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企業にとって、多様な文化やスキルを持つ人材の力を最大限に引き出す組織づくりは重要です。フリマアプリを提供する株式会社メルカリは、まさにこの前提に立ち、成長を続けてきました。グローバルカンパニーへと進化してきた裏側には、様々なバックグラウンドを持つ人材を支える人事・評価制度が存在します。
本記事では、4つのバリューに基づく評価制度や「AIネイティブな組織」への変革を目指すメルカリにおける人材戦略のあり方などについて、株式会社メルカリのPeople&Culture Director, People Experienceの早川 アンジー 亜貴 氏に、『HRドクター』を運営する株式会社ジェイック 取締役 兼 常務執行役員の近藤が、お話を伺いました(以下敬称略)。
<目次>
- グローバル成長を支える、人事制度の全体像と進化の歴史
- 多様な人材をまとめる、ふたつの評価制度
- 多様な人材を惹きつける採用力の源泉と、大切にしている育成方針
- 多様な人材を束ねる「チームビルディング」とマネジメント層の強化
- AIネイティブな組織への進化と求められる人材
グローバル成長を支える、人事制度の全体像と進化の歴史
多様なタレントを活かす人事戦略
近藤2013年の設立以降、メルカリは急速に成長を遂げてこられました。はじめに、貴社が掲げるミッションや、それを体現するための人材戦略についてお聞かせください。
早川当社では「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というグループミッションを、共通の指針として掲げています。
オフィスは東京・福岡・アメリカ・インドにあり、主軸事業はスマートフォン向けフリマアプリ「メルカリ」のマーケットプレイス事業です。これに加え、電子決済サービス「メルペイ」、暗号資産関連サービス「メルコイン」といったフィンテック事業も展開しています。
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早川掲げているミッションを支える「マテリアリティ(事業を通じて解決すべき最も重要な課題)」のひとつが、「世界中の多様なタレントの可能性を解き放つ組織の体現」です。現在、社員は約2,000名。
日本の拠点だけでも約3割が外国籍社員で、開発部門では5割以上を外国籍社員が占めています。こうした組織状況を踏まえ、多様なタレントの可能性を最大限に引き出すことが重要だと考えています。
また2018年の上場に伴い、会社に求められる社会的責任も変化しました。このような背景も踏まえて、世界中から人材を採用し、グローバルな成長戦略を推進するため、2021年に人事制度をリニューアルしました。
近藤リニューアルされた人事制度の概要もお聞かせいただけますか。
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早川当社の人事制度は、多様なバックグラウンドを持つ社員が継続してキャリアを築けるように設計しています。これは、外国籍社員だけでなく、外資系企業出身の社員が多いことも意識しています。
現在の人事制度は、JD(ジョブディスクリプション・職務記述書)に紐付くジョブ型と、グレードによって期待する役割を定めたメンバーシップ型のハイブリッドです。
社員のグレードが上がるときは、グレードに応じてJDの内容も変わり、求められる仕事の責任や範囲が明確に定まります。完全なジョブ型にすると、全ての業務を網羅できず組織運営が難しくなると考えたため、ハイブリッドの形になりました。
異動は「Bold Choice」という社内公募制度を通じて行われます。組織的な意図をもって異動させるよりも、社員が自ら手を挙げて異動するケースもあります。組織変更はかなり頻繁に行っていますが、あくまでも経営しやすくすること、あるいはミッションを達成することが目的です。
多様な人材をまとめる、ふたつの評価制度
「成果」と「行動」を組み合わせた評価軸
近藤人事評価についてもお伺いしたいです。どのような評価制度なのかご教示いただけますか。
早川人事評価は、期待される成果を測る「成果評価」と、バリュー発揮の実践度を見る「行動評価(バリュー評価)」の2本立てで実施しています。賞与額は主に成果評価に紐づき、昇格・降格はふたつの評価を総合して決定されます。
評価の基盤となるバリューは、創業当初からある「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(すべては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」、途中から追加された「Move Fast(はやく動く)」の4つです。会社が立ち上がった初期から、採用と評価の双方でバリューを強く意識していました。
なお、成果評価と行動評価はどちらも5段階評価です。例えば、極めて高い成果を上げていたとしても、バリューがあまり発揮されていなかった場合、総合的な評価はマトリックスにより決定されます。
