社内研修を効果的に行なうポイントとは?実施までの流れと研修設計のコツ

更新:2023/08/02

作成:2022/07/14

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

社内研修を効果的に行なうポイントとは?実施までの流れと研修設計のコツ

人材育成の手法として、社員が講師として登壇して研修を実施する“社内研修”は多くの企業で実施されています。記事では、社内研修の概要とメリット・デメリットを確認したうえで、基本的な実施の流れと効果的な研修設計のポイントをご紹介します。

<目次>

社内研修の概要とメリット・デメリット

記事では最初に、社内研修の概要と、社内研修と社外研修(外部研修)のメリットとデメリットを確認しておきます。社内研修と社外研修をうまく組み合わせていくことが効果的な人材育成するうえでのポイントです。

 

 

社内研修とは?

社内研修は“自社の社員が講師となって企画~設計~実施までを行なう研修”です。講師には人事部や組織開発部メンバーのほか、経営陣や業務に精通したベテラン社員が登壇することもあります。

 

社内研修と対になるのが、外部の研修企業に研修を委託して実施する“社外研修(外部研修)”です。社外研修は、自社の社員のみを対象に実施する形式(研修業界では、講師派遣やインハウスとも呼ばれます)と、研修企業や団体等が開催する公開研修(セミナー)に社員を派遣する場合があります。

 

なお、今回の記事では社内研修を“自社の社員が講師となって企画~設計~実施までを行なう研修”として解説していきますが、場合によっては、“自社の社員のみを対象に実施する研修(講師は社員or外部講師)”を社内研修と呼ぶ場合もあります。

 

 

社内研修のメリット

社内研修のメリットは大きく2つあります。1つ目は、自社特有の業務知識やノウハウを研修にふんだんに盛り込める点です。実際に業務に精通しているからこそ盛り込める内容がありますし、例えば新入社員向けのビジネスマナー研修の身だしなみの基準等も“自業界・自社の基準と注意点”などを具体的に伝えることができるでしょう。

 

また、2つ目のメリットは、成果を上げている社員を講師に据えて定期的に実施するなどすることで、個人の知恵を全社に展開するナレッジマネジメント、知の共有という場にもなることです。

 

 

社内研修のデメリット

社内研修のデメリットを2つ挙げると、まず1つ目は社員が登壇することで、社内にないノウハウや知恵は導入されないという点です。常に外部の見識を取り入れている社内研修の先任者などがいる場合は別ですが、社内研修は社員が実施するからこそ、今の自社にはない新しい知識やノウハウ、体系を提供することが難しいでしょう。

 

また、顔を見知った社員が登壇することで、緊張感がなくなるという点もデメリットになり得ます。社外研修は “第三者”である講師が伝えたり進行したりすることで説得力や緊張感が生まれる部分があります。

 

例えば、新入社員研修でよくある「給与の3倍稼ぐ必要がある」といった話も、実際に給与を支払っている企業側の経営陣が伝えるよりも第三者が伝えることで納得感が生まれたりします。また、ロールプレイングの進行なども、第三者が進めることで緊張感をもって実践できたりする部分があります。

 

なお、社内研修と社外研修は絶対的な優劣があるものではありません。双方の特徴を把握して、うまく組み合わせていくことが大切です。

社内研修の目的

本章では社内研修の目的をお伝えします。ここでは特に社員が登壇する社内研修ならではの目的にフォーカスして3つ解説します。

 

 

共通言語やフレームワークの浸透、ノウハウ共有による生産性向上

目的の1つ目は、共通言語やフレームワークの浸透による生産性の向上です。ほとんどの業務は、複数人が協力し合いながら行ないますし、権限委譲したり人材育成したりするうえでも、基本となる考え方を組織でそろえることは有効です。

 

社内研修を通じて、共通言語を浸透させることができれば、議論や権限移譲、人材育成等がスムーズに進み、時間短縮や効率化につながります。

 

共通言語は必ずしも社内独自のものである必要はなく、その場合は社内研修ではなく、社外研修を使う選択肢もあります。ただし、下記のような経営理念やバリュー等とも紐づいた形で浸透させる、またケーススタディー等を盛り込んでいくうえでは社内研修が向いています。

 

 

経営理念の浸透

経営理念やミッション・ビジョン・バリューの浸透も、社内研修を行なう目的の一つです。新人や入社したばかりの社員は、企業理念や事業内容の理解が浅く、社内研修でこれらを深めることが大切です。

 

「自社の商品・サービスがどのような価値を提供しているのか?」「わが社は、どのような社会を目指しているのか?」などを理解して業務に取り組むことで、日々の仕事の取り組み方や社外での行動にも良い影響が生まれます。目の前の業務をこなすだけでは、どうしても企業理念を意識する機会は少なくなります。したがって、社内研修で定期的に企業理念の浸透を図ることは非常に重要です。

