最近の企業経営において、従業員満足度(ES)が顧客満足度(CS)と並んで注目されています。
顧客満足度の向上は業績等にもつながってくる重要なものですが、従業員満足度を向上させないと、顧客満足度やロイヤリティーも改善しないと言われます。
本記事では従業員満足度を向上させる3つのメリットと従業員満足度を高めるための施策、取り組み事例を解説します。
<目次>
- 従業員満足度(ES)を向上させる3つメリット
- 従業員満足度(ES)向上に向けた3つの取り組み方
- 従業員満足度(ES)を向上させるための取り組みチェックリスト
- 従業員満足度(ES)向上の取り組み事例
- 従業員満足度(ES)向上で自社ビジネスを成長させましょう
従業員満足度(ES)を向上させる3つメリット
まず、従業員満足度(ES)を向上させるメリットについて解説します。おもなメリットは以下の3つです。
- 顧客満足度(CS)の向上
- 生産性の向上
- 人材の定着
顧客満足度(CS)が向上する
従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)は非常に深い関係にあります。「従業員満足度(ES)の前に顧客満足度(CS)の改善はあり得ない」と言われることもあるほどです。
どれだけビジネスモデルの整備や仕組み化を進めたとしても、サービスを作り出して提供するのは従業員です。
だからこそ、従業員満足度が高まればサービスの質が向上し、結果として顧客満足度が向上すると考えられるのです。
とくに一昔前と違って、商品・サービスの機能や性能による差別化はどんどん難しくなった中で、顧客体験(UX)の重要性が高まっています。
産業のサービス化や知識労働の増加といった背景とも相まって、従業員満足度やエンゲージメントが顧客満足に及ぼす影響はより大きくなっているのです。
生産性が向上する
従業員満足度の改善は、ワークエンゲージメントの向上、主体性の発揮、心の余裕やチームワークの改善につながります。
ワークエンゲージメントが高まったり心に余裕ができたりすれば、まず個人としてのパフォーマンスが向上します。
さらに、チームワークやメンバー同士の連携も強化されます。このように従業員満足度の向上は、個人のパフォーマンス向上、そして組織の生産性UPにつながります。
心の余裕やチームワークの改善は、”重要だが緊急ではない”という課題やイノベーション創出などの取り組みも生まれやすくなります。
人材が定着する
従業員満足度が高くなれば、仕事や組織へのエンゲージメントも高くなり、人材の定着率も向上します。
少子化に伴って労働生産人口が減少する、また、転職が当たり前となる中で、従業員の定着はすべての企業が考えるべき重要課題のひとつとなっています。
組織において一定の新陳代謝はあってしかるべきだという側面はありますが、過度に人材が流出してしまえば採用や育成にかけたコストは無駄になってしまいます。
従業員満足度を高めることでこのような事態を防げるメリットもあるのです。
従業員満足度(ES)向上に向けた3つの取り組み方
従業員満足度(ES)を向上させる施策について、大きく3つのセグメントで取り組みを紹介します。
- 物理的な提供価値
- 経験的な提供価値
- 感情的な提供価値
物理的な提供価値
まず、報酬や福利厚生などの物理的な側面です。
報酬や福利厚生などの物理的な待遇面は従業員が最も気にする点のひとつであり、従業員満足の向上を考える上で押さえておかなければならない点です。
物理的な提供価値は、モチベーション理論でいう衛生要因的な側面が強くなります。
多少向上させても、従業員満足度の大きなUPにはつながりませんが、物理的な環境面等で業界他社や市場と比較して見劣りすると、ESが一気に落ち込むリスクがあります。
報酬や待遇は労働生産性を向上させないと実現しないものでもありますが、中長期的に市場と比べて見劣りしないレベル~上位水準で給与水準や福利厚生などを提供できるように取り組む必要はあるでしょう。
経験的な提供価値
自社で就業することで得られるキャリア等に関する経験もES向上につながるものです。最近では、勤怠管理や働き方等に関する環境も経験的な提供価値に含まれます。
市場で通用するキャリアを形成できる、自分が望むキャリアにつながる、また仕事における裁量権や自己決定権などは、キャリアを形成するうえで重要な経験的な提供価値です。
また、”社内でのキャリア展望”なども未来における経験的な提供価値といえるでしょう。
感情的な提供価値
企業のミッションやビジョンと自分の仕事のつながり、自分のミッションや価値観と組織のミッションやビジョンの共鳴、コミュニティとしての職場に対する満足なども非常に重要な提供価値です。
