企業において、福利厚生は、従業員のモチベーションや帰属意識を高めるために整えておきたい要素の一つです。近年では、外部の福利厚生サービスも増えたことで、中小企業などでも少ない負担で充実した福利厚生を整えられるようになっています。
記事では、福利厚生の概要と充実させる意義とメリットを確認したうえで、福利厚生を充実させるためのポイントや中小企業におすすめの福利厚生サービスを紹介します。
<目次>
福利厚生とは?
福利厚生とは、給与や賞与などの基本的な労働対価(賃金)以外での社員や家族に提供する報酬・サービスの総称です。福利厚生は、法定福利厚生と法定外福利厚生の2つに分けられます。
法定福利厚生
法定福利厚生とは、法律で義務付けられているものです。法定福利厚生には、企業が費用負担する部分があります。従業員の入社と同時に加入する以下のようなものが、法定福利厚生に該当します。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金
- 雇用保険
- 労災保険
- 児童手当拠出金
法定外福利厚生
法定外福利厚生とは、法律による義務付けがなく、各企業が独自に設定できる福利厚生制度・サービスの総称です。以下のようなものが、法定外福利厚生に該当します。
- 社員食堂
- 慶弔給付金
- 住宅購入等支援
- ライフサポート
- 医療・健康
- 文化・体育・レクリエーション
など
福利厚生を充実させる意義とメリット
法定福利厚生は、企業が必ず提供すべきものです。なければ違法となりますので、充実させる云々ではなく必須なものとなります。一方で、法定外福利厚生には、充実させることで以下のメリットが得られます。
エンゲージメントの向上
福利厚生のメリットで注目されやすいのが、エンゲージメント(帰属意識)の向上です。
ただし、福利厚生を通して待遇を良くすれば、エンゲージメントが上がるという単純な話ではありません。一般的な福利厚生は、多少充実させることでぐっとエンゲージメントが高まる動機付け要因ではなく、ないと不満が生まれる衛生要因に近い位置付けになります。
福利厚生を使ってエンゲージメントを高めるには、たとえば、以下のように福利厚生にしっかりとメッセージ性を持たせたることが大切です。
- あなたたち一人ひとりを大切に思っている
- あなたたち一人ひとりのキャリアや人生を尊重している
- うちの会社の仲間である
また、エンゲージメントを向上させるには、企業のミッションやビジョンに紐づくような福利厚生にすることも大切です。社員間のコミュニケーションが生まれるような福利厚生にすることも有効です。
定着率の改善
アメリカの臨床心理学者・フレデリック・ハーズバーグが提唱した「動機付け・衛生理論」では、人のモチベーションを左右する要因として以下の2つがあるとしています。福利厚生は、主として「衛生要因」に含まれます。
- 衛生要因(給料・福利厚生・労働条件・働き方の多様性 など)
- 動機付け要因(仕事の意義・仕事の目的・承認の仕かけ・やりがいにつながる仕組み など)
福利厚生をしっかり充実させて、動機付けと衛生要因の両輪でメンバーのモチベーションを高められれば、定着率の改善が見込めるでしょう。
採用力の向上
採用力は、母集団を形成して求職者を魅了付けする力です。採用に関するノウハウと併せて、たとえば、知名度や規模、給与、ミッションやビジョン、キャリア機会などが採用力につながります。
たとえば、競合と比べて給与やボーナスなどの金銭的報酬が群を抜いて高ければ、それだけ注目されやすくなります。しかし、収益力の裏付けがない状態で、高い金銭的報酬を提示することは難しいでしょう。中小企業の場合、特に高い報酬を提示できない傾向が高いです。
なかなか高い金銭的報酬を提示できない状態でも、福利厚生をうまく充実させることで採用力を高めることが可能です。たとえば、家賃補助などの福利厚生を充実させれば実質的な待遇(金銭的報酬)アップになります。
また、以下のような非金銭的な福利厚生は、ワーク・ライフ・バランスの充実や仕事のやりがい、風通しの良い社風、成長環境といったポジティブなイメージにつながるでしょう。
- リフレッシュ休暇
- 資格取得手当、資格取得サポート
- クラブ活動の支援
- 育児支援
など
福利厚生制度の導入ポイント
福利厚生の充実によって先述の効果を得るためには、以下のポイントに注意しながら導入準備などを進めることが大切です。
福利厚生を検討する際のポイント
福利厚生は、何でもかんでも導入すれば良いわけではありません。一般的に、福利厚生は一度導入すれば社員にとって「提供されて当たり前」の状態になりがちです。企業の業績悪化などを理由に、導入した福利厚生を減らす・なくすと、逆に不満要因になりかねません。
したがって、福利厚生の制度設計や導入サービスを検討するときには、継続的な実施を想定して費用や投資対効果を考える必要があります。
福利厚生制度の種類(自社オリジナルと外部サービスの活用)
福利厚生の制度には、大きく分けて以下の2種類があります。
「福利厚生代行サービス」と呼ばれるものです。福利厚生のアウトソーシングといえばわかりやすいでしょう。外部サービスのメリットは、中堅・中小企業単独では提供できない広範囲な福利厚生を、安価に利用できることになります。
福利厚生では、自社で独自の制度をつくることも有効です。独自の制度には、ミッションやビジョン、価値観などを紐付けることで、社員へのメッセージ性をもたせやすい特徴があります。オリジナルの福利厚生制度は、ネーミングなどを含めて、採用や広報などに活用できるところも大きなメリットでしょう。