 

 

社内の団結力を高める

目的の3つ目は、社内のチームワークや団結力を高めることです。チームワークや団結力は、業務の生産性にも大きく影響します。

 

団結力の強化やチームビルディングは、必ずしも社内研修だけでなく、社外研修を使っても実施できます。むしろ、いちばん初めにチームビルディングに取り組むには、体系化されたプログラムとプロ講師による進行に任せたほうがスムーズな場合もあるでしょう。

 

ただし、チームビルディングは継続して実施し続けれなければいけない組織開発プロセスです。例えば、新人や中途社員が入社してきたり、異動や組織編制の変更があったりすれば、チームビルディングを実施する必要があります。その意味では、下地ができた後の継続実施、コスト的にも社内研修で実施できるようにすることが有用でしょう。

社内研修を実施するまでの流れ

本章では、社内研修を実施するまでの基本の流れを解説します。ゼロから社内研修を企画する流れを解説していますので、すでに研修テーマが決まっているようなケースは少し異なりますが、参考にしてください。

 

 

1.現状の課題を洗い出す

社内研修の企画では、最初に現状の課題の洗い出しをします。自社にどのような課題があり、どの課題を優先して解決する必要があるのかを把握、整理しましょう。最初の段階で課題を明確にすることは、次のステップで解説する研修のゴールを決めるうえでも重要です。

 

課題を洗い出す際は、上層部や現場のマネージャー陣にヒアリングしながら進めます。以下の観点でヒアリングを進めるとよいでしょう。

 

<育成課題を洗い出すためのヒアリング例>

⇒ 「自社の社員に足りていない知識やスキルは何か?」「今後どのようなスキルが必要になるだろうか?」

⇒ 「現場ではどういうスキルが求められているか?」「どのような成果を上げて欲しいのか?」

⇒ 「職種や役職ごとに、それぞれどのような課題や抱える悩みがあるか?」

⇒ 「自社組織の強みは何か?それを最大化するためには何が必要か?」

⇒ 「自社組織の弱みは何か?それが成果や成長のボトルネックとなっている部分はどこか?」

 

 

2.研修の目的とゴールを設定する

課題が洗い出せたら、次のステップでは研修の目的とゴールを設定します。研修の目的とゴールが明確でなければ、研修プログラムの設計は場当たり的なものとなってしまいます。

 

「何のために研修を行なうのか?」が研修の目的、「研修後にどうなって欲しいのか?」「どのような行動変容が生まれて欲しいか?」が研修のゴールです。目的とゴールを明確にすることで、効果的な研修設計が可能になります。

 

なお研修目的とゴールを設定することは、社内研修だけでなく社外研修でも重要なプロセスです。ゴール設定まで終えた段階で、ゴールに到達するために社内研修が良いのか社外研修が良いのかを検討するとよいでしょう。

 

 

3.研修プログラムの詳細を検討する

研修の目的とゴールが明確になったら、研修プログラムの詳細を詰めていきます。以下に挙げた項目を検討するとよいでしょう。

 

<研修プログラムの詳細検討項目>

・研修方法

・研修プログラムの内容

・実施時期、日数、時間、場所

・実施人数

・研修終了後の提出物

 

 

4.研修実施に向けて準備を行なう

社内研修の内容が決まったら、日程や会場確保など、実施に向けた準備を進めます。研修日程は繁忙期を避けたタイミングにしましょう。また受講者にも、日程や研修目的を事前にアナウンスすることも大切です。特に階層別研修など、一定の条件の下ですべての社員が対象となる場合は、できるだけ早めに周知しておくとよいでしょう。

 

なお、自分たちでプログラム設計して実施もする場合は上記だけでもよいですが、社内研修では他部署の人に講師を依頼するケースもあります。その場合は、講師をお願いする人とも以下の点を共有するようにしましょう。

・課題や研修ゴールのすり合わせ・具体的な研修内容やアジェンダ等の共有

・登壇経験が少ない社員であれば、プログラムのチェックや事前リハーサルの段取り

 

 

5.研修実施後の振り返りと効果測定

研修効果を高めるためには、実施後の振り返りと効果測定も重要です。振り返りでは、受講者アンケートを活用するとよいでしょう。受講者アンケートを通じて、研修満足度のほか、何をどの程度理解したか?どこがわかりにくかったか?などが把握して、次回以降のブラッシュアップにつなげましょう。

 

