長野を起点に東京や福岡でエステサロンを展開し、最近は予約が困難なほど幅広い女性層に支持されている株式会社アンジェラックス。
Great Place to Work® Institute Japan 2022年版日本における「働きがいのある会社」ランキングでは、小規模部門の上位に選ばれ、女性ランキングでは2020年と2022年に第1位に輝いています。
お客様に満足いただきながら、従業員が働きやすい職場づくりをどう実現させてきたのか、取締役副社長でCHROの大杉 一真様に伺いました。
<目次>
- Q.貴社の事業内容について教えてください
- Q.従業員の男女比と、定着率について教えてください。
- Q.業界において離職率5%は驚異的な数字だと思いますが、実現の理由や秘訣はどこにあるのでしょう?
- Q.そうした会社の方針に、従業員の反応はいかがでしたか?
- Q.どのような職場づくりを目指していますか?
- Q.組織の一体感や求心力を高めるためにされている取り組みを教えて下さい
- Q.拠点型の組織において、リーダーや店長の選出基準や、従業員の育成はどのようにしていますか?
Q.貴社の事業内容について教えてください
当社は1987年に現会長で母の大杉京子が創業し、現在はエステティックサロン「ANGELUX(アンジェラックス)」をはじめ、ホテルスパ「NADESHICO SPA by ANGELUX」、定額制サロン「ENTRANCE外苑前」、フェイシャルケア専門サロン「アンジェラックススキンケアセンター渋谷」など全11店舗を長野県、東京都、福岡県で展開しています。
化粧品の企画・開発およびオンライン販売も行い、四半世紀に渡るサロン運営の中で、エステサロンにおけるトータルなホスピタリティサービスの提供を心掛けています。
ラグジュアリーな時間と高い技術が支持され、「美容のライフパートナー」として、徐々にですが多くの女性の共感を頂けるようになりました。
Q.従業員の男女比と、定着率について教えてください。
当社の全従業員は約50名ですがエステサロンという業種ということもあり、女性従業員の比率は約9割を占めています。
女性は結婚や出産などのライフステージの変化で離職するケースも多いかと思いますが、当社では一時期離職率は5%ほどになっていました。
Q.業界において離職率5%は驚異的な数字だと思いますが、実現の理由や秘訣はどこにあるのでしょう?
サービス業の宿命かとは思うのですが、当社でも以前は休みがとりにくい、サービス残業があるなど、業界ならではの働き方課題がありました。
私自身は2011年に入社しましたが、やはり当初は毎日のように、10時間以上へとへとになるまで働いていました。
しかし、そんな美容業界であっても「他業種に負けないくらい良い労働環境にするべきである」と考え、2013年頃から本格的な働き方改革に着手。
「完全二交代制にして勤務時間は原則8時間にする」と従業員と約束し、それの実現を目指しました。
ただ、もちろんその実現には人数を増やすことが必要でした。そしてそれには資金が必要です。
当時はまだリーマンショックの余波で資金繰りも楽ではありませんでしたが、それでもまずは環境改善に投資をしました。
さらに、有給休暇の消化率も0%に近かったところから、初年度100%にまで徐々に改善し、賞与も増やし、基本給も上げていきました。
一つひとつ従業員と約束をして、それを果たしていくことで従業員から信頼され、彼女たちも業界の中で胸を張って働けるようになったことが、離職率の低下にもつながったのだと思います。
そしてもちろん、それが実現できる原資ができたのは、現場のスタッフたちが一丸となって高いロイヤリティで働いてくれたおかげに他なりません。
最近は美容業界の求人をみると、人手不足ということもあって福利厚生面はかなり良くなっていると思います。
ただ、福利厚生面はあくまで働く上での「前提」であり、物理的な環境にプラスして「経営者への信頼」や、従業員がそこで働くことで「社会の役に立っているという実感」がないと、仕事や会社への本当の愛着は生まれず、会社への定着率は安定しないのではないかと思っています。
当社では採用説明会のときも福利厚生面については、さらっと話すだけでそこまで詳しく伝えることはありません。
業界の中でもトップクラスに労働環境は整っていますが、それをあてに就職されてしまうと、どうしてもミスマッチが起こってしまいます。
そのため、あくまで良い環境は前提であり、エステティックに打ち込みたい人、自分の仕事に矜持をもって努力する人が活躍する会社だということを学生たちにも話しています。
なお、当社では離職率をとにかく下げようと務めていた時期もありましたが、今は離職率を闇雲に下げようとは思っていません。
もちろん会社としては、従業員が満足できる環境の中で長く働いてほしいとは思います。
一方で、十分に頑張ってきた社員が、新たなチャレンジとして人生の岐路に立ったときは、その道も応援できる会社でありたいとそう思っています。
Q.そうした会社の方針に、従業員の反応はいかがでしたか?