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バリュー評価の公平性を担保する取り組み
近藤バリューを発揮する姿勢が評価にしっかりと落とし込まれるよう、仕組みを整えているのですね。バリュー評価を公平に行うための施策には、どのようなものがあるのでしょうか。
早川バリュー評価は直属のマネージャーが半期に一度実施しますが、マネージャーによる評価の偏りや、マネージャーから見えない行動に対する評価を補完するため、「ピアレビュー」を取り入れています。
社員は自己評価を提出する際、共に仕事をしたメンバーのうち3名にフィードバックを依頼します。フィードバックの内容は、主にプロジェクト内でバリューを発揮した行動や、改善点についてです。フィードバックが記載されたレポートはシステムを通じてマネージャーに提出されます。このピアレビューの仕組みは、海外拠点でも同様に実施しています。
このようにして評価の公平性を保ちながら、社員が日々の業務の中でバリュー発揮を意識し、成長し続ける環境を作っています。
近藤評価方法に加えてバリューを浸透させることも重要だと思いますが、どんな施策を講じていらっしゃいますか。
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早川各組織で「Value賞」というアワードを実施しています。各バリューをその期に最も体現した人物と、すべてのバリューを体現した人物を、社員の投票とリーダーの議論によって決定し表彰する取り組みです。
表彰制度によって、社員はどのような行動がバリュー体現に繋がるのかという具体的な事例を知ることができ、行動の参考にできるようになっているのです。
多様な人材を惹きつける採用力の源泉と、大切にしている育成方針
リファラル採用を推進する理由
近藤貴社は以前から採用に強いイメージがありますが、採用力の源泉はどのような点にあるとお考えでしょうか。
早川大きな源泉となっているのは、創業時から続く「全員採用」の文化です。メルカリでは、採用を人事だけの役割とは捉えていません。社員一人ひとりが、ミッションやカルチャーに共感する多様で優秀な人材を自ら探し続け、採用することにコミットする。こうした姿勢が、全社共通の考え方として深く浸透しています。
また、メルカリはスタートアップと呼ばれる企業でありながら、プロジェクトや仕事を大胆に進める、先進的な企業であると考えています。裁量を持ちたい、挑戦したいという気持ちを持つ方々にとっては、メルカリは魅力的な職場だと思います。挑戦的な姿勢を肯定するバリューに多くの社員が共感し、やりがいを感じているのではないでしょうか。
また「リファラル採用」の比率が高い点も、採用における特徴だと思います。当社がリファラル採用を推進するのは、通常の採用活動では、候補者の仕事に対する向き合い方やキャリアの意向を正確に把握するのに限界があるためです。リファラル採用であれば、比較的バックグラウンドを把握した状態で採用を検討できます。
リファラルで採用した方が定着した場合には、金銭的な報酬を出す制度も設けており、採用チームだけでなく社員全員で採用活動を行っているイメージです。
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キャリアプランに基づき、社内外でのステップアップを支援
近藤近年は、社員の育成にもより一層注力されていると拝見しました。どのような取り組みを実施されているのでしょうか。
早川前提として、当社の平均勤続年数は約3年です。
育成のベースとなるのは、社員のステップアップを支援するための「育成・キャリアプラン」です。現在もしくは目標とするグレードのJDに基づき、上司とすり合わせながらプランを作成します。
育成の根本にあるのは、「次のステップが必ずしも社内にあるとは限らない」という考え方です。社外に新たな挑戦を見つけた社員は、皆で送り出します。一方で、「自分で事業をやりたい」と手を挙げた社員が、メルカリ本体や子会社で事業を立ち上げるケースもあります。
実際、新規事業の社長に就任したのは、新卒入社だった例もあります。また、国外オフィスへ異動するケースや、社内でジョブローテーションを通じて長くキャリアを構築しているケースも一定数存在しています。
行動指針を明確化し、現場のニーズに合わせた学習をサポート
近藤社員の成長を後押しするような研修制度や支援プログラムなどは展開されているのでしょうか。
早川新入社員研修やマネージャー研修といった基本的なものは実施していますが、それ以外の学習機会は、部署のニーズに合わせて柔軟に対応しています。具体的には、部署ごとに外部の講師を招いて必要なタイミングで研修を企画・実施したり、社員が自ら様々なセミナーに参加する際の費用負担を行っています。
システム開発など変化のスピードが早い分野では、人事が研修プランを用意してもその内容がすぐに古くなる可能性があります。
