個人のパフォーマンスを高めたり、管理職としてのマネジメント力を向上させる、また、良い職場の雰囲気を保ったりするうえで、怒りの感情と上手く付き合う「アンガーマネジメント」を身に付けることは有効です。
アンガーマネジメントで提唱される6秒ルールなどのさまざまなテクニックや心理学的な見地は、「怒り」という感情で失敗しないようにするうえで非常に効果があります。
本記事では、アンガーマネジメントの概要と習得のメリットを確認したうえで、自身の怒りのタイプを知るためのアンガーマネジメント診断や、アンガーマネジメントで特に重要とされる6秒ルール、おススメのテクニックなどを解説します。
<目次>
アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントとは、「anger(怒り)をmanagement(管理する)」技法や心理トレーニングの総称です。1970年代にアメリカで生まれ、もともとは、犯罪者のための矯正プログラムとして活用されていました。
矯正プログラムが、時代の流れによって一般化され、近年では人材マネジメントやビジネスシーンで注目されるようになっています。
アンガーマネジメント=怒りのコントロール?
もともとアンガーマネジメントは、「アンガーコントロール」と呼ばれていました。コントロールというと、怒りの感情を抑圧して、怒らないようにするといった印象を受けるかもしれません。
しかし、アンガーマネジメントを実践するには「怒りをコントロールする」のではなく「怒りとうまく付き合い、管理する」という考え方が大切です。アンガーマネジメントは、怒りの感情を「他人に迷惑をかけない形でどのように発散していくか?」にフォーカスしています。
アンガーマネジメントの解釈を誤ると、逆に感情の抑圧でストレスが溜まってしまうことになるため注意が必要です。
アンガーマネジメントへの注目が高まっている理由
近年、アンガーマネジメントへの注目が高まる背景には、いくつかの理由があります。
まず、最近の組織では、価値観や働き方が異なるさまざまな人材が協働をするようになっています。価値観や働き方の違いは相乗効果を生み出すうえでとても大切です。しかし、一方で、「自分の考えが理解されない」「非常識な言動をしている」といった怒りの感情にもつながりやすくなります。
また、先行き不透明で複雑性が増しているいわゆるVUCA時代、そして、コロナ禍やリモートワークなどによってメンバーとのコミュニケーションが思い通りにいかない状況、またコミュニケーションミスなどのストレスも起こりやすくなっているでしょう。当然のことながら、思い通りにいかない状況のストレスは怒りにつながります。
さらに、ハラスメント問題がクローズアップされるなかで、上司がメンバーに怒りをぶつける行為はパワーハラスメントになりがちです。
こうした背景から、近年のビジネスシーン、特に管理職層の育成、パフォーマンスUP、リスクマネジメントとしてアンガーマネジメントの重要性が注目されるようになっています。
アンガーマネジメントを習得するメリット
アンガーマネジメントを習得すると、以下の効果やメリットが生まれます。
レジリエンス(後天的なストレス耐性)が高まる
レジリエンスとは、ストレスを受け止めてしなやかに跳ね返す力です。いわゆるストレスに「耐える」のではなく、「受け流す」「跳ね返す」というようなイメージになります。
レジリエンスが高まれば、以下のようなときにも、怒りなどのネガティブな感情を噴出させることなく適切な対処ができるようになります。
・上司からネガティブなフィードバックをされた
・物事が自分の思い通りに進まなかった
・困難が生じた
・トラブルが起きた など
アンガーマネジメントをとおしてレジリエンスを高め、ストレスや失敗に押しつぶされないようにすることが、個人のパフォーマンスUPにつながります。
成長が促進される
アンガーマネジメントを習得すると、以下のような一次感情への内省もうまくなります(怒りは一次感情によって生じる二次感情)。
・苦しさ
