全国各地の文化財や城、名勝などの歴史的建造物を活用し、ホテル・レストラン・結婚式場を全国で展開するほか、地域の宝である資源を磨き上げ施設再生することで持続可能な観光まちづくりに取り組むバリューマネジメント。
Great Place to Work® Institute Japan「働きがいのある会社」ランキングの中規模部門でベストカンパニーに選出されています。
新卒1万人の応募者から選出される、狭き門を突破した精鋭たちを導く、会社全体にみなぎる「熱量」とはいかなるものなのか――人材育成と組織づくりについて人材開発部 人材開発部 統括 西本 孝之様にお話を伺いました。
設立:2005年2月14日
従業員:1066人(2023年5月現在)
全国で急増する空き家・空きビルの問題や、課題となっている歴史的建造物の維持・保存に向き合い、それらを活用することを事業の柱とし、さらに行政の遊休施設の修復運用や、ホテルや旅館、結婚式場などの施設再生を行う。
結婚式では企画、運営、請負及びコンサルティング業務、婚礼式場の経営、店舗開発のコンサルティング、人材開発コンサルティングなどを手がける。
<目次>
- Q.貴社の事業内容とその特徴について教えてください
- Q.どのように町の文化を残しているのですか?
- Q.事業を展開するうえで気を付けていることは?
- Q.施設が増え、組織が大きくなる中で採用において重視する点は?
- Q.それでも採用の前後でギャップは生じるのでしょうか?
- Q.そのほかに社員が成長するための制度や研修などはありますか?
- Q.今後の組織づくりについて教えてください
Q.貴社の事業内容とその特徴について教えてください
西本様:私たちは主に、歴史的建造物や歴史資源を活用した観光まちづくりを行っています。一つの町には、そこにしかない有形・無形の貴重な文化が存在します。
有形のものとしては歴史的建造物などが挙げられます。しかし、これらの保存は税金を必要とし、人口流出が進む地方では税収が不足していて維持が難しくなっています。
無形のものとしては地元の祭りなどがありますが、人口流出や核家族化により文化継承が難しい状況にあります。
一部の地域では、大型のショッピングモールやテーマパークなどの都市開発により集客や雇用が生まれ、人口が増え税収も上がったように見えます。
しかし、実際には地上げなどで地元の人々が町を去ってしまっています。
結果的に、町の人口が変わらなかったとしても、移住者ばかりになり、地域の特性が失われてしまう画一的な町になってしまいます。
この傾向は日本全国に広がっており、私たちはこれを食い止めたいと考えています。
Q.どのように町の文化を残しているのですか?
西本様:全国には126もの「重要伝統建造物群保存地区」があります。
それらを各行政が保全しているのですが、「町並みを残すためにはコストがかかるうえ、保全のためのノウハウもわからない」という課題を抱えた自治体からお声がけをいただき、歴史的資源の利活用を通じた「まちの事業化」へ向けてともに取り組んでいます。
町が元々持っている魅力をそのまま伝えるために、まちに点在する歴史的建造物にホテルのフロントやレストランといった機能を持たせた分散型ホテルとして再生。
現代の機能性は持たせつつも、リノベーションを最小限に抑え、歴史的建造物の趣や風情を「そのまま生かす」ことを心掛けています。
日常の喧騒を離れてお過ごしいただくべく、テレビや時計はあえて部屋に置かず、明々とした照明も用意していません。
そうした「ザ・日本」を感じつつ、その町で“暮らすように泊まる”ことをコンセプトにしました。
また、当社が手掛ける分散型ホテルは町の中にホテル機能が点在しているため、フロント棟から実際に泊まる客室棟までは2km先、ということもあります。
お客様が町を歩き、町を見て宿泊先にたどり着くことで、町がそのまま観光地化されます。途中で気に入った店などに立ち寄ることで、経済的効果も生まれます。
こうした観光まちづくりによって、地域に産業と雇用を産出し、まちの発展に貢献することが大きな狙いです。
その他にも、建物を預かり、その建造物本来の趣はそのままに新たな事業を展開することもあります。
例えば、かつての料亭旅館を結婚式場やアニバーサリー会場として活用し、利益は家賃としてオーナーに支払うことで、建物の継続的な保全が可能になりました。
これも文化を残すための有効な手段になっています。
結婚式などの節目の行事で使われた場所は、その人にとってかけがえのない場所となります。私たちは、町とともにそうした人々の人生や暮らしをより豊かにするお手伝いができればと考えています。
Q.事業を展開するうえで気を付けていることは?