社員同士が一緒に過ごしたりすることが大好きな会社なので、やっぱり人が辞めていくのはいつだって悲しいことであり、私がそういった方針を口にすることを疑問に思う従業員もいました。
でも、「いつでも人の可能性を開くことに対して前向きである会社でいたい」という気持ちを伝えているので、徐々に理解はしてもらっているかなあと感じています。
また、健全な形で会社を「卒業」してもらうことで、さらにお互いの可能性を広めることもあります。
例えば、退職した人に当社の研修に参加いただいたり、イベントに出席してもらったりするなど、従来の「会社」の定義を広げて「辞めても仲間」という意識を高めています。
これまでは従業員同士の仲が良すぎると感情的な依存関係が発生し、離職する人を「裏切者」のように思ったり、既存社員の仲が良すぎて、新人が居づらくなってしまったりするなど、それはそれで弊害が生まれる場合もありました。
一生懸命に技術などを教え、仲良くやってきたと思っていたのに、仲が良すぎるがゆえに辞めてしまうことでお互いが傷つくことがあったのです。
そんな痛みを緩和すべく、離職者と切っても切れない縁をつくることは大切なことであると感じています。
今後、「元アンジェラックスです」と、自分たちの出自のように語られるような会社になれたらいいなと、今はそう思っています。
こうした考えのもと、離職率は多少上がりましたが、会社の定義が広がっただけで、会社を信頼してくれる仲間自体は増えていると感じています。
Q.どのような職場づくりを目指していますか?
当社では“働く者同士で友人になろう”という考え方を大切にしています。
実業家・起業家でサッポスにいた故トニー・シェイの「社内に何人友人がいるかが、会社のことが好きかどうかの指標になる」という言葉がありますが、私はその考え方がとても好きです。
いい意味で従業員同士が友人のようなカジュアル性を保ち、フォーマルでビジネスライクにならないような関係性をもった職場づくりが当社の目指すところです。
お客様に対しても、目に見えないサービスを提供する仕事の性質上、ビジネスライクにし過ぎないように心がけています。
ラグジュアリーな雰囲気は保ちつつ、お客様とも「売り手と買い手」という関係性を超える信頼関係の構築ができることが理想です。
私たちエステサロンは、お客様にとってのパワースポットのような存在でもありますので、スタッフが仲良く元気に働けることで、お客様に元気を与えられるような存在でいられると考えています。
Q.組織の一体感や求心力を高めるためにされている取り組みを教えて下さい
従業員間コミュニケーションをより円滑にするため、LINEWORKSやUniposを導入しました。
LINE(LINE WORKSの前はLINEを使用)は2012年と黎明期から始めたのですが、自然発生的にはじまったLINE上での従業員同士のやりとりを見ていたときに、「すごく面白いな!」と感じました。
LINE上でのコミュニケーションは、とてもカジュアルで人間的でした。
とくにスタンプを使って、多種多様なキャラクターでやり取りしあうような「スタンプ合戦」などが起こると、遠隔地のスタッフ同士でも一緒にいるような盛り上がりを感じることができました。
元々拠点が遠隔にあった私たちとしては、そのようなコミュニケーションが次第になくてはならないものとなっていき、2016年にはビジネス版のLINEである、LINE WORKSができたこともあり、そちらに移行しました。
その後は、2021年に感謝ポイントを送り合うシステムであるUniposを導入しましたが、これは人数増加に伴う店舗ごとの分断を解消する目的でした。
Uniposは、主に2つの方法で活用しています。
まずひとつは、従業員が日ごろの業務で「仲間がお客様から受けた感謝の言葉」などを社内に報告すること、もうひとつは「直接仲間への感謝」を述べるということです。
分量としては、仲間への感謝を述べる方が主たる活用法となります。
組織において大切なのは、「他人の喜びを自分の喜びと感じられるか」です。いいことを一緒にお祝いできない組織は、やはり一体感がありません。
そうした一体感が大好きな人たちがいる会社ですから、店舗ごとの分断は会社がつまらなくなっていく雰囲気の原因となっていました。
Uniposでは、自分の店舗以外の人がどんなふうに頑張っているのか、どんなふうに周りと関係性を築いているのかが日常的にわかります。
頑張っている人の名前に普段から触れていることで、表彰式等のイベントでも、それが他人ごとにならずに楽しむことができます。
いずれのWebサービスにおいても、カジュアルなコミュニケーションの中で生まれた社内スラングが流行ったり、共通言語が生まれたりしています。
現場では様々なタイプの女性たちがいますが、こうした共通言語はタイプを超えて結束力を強めるきっかけにもなっています。
余談ですが、当社の従業員は割とサバサバした性格の方が多く、コミュニケーションの中では一昔前なら『ワンピース』や『スラムダンク』、今では『キングダム』などの少年漫画が共通言語として使われることが多いです。
下手なビジネス書よりも、「ルフィならこういう」、「将軍でいうとあなたは本能型」など、そういった共通言語でお互いが理解し合い、一体感を得られることもあります。
Q.拠点型の組織において、リーダーや店長の選出基準や、従業員の育成はどのようにしていますか?
シンプルですが「部下に慕われる人」のみを、リーダーや店長に選任しています。
実力があって高い売上を上げることができても、その資質がなければ原則昇進させることはありません。
人格のリスペクトされる人が上司を務めているからこそ、その会社もリスペクトされていくと思っています。
従業員の育成については、一言でいえば個性重視です。
多くの性格診断テストを行い、その人の得意なことや、その人に特徴的な価値観を理解していき、その上で本人が自分の才能を理解できるようにサポートを行います。
当社は拠点型の組織で、なおかつホスピタリティ事業のため、現場一人ひとりの従業員が「人生哲学」をもつことが大事だと考えています。
ホスピタリティの原則は、現場判断。
そして、その判断基準は「人としてどうあるべきなのか、エステティシャンの仕事の使命とは何か?」など、一人ひとりのもつ哲学であるべきと考えています。
理想論に響く部分もあると思いますが、そうした理想を掲げながら、エステティックサロンの可能性、日本や世界におけるサービス業の可能性をもっと広げていけたらと思っています。