・疲労
・心配 など
例えば、こうしたネガティブな気持ちに対して、「なぜ自分は心配をしているのだろう?」という振り返りが習慣化すれば、心配になりやすい価値観を改善しようと努める、または心配にならなくて良いだけの準備をするような対策を講じられるようになります。
また、アンガーマネジメントによって怒りの管理がうまくできるようになると、上司からの厳しい意見やネガティブフィードバックを素直に受け入れられるようになり、成長課題への取り組みも実践しやすくなるでしょう。
組織力が強化される
管理職層がアンガーマネジメントを身に付けることは、心理的安全性が高い組織づくりにもつながります。例えば、管理職層が怒りをあらわにするようなマネジメントをしていては、メンバーは怒られることを恐れ、チャレンジングな発言や行動をしにくくなります。
チャレンジングな発言や行動の減少とは、自分の無知や無能、失敗を隠すような状態です。たとえば、
・失敗を共有せず自分で何とかしようとする
・誰かの意見への異論を唱えなくなる
・思い付いたアイディアを発言しない など
管理職層がアンガーマネジメントを身に付けると、メンバーが心理的な恐れを抱くことなく、チャレンジングな発言や行動を行ないやすくなります。チームや職場の施策レベル、実行力、リスクマネジメントなどのレベルは高まり、異なる意見や視点の共有によりイノベーションの創出にもつながりやすくなるでしょう。
自身の「怒りタイプ」を知るアンガーマネジメント診断
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会のホームページでは、自分の怒りのタイプを把握できるアンガーマネジメント診断が公開されています。
アンガーマネジメントを行なう場合、自分の怒りのタイプを知ることがとても重要です。自分がどのようなことに怒りやすいのか、どのような正義感や価値観を大切にしているかを知ることで、自分の怒りを客観的にとらえて適切な対応がしやすくなります。
本項では、6つに分類される怒りのタイプ(怒りやすい現象)を紹介していきます。
俺様ライオンタイプ(威風堂々タイプ)
自分に自信のあるリーダー的存在です。自尊心も非常に高いため、周囲からネガティブな評価や扱いを受けたり、思い通りにならなかったりしたときに怒りを感じやすい傾向があります。
自由ネコタイプ(天真爛漫タイプ)
自分の主張や気持ちを率直に表現するタイプです。自分と異なり、意思表示しない、または自分から行動できない人がいるときに、怒りやストレスを感じやすい傾向があります。また、好奇心も旺盛であることから、行動制限や管理にも弱いタイプです。
熱血柴犬タイプ(公明正大タイプ)
自分の信念を大切にしていて、正義感が強いタイプです。ルールや道徳に外れたことが許せず、誤りを正そうとしてストレスを感じる特徴があります。他者へのジャッジや介入も多く、人間関係のトラブルを起こしやすい側面もあります。
白黒パンダタイプ(博学多才タイプ)
向上心が強く、自分にも他人にも厳しいタイプです。完璧主義で、何でも白黒つけたがる特徴があります。適当な行動をしたり、優柔不断な人がいたりする場合に、怒りやストレスを抱えがちです。
頑固ヒツジタイプ(外柔内剛タイプ)
パッと見はやわらかい印象なのですが、内面には強い芯を持つタイプです。外見と内面のギャップで周囲からの誤解を受けやすく、自分の価値観と合わないことに対して表面的には柔和に対応しつつもストレスや怒りが溜まりがちです。
慎重ウサギタイプ(用心堅固タイプ)
警戒心が強く、慎重なタイプです。自分の領域に立ち入られることが苦手であるため、人間関係でストレスを感じやすい傾向があります。また、自分にも他人にも固定概念や先入観を持ちやすい特徴もあります。
アンガーマネジメントで重要な6秒ルールと怒りと付き合うテクニック
アンガーマネジメントを習得するには、以下3つのポイントを押さえて、自分の感情の内省や対処をしていくことが大切です。
6秒ルール