西本様:当社の事業内容では、避けて通れないのが文化財保護法です。それに関わる文化庁とのやりとりは慎重に行っています。
基本的に、文化庁は歴史を守る立場にありますので、当社の文化保護と観光まちづくりの取り組みをどのように理解してもらい、推進できるかが課題となっています。
現状では、文化財の活用法は観覧や美術館などに限られており、当社のような民間企業や一般の人々が自由に利用することは難しい状況です。
一方で、海外では文化財が多目的に活用されていることが多いのですが、日本ではそのような取り組みはまだ限定的です。
そこで、当社から文化庁にスタッフが出向し、文化財支援コーディネーターとして対話しながら、文化財活用のための突破口を模索しています。
今後も政府、行政、民間が協働しながら事業を拡大し、BtoCの面ではお客様の暮らしを豊かにし、BtoBの面では地域に利益を残せるように努力していきたいと考えています。
Q.施設が増え、組織が大きくなる中で採用において重視する点は?
西本様:2024年の新卒予定者からは、1万人以上ものエントリーを頂き、非常に感謝しています。
しかしながら、その中から僅かな数十名を選び出さなければならないため、採用基準は高いものとなっています。
採用の基準は主に「志」と「力」で、特に「志」を重要視しています。
「力」については、個々のスキル・ポテンシャルを評価しますが、「志」については、我々の事業は行政を巻き込む大規模なものであり、民間で推進するためのリスクを背負う覚悟が求められます。
それに見合うだけの、魂や人生を賭けるほどの「志」があるかが問われます。
学生の中には、事業内容を理解し、憧れからエントリーする方も多いですが、単なる憧れだけでの採用は行っていません。
「私たちが推進したいことと、あなたが人生をかけて達成したいことが一致しているか」が採用の重要なポイントです。
そのため、面接では60分のうち45分を当社の「志」についてのプレゼンテーションに充て、残りの15分で採用候補者の望むことと、その目標が当社と一致するかを確認します。
互いに意見を調整する必要はありません。むしろ、採用候補者の人生の軸となる価値観が何かを見つけ、お互いの価値観が合致するかを探ることで、より強固とした採用を目指しています。
Q.それでも採用の前後でギャップは生じるのでしょうか?
西本様:「力」に関しては、資格などを得ても現場での実践で欠ける部分が見えてくることがありますが、その後の社内教育と本人の努力によりある程度埋め合わせることは可能と考えています。
一方、「志」に関しては、努力で変えるよりも企業文化へのフィット感を再確認するべきでしょう。当社の仕事は、単に成果を上げればいいというものではなく、プロセスが非常に重要です。
特に以下の4つのポイントが重要であり、これらにフィットすることが採用後の定着率にもつながります。
- ①信頼と尊敬
- ②成果にコミットできるか
- ③人に対して本気になれるか
- ④チームで一体感を出そう
①については、他人を尊敬できるかということが鍵となり、②ではどれだけ仕事に取り組む意欲があるかが問われます。
もし当社が事業から手を引くようなことがあれば、その町は消えてしまう可能性があります。そのような重大な責任がありますが、成功すれば自治体から英雄視されます(笑)。
成功と失敗が世の中には存在しますが、我々には「成功」以外はあり得ません。
さらに、③の「人」とは、顧客、従業員、パートナー、地域のすべての人々を指します。これらの一部でも満足できない場合は、事業を開始しません。
全員が満足できるものを追求し、もし誰かが不幸になるのであれば、それは真の成果とはいえません。
そして④は、一人ひとりが常に最高のパフォーマンスを発揮するわけではないという現実に対応するためのものです。
Aさんが80%のとき、別のBさんが120%であれば、その20%の余力でAさんをサポートします。逆の場合も同様です。ただし、これにはチームメンバー同士が互いをよく理解していることが必要です。
ある意味、親以上に仲間を理解し合うことが求められます。
さらに、新卒者は2か月間、中途採用者は2週間の導入研修を行います。
この研修では、全ての業務を停止し、当社のカルチャーについて深く学び、「あなたがそれを体現したときにどんな問題が起こりうるのか」などを明確にします。
そして、これまでの人生を見つめ直す時間も設けています。例えば、私は現在45歳ですが、45年間の人生経験を全て出し、自分の思考、強さ、弱さを全てさらけ出します。
その結果、一体感が生まれるのです。
このプロセスは時に1時間以上かかり、自己開示によって涙が流れ、それが受け入れられることで、より強いエンゲージメントが生まれることもあります。
自社のことながら、そうした場を会社として設けていることの素晴らしさを実感しています。
これらの取り組みは毎年行われ、コロナ禍以前の2019年までは、当社の離職率は5~6%にとどまっておりました(現在はオンラインで実施しています)。
Q.そのほかに社員が成長するための制度や研修などはありますか?
