アサーションとは?“自己主張”のトレーニングで組織のコミュニケーションを円滑にする方法

更新:2023/07/28

作成:2020/08/18

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

アサーションとは?“自己主張”のトレーニングで組織のコミュニケーションを円滑にする方法

昨今、ビジネスの現場で「アサーション」というスキルが注目されています。アサーションは、職場のコミュニケーションにおいて重要なスキルの一つで、アサーショントレーニングを導入している企業も増えてきています。

 

企業内のみならず、顧客やパートナー等との付き合いも円滑におこなえる効果が期待されるアサーションですが、実際に企業で導入する手順やメリットはどういうものになるのでしょうか。

 

記事ではアサーションの意味やトレーニングのメリット、効果的なトレーニング方法等を紹介します。組織のコミュニケーション状況を改善したいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。

<目次>

アサーションとは?

まずは、「アサーション」という単語の意味や歴史、いま注目されている理由等、基本的な部分を確認しておきましょう。

 

アサーションとは

「アサーション(assertion)」は、対人コミュニケーションスキルの一つです。英語では「主張」や「断言」という意味ですが、心理学やコミュニケーションの分野においては「自己の主張を的確に言葉にすること」を意味します。

 

アサーションは、相手の主張を否定して自分の意見を主張したり、強い言葉や口調で無理に相手を押さえ込んだりすることではありません。「話す側と聞く側がお互いを尊重し、対等な関係を築きながら、率直に自己主張をおこなう」ことがアサーションです。

 

このようなやり方で自分の主張をうまく伝えることができれば、価値観や立場の異なるさまざまな相手と、対等かつ円滑な意見交換ができるようになります。

アサーションの歴史

コミュニケーションスキルとしてのアサーションが提唱され始めたのは、1950年前後のことです。アサーションは「自己主張」と定義され、心理療法の中で、人間的な尊厳を取り戻してメンタルの回復を図るためのスキルとして使われました。

 

その後1970年頃に現代のようなアサーションの用法が見られるようになります。きっかけは、アメリカでの黒人差別や女性差別に反対する公民権運動でした。対立関係をもたらしやすい公民権活動の中で、「相手を傷つけることなく、対等な立場で的確に自己主張する」というアサーションの定義ができあがっていきます。

 

この考え方が日本に伝わり、企業や学校でアサーショントレーニングが実践されるようになりました。

なぜいま注目されているか?ビジネスに有効か?

なぜいま「アサーション」スキルが、ビジネス分野で注目されているのでしょうか?

 

日本では、「沈黙は金」「阿吽の呼吸」「空気を読む」等、言葉にして伝えるよりも、“察する”といったことを重視する文化背景があります。また、「自己主張やディスカッションが苦手」という国民性もよくいわれるところです。

 

この文化自体が悪いわけではありませんが、仕事においては、「言葉」でしっかりとコミュニケーションするスキルが求められていることも事実です。

 

職場では、上司や部下、クライアントや協力企業等、多くの人と関わることになります。さまざまな相手に自分の主張をうまく伝えられないと、トラブルが起きたり、業務効率が鈍化したりすることもあります。

 

無理な要望を断れずに、特定の社員に負担が偏ってしまったり、取引先からの要求を受け入れすぎたりするケースも考えられます。

こうしたトラブルや課題の大部分は、相手と対等な立場で自己主張するスキルを身につけることで回避できます。社内の風通しが良くなり、取引先ともより良い関係が築けるでしょう。

 

また、雇用形態も価値観も多様化し、仕事のオンライン化/グローバル化が進んでいるという環境の変化も見過ごせません。とくにコロナ禍をきっかけにオンライン化は急激に進行しています。

 

オンラインコミュニケーションにおいては、これまで以上に「言葉」によるコミュニケーションの重要性が増します。

 

このような理由から、いま「適切に自分の意見を主張する」というアサーションのスキルが注目されているのです。

アサーションでひも解くコミュニケーションの3タイプ

アサーティブなコミュニケーション

 

アサーションでは、コミュニケーションの方法は大きく3つのタイプに区分できるといわれています。各タイプの特徴を見ていきましょう。

 

アグレッシブタイプ

一つ目はまずは、攻撃的なアグレッシブタイプです。アグレッシブタイプは、自分の考えを強い言葉や口調で表現します。相手の意見を無視して、一方的に自分の価値観を押し付けることもあります。

 

また、コミュニケーションを「勝ち負け」でとらえる傾向にあり、常に相手よりも優位に立とうとすることも特徴です。

 

