新卒の離職率は、入社3年以内で全体の約30%、つまり約3人に1人が離職するデータが出ています。若干の上下動はありますが、数十年間ほぼ変わっていません。
就職活動の中で多くの会社から選び、期待に胸を膨らませて入社したはずの新卒たちが、なぜ数年で会社に見切りをつけて離職してしまうのか。記事では、新卒社員の主な離職理由を解説すると共に、早期離職を防ぐ手法を紹介します。
<目次>
新卒離職率の現状
まずは新卒社員の離職状況を確認しておきましょう。
新卒離職率とは?
新卒離職率とは、入社した新卒社員の人数を母数として、入社から一定期間以内に退職した新卒社員の割合を示す指標です。厚生労働省では「新規学卒就職者の離職状況」として、入社3年以内の学卒者離職率を毎年公表しています。
新卒1年以内、3年以内の離職率の推移
現時点の最新データ(2021年10月22日発表)によると、新規学卒就職者(2018年3月卒業者)の就職後1年以内の離職率は、新規大卒就職者で11.6%、新規高卒就職者で16.9%です。また、就職後3年以内の離職率は新規大卒就職者で31.2%、新規高卒就職者で36.9%となっています。
つまり、大卒であれば入社1年間で10人に1人が退職、3年間で3人に1人が退職、また高卒であれば入社1年間で7人に1人が退職、3年間で3人に1人が退職している形です。この数字は数ポイントの変動はありますが、過去数十年大きな変化は生じていません。
事業規模別・新卒離職率の状況
次に、事業規模別に新規大卒就職者の入社3年以内の離職率を見ると、中小企業における状況の厳しさが浮き彫りとなってきます。
1000人以上の大規模事業者の場合、新規大卒者の3年以内離職率は24.7%、つまり4人に1人の割合です。これに対して30〜99人規模の事業者では3年以内離職率は39.1%、5〜29人規模の事業者では3年以内離職率は49.4%にも達します。
つまり、小規模な企業ほど、新卒の離職率は高く、30人以下企業になるとせっかく採用した新卒人材の約半分が3年で退職してしまっている形になります。
業界別・新卒離職率の状況
離職率は業界(業種)によっても傾向に違いがあります。離職率が高い順に見ると、「宿泊業・飲食サービス業」が51.5%、「生活関連サービス業・娯楽業」が46.5%、「教育・学習支援業」が45.6%、「医療・福祉業」が38.6%、「小売業」が37.4%となっています。
逆に「電気・ガス・熱供給・水道業」と「鉱業・採石業・砂利採取業」は、いずれも離職率が11%台と低くなっています。業界によっても大きく異なることが分かります。
新卒離職率が高いことで生じる問題
新卒離職率が高いと、企業活動にいくつものデメリットが生じます。どのような問題が生じるのか確認しておきましょう。
採用・教育にかけたコストが無駄になる
企業は人材を採用するまでに、母集団形成に関する外部費用、適性検査などの費用、採用活動に必要な工数などのコストをかけています。新卒の場合、一人当たりの採用費用は60万円前後といわれます。
また、入社後も新卒が1人前になるまでには、給与や保険などの直接的な費用に加えて、備品や入社後の教育研修など多くのコストを負担しています。たとえば、給与が月20万円だとすると、よく言われる“給与の3倍”まではいかずとも、2倍前後の月40万円、年間500万円近くのコストが生じていることが多いでしょう。
新卒が入社数年間で離職してしまうと、採用や教育するのにかかった費用や工数が無駄になり、さらに再度採用・教育活動を行わねばならず、追加の費用や工数がかかることになります。
採用の難易度が高まる
退職時の状況がネガティブだと、SNSや口コミサイトなどで企業のマイナスな部分を書き込まれるケースも増えています。
今日では新卒・中途に関わらず、求職者が会社への応募・選考過程、または内定を承諾するかどうかのタイミングで口コミサイトを見ることは当たり前になっています。また、新卒の離職率は求人サイトでも公表が義務化されています。つまり、新卒の離職率が高い状況ですと、採用の難易度はどんどん高まってしまうことになります。
会社のイメージダウンになる
離職率が高い企業というイメージが定着すると、新たな人材を確保しづらくなるだけでなく、「ブラックな企業・職場なのではないか?」という印象にもつながります。