また研修実施後の効果測定も、社内研修のPDCAを回すうえで重要です。効果測定では、各社員の目標達成の度合いやサーベイによるメンバーのエンゲージメントの変化など“定量面”のほか、研修の学びをどのように業務で活用したか?どのような成果につながったか?などをインタビューして“定性面”を分析する、というように、定量面、定性面、2つの観点で行なうと効果的です。

効果的な社内研修を企画するためのポイント

本章では、効果のある社内研修を企画するためのポイントを紹介します。

 

 

1.研修のゴール設定のポイント

前章でも触れたように、社内・社外に関わらず研修目的とゴールの設定が非常に重要です。研修ゴールの設定では、受講者の上司などにもヒアリングし、実際に浮上した課題をもとにゴールを設定することがおすすめです。新任管理職研修や新入社員研修などであれば、前年の新入社員や新任管理職にインタビューするなども有効です。

 

ゴール設定が曖昧になっていたりずれていたりすると、研修プログラムの焦点が絞られず、また、実践してもらう行動への落とし込みなども曖昧になります。“研修後の状態”“生み出す行動変容”をしっかりと明確にしましょう。

 

 

2.講師選定と育成のポイント

社内研修で登壇する講師は、研修成功を左右する存在です。同じテーマの講義であっても、伝えるスキルに長けた講師であれば研修理解度や満足度は向上し、より深い学びを得られますが、講師の質が劣っていれば受講者の理解度は浅く、行動変容も生まれなくなってしまいます。

 

仕事で成果を上げている人が、必ずしも良い講師と限りません。受講者に寄り添い共感する力があるかどうか、飽きさせない工夫ができるか、受講者へ適切なフィードバックができるかなどが、講師選定のポイントです。講師としてのスキルを伸ばすには、講師としてのトレーニングすること、登壇経験を積むことが重要です。トレーニングを通じて講師力は磨くことができます。

 

HRドクターを運営する研修企業ジェイックでは、社内研修の講師に特化した公開セミナーを提供していますので、ご興味あればご覧ください。

 

3.(研修実施前)受講者を動機づけるポイント

研修企画の分野では、研修効果に影響する要素の割合を紹介した“4:2:4の法則”というものが有名です。“4:2:4の法則”は、研修効果(行動変容の実現)に与える影響のうち“研修内容そのものの良し悪し”は20%に過ぎず、“研修前後の取り組み”が80%も影響するとしています。つまり、じつは研修内容以上に研修前後での取り組み方、関わり方が研修効果に大きく影響するのです。

 

まず研修実施前のポイントは、受講者への動機づけです。もし「上から言われたから参加したけど、忙しいときに研修は困るなぁ」という意識で参加すれば、研修効果も半減してしまいます。

 

人事や受講者の上司から「なぜこの研修をやるのか?」「何が得られるのか?」「あなたにどのようなことに期待しているか?」「どのように成長して欲しいのか?」など、研修前に課題感や期待事項を伝え、腹落ちした状態で前向きに受講してもらうことが大切です。

 

 

4.(研修実施後)振り返りとフォローのポイント

研修実施後は、振り返りと適切なフォローが重要です。研修で学んだことがきちんと実務で実践されるようにフォローする、また、期待した行動変容が生まれているかを確認・検証するようにしましょう。

 

フォローの際のポイントは2つあります。1点目は、研修内できちんと実務で何を実践するかを設定することです。2点目に実践をフォローすることです。たとえば、上司に報告する仕組みにする、メール等を使って受講者内で進捗を共有する、実践結果を発表するフォロー研修を開催するなどです。

 

 

5.研修の体系化とコンテンツの蓄積

社内研修には、自社固有の業務ノウハウや知識が習得できるという外部研修にはないメリットがあります。社内研修では、このメリットを最大限に生かすこともポイントです。

 

具体的には、研修風景を録画し、講義資料とセットにして、LMS(学習管理システム)等で共有しましょう。外部研修の場合、研修企業の著作権等との兼ね合いで研修コンテンツを使い回すことが難しいケースも少なくありません。

 

しかし、社内研修であれば、就業規則や雇用契約等で社員の業務上の制作物に関する著作権の問題をしっかりと整理しておけば、コンテンツを録画して共有することも容易です。研修と並行してノウハウを蓄積することで、一過性の研修で終わらない体系化な人材育成が可能になります。

まとめ

記事では、社内研修のメリット・デメリット、実施の流れ、効果的な企画のポイントをお伝えしました。社内研修は、自社ならではの業務知識やノウハウ、組織理念の浸透などで特に高い効果を発揮します。

 

研修を企画する際には、解決したい組織課題や研修ゴールを具体化することが重要です。そのうえで、研修プログラムに落とし込んでいきましょう。また社内研修では難しい部分は、社外研修やほかの人材育成方法と補完し合いながら取り組むことも大切です。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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