経験的な提供価値と併せて、感情的な提供価値が高まっていくと、従業員満足度や組織に対するエンゲージメントが向上していくでしょう。
ある程度物理的には満たされている人が増えてきた中で、就職や転職で企業の存在意義(パーパス)や理念(ミッションやビジョン)等を重視する人は増加する傾向にあります。
自社が社会にどのようなインパクトを与えているか、そのなかのメンバーとして働くことでどのような意義があるかを明確に示して浸透させる、また実感できる機会をつくることが大切です。
従業員満足度(ES)を向上させるための取り組みチェックリスト
従業員満足度向上における3つの区分に関しては前章でご紹介した通りです。
本章では、前章の内容も踏まえて、従業員満足度(ES)を向上させるための具体的な取り組みについて5つのチェックリストを紹介します。
強み部分をさらに磨く、弱み部分をボトルネックにならない水準まで改善する参考としてください。
□ | 企業のミッション・ビジョンや経営方針を浸透させる |
---|---|
□ | 職場環境を改善する |
□ | 社員の意見を取り入れる |
□ | 目標を数値化する |
□ | 評価制度を見直す |
企業のミッション・ビジョンや経営方針を浸透する
ES向上にはミッション・ビジョンや経営方針などの浸透が大切です。
前述の通り、ミッションやビジョンの浸透は、感情的(精神的)な提供価値につながります。
自分の仕事が社会に対してどのような価値をもっているかという意味づけ、また、自分自身の価値観や生き方と組織のミッション・ビジョンの重なりが明確になることは非常に大きな内的な動機付けになります。
また、経営方針や事業計画を共有することは、感情的な提供価値に加えて、経験的な提供価値にもつながります。
ミッションやビジョンに向かって事業が進化していくという実感は感情的な提供価値、また、事業計画等が明らかになれば、自分自身がどんなキャリアを積めるか、どのようにキャリアを構築していくかを考えやすくなります。
また、経営方針や事業計画を共有されることは、自分が組織の一員であるという実感につながりますし、未来に対する希望にもなるでしょう。
労働環境を改善する
労働環境は物理的な提供価値であり、従業員への提供価値のなかで基礎的なウェイトを占める部分です。
労働環境は動機やモチベーション、エンゲージメントに関する衛生要因です。労働環境への不満要因があると、メンバーのストレスは溜まり、大きなマイナス要因となります。
業界水準や世の中的な標準と比べて、遜色ない状態まで労働環境、給与や福利厚生、勤怠などを整えていくことは必須です。
その上で、自社のビジョンやバリューに紐づいたり、従業員同士のコミュニケーションを生み出したりする福利厚生や労働環境を整えられると、感情的な提供価値も生まれていきます。
社員の意見を取り入れる
組織の施策や制度、意思決定に自分の意見が反映されていくと、従業員は当事者意識を持ちやすくなります。
普段のMTGや会議もそうですし、アンケートや調査、コンテストやハッカソンなどをうまく使って、社員の意見を活発化させて組織の意思決定に取り込んでいきましょう。
なお、社員の意見を取り入れる仕組みとしては、サトーグループの「3行提報」が有名です。
サトーグループは、バーコードやICタグなどの認識技術を中核とする日本を代表する優良企業の一つです。
サトーグループで40年間以上実践されている「全社員が毎日、3行で社長に提案・報告する。」という3行提報の仕組みは、非常にユニークです。
サトーグループのホームページでも公開されていますし、『たった三行で会社は変わる』という本でより詳しく知ることも出来ますので、ぜひ参考にしてみてください。
目標を数値化する
企業の目標と社員の目標を数値化することが、従業員満足度の向上につながる側面もあります。人間は生まれながらにして達成意欲を持っています。
目標を明確になり、チームや組織で協働して目標達成する経験は、大きな喜びや提供価値につながります。
ただし、上から一方的に目標を押し付けると、従業員満足度の向上ではなく、むしろ低下につながってしまいます。
きちんと目標に対する納得感や各個人の意味づけをするプロセスと共に導入されてこそ、意味ある施策となりますので注意が必要です。
評価制度を見直す
評価制度の見直しも大事です。評価制度は報酬や昇格・降格につながるものであり、物理的な提供価値に直結します。
また、人は自己の重要性を認めてほしいと渇望しているものであり、正当に評価されることは経験的・感情的な提供価値にもつながります。
とくに“自分がきちんと評価されていないと感じているメンバーが複数いる状態になると、組織への不満の声が増えたり、退職にもつながったりします。