中小企業におすすめの福利厚生サービス
中小企業の場合、福利厚生を充実させたいと考えていても、なかなか充実が難しい傾向があります。このジレンマを解消するには、外部の福利厚生サービスを活用することもひとつです。
中小企業におすすめの福利厚生制度
中小企業の場合、大企業と比べて福利厚生の企画や支援する間接部門の人数は少なく、オリジナルの福利厚生を準備する余裕がない場合もあるでしょう。また、そもそも、対象となる社員数が少ない場合、福利厚生に使える原資は多くはなく、多様な福利厚生を準備することが難しい実情もあります。
中小企業の福利厚生における問題を解消するには、外部の福利厚生サービスを賢く使うことも有効です。厚生労働省の資料では、たとえば、健康管理の福利厚生では、全体の7割を超える企業が外部サービスを使っていることがわかっています。
パッケージプラン/カフェテリアプラン
外部の福利厚生プランを利用する場合、福利厚生代行サービス企業のサービスパッケージを導入し、メンバーがそこから利用したいものを選ぶような形となります。一般にパッケージプランやカフェテリアプランと呼ばれます。
自社の独自性は打ち出せませんが、社員に幅広いサービスを提供できるメリットがあります。提供されているサービスから自由に使えるもの、回数制限があるもの、付与されたポイントの範囲で自由に選択できるものなど、サービスや契約形態によって形式はさまざまです。
参考になる企業の導入事例
From One’s Heart株式会社(立川ワシントンホテル)は、パッケージプランの導入で福利厚生を充実させた中小企業です。From One’s Heart株式会社では、以下のような課題を解決するためにプラン導入を行ないました。
- 幅広い世代の従業員に対応できるサポートをする必要があった
- 求職者と正社員の両方から見える、会社の魅力向上を図りたかった
- 自社独自での福利厚生制度に限界を感じていた
From One’s Heart株式会社では、外部の福利厚生サービスの導入によって、社員のモチベーションが向上しています。また、採用サイトなどに福利厚生の記載をすることで、求職者への魅了付けにも役立てることができています。
ユニークなオリジナル福利厚生の事例を紹介
メンバーのエンゲージメント向上や求職者への魅了付けをするには、自社でユニークなオリジナルの福利厚生制度を導入するのもおすすめです。
野菜支給制度(株式会社ゆめみ)
毎月1回、契約農家で採れた新鮮な野菜のセットを、メンバーに手渡しする福利厚生制度です。
株式会社ゆめみでは、食事を簡単に済ませてしまうエンジニア職が多いことから、健康意識を高めてもらうために、制度をスタートさせました。社員のほかに、SES契約で常駐するオフィスメンバーにも野菜を支給しています。
メンバーの健康に配慮する姿勢は、会社としてのメッセージになりますし、実際にメンバーの健康が維持できれば、会社としても生産性の向上や安定が見込めるでしょう。
オフィス内キッチン(クックパッド)
レシピ投稿サイトを運営するクックパッドらしい福利厚生です。開放的なキッチンでは、テレビ撮影などが行なわれていない日に、社員同士の交流と料理への関心を持ち続けてもらう目的で、以下のようなイベントなどを開催しています。
・ クリスマスパーティー
・ プロの料理家を招いた料理教室
など
また、メンバー同士で食材を持ち寄って、みんなで調理をしてランチを食べるなどの使い方も可能です。こうした施設があれば、福利厚生のほかにも社内や部署のレクリエーションなどを開催しやすくなるでしょう。
自社のミッションや事業内容に紐づいて、かつ、事業場の施設をうまく生かした福利厚生といえるでしょう。
楽天ゴールデンキッズ(楽天株式会社)
楽天ゴールデンキッズとは、メンバーが仕事中に安心して子どもを預けられる社内託児所です。子どもが地域の保育園に入れない待機児童になってしまい、妊娠出産後の仕事復帰ができないメンバーのために開設された施設になります。
楽天ゴールデンキッズでは、単純に子どもを預かるだけでなく、以下のようにさまざまなプログラムを実施しています。
・ 幼児向け英語教育
楽天ゴールデンキッズのような施設があれば、メンバーのワーク・ライフ・バランスも向上しやすくなるでしょう。最近、大手企業を中心にこうした社内託児所を開設する企業も増えています。
サイコロ給(株式会社カヤック)
自社を「面白法人 カヤック」と名乗るこの企業では、サイコロの出目に応じて給与額がアップするおもしろい給与制度を導入しています。
サイコロ給と呼ばれるこの制度は、「基本給×サイコロ出目(%)」が給与にプラスされる仕組みです。株式会社カヤックのホームページでは、全社員のサイコロ給の結果も公開されています。
また、株式会社カヤックでは、集中して仕事が終われば短時間出勤もOKとするウルトラマン型勤務制度なども導入しています。カヤックは「面白法人」をコンセプトにしている会社です。自社の理念や価値観に合致した形でおもしろい福利厚生や勤務制度を充実させれば、採用市場での話題性も高まりやすくなるでしょう。
まとめ
メンバーのエンゲージメントや定着率を高めるには、福利厚生を充実させることも有効です。自社の理念や従業員に伝えたいメッセージと紐づけて、オリジナルのユニークな福利厚生制度を導入することは社員のモチベーションUPや採用力の強化につながります。
ただし、中小企業の場合、法定外の福利厚生制度を充実させることまでなかなか手が回らないこともあるでしょう。そういった場合は、外部の福利厚生代行サービスを利用することもおすすめです。