近年は企業の社会的責任がより重視される風潮となっており、ブラックな印象が付いてしまうと企業のイメージが下がり、人材採用のみならず事業運営全般にも悪影響が出る可能性があります。
社員のモチベーションが低下する
一緒に入社した同期、育ててきた後輩の離職は、残ったメンバーのモチベーションにも悪影響を及ぼします。前述した“会社のイメージダウン”は、じつは社外から会社に対するものよりも、社内から経営陣に対するところから始まります。
「うちの会社大丈夫なのかな?」「このまま在籍していて大丈夫かな?」「知らなかったけど、何か待遇やマネジメントに問題あるのかもしれないな」といった心理です。きちんと対応していかないと、連鎖的な離職が生じる恐れがありますので、注意が必要です。
新卒社員が離職を考える10の理由
新卒社員の離職理由は人それぞれですが、一定の傾向がありますので、主な理由を把握して適切な対策を講じておくことが大切です。
離職理由①職場の人間関係や社風になじめない
上司や先輩社員とうまくコミュニケーションが取れないと、孤立感を抱いてモチベーション低下や離職につながりやすくなります。入社前にイメージしていた職場の雰囲気と現実が異なり、思うようになじめないといった点も、ストレスを感じる理由として挙げられます。
中小企業では、従業員数や部署が少ないため、人間関係の幅が狭く、一度関係性が崩れると息苦しさを感じてしまうこともあるでしょう。「職場に自分の居場所がある」と感じられる状況を整えてあげることが必要です。
離職理由②待遇に対する不満や雇用契約などとの違い
給与や勤務時間に関して、事前の説明や雇用契約と異なっていると離職につながりやすくなります。これは企業側に問題がある事案であり、改善が必須です。なお、ワークライフバランスへ関心度などが高まっている中で、残業状況や休日出勤の必要頻度などもきちんと事前に説明しておくことが大切です。
離職理由③期待と現実とのギャップ
新卒社員は働いた経験がないため、仕事や会社に対する現実的なイメージがありません。これに企業説明会などで良い面だけ紹介されたり、仕事に対する意識が甘かったりすることが掛け合わさると、入社前の期待と入社後の現実とのギャップが大きくなります。
入社前の期待と入社後の現実の間に生じるギャップは「リアリティショック」と呼ばれ、リアリティショックが大きい、またはリアリティショックへの心構えができていないと離職の原因になります。
採用段階から、仕事の厳しい面や職場の雰囲気をリアルに伝えておく、また、入社初期の研修でリアリティショックに対する心構えを形成しておくことが大切です。
離職理由④ストレス過多
納期や目標達成など、社会人としての様々なプレッシャーにストレスを抱える新入社員は少なくありません。学生時代は己の実力に疑問を感じなかった人が、職場で実際に仕事をしていくうちに、自分の能力のなさに焦りとストレスを感じてしまい、退職に至るケースもあります。
また、一人ひとりの業務が忙し過ぎたり、人手不足で若手をフォローする余裕がなかったりする状態も離職につながる可能性を高めます。会社としては決して悪意があったりブラックな環境になっていたりしない場合でも、新入社員は生活環境やリズムの違いで、既に負荷を感じており、通常よりもストレスを感じやすい状況になっていますので注意が必要です。
離職理由⑤相談できる上司や同僚がいない
新卒社員は慣れない環境の下、仕事や人間関係などに関する悩みを抱えがちです。その中で、相談できる上司や同僚がいないと精神的に思い詰められやすくなり、早期離職につながる恐れがあります。ブラザーシスター制度などで、気軽に相談できる相手をつくることなどが有効です。
離職理由⑥業務量が多い・労働時間が長い
仕事に慣れない新卒社員に多大な業務量を割り当てると、モチベーション低下につながりかねません。また実際に仕事していく中で徐々に「仕事とプライベートのバランスがとりづらい」「労働時間が長過ぎる」などの点に不満を感じ、「もっと働きやすい職場に転職したい」と考えるケースもあります。
対応に正解があるわけではないので難しい問題ですが、ワークライフバランスを重視する人が増えている現状を踏まえて、労働生産性を高めていく取り組みが必要です。
