ECやWebマーケティング、事業のサービス化などが進むなかで、対面営業が大半であった時代と比べて営業力の重要性が低下しているともいわれています。なかには、「営業不要論」を唱える方もいます。
しかし、高額商品や無形サービスなどを提供するうえでは、営業接点がいまも不可欠であると考えてよいでしょう。むしろ、Web上での情報収集などが可能になっているからこそ、個別顧客のニーズや状況を踏まえて「ソリューション」として商品・サービスを提案する営業力の重要度が増しているともいえます。
本記事では、営業力の概要や構成要素を確認したうえで、個人の営業スキルを鍛えるために重要な営業力の本質や、組織の営業力アップに求められるセールス・イネーブルメントの考え方を解説します。
<目次>
営業力とは?
営業力とは、個人と組織が営業活動で成果を出すための能力やスキル、仕組みです。営業力は、特定の能力やスキルによるものではなく、複数の要素で構成されます。
また、今までは企業が「営業力」を高めるうえで、個人の能力強化や人材育成がクローズアップされがちでしたが、最近では、組織としての「営業力」、CRMやSFAなどのツール活用、人材育成・文化創造などを含めた営業強化の仕組みもあらためて注目されるようになっています。
こうした傾向から見ても、マネジメント視点で営業強化を考える際には、個人の要素と組織の要素、両方のレベルUPにバランス良く取り組んでいくことが大切となるでしょう。
営業力を構成する要素
営業力は、以下のようなさまざまなスキルや知識によって構成されています。
新入社員や若手などは、営業に対して「お客様に頭を下げて購入してもらう」や「多くの人に売りつける」などの誤ったイメージを持っていることもあります。こうした誤解を持ったままでは、前向きな仕事や成長、お客様とのより良い関係構築はできません。
また、自社の営業職に誤ったマインドがあった場合、顧客の商品・サービスの購入体験(いわゆるUX)においてネガティブなイメージを持たれることもあるでしょう。
営業という仕事の本質は、「お客様の期待に応え悩みを解決する。価値提供や貢献の正当な対価としてお金をいただくこと」です。適切な営業マインドを持つことで、「お客様に貢献する!」という前向きな想いで仕事に取り組みやすくなります。
商品・サービス理解を深めるうえで重要となるのが、スペックや機能といったパンフレットから得られる知識のほかに、商品の開発における背景やエンジニアの想いなどのストーリーも理解することになります。
例えば、新製品を売るときに、公式サイトに書かれたスペックや機能面の特徴をお客様に伝えるよりも、「お客様のこういう要望を叶えるために、開発を始めることになったんです……」や「デザイナーはこの部分に苦労しましてね……」などのストーリーテリングができたほうが、お客様の感情を動かしやすくなります。
また、大前提として顧客が関心を持っているのは、商品・サービス自体ではなく、商品サービスを使うことによって解決する自分の課題、実現する欲求です。自社の商品サービスはあくまで「手段」です。
さらにいえば、すべての機能やスペックなどは、課題解決や欲求実現を現実化するための手段であり、実現できるという根拠や保証です。
一般的にジョブ理論やベネフィットなどとも呼ばれる考え方ですが、営業力を高めるには、そういう視点で商品理解をすることが大切です。
一方で、きちんと業界分野、競合商品に関する理解をしておくと、「A社さんと比べて機能性は低いのですが、かえってシンプルで手が届きやすい価格帯のシリーズになっています」といった案内も可能になります。
業界全体において、「自社がどういうポジションにいるのか?」「どこが強みで、どういった顧客に最適な商品なのか」などを客観的に把握することが大切になるでしょう。
一般的には、営業では商品の魅力や特徴を「伝える力」が大事と思われがちです。しかし、営業活動で「伝える力」を適切に活用するには、まずは対話を通じて、①お客様を理解し、②信頼関係を築き、③自分を理解してもらえるようにするコミュニケーションが求められます。