評価制度は、制度として完璧なものがあるというよりは、きちんと運用を微修正しながら透明で公正なものにしていくことが大事です。
評価制度自体、また、前工程となる目標設定、後工程となるフィードバックや評価面談がきちんと機能しているか、改善点はないかを確認して対応していきましょう。
従業員満足度(ES)向上の取り組み事例
本章では、最後に従業員満足度(ES)向上に成功した取組事例を3社紹介します。
サイバーエージェント
株式会社サイバーエージェントは、”働きがいのある会社ランキング“にも10回以上選出されている従業員満足度(ES)が高い企業の一つです。
従業員満足度(ES)を支えている要素として、会社自体の成長性や物理的な提供価値、ミッションビジョンバリューの浸透などに加えて、会社としてのメッセージが入ったらさまざまな福利厚生や人事制度なども見逃せません。
例えば、いまでは多くのベンチャー企業やスタートアップが導入した「2駅ルール」などもサイバーエージェントが先駆けとなった1社です。
2駅ルールは家賃補助制度の一種で、オフィスの最寄り駅から2駅以内に住む社員には月3万円の補助が支給されるというものです。
単なる金銭的補助ではなく、「仕事に集中して打ち込める環境の構築、そして、ワークライフバランスを支援する」というメッセージが込められた制度です。
2駅ルールは膨大にある福利厚生や人事制度のひとつです。
このように組織としての「提供価値」を考えながら、常にESやエンゲージメント向上に向けた手を打ち続けていることが、サイバーエージェントが高い従業員満足度を実現している理由といえるでしょう。
Googleは国内のみならず世界中で”働きたい企業”として人気があります。Googleはその充実した福利厚生でも有名です。
オフィスにはビリヤード台や卓球台、音楽を楽しめる防音室やおしゃれな図書室、一日3食無料で食べられる社員食堂などがあります。
Googleの場合、優秀な社員が集まっていることが前提になっている側面は大いにありますが、社員に能力を発揮してもらうという視点から提供価値の設計が非常に考えられていると感じられます。
たとえば、Google社内で“TGIF”と呼ばれている全社員ミーティングもES向上施策の一つです(なお、TGIFは、Thank God It’s Fridayの省略ですが、Googleで行われているものは宗教的な意味合いはなく、全社員ミーティングの名称というだけです)。
TGIFでは、毎週金曜日(いまは毎週ではなくなったという情報もあります)世界中のオフィス等をつないで実施する全社員MTGです。全世界の社員6万人が対象で、誰でも参加できます。
そして、TGIFでは、創業者や本社の経営陣が直接社員にメッセージしたり、逆に社員からの質問に答えたりします。
物理的な福利厚生等に加えて、こうした「Googleで働いている」ことを感じさせるコミュニケーションや情報共有もES向上につながっています。
サウスウエスト航空
サウスウエスト航空は40年以上も黒字経営を続ける世界的な企業です。
サウスウエスト航空では従業員満足度(ES)を向上させることによって顧客満足度(CS)を高め、利益増加に成功しています。
サウスウエスト航空では「ざっくばらんに仕事を楽しもう」をコンセプトにしています。細かい取り決め等はあえて設けず、顧客を楽しませる方法をほぼすべて従業員に任せています。
出発前のアナウンスをラップで披露するようなフライトアテンダントは、動画SNSなどでもよく露出されたりしています。
サービス業においては、「従業員の対応がサービスそのものとなる」側面が強くなります。
その中で、サービス品質を担保するためにマニュアルをしっかりと作るというのも一つの考え方です。
もちろんマニュアルでしっかりと担保すべき部分は絶対にありますが、同時に、サウスウエスト航空やスターバックスのような従業員が決められる「自由」、自己決定権を発揮できる部分を設けることで、従業員満足度(ES)を高め、同時に顧客満足度(CS)につなげるというやり方も見習うべき部分があるのではないでしょうか。
従業員満足度(ES)向上で自社ビジネスを成長させましょう
企業が事業を展開・成長させる上で、顧客満足度(CS)や顧客ロイヤリティーは欠かせないものです。
そして、最近では、産業のサービス化なども進む中で、顧客満足度(CS)を高めるためには、従業員満足度(ES)やエンゲージメントの向上が不可欠であると言われます。
従業員満足度は、大きく物理的な提供価値、経験的な提供価値、精神的な提供価値の3つに分類できます。
3つそれぞれの側面で、提供価値を高めていけないかをしっかりと検討して、従業員満足度(ES)向上の施策を考えていきましょう。