2021年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法によって、高年齢者の雇用に関する企業側の義務が増えることになりました。国策として高年齢者の雇用促進が推し進められるなかで、企業にはコスト面での負担などが生じる可能性もあります。
そんな企業に注目してほしいのが、高年齢者の雇用に関連する助成金です。
本記事では、まず高年齢者を雇用するうえで企業が知っておくべき法律と義務を確認します。後半で、高年齢者の雇用に際して申請できる助成金の種類と特徴、高年齢者の継続雇用に関係する年金制度の改定を紹介しますので参考にしてください。
<目次>
高年齢者雇用安定法による高年齢者雇用確保措置
日本では、2021年4月1日に改正された高年齢者雇用安定法に基づき、60歳以上のシニア社員を雇用する企業に対して「65歳までの雇用義務」と「70歳までの雇用を確保する努力義務」が定められています。本章では、まず2つの概要を確認します。
65歳までの雇用確保(義務)
65歳までの雇用確保(義務)は、2021年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行される前からある制度です。65歳までの雇用確保を主眼として、事業主には以下2つが義務付けられています。
- 60歳未満定年の禁止(高年齢者雇用安定法第8条)
- 65歳までの雇用確保措置の実施(高年齢者雇用安定法第9条)
定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければなりません。なお、継続雇用制度を導入する場合、原則として希望者全員に適用する必要があります。
- 65歳までの定年引上げ
- 定年制の廃止
- 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
70歳までの就業機会確保(努力義務)
70歳までの就業機会の確保は、2021年4月1日に施行された新制度で加わったもので、現時点では努力義務となっています。対象は、以下の事業主になります。
- 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
- 65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入している事業主
対象企業には、以下の措置を講じる努力義務が求められており、以下の措置を総称して“高年齢者就業確保措置”と呼びます。
- ・70歳までの定年引上げ
- ・定年制の廃止
- ・70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
- (特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
- ・70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- ・70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
- a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
- b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行なう社会貢献事業
現状、高年齢者就業確保措置は、企業の努力義務です。ただし、企業に対して「高年齢者雇用確保措置の必要がある」と認められた場合、高年齢者雇用安定法に基づき、公共職業安定所(ハローワーク)による指導・助言が行なわれることがあります。
また、指導を繰り返し受けたにも関わらず、企業側で具体的な取り組みを実施しない場合は、勧告書の発出、勧告に従わない場合は企業名の公表が行なわれることもあるとされています。
こうしたペナルティの存在や、将来的に努力義務から完全義務化される可能性も考えると、企業はなるべく早めに環境整備を進めたほうがよいでしょう。
高年齢者雇用に際して申請できる助成金
改正高年齢者雇用安定法に基づいてシニア社員の雇用を進める際、企業には費用負担が生じることも有るでしょう。
たとえば、職場環境を物理的に整備したり、新たなスキルを身に付けてもらうような人材育成が必要となったりするかもしれません。こうした企業の費用負担を軽減するための助成金がありますので、自社で活用できるものがあるか確認しておくとよいでしょう。
65歳超雇用推進助成金
高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会を実現する目的で、以下のような環境整備を行なう事業主に助成される制度です。
- 65歳以上への定年引上げ
- 高年齢者の雇用管理制度の整備
- 高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換 など
65歳超雇用推進助成金は、以下の3コースで構成されています。
- 1.65歳超継続雇用促進コース
- 2.高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 3.高年齢者無期雇用転換コース
特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
雇い入れ日の満年齢が65歳以上の離職者を、ハローワークなどの紹介を通して、一年以上継続して雇用することが確実な労働者(雇用保険の高年齢被保険者)として雇い入れる事業主に助成されるものです。
特定求職者雇用開発助成金を受給するには、雇い入れ日の満年齢が65歳以上の離職者を以下いずれかの機関を通じて雇い入れる必要があります。
- 公共職業安定所(ハローワーク)
- 地方運輸局(船員として雇い入れる場合)
- 適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者 など
特定求職者雇用開発助成金の支給額は、対象労働者の類型(短時間労働者かどうか)と、企業規模によって異なります。
高年齢労働者処遇改善促進助成金
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を推進する観点から、60歳から64歳までの高年齢労働者の処遇の改善に向けて就業規則などの定めることで、高年齢労働者に適用される賃金規定などの増額改定に取り組む事業主に助成されるものです。
高年齢労働者処遇改善促進助成金の場合、就業規則などで賃金規定を増額改定し、改定した内容で6ヵ月以上運用するなどの細かな支給要件があります。支給額の計算には、各年度の助成率が適用される仕組みです。
年金制度に関する制度改定
高年齢の社員を雇用する場合、年金制度に関しても基本的な知識は押さえておくとよいでしょう。近年高齢者の雇用促進と並んで、年金制度の改定も多く、本章では2022年4月1日に施行された改定のポイントを紹介しておきます。
在職定時改定の導入
在職定時改定とは、シニア社員の在職中でも、年1回・毎年10月分から年金額が改定される仕組みです。従来は、たとえば、65歳のシニア社員が厚生年金を払いながら働いていた場合、厚生年金の加入実績が年金額に反映されるのは、以下2つのタイミングだけになっていました。
- 退職するとき
- 70歳に到達したとき
結果として、65歳~70歳になる前日までの5年間は毎月保険料を納めているのに年金額が増えない形となっていました。
2022年4月1日に施行された年金制度では、多くの高年齢者が働く生涯現役社会とは乖離する先述の問題を解消するために、毎年改定を行うことで、保険料を納めている実績に応じてきちんと年金額が上昇する在職定時改定が導入されました。
老齢厚生年金の繰下げ支給年齢の拡大
高年齢者の就労が拡大する現状を踏まえて、老齢厚生年金における繰下げ支給年齢が拡大されることになりました。制度変更の目的は、年金受給権者が自身の就労状況などに合わせて年金受給の開始時期を選択できるようにすることです。
2022年4月1日以降は、繰下げの上限年齢が70歳から75歳に引上げられ、年金の受給開始時期を75歳まで自由に選択できるようになっています。
参考:令和4年4月から老齢年金の繰下げ受給の上限年齢が75歳に引き上げられました
高年齢者が離職したときの再就職援助措置
改正高年齢者雇用安定法では、高年齢の社員が解雇などで離職することになり、なおかつ本人が再就職を希望するときには、企業が以下の再就職援助措置を講じることを努力するように求めていますので知っておく必要があります。
- 求職活動に対する経済的支援
- 求人の開拓、求人情報の収集・提供、再就職のあっせん
- 再就職に資する教育訓練などの実施、受講のあっせん
まとめ
2021年4月1日以降は、高年齢者雇用安定法の改正によって、以下2つの義務が企業に求められるようになりました。
- 65歳までの雇用確保(義務)
- 70歳までの就業機会確保(努力義務)
高齢者の継続雇用等を進めるに際しては、以下のような助成金が用意されていますので、自社で活用できるか検討してみるとよいでしょう。
- 65歳超雇用推進助成金
- 特定求職者雇用開発助成金
- 高年齢労働者処遇改善促進助成金
また、高年齢者の雇用を進める場合は、高齢者雇用の推進と並行して実施されている年金制度の改正内容や、企業に求められる高年齢者が離職したときの再就職援助措置なども知っておくとよいでしょう。
高齢者雇用は日本の国策として推し進められており、将来的にはどの企業にとっても他人事ではありません。影響を受ける企業は、早めに情報収集して、準備を進めることが大切です。