西本様:配属先のOJTや、ときには配置転換を行っています。基本的には完全実力主義なので、若手でも実力があれば昇格も早く、それが成長へのモチベーションになっています。
最近では2020年4月に入社した社員が翌2021年1月に支配人に昇格した例もあります。
昇格の判断においては、任せるだけの力があるかに加えて本人のメンタル面など、その素養を考慮して、会社としてふさわしい次のステージを用意しています。
なお入社後には希望職種を必ずヒアリングしますが、どこへ配属すべきか、その選別は慎重に行っています。なぜなら商材は同じでも、建物や場所によって難易度が大きく変わるからです。
例えば歴史的建造物は結婚式用に作られていませんから、建物によっては動線など様々な課題が生じます。
また地域によってはアクセス面でハードルがある場合も少なくなく、それをどう解決するかなどの問題を抱えていることもあります。
会社ではそこで、入社する人のポテンシャルや志向性などを見て、さらに支配人がそこでどういう組織を作っているかなどを確認し、本人が一番スタートダッシュを切れるのはどこかを見極めて配属します。
ちなみに当社では、どんな環境や教育を用意して成果を上げられるか、そのためにどんな人を採用すべきかという観点で、「採用・教育・環境の一本化」を掲げています。
さらに当社ではバリュー・マネジメント・カンファレンス(VMC)と呼ばれる全社会議が毎月あります。
これは創業から行っており、会場も本社のある大阪市のとあるホールを貸し切りで行うなど大規模なもので、全国からの社員が店舗を閉めて集まっています。
もちろん交通費や宿泊費などは会社がすべて負担します。コロナ禍でこちらもオンラインとなっていたのですが、近くオフラインに戻す予定です。
毎月と聞くとかなり大変そうに聞こえるかもしれませんが、その分収穫も大きいです。
店舗が多く全国に社員が散らばれば、社員は必然的に店舗レベルでの目線になり、他店舗に無関心になりがちです。
しかしそれだけ頻繁に会うと店舗を越えて交流が深まり、横のつながりができて、社員同士の話題で主語が会社(VM)になって視座が上がります。
VMCが時間と費用をかけて行う理由には、そうして社員の意識が高まり、人と人の交流が深まることで生まれる「熱量」が大事だと考えているからです。
Q.今後の組織づくりについて教えてください
西本様:全く新しいことを行うよりも、まずはコロナ禍で取りやめていたことを、以前のように戻していきたいですね。
コロナ禍でサービス業は業績が下がっており、そのため近年は成果を追いかける一方になっていました。
当社もコロナ禍以前は成果に加えて「楽しもうぜ」という姿勢がありましたが、その熱量が今少し低下しているように感じます。
「仕事も本気、遊びも本気」と当社社長も話していますが、一つ例を挙げると、当社では2006年から社内運動会を開催しており、これがかなり本気モードです(笑)。
負けず嫌いが多く、棒引きなどでは熱が入りすぎてけが人が出てしまうこともあるほどですが、社内だけでなくパートナー企業も巻き込んだ綱引きなど、コロナ禍以前の2019年は最大の650人が参加し、盛り上がりました。
こうした熱量が団結力を生み、中途半端ではなく、何でも真剣に取り組んでいける組織づくりの基礎になっています。
今はコロナ禍の影響でほとんどがオンラインで、つながりの薄さをひしひしと感じています。
早く対面に戻し、熱量を伝え合って仕事をしていきたいですね。お客様や町の人を元気にする熱量が、何よりの組織の原動力になっているのですから。