怒りの感情は、実は長続きしません。一般的には、怒りは「6秒」でピークに達するといわれています。したがって、怒りを感じたときに6秒間をやり過ごせば、怒りのエネルギーを軽減できるということです。
自分のなかで怒りが噴出したら、「1、2、3、4、5、6……」とゆっくり数字を数えましょう。怒りによって数字を数える余裕がない場合は、即座に手を閉じたり開いたりしながら、時間が経つのを待つ方法もおススメです。
どう頑張っても6秒待てないほどの怒りが生じたとき、また、6秒経っても怒りが収まらないときなどは、一時的に今の場所を離れる「タイムアウト」も一つの手です。
人によっては、相手との議論中に今の場所を離れることに対して「逃げ」や「失礼」と感じることもあるかもしれません。ですが、噴出した怒りで冷静な議論やコミュニケーションを取れず人間関係を壊してしまうリスクを考えれば、いったんタイムアウトして今の場所を離れることは有効な選択になるでしょう。
いわゆる頭を冷やして、理性を働かせるためには、場を外して散歩に行く、飲み物を飲む、体をほぐすといったことが有効となります。
怒りに点数をつける
アンガーマネジメントでは、怒りの感情に任せて文句や批判をする前に、まず自分の怒りを診断して点数をつける方法も勧めています。やり方としては、怒っていない状態を0点、最も強い怒りを10点として点数をつけていく形です。
「今の怒りは何点だろう?」と自分に問いかけると、6秒ぐらいの時間は過ぎてしまいます。したがって、点数をつけてから文句や批判をすることを習慣化すれば、衝動的な言動や行動も少なくなるでしょう。
また、点数をつけることは自分の怒りを第三者的に分析する思考(メタ認知)を働かせる行為になります。したがって、怒りの感情から理性的に移行するモードにスイッチを変えられる利点もあります。
自分の怒りを何度か数値で診断すると、怒りのタイプ診断のように自分の傾向も見えやすくなります。また、診断するなかで、特定の相手だけに「8点」や「9点」といった高い怒りがある場合は、相手との関係や距離感、仕事の仕方を変えるなどの工夫も可能になるでしょう。
許す基準を定めて相手を認める
多くの怒りは、自分のなかにある「こうあるべき」という価値観と、相手の行動や考え方が合わないときに生じるものです。逆にいえば、相手の言動行動や価値観を認め、許せるようになれば、怒りが生じにくくなるわけです。異なる価値観を認められるようになることは「器を広げる」ことにもつながります。
例えば、自分は時間の約束を守ることを大切にしており、待ち合わせでも必ず10分前に到着するといった傾向があるとします。そこで待ち合わせ相手が遅れた場合、苛立ちや怒りが生じやすくなるでしょう。
苛立ちや怒りが生じたときに、「冷静に考えて自分に何か実害が出たわけじゃない」と相手を許すことができれば、怒りが生じづらくなります。また、許しの基準を持つことで、そもそも相手が時間ちょうどの到着や数分の遅れで問題が生じる場合は待ち合わせの時間を少し早める、といった回避策を取ることにもつながります。
まとめ
アンガーマネジメントとは、怒りと「うまく付き合う」スキルです。異なる価値観を持った人が働くことも増えたり、ハラスメントに対する世間の基準も厳しくなったりするなかで、「怒り」をうまくマネジメントすることは、管理職層にとっては必須のスキルになっています。
アンガーマネジメントをするには、以下の自分の怒りのタイプ=どのような基準で怒るか、どのような正義感や「こうであるべき」という価値観が強いかを知っておくことも有効です。
・自由ネコタイプ(天真爛漫タイプ)
・熱血柴犬タイプ(公明正大タイプ)
・白黒パンダタイプ(博学多才タイプ)
・頑固ヒツジタイプ(外柔内剛タイプ)
・慎重ウサギタイプ(用心堅固タイプ)
また、怒りの感情は、6秒でピークに達する特徴があります。したがって、怒りを感じたら、まずは6秒数えて怒りをやり過ごすという「6秒ルール」も有効です。6秒ルールの考え方に加えて、自分の怒りに点数をつけたり、許す基準を決めて相手の価値観を認めたりするような工夫をしてもよいでしょう。