩みや戸惑いを知ったりすることは、リーダーシップやマネジメント力の向上に繋がるでしょう。
メンターの役割とは?
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メンターはメンティーの相談役であり、メンティーが組織の一員として定着・活躍できるようにサポートすることが役割です。
メンティーの悩みや問題解決のサポート
メンターは実務面のサポートを行なうのではなく、精神的な悩みや人間関係の問題への助言、サポートなどを行ないます。
したがって、業務上の上司ではありませんので、直接的にアドバイスするのではなく、メンティーに話をさせることで思考や心を整理したり、コーチング的なアプローチでメンティーの考えを引き出したりすることが大切です。メンティー自身の考えを引き出して整理させたり、自分で答えを決めさせたりし、そのうえで、時にはアドバイスするようなイメージです。
組織への定着サポート
本来のメンター制度は、メンティーの精神面の悩み、問題解決などへのサポートが目的ですが、新人などを対象にしたメンター制度の場合は、組織に馴染んで定着をサポートすることがおもな目的となります。
企業によっては、環境に早く適応してもらうオンボーディングの一環としてメンター制度を実施する企業もあります。
この場合には、メンティーの成長をサポートするというよりも、組織への定着を支援することがメンターの大きな役割となります。通常のメンター制度よりも、積極的に情報提供したり、アドバイスしたりしてもよいでしょう。
企業におけるメンター選定のポイント
メンター制度が成功するかどうかは、メンター次第といっても過言ではありません。メンター制度を導入して、メンターを選定・マッチングする際には、以下のようなポイントを意識するとよいでしょう。
メンティーを支援できる知識・経験がある
メンターは、メンティーの悩みや相談に対して適切なアドバイスを行なう必要があるため、新人や若手よりも、ある程度経験がある中堅や管理職層が望ましいでしょう。また知識や経験があるだけでなく、セルフマネジメントやセルフリーダーシップが十分にできており、メンティーを支援できるだけの余裕があることも重要になります。
人材育成への意欲・関心がある
メンターには、メンティーと比較的年齢の近い社員を選定するのが一般的です。しかし年齢の近いことは、メンティーの心情を理解しやすい反面、メンティーをライバル視して的確な支援ができない、適切なアドバイスができないといった恐れもあります。
したがってメンターには、メンター制度の目的をしっかりと理解でき、後進の人材を育てる意欲・関心がある人材を選ぶことが大切です。また、メンターに必要なコーチングスキルなどに対しても学習・吸収意欲がある人材だと望ましいでしょう。
組織へのエンゲージメントが高い
組織へのエンゲージメントが高い人材がメンターを担当すれば、メンティーのモチベーションやエンゲージメントにも良い影響を与えることができます。主観的な判断だけでなく、サーベイツールなども活用して客観的にエンゲージメントを測ることが有効です。
メンター制度導入の流れ
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メンター制度を効果的に運用するためには、以下のポイントを押さえて準備や運用をすると良いでしょう。
目的・ゴールの設定
メンター制度の効果を高めるには、自社の目的に合ったルールを決めることが必要です。導入に際しては、下記のような問いを考えて、きちんと目的・ゴールを設定しましょう。
- 何のために導入するのか?
- 何が実現すれば良いのか?
- 導入効果をどのように測るのか?
- 定量的にどんなゴールを目指すのか?
同じメンター制度でも組織の課題によって、目的とゴールは異なります。
- 鬱になる若手が多い →安心できる居場所づくり
- 女性の離職率が高い →ロールモデルとなる女性メンターによる支援
- 次世代リーダー育成問題 →メンター制度を通じた人材育成
スタート時点では、定量目標が設定できなくても、運用アンケートなどで定量化していくことも大切です。人事制度は、導入してやりっぱなしになってしまう傾向もあります。アンケートなどで定量化することでPDCAを回せるようにしましょう。
運用ルールの作成
自社の目的を達成する、また、導入後のトラブルやメンターによる質の違いを最小限にとどめるためにも、一定のルールや運用計画が必要です。
具体的には、以下のような項目をきちんと検討しましょう。
- 実施期間
- メンター/メンティ同士の面談方法や頻度
- 成果の確認方法
など
必要であれば、メンター用のノウハウ集や運営マニュアルを作成してもいいでしょう。なお、メンターの負担が大きくなり、本人の仕事などに支障が出ては意味がありません。メンターの負担を限度内に抑えつつ、きちんと効果の上がる運用を目指しましょう。
メンターの決定
次にメンターを決定する必要がありますが、メンターとメンティの組み合わせも考慮する必要があります。その際、以下の方法があります。
- アサインメント方式 :人事担当者がメンターとメンティの組み合わせを決定する