そのため、会社として実践的な学びを得る場への参加を支援しています。例えば、生成AIなどテクノロジー関連の有名なカンファレンスについては、国内外問わず多くの社員に公平に機会を提供できるような環境を整えています。
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多様な人材を束ねる「チームビルディング」とマネジメント層の強化
年齢も国籍も超えて協働するための組織体制
近藤組織規模の拡大と海外人材比率の高まりに伴い、グローバルカンパニーとしてますます発展していくためには、組織力を高めることが重要だと考えます。
貴社がチームビルディングにおいて特に意識しているポイントをお聞かせください。また、多様な人材を率いる管理職の育成やマネジメントで重視されていることがあれば、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。
早川チームビルディングへの支援は充実しています。チーム・部署・プロジェクトといった所属を超えた社内コミュニケーションを活性化させ、より多くの人とより良い業務上の関係性を構築することで、パフォーマンスやバリューの発揮を高められると考えているからです。
当社は、新卒から何十年とキャリアを築くことを前提とした構成ではなく、最初から「様々なバックグラウンドを持つ方が集まる」環境です。その結果、社内では年次や役職に基づく序列がないという点が特徴です。
自分より年下の社員が高い役職に就くこともありますが、それによって不和が生じることはありません。人間関係の中で一般的に起こる不和はもちろん発生しますが、年功序列的な要素によるものではないため、特別な対策は特にしていません。
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ただし、インクルージョン&ダイバーシティ推進に向けて、バイアスをかけないための研修などは人事部門主導で実施しています。外国籍や男女といった特定の属性に特化したものではなく、多様な方々と働くにあたって注意すべきことや配慮すべきことを体系立てて伝えるものです。
研修は年に数回開催され、役職者は参加が必須ですが、その他の社員は任意で参加できる形となっています。意外かもしれませんが、外国籍の方々も多く参加しています。
これまで外国籍の社員は「ケアを受ける側」であることが多かったのですが、多様化が進む中で、自分も「ケアする側」に回ることが増えたという声を聞きます。それにより、自分自身も価値観や考え方を変える必要があると感じているようです。
なお、このような研修は日英で実施されています。
AIネイティブな組織への進化と求められる人材
AIとの協業を前提とした組織へ進化するための戦略と展望
近藤これまで貴社の人事制度や育成方針について詳しくお聞かせいただきました。これらを踏まえ、今後の貴社の人材戦略・人事制度についてお聞かせいただけますでしょうか。
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早川長期的な方向性として、組織を「AIネイティブな組織」に進化させることが示されています。AIを単なるツールとして使うのではなく、AIと人が協業し、新たな価値を創造する組織を実現したいと考えています。
今後数年間ではAIネイティブな状態を社内で作り上げることが、人材戦略の主要なテーマになると思っています。また、組織や役割の境界を超えて、AIとともに新たな価値を生み出す人材の再定義も重要です。
これから「AIネイティブな組織」の姿を具体的な計画に落とし込み、変化を社員に受け入れてもらい、組織全体で変革を推進していくことになるだろうと考えています。
近藤「AIネイティブな組織」の構築ですね。社員の皆さんのキャリアや業務内容にはどのような変化がありそうでしょうか。
早川例えば「10年程度の経験が必要とされる」仕事の領域があったとしても、AIがその一部を代替できるようになる世界が到来しつつあります。そうなると、キャリアがそれほど長くない社員でも、長いキャリアを持つ方と同等、もしくは超えるような成果を出せる状況が生まれるでしょう。
社内ではすでに、キャリアが浅くても、AIを組み合わせることで上位グレードと同等の成果を出し、昇格している事例が発生しています。
今後、AIを使って成果を出す人が増えるにつれて、ますます年齢や勤続年数と評価は関係しなくなるのではないでしょうか。
ただし、AI活用を進める中では、AIに「任せて良い範囲」と「任せてはいけない範囲」をかなり厳しく定めています。社員自身がやるべきは、最終的な決断を下すこと、責任を引き受けることです。例えば、AIが書いたコードを安易に信じた結果、何か大きな問題が発生した際に「AIが書いたから」というのは言い訳でしかありません。
私たちの目指す場所は、真のグローバルテックカンパニーです。これからも年齢や国籍、経験年数に関わらず、より一層大きな価値を生み出せる組織を追求していきたいと思います。
近藤貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!