離職理由⑦求められるノルマが厳しい
新卒社員は、自分一人で完結できる仕事が少ないので、与えられたノルマや成果が過剰な場合はプレッシャーを感じやすくなります。特に営業会社などでは、常にノルマに追いかけられる状態に気持ちが折れてしまい、転職するケースが多々あります。
離職理由⑧仕事が面白くない
入社前にイメージしていた仕事内容と実際の業務に大きなギャップがあると、やりがいを見出しづらくなります。また、新人だからといって簡単な仕事ばかりを任されても、モチベーションの低下を招く原因となります。
リアリティショックは入社数か月~半年程度で解消されますが、「仕事が面白くない」という不満は、逆に仕事に慣れてきたタイミングで生じる傾向にあります。意欲のある新卒社員ほど、能力を発揮する機会を与えられないと不満が溜まりやすいという点は注意しておきましょう。
離職理由⑨会社や事業の将来性に期待が持てない
終身雇用が崩壊した中で、最近の新卒社員は昔以上に「自分の成長」「市場価値」などに対して敏感です。会社が自分を守ってくれないと思っているからこそ、成長して市場価値を高めて、職に困らないスキルを身に付けたいと考えています。
だからこそ、会社の将来性などにも敏感で、会社や事業の将来性に期待が持てないと思うと、転職しやすい若いうちに転職した方がいいという判断をすることが多くなっています。
離職理由⑩キャリアアップのため
先輩や上司を見て、自分の転職・キャリアアップを考える新入社員も少なくありません。「会社や事業の将来性に期待が持てない」と重なる部分がありますが、最近の新卒社員は「このまま会社にいても自分のキャリアを築けない」と感じると、離職を選ぶ傾向が強まっていると言えます。
新卒の離職率を下げる10の方法
新卒社員の離職率を下げるためには、離職につながりやすいポイントを認識した上で、継続的な対策が必要となります。ここでは、新卒離職率の改善につながる10の方法を紹介します。
1.労働条件を整備する
まず労働条件に対する不満は、衛生要因としてきちんと解消する必要があります。採用時に話している内容と雇用条件、実情を一致させることが大前提です。
また、残業や勤怠管理に関する社会の感覚が、働き方改革などを通じて数十年前とはガラッと変わったことを認識する必要もあります。サービス残業の発生や休日出勤が生じているようであれば、業務改善などを通じて解消していきましょう。
2.採用のミスマッチを防ぐ
離職要因のところで紹介した入社前後のギャップ(リアリティギャップ)が新卒の想起離職における大きな要因です。会社説明会や選考、内定時などの各プロセスで、仕事の楽しさだけでなく厳しい面もしっかりと説明することで、採用のミスマッチを防ぐことが大切です。
採用活動内で、入社後の厳しさなどもしっかりと共有してミスマッチを防ぐ試みをRJP:リアリスティック・ジョブ・プレビューと呼びます。
3.初期研修でのマインドセット
前述のようなRJPを行なっても、働いた経験がない新卒社員が、仕事の厳しさやぶつかる壁を正確に想像することは容易ではありません。したがって、初期研修を通してリアリティギャップに対する心構えなどを作っていくことも大切です。
4.離職のサインをキャッチする
新卒社員が発している危険信号をキャッチして、手遅れにならないうちに手を打つことも大切です。上司や先輩社員の方から積極的にコミュニケーションをとり、相談しやすい雰囲気を作るよう心がけましょう。
上下関係が生じる部署内で相談しづらい内容も生じてきますので、定期的に人事部から面談をするようなこともおススメです。
5.メンター制度やブラザーシスター制度を導入する
直属上司やOJT担当とは異なる、別部署で年齢が近い若手社員などをブラザーシスター・メンター、メンターなどに設定する制度もおススメです。前述の人事部面談と同様で、新入社員からすると上下関係が生じるOJT担当や上司には相談しにくい悩みも生じます。
採用人数が多くなってくると、人事だけですべての新入社員をケアすることも難しくなってきますので、状況に応じてブラザーシスター制度やメンター制度を活用しましょう。
6.評価制度を見直す
透明で公正な評価制度は、優秀な人材の流出を防ぐ効果があります。特に近年は成果主義を徹底させ、優秀な人材は若手であっても評価し適切な報酬を設定、抜擢する企業が増えています。