アグレッシブタイプは、自己主張はできても、周囲との軋轢を生みやすいタイプだといえるでしょう。イメージしやすいところで例えると、ドラえもんの「ジャイアン」のようなタイプです。

ノン・アサーティブタイプ

続いては、消極的なノン・アサーティブタイプです。ノン・アサーティブタイプは、アグレッシブタイプとは真逆で、相手のことを考えすぎて自分を後回しにしたり、自分の意見を押し殺したりしてしまいます。

 

人当たりがよく穏やかな人が多いですが、自分の考えを表現することが苦手で、コミュニケーションや人間関係のストレスを抱えやすいタイプです。

 

自分の考えに自信が持てず、他人の意見ばかり聞いてしまうため、責任感が育ちづらかったり、言い訳が多かったりするのも特徴です。同じくドラえもんでいうと「のび太」のようなタイプです。

アサーティブタイプ

アサーティブタイプは、アサーショントレーニングで目指す着地点です。

 

攻撃的なアグレッシブタイプと、主張が苦手なノン・アサーティブタイプの長所を併せ持つタイプともいえます。
つまり、周囲と軋轢を生まずに自己主張できる理想のタイプです。

 

アサーティブタイプになることができれば、自分だけが主張するのでもなく、相手ばかりを尊重しすぎるのでもなく、対等な立場で互いの意見を伝え合い、適切な結論を導くことができるでしょう。

アサーティブタイプが少ないとき、組織にありがちなコミュニケーションの課題

組織でありがちなコミュニケーションの状態は、アサーティブタイプが少数しかおらず、同じく少数のアグレッシブタイプと多数派のノン・アサーションタイプがいるという状態です。

 

イメージは、「アサーティブタイプ:2割」、「アグレッシブタイプ:2割」「ノン・アサーションタイプ:6割」というイメージです。

 

この状態ですと、組織には以下のような課題が起こりがちです。

  • 声が大きく主張の強いアグレッシブタイプの意見が通りやすい
  • アサーションタイプが「調整役」の負担がかかり、十分なパフォーマンスができない
  • ノン・アサーションタイプに不満が溜まり、愚痴や陰口になりがち
  • ノン・アサーションタイプは対社外でも十分な交渉ができず、成果を上げられない

アサーショントレーニングを組織に取り入れる効果とメリット

アサーションスキルを身につける「アサーショントレーニング」を組織に取り入れることと、さまざまな効果を得られます。アサーショントレーニングを取り入れることによる代表的な3つのメリットを紹介します。

 

建設的なコミュニケーションが取れる

アサーションスキルを身につければ、相手と対等な立場で互いの主張を伝え合い、聞き合うことが可能になります。自分と相手の意見が異なった場合、両方の考えを尊重しながら議論を進めることで、互いが納得できる適切な結論を導き出せるでしょう。

 

自分と異なる意見を知ることで刺激され、新しい世界や可能性が広がることもあります。互いの主張をちゃんと聞いて受け入れる建設的なコミュニケーションからは新しいアイデアも生まれやすく、イノベーションの創出にも効果的です。

さまざまな立場の人と信頼関係を築ける

上司が一方的に部下を叱ったり、部下が上司に遠慮して自分の意見を口にできなかったりすると、社内の雰囲気が悪化し、結果として組織の生産性も下がりがちです。

 

アサーションスキルを身につけると、立場や関係性に囚われずに、さまざまな相手と健全な信頼関係を築くことができます。社内にアサーティブな社員が増えれば、職場の雰囲気が良くなり、生産性向上やモチベーションUPに繋がります。

 

コミュニケーション上のストレス軽減

アサーショントレーニングは、コミュニケーションにおけるストレス軽減にも役立ちます。社員のメンタルヘルスケアが経営上の必須課題となっている昨今ですが、職場のストレス原因として対人関係を挙げる労働者は多数にのぼるという調査もあります。

 

メンタル不調による退職を減らすためにも、社員にアサーションの考え方を周知し、職場全体で風通しの良い環境を整えていくのが効果的です。

アサーショントレーニングのポイントと実践例

アサーティブなコミュニケーション力を高める

 

アサーションのベースには「自他尊重」という考え方があります。従って、自分の意見も相手の意見も大切にしながら、伝えたいことを率直に表現することがポイントです。これを目標として、アサーショントレーニングのポイントを実例とともにご紹介します。

 

