成果主義とは?導入のメリットデメリット、運用のポイント・注意点を解説

成果主義とは?導入のメリットデメリット、運用のポイント・注意点を解説

日本国内では、数十年で人材の流動化(転職)が一気に進み、また、近年はフリーランスや副業などの新たな働き方も浸透してきました。こうした時代の流れによって、各企業で優秀な人材を正規雇用で確保することは難しくなっています。

 

多くの日本企業では、優秀人材の確保と引き留め、抜擢を目的として、古くから続いてきた年功序列と終身雇用に紐づく従来の人事評価制度を、成果主義の考え方を強めた制度に変えることが進んでいます。

 

記事では、成果主義の概要と導入企業が増える背景、成果主義の目的とメリット・リスクを確認したうえで、成果主義の運用を成功させるためのポイントを解説します。

<目次>

成果主義とは?導入企業が増える背景

成果主義とは、社員の業績・成果と評価・給与を紐づける考え方です。評価制度としては非常に当たり前の考え方であり、ほぼすべての組織で、人事評価に成果主義の要素は含まれているでしょう。

 

 

日本で成果主義の導入企業が増える背景とは?

評価制度において、成果主義と対比される考え方が年功序列です。従来の日本では、大企業を中心に「経験年次に応じて能力や成果も高まっていく」という考え方に基づく、年功序列の要素が強い傾向がありました。

 

そのため、同年次内での成果主義はあっても、年次とポジションが逆転したり、若手が上の年次をごぼう抜きして抜擢されたりするような人事は行なわれてきませんでした。戦後復興から高度経済成長期は、年功序列型の人事制度が機能して、日本企業・日本経済は成長を遂げてきました。

 

しかし、近年は、バブル崩壊やグローバル化、産業のIT化・サービス化が進み、転職も当たり前の時代になりました。時代の流れによって多くの企業は、終身雇用と紐づいた年功序列の評価制度では、優秀人材の採用・定着が実現できなくなっています。

 

結果として、「成果を出せば、年齢や勤続年数に関係なく昇進・昇給する」成果主義の考え方を強めた評価制度・人事制度を導入する企業が増加しているわけです。

成果主義の目的とメリットデメリット・リスク

拍手するビジネスパーソン

成果主義の「成果やパフォーマンスに応じて評価をする」という考え方は、業績や成果を追いかけるビジネス組織において、ごく自然なものです。

 

一方で、成果主義が行き過ぎたり、運用を誤ったりすると、デメリットが生じて組織風土が崩れるリスクもあります。成果主義の導入・運用を進める上では、以下のようなメリットデメリット・リスクを把握しておくことが大切です。

 

 

成果主義の目的とメリット

成果主義には、以下のような目的と利点があります。

 

 

・優秀人材のモチベーションアップと定着

成果主義は「成果を上げた分だけ報われる/評価される」という制度です。したがって、成果主義の運用がうまくいくと、意欲的で優秀な人材のモチベーションUPにつながります。

 

また、優秀な人材は一般的に、自分のキャリアを真剣に考える傾向もあります。したがって、成果主義を通じて、スピード昇進や抜擢の機会があることがわかると、定着促進にもつながります。

 

 

・優秀人材の採用

「成果を上げた分だけ報われる/評価される」という成果主義は、自分の能力に自信があったり、成果を出すことに真剣だったりする優秀人材にとって魅力的な評価制度です。

 

また、成果主義に基づく賃金制度は、一般的に賃金の柔軟性が高く、中途採用に際して優秀人材に見合った給与提示などもしやすくなる効果もあります。

 

特に近年では、ITエンジニアやAI人材、IPO経験者やマーケティングのスペシャリストなどは、若くして好待遇であることが多く、年功序列的な賃金テーブルでは採用できないケースが増えています。

 

 

・人件費の抑制と適正配分

年功序列の要素の強い人事制度では、メンバーの年齢や役職、勤続年数に応じて、賃金が上がっていきます。年功序列が強い組織では、優秀な若手人材よりも、パフォーマンスが低い先輩の賃金のほうが高くなりやすいでしょう。結果として、人件費の高騰や人件費あたりの労働生産性の低下を招きます。

 

一方で、成果主義の環境では、パフォーマンスが低い人材の人件費を相対的に抑制することができます。結果として、成果に応じた人件費の配分が実現し、賃金における不公平感も生じにくくなります。

 

 

成果主義のデメリット・リスク

成果主義を導入するときには、以下の点で注意が必要です。

 

 

・公正な成果の評価が難しい

成果で評価される成果主義は、誰にでも平等に評価されるチャンスがあるように思えるかもしれません。ですが、現実としては「公正な成果の評価」は非常に難しいものです。ほとんどの組織や仕事において、個人の成果には、以下のような外部要因が絡んでいます。

 

  • 配属されている部門や職種
  • 市場環境の追い風や向かい風
  • 上司や先輩から引き継いだ顧客の顔ぶれ
  • 他部署からの協力

など

 

さらに、営業・販売と生産、マーケティングと総務、エンジニアなどの部門や職種をまたぐと、目標の難易度などを適正に評価することも困難になります。したがって、成果主義は、「公正に成果を評価することは難しい」という前提の下に運用することが大切になります。

 

 

・思考が短期的な成果に行きがちになる

一般的に成果主義は、「評価期間に上げた成果」を評価するものです。したがって、成果主義が強くなりすぎると、短期的な成果や評価に目が向きすぎて、評価に関係しない仕事や中長期的な取り組みが必要とされる仕事が疎かになるリスクもあります