- ドラフト会議方式 :メンターリストを提示し、メンティが自分でメンターを選ぶ
状況に応じて、どちらのやり方でも良いでしょう。運用が楽なのはアサインメント方式ですが、ドラフト会議方式の方が信頼関係の構築はスムーズです。
どちらにしても、メンター制度の効果を高めるには、適任者をメンターにすることが大切です。メンターの適任条件としては下記の要素が挙げられます。
- メンティの疑問や問題に適切なアドバイスができる
- セルフマネジメントやセルフリーダーシップが十分に出来ている
- 人材育成に関心がある
- メンター自身に成長志向、学習意欲がある
- 人格やエンゲージメント観点でメンティのロールモデルとしてふさわしい
事前研修を実施
メンター制度を効果的に導入するためには、メンター向けの事前研修を実施することも有効です。
- メンターとしての自覚
- 制度を導入する意図や期待、メンターが得られるメリット等による動機づけ
- 信頼関係の構築や傾聴、コーチング等のスキル
- 運用ルールやトラブルの対処方法
- フォロー体制や相談窓口
具体的な研修内容としては、テキストを使った座学、グループディスカッション、トレーニングを組み合わせて、以下のようなことを教えていくのがおススメです。
運用スタート
メンターには、運用ルールどおりにサポートをしてもらいますが、細かな進め方は当事者に任せた方が良いでしょう。ただし、面談の効果的な実施方法などのガイドラインは、人事部門側から示してあげることがおススメです。
メンター・メンティのペアをつくった場合、初めはお互いに少し遠慮し合うことが生じがち。そのため、スタート時には「どちらからの働きかけで、こういう面談をこういう頻度で実行する」といった項目を決めておくことも有効です。
振り返り
メンター制度は、導入して終わりではありません。社内の人材育成をより良くしていくためにも、運用ルールの改善や見直しを続けていく必要があります。
具体的な方法としては、メンター・メンティ双方へのヒアリングやアンケートを実施したり、サーベイツールでメンティーのモチベーションやエンゲージメントを可視化したりして、振り返り・改善を行ないましょう。適切な改善を行なうためにも、率直な意見を聞ける体制づくりをすることも大切になります。
経営幹部やメンター・メンティーの上司に対しても必ず報告を行ない、メンタリングの成果や経営的なメリットを理解してもらうとともに、次期以降のメンタリングでも支援が得られるよう配慮しておくとよいでしょう。
企業によっては、メンターをフォローする「シニアメンター」を導入することで、メンターの意見をうまくヒアリングしつつ、メンターをフォローする仕組みを作っています。
メンター制度を成功させるポイント
メンター制度を成功させるためには、優秀なメンターを選定するだけでなく、事前準備や実施ごとの振り返り・改善がとても重要になります。
メンター・メンティーへの研修実施
メンター制度を実施する前には、メンターとメンティーの両者に研修を実施することが効果的です。事前に研修を行なうことで、メンター制度やメンタリングを正しく理解してもらえるとともに、メンター制度に対する誤解や混乱を防ぎ、メンター・メンティーの不安を解消することができます。
- メンター制度を実施する目的や意義
- メンター制度とは何か
- メンターとしての自覚、メンティーとしての心構え
- メンター制度の運用ルール、進め方
- メンタリングの基本スキル
- メンタリングで話し合う内容
- トラブル時の対応方法
- 傾聴やコーチングなどのスキル習得(メンター向け)など
人事部などからの運用支援
メンター制度の設計や運用は、現場に丸投げするのではなく、人事部が中心となって運用支援を行なうことが重要です。経営幹部や推進チームなどを含めて体制を構築し、具体的な計画を策定していきましょう。必要に応じて推進チームなどを設置すれば、メンター制度をより円滑に進めることができるでしょう。
- 経営トップのメッセージとして、メンター制度のことを定期的に発信する
- 経営会議や管理職ミーティングのテーマとしてメンター制度を取り上げる
- メンター、メンティーとの意見交換
- 社内報やCSRレポートなどでメンター制度を紹介する など
- メンター制度の企画をはじめ、資料作成、研修の実施、メンタリングの実施、制度改善など、一連のプログラムを管理・調整
- 経営幹部への情報提供
- メンティーの上司へのサポート依頼 など
- 人事部門との連携
- 現場に適した実施計画の構築
- 人事部門と各部門・部署の調整・支援 など
まとめ
メンター制度は、新入社員や若手社員の悩み・問題解決のサポートおよび、組織への早期定着を目的とした教育制度の一つです。うまく機能させるには、メンティーを導けるだけの知識、経験があり、人格的にもメンティーのロールモデルとなれる人材をアサインする必要があります。
また、経営幹部や人事部からのサポートなども大切です。メンター制度を推進する体制を構築し、組織全体で支援していくとともに、実施後は振り返り・改善を行ない、メンター制度の質を上げていきましょう。