運用のポイントは、目標設定と進捗のケア、評価のフィードバックなどをきちんと行うこと、また、報酬を市場の相場観にきちんと見合うレベルにすることです。報酬改善は、労働生産性を改善しなければ実現できませんが、中長期的には大切な部分です。
7.社内コミュニケーションを活性化させる
新入社員の立場に立った時、「何を言っても聞き入れられない雰囲気」や「相談しづらい風土」があると、何も相談等がないまま突然の「退職」が生じがちです。
新入社員でも意見を言いやすい雰囲気を作り、職場の心理的安全性の向上に努めましょう。上司や周囲が自分の提案に耳を傾け、実際に取り入れられるようになると、仕事が面白くなってエンゲージメント向上につながります。
8.上司の人間性教育
新卒社員の離職防止を考える上で、上司は非常に重要なファクターです。とくに新卒社員の定着や育成を考える上では、じつは上司の能力以上に「人間性」が大切になります。新卒社員に尊敬されるよう上司の人間性を磨くことが大切です。上司向けのリーダーシップ研修などが、じつは新卒社員の離職防止に大切だったりします。
9.学ぶ機会を作る
前述した通り、最近の新卒社員は「自己成長」の機会を重視し、社内でキャリアを形成していけるかどうかを非常に重視する傾向にあります。そのため各種研修など定期的な学習の機会や、資格取得の支援といった自己成長を実感できる仕組みを、積極的に提供していくことが必要です。
10.キャリア支援を行う
前述の通り、自己成長を重視する新卒社員のモチベーションを高めるためには、キャリア形成をきちんと支援することも大切です。スキルマップや評価シートなどを用いて、本人と一緒に考える機会を設けるようにしましょう。
新卒社員に対するフォロー研修などに、キャリアプランを考える機会を組み込んで、社内でどのように実現していけるかを考えてもらうことも大切です。
中小企業が取り組むべき新卒離職への対策
新卒離職への対策が、経営面で大きな課題になってくるのは大手企業以上に中小企業です。
中小企業における離職の現実
前述した通り中小企業における離職の現実は厳しく、大卒新卒の入社3年以内離職率は、5〜29人規模の事業者で約半数、30〜99人規模の事業者で4割近くに達しています。
採用の面でも中小企業は大手企業よりも厳しい現状を考えると、「採りづらく辞めやすい」からこそ、採用した新卒社員が辞めずに定着するよう対策を講じる必要があります。
中小企業だからできる取り組み
中小企業は、大手と比べると対象となる新卒社員の人数が少ないからこそ、柔軟かつ丁寧に対処できることが強みです。
例えば経営陣と関われる場を増やす、部門を超えた交流やコミュニケーションの機会を作る、新卒者を単発のプロジェクトに入れて新しい経験を積ませるなど、フットワークが軽い中小企業の特性を生かしたケアが重要です。
第二新卒者の採用も検討すべき
中小企業庁が行った「中小企業・小規模事業者の人材確保と育成に関する調査」(2014年12月)によると、採用後3年間の離職率は新卒者が4割を超えているのに対し、中途採用者は約3割と少し低くなっています。多少なりとも社会人経験を積んでいることにより、理想と現実のギャップが起こりにくいためと考えられます。
中小企業が若手の採用を考える際には、新卒にこだわらず、既卒や第二新卒を採用し育成することも積極的に検討するとよいでしょう。
まとめ
大卒新卒の離職率は、入社3年で30%という水準で若干の上下はあっても大きな変動はありません。ただし、企業規模が小さくなるほど、入社3年以内離職率は高くなる傾向にありますので、中小企業ほど注意が必要です。
新卒の主な離職要因を考えていけば、対策も見えてきます。報酬や勤務体系の改善などは労働生産性の向上なども必要であり、すぐに実施できるものではないかもしれません。ただ、時代変化の中で新卒の価値観が変わっている部分もありますので、中長期的には取り組んでいく必要があります。
まずは、すぐに取り組める新卒を取り巻くコミュニケーション状況を改善するためのブラザーシスター制度や上司の人間性研修、フォロー面談などから着手することがお勧めです。
自社の離職要因なども踏まえて、記事を参考にして離職防止の施策を実施してみてください。