幹部候補は、経営陣の一員として組織をけん引していくことが期待され、求められるスキルも通常の管理職と異なります。中長期的に適性を見極め、育成していくことが必要です。また、経営層が幹部の育成にコミットし、十分なリソースを投下することも欠かせません。
記事では、幹部候補に求められるスキルや、幹部候補の見極め・選抜、育成のポイントを解説します。
<目次>
幹部とはそもそも何か?
幹部(経営幹部)は、企業の事業活動全体を広い視野でとらえ、経営者的な視点でマネジメントや意思決定をしていく立場の人材です。具体的には取締役や執行役員、事業部長など、上位の管理職を指します。
幹部は社長(経営者)や経営陣の右腕、側近的な存在でもあり、経営陣に提言したり、意思決定の実行を担ったりして、経営陣をサポートし、企業活動を支える役割です。
したがって、自分が任されている部課や機能のみに責任を負う通常の管理職よりも、事業全体や全社のスケールで考えることが求められ、より広い視座が必要になります。
幹部に必要とされる能力
経営幹部として成功するためには、カッツ理論でいう「コンセプチュアルスキル」のウェイトが大きくなります。
カッツ理論は管理職の各階層で必要なビジネススキルの割合を示したものであり、「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」「ヒューマンスキル(人間関係能力)」「テクニカルスキル(業務遂行能力)」の3つから成り立ちます。
ただし、経営者層に該当する幹部は、成果をあげるうえでコンセプチュアルスキルの比重が他の階層よりも高いうえ、幹部特有のテクニカルスキルやヒューマンスキルも役割を果たすうえで前提条件として必要です。幹部に必要とされる能力は多岐にわたり、代表的なものとしては以下が挙げられます。
事業戦略、マーケティングや会計知識
経営幹部は、基本的に部門や事業の責任者であることが多いでしょう。経営者とともに企業を経営したり、担当部門を経営したりするうえでも、部門を横断した視点からの思考・発言が求められます。
したがって、管理職まではさほど必要とされなかった事業戦略の策定やマーケティング、財務・会計などの「経営の知識」も必要です。これらが、幹部として新たに求められるテクニカルスキルになります。
コンセプチュアルスキル、クリティカルシンキング
事業戦略やビジョンを描くうえで必要になるのが、冒頭で紹介したコンセプチュアルスキルです。具体的には、抽象的な概念やビジネスの本質・要点を見極めるスキルで、物事を抽象化して考えることで、表面的な事柄ではなく、問題解決や成果創出のための本質を見出しやすくなります。
また、企業のミッション・ビジョンなどの目に見えにくい概念もコンセプチュアルスキルを磨くことで扱いやすくなります。
コンセプチュアルスキルを活用するうえでは、現状や前提を疑い、固定化された思考や現状を打破するようなクリティカルシンキング(批判的思考)のスキルも大切です。
なお、「批判」といってもネガティブな意味合いではなく、「そもそもの前提は正しいのか?」「他に本当の問題があるのではないか?」ということを客観的に分析・検証する姿勢のことをさします。経営の意思決定に関わる幹部にとって、前提や現状に捉われず、本質的な解決策を導き出す力は不可欠です。
統率力/リーダーシップ
幹部は、多職種、多階層に渡るメンバーをマネジメントしていく必要があるため、通常の管理職よりも高い統率力やリーダーシップが必要とされます。
効果的なリーターシップを発揮するには、信頼関係を築く人格をはじめ、ファシリテーションやコーチング、プレゼンテーションなどのスキルも不可欠です。これらがカッツ理論でいう「ヒューマンスキル」になります。
ロジカルシンキング
幹部になると、現場のプレイヤーとして直接活動することはもちろん、現場に直接指示を出すことも減ります。その代わりに、各部門を担当する管理職を通じて間接的に現状を把握し、成功への計画を描いて人材を動かしていくことが求められます。
全体像を把握したり、適切な意思決定をしたりするためには、ロジカルシンキング(論理的思考)が不可欠です。
ロジカルシンキングは、物事に対して因果関係や要素分解などの筋道を立てながら解決策や結論を導き出す思考法であり、適切な目標を設定したり、目標達成のための施策を検討したりするには不可欠です。
