ノーレイティングとは? 導入するメリットや注意点・導入ステップ

ノーレイティングとは? 導入するメリットや注意点・導入ステップ

最近、人事評価の世界で「ランク付けをしない」新たな評価制度であるノーレイティングに注目が集まっています。記事では、ノーレイティングの意味やメリット、注意点、具体的な導入ステップを解説します。

<目次>

ノーレイティングの本質と背景、よくある誤解を解説

ノーレイティングは、「レイティングしない評価制度」です。レイティングとは、等級や階級による格付けを意味します。つまり、ノーレイティングを導入するとは、これまで行なっていた四半期や半期、年に1回のS~Dといった人事考課をしなくなるということです。

 

ただし、誤解されやすいのは、ノーレイティングは「評価しない」わけではないということです。ノーレイティングの特徴をわかりやすく表現すると、より変化スピードが速くなった現代に合わせるために、「個人の目標と進捗、パフォーマンスに対して、リアルタイムで評価とフィードバックする評価制度」です。

企業事例から見えてくるノーレイティングの特徴

世界や日本でノーレイティングが注目されるきっかけともなったのが、GEでのノーレイティング導入です。GEが導入した「9ブロック」 に代表される人事評価モデルは、世界中の企業で模倣されてきました。

 

その意味で“人事評価制度のベンチマーク”であるGEがノーレイティングに切り替えたということが人事の世界に衝撃を与えました。

 

2016年以降のGEでは、9ブロック を廃止し、社員の能力とモチベーションを引き出す目的で“ノーレイティング”や“タッチポイント”などの新たな人事制度を導入していきました。背景には、急速に変化する混沌とした市場環境において、事業ポートフォリオの見直しが必要な事情があったといわれています。

 

時代背景のなかでGEが具体的に行なったのは、働き方、行動規範、行動促進につながる人事評価制度の変革です。

 

GEでは、自社が行なってきた人事評価に対して、「なんのために評価するのか?」という問いにしっかり向き合い、人事評価とは「社員の能力開発を促すためのものである」という結論にたどり着いています。

 

そしてGEでは、「社員能力開発を促す」という目的に沿って、四半期や半期ごとに行なわれる従来の人事考課「9ブロック」等ではなく、その場で日常的にフィードバックや評価を行ない、能力開発を後押しする仕組みであるノーレイティングを導入したとしています。

従来制度の弊害とノーレイティングのメリット

5つ星評価

 

ノーレイティングが持つ最大の特徴はリアルタイム性です。従来型の人事評価制度では、人事評価は四半期や半期、年に1回の実施であり、「過去の評価と振り返り」が行なわれてきました。

 

従来型の人事評価では、評価するときには上司にとってはすでに過去の出来事です。そして、フィードバック面談をする際には、さらに時間が経過して、部下の側も指摘された「過去の出来事」を忘れている、といった問題がありました。

 

ノーレイティングを導入すると、評価とフィードバックをリアルタイムに実施するようになります。「さっき起こったこと」「いま起こっていること」に対する評価とフィードバックになりますので、部下にとっても真剣に聞くべき内容です。

 

さらに、「さっき」「いま」の出来事だからこそ、未来の成長を重視したフィードフォワードの面談も実施しやすくなります。

 

なお、効果的なフィードバックやフィードフォワードに関心がある方は、ぜひ以下のページをご覧ください。

ノーレイティングを導入する際の注意点

ノーレイティングの目的は、リアルタイムなパフォーマンスマネジメントを通して、組織の変化対応力、社員のパフォーマンスを高めることです。そのため、ノーレイティングを実施するうえでは、上司や管理職に関する以下の点に注意が必要です。

 

管理職の負担が増える

ノーレイティングでは、定期的な人事評価をする代わりに、その場での声掛けや頻繁な1on1を行ないます。したがって、部下をたくさん抱えている管理職の場合、従来制度と比べて仕事が増えやすくなります。

 

そのため、ノーレイティングを導入するときには、これまで管理職が行なっていたプレイヤー的な業務をチームメンバーに引き継ぎ、マネジメントに集中できる環境を整えるなどの工夫が必要になります。

管理職のマネジメントスキルに依存する

ノーレイティングは、リアルタイムの1on1等を通じて、評価のフィードバックやアドバイスをする仕組みです。

 

したがって、1on1で必要となるコーチングやフィードバックのスキルが管理職に不足していた場合、部下のモチベーションを下げたり、育成効果が薄いものになってしまったりします。

 

部下との信頼関係が築けていない場合、ノーレイティングがうまく機能しない可能性は高くなります。したがって、ノーレイティングをちゃんと機能させるためには、評価やフィードバックを行なう上司や管理職の研修やフォローが必要となります。

ノーレイティングの導入ステップ

ビジネスにおける面談イメージ

 

ノーレイティングを取り入れる際には、以下の流れで準備を進めていきます。

 