 

特に定期的な人事異動と組み合わさると、「自分がいる間に成果が上がればいい」という“焼き畑農業”的な考え方になるリスクもあります。

 

 

・組織の協調や和が乱れる

成果主義が強くなると、自分や自部門の成果に関心が強くなります。自分・自部門の成果に関心が高まることは良いことです。しかし、自分・自部門の成果に関心が行き過ぎると、「自分(自部門)さえ良ければいい」という考え方が強まり、全体最適(組織最適)を妨げる個人主義や部門最適が横行してしまいます。

 

 

・内発的動機付けを妨げる

成果主義は、外部からの金銭的・精神的な報酬によって動機付けを行なう外発的動機付けの典型的なものです。外発的動機付けには、報酬や刺激に耐性ができてしまったり、仕事そのものへの興味や、やりがいから生まれる内発的動機付けを損なってしまったりするリスクがあります。

 

したがって、成果主義を運用する際には、内発的動機付けを強める取り組みを併せて実施していくことも大切です。

 

 

・中長期な人的投資が行なわれにくくなる

短期的な成果(業績)を追い求めると、中長期的な視点での人的投資が行なわれにくくなる傾向もあります。受講者側も、短期的な成果につながらない教育研修で時間を取られることを嫌い、教育効果が落ちてしまうリスクが生じやすくなります。

 

したがって、成果主義の導入をするときには、中長期的なスパンで人材マネジメントを進めることも大切です。

成果主義の運用を成功させるポイントと注意点

考課表のイメージ

成果主義の運用を成功させるには、以下5つのポイントに注意しながら、制度の整備や運用を進めるとよいでしょう。

 

 

評価制度の整備

成果主義では、完ぺきに公正な成果評価は難しいものの、可能な限り公正に成果を評価しようとすることは大切です。そのためには、まず、部門や職種ごとに何を成果とするかを決めたうえで、評価や難易度の基準、昇進・昇格の基準などを設定することが大切になります。

 

また、メンバーが納得感を得られやすいように、設定した基準の明確化や評価の透明性なども高める必要があります。

 

 

評価者の教育

成果主義を運用するうえでは、評価者による評価のバラつきを減らす取り組みも大切です。評価者の教育は、まず、評価プロセスや基準を周知徹底することから始まります。

 

また、成果主義に対するメンバーの納得感を高めるには、日常的なコミュニケーションやフィードバックの質と量も大切です。評価者研修では、目標設定のスキルに加えて、フィードバックのやり方やコミュニケーション技術なども実施していくとよいでしょう。

 

 

評価の調整

人事委員会などでは、評価の調整を行なうと同時に、評価制度の精度を高めるためのPDCAを実施することが大切です。

 

例えば、人事制度上は評価が低い(高い)のに、部門長からの評価が高い(低い)場合、目標設定や評価軸に何らかの齟齬がある可能性が高いでしょう。問題を見つけた時に、「評価制度の精度が悪いね」で終わらず、「なぜズレたか?」を確認して、地道に齟齬を解消する取り組みを通して、評価精度を高めていきましょう。

 

 

ミッション・ビジョン・バリューの浸透や評価対象の多様化

一般に成果主義は「業績貢献」を成果として、「賞与・給与」などの金銭や「昇進・昇格」といった役職等で評価を還元するものです。しかし、業績・金銭・役職だけに関心が偏ると健全な組織運営は難しくなります。

 

そのため、成果主義を強める際には、同時に「ミッション・ビジョン・バリューの浸透」、「イノベーションや社内協力に対する評価制度の導入」にも同時に取り組むことがおすすめです。

 

 

組織開発の強化

成果主義を導入すると、短期的な成果に関心が強くなります。ですが、メンバーと企業の両方が長期的な成長をするには、短期的な成果を上げるための能力開発やマネジメントとともに、内発的動機付けや中長期的な視点に基づくキャリア開発が大切です。

 

そのため、成果主義を導入するうえでは、今まで以上に経営層や人事部門による中長期的な目線での組織開発へのリーダーシップも求められます。

まとめ

年齢や年次に関わらず、出した成果を公正に評価して人事や報酬に反映する成果主義の考え方は非常に合理性の高いものです。成果主義の考え方を導入・運用すれば、以下のようなメリットを得られるでしょう。

 

  • 優秀人材のモチベーションアップと定着
  • 優秀人材の採用
  • 人件費の抑制と適正配分

など

 

ただし、成果主義を運営するうえでは、個人の成果は複合的な要因が絡まっているものであり、また部門や職種を超えた100%正確な評価は難しいという一種の矛盾があります。

 

また、成果主義が行きすぎると、短期的な成果や自分・自部門の成果に目が行きすぎて、組織内の協力体制が崩れたり、中長期的な施策に目が向かなくなったりするリスクもあります。

 

成果主義を成功させるためには、成果をなるべく公正に評価してメンバーの納得感を得るための評価者教育や制度のPDCAを実施することが前提です。

 

その上で、ミッション・ビジョン・バリューの浸透などを通じた内発的動機付けの強化や、組織の協力体制を高めるためのコミュニケーション施策、多様な評価軸の設定などによって、健全な社風や社内協力の維持、また中長期的な視点での組織開発を強めることが大切です。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
・オンライン研修の「今と未来」、社員育成への上手な取り入れ方
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