悪質なクレームは威力業務妨害などになる?企業が対応するうえでのポイントを解説

更新:2023/01/23

作成:2022/09/01

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

悪質なクレームは威力業務妨害などになる?企業が対応するうえでのポイントを解説

企業がビジネスを展開するうえで、どのように気を付けてもミスやトラブルは起こってしまう可能性があります。苦情(クレーム)は、こうした企業側に非があるミス・トラブルなどに対して顧客が不満や要求、疑問を抱いたときに生まれるものです。

クレーム自体は、自社の商品サービスやオペレーションの改善点を教えてくれる価値あるものでもあります。一方で、悪質なクレーム、いわゆるカスタマーハラスメントなどの場合、対応する従業員にさまざまな心身の苦痛が生じる可能性があるでしょう。

記事では、悪質クレームから社員を守る企業側の義務を確認したうえで、威力業務妨害を始めとする犯罪に該当するような悪質クレームの具体例、悪質なクレームに対処するための大切なポイントを紹介します。

<目次>

悪質なクレームから社員を守るのは企業の義務

まず、企業は、従業員の生命および健康などを危険から守る配慮をする安全配慮義務を負っています。そのため、従業員を悩ませる悪質クレーム、いわゆるカスタマーハラスメントに対してきちんと対応し、社員を守らなければなりません。

なお、厚生労働省では、カスタマーハラスメントを以下のように定義しています。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

悪質なクレームに直面することで、恐怖や焦りなどの精神的な負担から、心の健康が害される可能性もあるでしょう。また、悪質なクレーマー対応を対面で行なう場合、身体にケガなどを負う可能性があるかもしれません。

悪質なクレームは、このように働く人の生命および健康を害するものです。したがって、企業は、悪質クレームから自社の従業員を守る必要があります。

出典:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

犯罪に該当する悪質なクレームは警察に届け出る

パトカーのイメージ
最近、悪質なクレームのなかには、威力業務妨害や偽計業務妨害に該当するケースも増えています。犯罪の構成要件を満たすような場合は、警察と連携してきちんと対処することが大切です。

この章では、クレーマーがどのような言動をした場合に各罪状に当たるのかを、詳しく解説します。

脅迫罪に当たるケース

脅迫罪とは、以下のように生命、身体、自由、名誉または財産に害を加える意図を告知して人を脅迫することです。

  • 「俺はお客だぞ?お前はナメてんのか?殺すぞ!」
  • 「お前の名前は覚えたぞ!Twitterで晒してやるからな!」 など

脅迫罪の対象は、店舗や事業所などの法人ではなく、「人」もしくは「人の親族」です。脅迫罪に該当した場合、2年以下の懲役または30万円以下の罰金になります。

強要罪に当たるケース

強要罪は、以下のように、生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知することによる脅迫や暴行を用いて、人に義務のないことを行なわせたり、権利の行使を妨害したりする場合に成立するものです。

  • 「(社員に暴力を振るったうえで)早く土下座しろ!」
  • 「ほかの客にも聞こえるように、俺への謝罪文を読め!」
  • 「早く店長を辞めないと、お前をボコボコにぶん殴るぞ!」 など

強要罪も、脅迫罪と同様に、法人ではなく「人」もしくは「人の親族」が対象です。強要罪に該当した場合、3年以下の懲役になります。

恐喝罪に当たるケース

恐喝罪とは、以下のような脅しによって恐怖を感じた相手に、財物を交付させたときに成立する行為です。脅しだけでは脅迫罪になる一方で、恐喝罪は、金銭その他の財物が加害者もしくは第三者に渡ったときに成立します。

  • 「お前の謝罪なんて求めてないんだよ、早く100万円もってこい!」
  • 「本部に報告されたくなかったら、お前のポケットマネーで10万円払えよ!」
  • 「この問題を公にされたくなかったら、“誠意”を見せるべきだよね?」 など

恐喝罪が成立した場合、10年以下の懲役になります。

威力業務妨害罪に当たるケース

威力業務妨害罪とは、以下のような威力を用いて、他人の業務を妨害するなどの行為に対して成立するものです。

  • 「(机を蹴りながら)お前、俺の話を聞いてんのかよ?」
  • 「(店内で大声を出しながら)皆さーん、こんな店で食事をしちゃダメですよ!」
  • 「(客席でゲホゲホと咳をしながら)俺はこの店でコロナ感染したんだけど?」 など

なお、威力業務妨害は、SNSやインターネット上における以下のような行為も対象になります。

  • 「会場に突撃する!」とTwitter投稿し、イベントを中止させる
  • クレームの電話をかけ続けるなど、正常な店舗運営を妨害する
  • 社員の名前や自宅の住所などを、インターネット上で晒す など

威力業務妨害罪が成立した場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

偽計業務妨害罪に当たるケース

偽計業務妨害罪とは、虚偽の風説の流布や偽計を用いて人の信用を毀損したり、相手の業務を妨害したりするときに成立するものです。虚偽の風説の流布とは、真実ではないことを世間に広めることを意味します。偽計とは、人を騙す、他人の不知や錯誤を利用する、誘惑するなどのことです。