アサーショントレーニングのポイント

アサーティブなコミュニケーション力を高めるには、下記の3つを意識して実践を繰り返すことがポイントです。

  1. 相手の思いを素直に受け止める
  2. 自分と相手の立場は対等であると意識する
  3. 自分の意見をしっかりと伝える

アサーションは自己主張のスキルですが、相手と自分、両方を尊重することがポイントです。相手が自分と異なる意見を持っている場合や、自分の意見にあまり乗り気ではなさそうな場合にも、そうした相手の考えや気持ちを素直に受け止めることが大切です。

なお、「受け止める」とは「理解する/共感する」ことであって「同意する/同調する」ことではありません。しっかりとお互いの意思を受け止め合うことで、より建設的な議論へと繋げることを意識しましょう。

 

また、日常のコミュニケーションの中でアサーショントレーニングをおこなうには、「自分が相手と精神的に対等な立場にあるかどうか」もチェックすべきポイントです。

 

自分の意見を主張するときに、相手をコントロールしようと考えていたり、逆に相手にコントロールされたりするようなら、そのコミュニケーションはアサーティブとはいえません。

 

もちろん、実際の意思決定においては役割や権限、経験といったものも左右します。しかし、「お互いの意見を伝えて、意思を受け止めるというコミュニケーション」においては、フラットな立場であることを意識するのが重要です。

アサーショントレーニングの実践例

普段のビジネスシーンでよく出会う場面を想定して、アサーティブなコミュニケーションの実践例をご紹介します。私たちは日常の中で数多くのコミュニケーションをおこなっています。実際のコミュニケーションを通じて反復練習を繰り返すことが、アサーショントレーニングのポイントです。

・無理な仕事の断り方

忙しいときに、追加で急ぎの仕事を頼まれたら、どのように対応していますか。
『無理です。どうしていつもそんなに急に依頼するのですか!』と声を荒げて反応しますか。

 

それとも、まったく時間に余裕がないにも関わらず『はい…何とかします』と引き受けてしまい、後悔や不満を溜めていますか。

 

どちらも、アサーティブな対応とはいえません。前者は「アグレッシブタイプ」の対応、後者は「ノン・アサーティブタイプ」の対応です。

 

こうした場合、どのように自分の意見を伝えれば、アサーティブな対応だといえるでしょうか。アサーティブな対応例を挙げますので、参考にしてみてください。

 

『急ぎの仕事ですね!実は、私もすぐに終わらせなければならない仕事を複数抱えています。先輩の状況はよく分かったので手伝いたいのですが…明日の午後からなら対応できますが、それでもよろしいですか? それとも、ほかに対応できる者を探しましょうか?』

 

このように、相手の意思や状況を受け止めた(理解した)うえで、自分の状況を相手に説明し、自分の気持ちや意見を正直に、かつ丁寧に伝えると、建設的なコミュニケーションがしやすくなります。

・賞賛された際の対応

誰かから褒められたときに、素直に受け取れず、以下のような対応をしてしまう方は意外と多いのではないでしょうか。

上司『先日のプレゼンはよくできていたね』

 

あなた『そうですか』

 

上司『内容はもちろんだが、話し方からも自信と熱意が伝わってきたよ』

 

あなた『いえ、そんなことはありません。反省点ばかりで、全然ダメなプレゼンでした』

 

日本では「謙虚さ」が美徳とされ、上記のような反応をする人も多いですが、実は「ノン・アサーティブタイプ」なコミュニケーションです。

 

上記のような対応をすると、自分の自信も高まりませんし、場合によっては褒めた上司もあまり気持ちの良いものないかもしれません。アサーティブな対応例は以下のようになるでしょう。

 

上司『先日のプレゼンはよくできていたね』

 

あなた『そうですか、ありがとうございます!』

 

上司『内容はもちろんだが、話し方からも自信と熱意が伝わってきたよ』

 

あなた『そういっていただけて嬉しいです。個人的には、まだまだ反省点も多いので、次の機会もがんばります』

 

こちらのアサーティブな対応のほうが、自分にとっても相手にとっても気持ちの良いコミュニケーションとなるでしょう。賞賛の言葉をくれた相手と対等な立場で、相手の気持ちも考えながら自分の思いを伝えるのがポイントです。

アサーショントレーニングと「7つの習慣®」

アサーショントレーニングをするうえでは、「7つの習慣®」を学ぶことも非常に有効かもしれません。

 

「7つの習慣®」における第4の習慣から第6の習慣までは、まさに「アサーティブなコミュニケーションから相乗効果を生み出す」考え方が書かれています。

 

上でご紹介したようなアサーティブなコミュニケーションは、「やり方」も大事ですが、同時に「考え方」や「あり方」も大事です。

 