1.ノーレイティングの導入目的を明確化

ノーレイティングをきちんと導入するためには、具体的な導入目的を設定して、目的に合った準備や計画を立てる必要があります。現在の評価制度にどのような課題があるか等をしっかりと見極めて、導入目的を見定めていきましょう。

 

例えば、突出したスキルや経験を持つ社員が頻繁に辞めてしまう場合、画一的だったり相対主義的だったりする評価制度に問題があるかもしれません。

 

また、社員のモチベーションが低い場合、企業や上司からの期待感や高評価を実感しにくい可能性もあるでしょう。社員の主体性が低い場合は、心理的安全性が低くチャレンジしにくい 環境になっていることも考えられます。

 

このように、現在の評価制度や人材マネジメントにおける課題感をしっかりと見極めて、ノーレイティングが最適な解決手段なのか、何を解決・実現するために導入するのかを明確にしましょう。

2.自社なりのノーレイティングの仕組み設計

ノーレイティングの導入設計では、課題から見えてきた導入目的を踏まえて、仕組みや評価、昇給・昇進の基準を設定していきます。

 

例えば、アドビシステムズでは、上司と部下の面談を通じて継続的かつ透明性の高い評価を行なう「チェックイン制度」を導入しています。チェックイン制度には、面接頻度や上司の質問内容を決めることなく、目標への改善点や達成点を話し合う特徴があります。

 

またマイクロソフトでは、画一的なランク付けを廃止し、パフォーマンスを「チーム」と「個人」の2視点で評価する制度を導入しています。2視点で評価を行なって、強み・改善点・改善のためにすべきことがフィードバックされる形になっています。

 

他にも、昇給・昇進等を年次ランク付けで判断せず、業績に関するデータや目標達成状況、そして日々の対話を通して総合的に判断するやり方もあります。いずれも、従来までの評価制度と比べて、よりリアルタイムできめ細かい運用をすることになります。

 

いずれもコミュニケーションを通じて納得感を高め、人材育成を促進する仕組みですが、一方で、きちんとした運用と透明性 を高める仕組みが必要です。

3.ノーレイティングの導入目的を周知

ノーレイティングに基づく新制度は、フィードバックや面談を行なう上司と、被評価者となるメンバー全員が以下のような項目を理解・賛同し、協力してくれることで、高い効果が生まれます。

  • ノーレイティングはどのような制度なのか?
  • ノーレイティングと従来の人事制度と何が違うのか?
  • ノーレイティングによって自分にどのようなメリットがあるのか?
  • ノーレイティングで何が具体的に変わるのか?

こうした内容を説明・周知されずに制度を導入してしまうと、従来の「格付け」習慣が抜けなかったり、ノーレイティングの利点であるリアルタイムなフィードバックを十分に実施できなかったりする可能性も出てきます。

 

ノーレイティングは、従来までの評価制度以上に、上司部下のコミュニケーションを通じて評価と人材育成を行ないます。したがって、導入説明等でも、内容を一方的に伝えるのではなく、協力してもらえるレベルの理解度になっているか、十分に確認しながら進行することが大切です。

4.管理職への教育・研修

前述のとおり、ノーレイティング導入の効果は、管理職のスキルや意識に依存する部分が大きくなります。なかでも、特に重要となるのは、以下の能力を内包するヒューマンスキルです。

  • 信頼関係を築く力
  • 聴く力
  • 理解する力
  • 引き出す力
  • 伝える力

特にノーレイティングの肝となるのは上記のスキルを十分に使ったフィードバックです。
フィードバックの考え方ややり方が間違っていると、フィードバックは部下のモチベーションを低下させてしまいます。

 

正しいフィードバックができるように、フィードバックの基本的な考え方やスキルも研修等を通じて教える必要があります。

5.1on1の実施スケジュール決定

ここまでの準備ができたら、現場で実施する1on1ミーティングなどを、いつ頃から、どのように導入・実施するかの調整に入っていきます。自社で初めて1on1を導入するときには、本格導入前に移行期間を設けるかどうかも決める必要があります。

 

また運用の中身として「1on1面談はどのくらいの頻度で行なうか?」や「1on1の面談時間はどのくらいにするか?」も決めなければなりません。

 

ただし、これらの検討や調整を進めるときには、人事担当者だけですべてを決定するのではなく、部門責任者等も交えて、自社の人材マネジメントに理想とされる頻度や時間、現実的に運用できるかを現場目線で考えることも大切です。

まとめ

ランク付けをしない評価制度「ノーレイティング」には、従来型制度による人材マネジメントの弊害を解消できるメリットがあります。ただし、ノーレイティングには、管理職のマネジメントスキルへ依存する側面や、評価者に負担がかかる側面もあります。

 

「ノーレイティング」の導入に興味があれば、記事で紹介した導入ステップも参考に自社に適しているのか、どう導入するのが良いか、検討してみてください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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