具体的には、以下の言動が偽計業務妨害罪に当たります。

  • 店内でほかの顧客に「皆さんが食べてる肉は、中国産なんですよ!」と叫ぶ
  • SNSで「あの店のスープには毒が入っている」と嘘を流す
  • 他人を装い、大量の宿泊予約を入れて、ほかの顧客が施設利用できなくする など

なお、偽計業務妨害罪と混同されやすいものに、威力業務妨害があります。両者の違いは、情報が正しいかどうかです。正しい情報を流した場合、基本的には、偽計業務妨害にあたりません。ただし、両者には似た側面もあるため、実際は、事案によって個別に判断されています。

偽計業務妨害罪が成立した場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

不退去罪に当たるケース

不退去罪とは、要求を受けたにも関わらず特定の場所から退去しなかった場合に成立するものです。不退去罪が成立するには、以下の3要件が必要となります。

  • 1.退去要求を受けたこと
  • 2.滞留に正当な理由がないこと
  • 3.退去しない場所や建造物が、人によって住居・看守されていること

具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 退店のお願いを無視して、客席に何時間も居座っている
  • 「ホテルの設備サービスが悪いから宿泊費を支払わない!」と言い、チェックアウト時間を過ぎても客室にこもり続けている など

なお、クレーマーの要求内容や店側の損害によって、威力業務妨害や脅迫罪、恐喝罪などもセットになることがあります。不退去罪が成立した場合、3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。

悪質なクレームに対処するために大切なポイント

マニュアルに沿って業務対応するイメージ
悪質なクレーマーへの対策を何から始めたら良いかわからない場合は、まず、以下4つのポイントを重視した備えや対応をしていくとよいでしょう。

クレーム対応を記録に残す

クレーマーとの間で「言った/言わない」を防ぐためにも、メモやボイスレコーダー、動画などで会話内容を記録に残すことが大切です。当事者自体の会話を録音することは、第三者による盗聴ではないため、法律的にも問題はありません。

また、会話内容やクレーマーの発言などを記録すると共に、時系列などの情報をクレーム報告書として速やかに作成して、報告をあげてもらうようにすることも大切です。クレーム報告書には、以下のような項目を盛り込むとよいでしょう。

  • 受付日
  • 担当者名
  • クレーム発生日
  • 発生場所
  • 顧客情報
  • 発生原因
  • クレーム詳細
  • クレーム対応
  • 処置内容
  • 処置完了日
  • 対応策

クレーム対応マニュアルを作成する

誰もがクレーム対応できるようにするには、基本的なフローやポイントなどを記載したクレーム対応マニュアルを作る必要があります。マニュアル内容にしたがってロープレ研修を実施すると、新人や若手でも、組織側で理想とする対応をしやすくなるでしょう。

なお、状況に応じて、以下のような定量的な判断基準を明記するのもおすすめです。

  • 同内容のクレーム電話が3回かかってきたら、上司に対応をお願いする
  • 5回以上の脅しで、法的措置を検討中であることを伝える など

悪質なクレームには組織全体で対応する

たとえば、若手従業員が、悪質なクレーマー対応を何日も続けていれば、精神的な負担から心を病み、休職や離職につながることもあります。場合によっては、安全配慮義務違反で、離職者から企業側が訴えられることもあるでしょう。

こうした問題を防ぐためにも、クレーム対応は必ず早めに情報共有し、組織としての方針を決めて対応していく必要があります。管理職を始めとする複数メンバーが共通認識を持つことで、ブレない姿勢で組織としてのクレーム対応が可能になるでしょう。

クレーム情報の共有・データベース化

たとえば、チェーン店の場合、同じクレーマーが他店舗で同様の脅迫などをすることもあります。しかし、こうしたクレーム情報を企業全体で共有できていれば、類似の問題の早期解決もしやすくなるでしょう。

また、クレーム情報のデータベース化で分析が可能になると、「こういう傾向のクレーマーには、A対応……」などのフローやマニュアルのブラッシュアップもしやすくなります。

社内での対応が困難であれば弁護士への相談もおすすめ

以下のようなクレーマーの場合は、弁護士に相談するのもおすすめです。

  • 何を言ってもクレーマーが引いてくれない
  • クレーマーの請求が正当かどうかの判断がつかない
  • 暴力的な人物で、社員が対応するには限界がある

弁護士が対応することで引くクレーマーも多いです。また、弁護士の協力でクレーマーの要求が正当かどうかを見分けるだけでも、対応の方向性は変わってくるでしょう。

まとめ

悪質なクレーマーから社員を守ることは、企業が負う安全配慮義務です。なお、犯罪に該当するような悪質クレームには、以下のようにさまざまな種類があります。

  • 脅迫罪
  • 強要罪
  • 恐喝罪
  • 威力業務妨害
  • 偽計業務妨害
  • 不退去罪

悪質だと感じるものについては、きちんと記録したうえで警察や弁護士とも連携して対応することが大切です。


著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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