例えば、ノン・アサーティブなコミュニケーションを取りがちな人は、「自分が我慢すればいい」「妥協することで議論せずに済み、お互いにとって良い結果になる」といった風に考えてしまいがちな部分があります。

 

逆に、アグレッシブなタイプは、「自分の意見が正しい」「正しい意見を貫くことが良い結果に繋がる」と考えがちです。

 

「7つの習慣®」では、アサーティブなコミュニケーションをおこない、お互いの異なる意見からより素晴らしい「第3案」を生み出す考え方と方法が書かれています。

 

「違う考えや意見があることで、より素晴らしいものが生み出される」という考え方を身につけることで、アサーショントレーニングへ取り組む価値が分かり、モチベーションも変わってくるでしょう。

アサーションを高める2つの方法 DESC法とIメッセージ

最後に、アサーションスキルを高める方法として、「DESC法」と「Iメッセージ」の2つをご紹介します。それぞれの特徴や効果を把握して、ぜひアサーショントレーニングに取り入れてください。

 

DESC法

DESC法は、アサーティブなコミュニケーションをおこなうための「型」の一つです。以下の4つの段階で相手への伝え方を考えていくことで、自分が伝えたいことを具体的に分かりやすく伝えることが可能になります。

  1. Describe(描写):
    自分や相手の状況や事実を、具体的かつ客観的に描写して伝えます。
  2. Explanation(説明):
    自分と相手の気持ちを尊重し、感情的にならず建設的に自分の意見を表現します。
  3. Suggest(提案):
    相手への提案や相手に望むことを、具体的かつ丁寧に伝えます。
  4. Choose(選択):
    選択肢を示したり、代替案を伝えたり、提案の結果を示唆したりして、相手の自由な選択を促します。

先ほどご紹介した「無理な仕事の断り方」も、このDESC法に基づいて組み立てられています。

Iメッセージ

Iメッセージとは、「私」を主語にすることで、相手を傷つけることなく自分の意見を伝える方法です。

 

例えば、書類の提出が遅い部下に対して『なぜあなたはいつも締め切りを守れないんだ?』といった表現をしてしまう方も多いかもしれません。

 

伝えていることは非常に正当なのですが、「あなた」を主語にした否定的な表現は、相手に対して、必要以上に「責められている感じ」や「決めつけられた感じ」を与えてしまう危険性があります。

 

それに対して、Iメッセージとは、『あなたが締め切りまでに報告書を出してくれると私は助かるよ』『みなからの報告書を確認して、社長に報告するために必要な締め切りだから、遅れてしまうと、私が社長に報告できなくなってしまうんだ』等の「私」を主語にした表現です。

 

Iメッセージを使うと、相手に過度な刺激を与えずに、自分の意思や感情が伝わりやすくなります。

まとめ

顧客、パートナー、上司、部下、同僚、他部門等、異なる立場にある相手と働くビジネスシーンにおいて、お互いの意見を適切に主張して、意思決定していくアサーティブなコミュニケーションは必要不可欠です。

 

日常生活の中で、アサーショントレーニングを取り入れることで、円滑で建設的なコミュニケーションが可能になり、理想的な信頼関係を構築できるようになるでしょう。

 

アサーティブなコミュニケーションは、お互いの意見を伝え合うことで、信頼関係を作り、生産性を高めるだけでなく、自分のストレスマネジメントにも非常に有効です。

 

記事を参考にしてアサーショントレーニングを取り入れ、組織内のコミュニケーション品質をさらに高めてください。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
・ニューノーマルで迎える21卒に備える! 明暗分かれた20卒育成の成功/失敗談~
・コロナ禍で就職を決めた21卒の受け入れ&育成ポイント
・ゆとり世代の特徴と育成ポイント
・新人の特徴と育成のポイント 主体性を持った新人を育てる新時代の学ばせ方
・“新人・若手が活躍する組織”は何が違う?社員のエンゲージメントを高める組織づくり
・エンゲージメント革命 社員の“強み”を組織の“強さ”に繋げるポイント
・延べ1万人以上の新人育成を手掛けたプロ3社の白熱ディスカッション
・新人研修の内製化、何から始める? オンラインでも失敗しないための “5つのポイント”
・どれだけ「働きやすさ」を改善しても若手の離職が止まらない本当の理由 など

関連記事

  • HRドクターについて

    HRドクターについて 採用×教育チャンネル 【採用】と【社員教育】のお役立ち情報と情報を発信します。
  • 運営企業

  • 採用と社員教育のお役立ち資料

  • ジェイックの提供サービス

pagetop