さらに、「営業が伝えたい情報」と「お客様が求める情報」が一致するとは限りません。両者を一致させるうえでも、まずは、お客様の話に耳を傾け、相手を理解する「聴く力」を生かしたコミュニケーションが必要です。はじめにしっかりと「聴く」ことで、次のステップでこちらの提案や説明に耳を傾けてもらいやすくなります。
顧客の不満や課題に真摯に耳を傾け、顧客の感情や欲求をきちんと受け止めることが「聴く力」だとすると、ヒアリング力は、以下のような質問を通じて情報を能動的に引き出す力になります。
- 「今回問い合わせいただいた背景はどのようなものですか?」
- 「その状況の何にお困りですか?」
- 「どのような状況にしたいとお考えですか?」
- 「何を実現させたいですか?」
- 商品やサービスの導入で実現すること
- 要望を実現できる機能やスペック、使い方
など
特に高額商品やBtoBの営業などにおいては、感情を動かすコミュニケーションとともに、論理的な説明力も不可欠になります。ロジカルな提案を実現する軸は、以下の2つです。
- お客様の話を的確に理解する
- 自分の提案を的確にお客様に伝える
ロジカルな提案では、お客様の状況を論理的に分析できていることが前提となります。「課題の◯◯を解決するには、△△の理由で○○の商品が良いと思います。なぜなら……」と、顧客の課題、商品サービスの機能やスペックで実現することなどをしっかりと紐づけることが大切になるでしょう。
・商談をまとめるクロージング力クロージング力は、意思決定をあと押しすることで商品購入に導くスキルです。ただし、重ねてきたヒアリングや提案が適切に実施されていない場合、クロージングはほぼ無意味です。
実際の営業では、顧客の課題などのヒアリングを適切に行ない、聞いた内容に合った提案をしたうえで、テストクロージングなどを通じて、顧客が購入の意思決定をする際のハードルや懸念点を把握していきます。そして、懸念やハードルを払しょくし、意思決定の背中を押すというイメージです。
個人の営業力を鍛えるために大切な営業力の本質
前章では能力という側面から営業力を見てきました。
一方で、顧客視点で「買うプロセス」を考えてみると、違う側面から営業力の本質が見えてきます。顧客視点で見た場合、商品購入の意思決定に到達するには、以下4つのプロセスが必要です。営業力が目指すものは、以下4つのプロセスを実現していくことであるとも言い換えられます。
①信頼できる相手である
以下のように、販売する企業や個人との信頼関係が構築できている状態が必要です。
- 「このセールスマンは信頼できる」
- 「この人には正直に課題を話しても良い」
- 「この人の言うことなら信じられる」 など
信頼関係を築けなければ、本音の情報を教えてもらえない、提案を信じてもらえないといった状態となり、営業活動は進みません。
②課題を解決することが必要である
購入の意思決定をするには、課題を解決する、または、欲求を実現することが、自分にとって優先度が高いと思える状態が必要です。
必要だと感じているとは、課題解決や実現のために、何らかの投資、コストや工数を割いていくことが適切だと考えている状態でもあります。
③自分・自社にとって最適な商品・サービスである
さまざまな選択肢があるなかで、課題解決・欲求実現をするうえでは、対象の分野の商品・サービスが適している、そして、提案されている商品・サービスがその中でも最も良いと思えている状態です。
以下のような理由によって、対象の商品・サービスが最も自分に合っていると感じられることが理想となります。
- 「自分の悩みを解決できる」
- 「自分でも使いこなせる」
- 「自社にピッタリである」
④いま意思決定すべき理由がある
いま意思決定すべき理由とは、以下のような状態を意味します。
- 「早く導入したほうが効果も早く得られる」
- 「懸念点はすべて解消されている」
- 「いま申し込めばキャンペーンの対象、お得である」
- 「ボーナスが入り金銭的に余裕がある」 など
営業活動の本質は4つの「不」を解除
多くの場合、顧客から見て営業担当は「知らない人」です。よって、営業の初期段階では、「自分にお金を使わせようとする」営業担当に対して、心理的なガードを固めている状態になります。