またロジカルシンキングは、ロジカルコミュニケーションの土台としても必要です。幹部層はコンセプチュアルスキルに基づくストーリーテリングなどによって相手の感情を動かすことも重要ですが、情報をきちんと理解してもらい、「なぜそうするのか?」という論理的な納得感を生み出すロジカルコミュニケーションも重要です。
行動力
幹部として人材を動かすためにはコンセプチュアルスキルやロジカルシンキングは不可欠です。ただ、会議室から指示しているだけでは、経営は成功しません
時には幹部は現場に出向いて、市場の変化や顧客のニーズ、メンバーの状況など、定性的な情報を得ることも必要です。そういった意味で、幹部にはフットワークの軽さや行動力が求められます。
また、困難を乗り越えたり、新しい挑戦をしたりする際には、トップ自らが先頭に立って行動する、背中を見せるような行動力も重要です。
活躍可能性の高い幹部候補を見極める方法
幹部候補を見極める際には、複数の視点で中長期的に見極めていくことが大切です。見極めの視点としては、大きく以下の3つが挙げられます。
- 責任感や全体貢献の精神
- 幹部候補としての思考力
- 成果をあげる能力
まず責任感や全体貢献の精神は、後々の教育で矯正するのが難しい内面的な要素になるため、慎重に見極めることが重要です。
幹部候補としての思考力は、先述のコンセプチュアルスキルやロジカルシンキングなどで見極めることができます。成果をあげる能力は、目標達成力や数字への意識、チームビルディング力などです。
これらの要素を前提として、幹部候補に求められるものは「実績」です。もちろん、実績があっても上記のような責任感や全体貢献の精神がない人を幹部にすると後々大きな問題となります。いわゆる「功ある者には禄を、徳ある者には地位を」という考え方は幹部候補を見極める上で非常に大切です。
同時に、姿勢やマインドがあり、個々のスキルがあったとしても、事業で実績をあげる力がなければ、幹部候補としては失格です。経営において実績をあげられなければ、社員を不幸にしてしまいます。
幹部の選抜・育成で重要なポイント
幹部には通常の管理職と違ったスキルが求められるため、管理職と同じように育成を行なうことは難しいといえます。幹部の抜粋・育成は、以下のポイントを意識して行なうことが重要です。
早めの選抜と機会提供
幹部候補の見極め・育成は長期的に行なう必要があるため、早めに選抜して、知識のインプット機会を与えたり、現場経験を積ませたりすることが大切です。
幹部として成功できるかどうかは、実際に幹部としての仕事を任せてみないとわからないうえ、すぐに判断することもできません。したがって、現場での実践が重要になります。
長期的かつ余裕を持った育成計画
幹部の育成には長期的かつ余裕を持った育成計画が必要です。育成には3~10年はかかります。3~10年後の組織図やありたい自社の姿から、逆算して育成計画を立てることが大切です。
強みを生かす
中小企業の場合、幹部としての能力がある程度歪だったとしても、人材の強みを生かしたほうが効果的です。歪な部分(弱み)を克服することも必要ですが、苦手としているものを克服するには、通常よりも余計に時間がかかってしまいますし、必ず克服できるとも限りません。
したがって、弱みは「致命傷」にならないところまで克服するくらいにして、あとは他のメンバーを頼って弱みを補う術を身に付けさせるのがよいでしょう。
オーダーメイドの育成
幹部候補の育成では、現場での実践(一種のOJT・OJD)が最も重要になります。経営幹部に求められるのは、自分が持っている各種の資質を発揮・統合・組み合わせて、成果をあげる力です。
知識のインプットだけではまったく足りませんし、現場経験を積ませ、強みを生かした育成をするうえでも、幹部候補一人ひとりに合ったオーダーメイドの育成が必要となるでしょう。
まとめ
幹部候補には、姿勢や発言、思考力、成果をあげる能力などを前提としたうえで、それらを統合して実績をあげる力が求められます。幹部候補の見極めや選抜後の育成は長期的な取り組みになるため、長期的かつ余裕を持った育成計画を立てましょう。
また、幹部としての能力は現場での実践でしか身に付けられません。実際にサービスや事業の責任者として任せてみるといったオーダーメイドでのキャリア開発を通じて、育成を行なっていきましょう。