つまり、新規商談や新たな顧客との出会いでは、自分や企業に対して「不信」感を抱かれている状態から始まります。そして一つずつ買わない理由を解除して、顧客の「買うプロセス」を前に進めることこそ営業活動の本質です。
顧客の買うプロセスを前に進めるためには、以下の4つの「不」を順番に解除していくことが必要です。4つの「不」の解除プロセスを実践する力こそ、営業力の本質なのです。
- 不信(信じられない)
- 不要(必要ない、優先度が低い)
- 不適(最適ではない、目の前の物じゃなくても良い)
- 不急(今じゃなくてもいい)
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組織の営業力を強化するために大切なセールス・イネーブルメントの考え方
組織の営業力を強化する以下のような取り組みを、セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)と呼びます。
- 営業プロセスの構築
- SFAやCRMツール導入
- 人材育成 など
組織全体の営業力を強化するには、特定の営業パーソンや個人の才能に頼るのではなく、組織全体で底上げするための仕組みづくりが必要です。人材育成の仕組みはもちろんのこと、ツールなどによる仕掛け・仕組みも大切になります。
営業プロセスの体系化
自社のセールスステップや用語・概念を言語化して共通化していきます。用語や概念を共通化することで、新人に対して誰もが同じ言葉で教えることが可能になります。
また、成功事例の共有、ケーススタディー、同行時の指導やフィードバックなどもスムーズに進むようになります。
SFAやCRMツールなどの選定と導入
SFAツールの導入によって、営業活動に関する情報・データを蓄積し、分析することができるようになります。個人や営業マネージャーの勘や経験に依存しない営業強化が実現可能になるでしょう。
また、組織として営業活動を行なううえでは、リード創出や顧客リスト構築が非常に重要となります。CRMを通じて顧客ときめ細かいコミュニケーションをとったり、顧客情報や購買履歴を一元管理したりすることで、顧客の引継ぎ、掘り起しなどのアプローチがスムーズとなり、組織の営業力を強化できるようになるでしょう。
営業育成体制の整備
組織の営業力強化には、Off‐JTやOJTの整備、営業ノウハウに関するコンテンツや資料作成、ノウハウの言語化・共有、ロールプレイング文化の構築なども大切になります。
また、人材育成の仕組み化も必要となるでしょう。
営業力は、OJTや実践を通じて磨かれる部分がとても大きいです。ただし、一方で、必要な知識、ツールの活用、ロールプレイングやケーススタディーといったOff‐JTなどを通じて、人材育成を加速させることが大切になります。
まとめ
営業力は、個人・組織が営業活動で成果を出すための能力やスキル、仕組みの総称です。個人の営業力は、以下の要素などで構成されます。
- 営業という仕事に対する正しい認識(営業マインド)
- 顧客視点での自社の商品・サービス価値や裏側にあるストーリーの理解
- 業界や競合に関する理解
- 基本的な対人コミュニケーション力
- 顧客の課題を汲み取るヒアリング力
- ロジカルな提案力
- 商談をまとめるクロージング力 など
個人の営業力を鍛えるには、お客様が商品を買わない理由(4つの「不」)を解除するスキルを高めることが本質になります。
また、組織の営業強化を考えるうえでは、個人に依存するのではなく、組織の営業力を高めることも大切です。
組織の営業力強化とは、以下のような手段を使うことで得られる「新人をスピーディーに戦力化する」「誰もが標準的に成果を上げられる」「顧客の購入や接触履歴やリード情報の適切な管理」などが該当します。
- 営業プロセスの構築
- SFAやCRMツールの選定と導入
- 営業育成体制の整備
個人の営業力強化と組織の営業力強化(セールス・イネーブルメント)の取り組みを並行して進めることで、特定の営業パーソンに頼らなくても成果を出し続けられる組織づくりが可能となるでしょう。
コミュニケーション力は、営業力のなかでも大きなウェイトを占めるスキルです。コミュニケーション力を高めるために営業研修などを実施する場合は、以下の資料なども参考になります。ぜひご覧ください。







