コロナ禍では、対面でのマスク着用やテレワークの普及で相手の顔や表情が見えづらいシーンが増えたことから、上司やメンバー、お客様とのコミュニケーションで悩みを抱える人も多くなりました。
こうした時代に円滑な会話をしたり信頼関係を構築したり、また、対面でのコミュニケーションをさらに効果的なものにしていくには、ノンバーバルコミュニケーションの大切さを再確認したうえで、工夫していくことが大切です。
記事では、コミュニケーションにおいて93%の割合を占めるともいわれるノンバーバルの重要性や意味を確認したうえで、「メラビアンの法則」に対するよくある誤解と注意点、ビジネスシーンにおけるノンバーバルコミュニケーションの活用事例、テレワークにおけるノンバーバルコミュニケーションの手法を解説します。
<目次>
- ノンバーバル(非言語)コミュニケーションの占める割合が93%とは?
- メラビアンの法則のよくある誤解と注意
- ビジネスシーンにおけるノンバーバルコミュニケーションの活用例
- テレワークにおけるノンバーバルコミュニケーションの工夫
- まとめ
ノンバーバル(非言語)コミュニケーションの占める割合が93%とは?
ノンバーバルコミュニケーションとは、非言語、つまり、コミュニケーションにおける言語ではない以下のような情報を指すものです。
- 声
- 見た目
- 身振り手振りなどのジェスチャー
コミュニケーションにおけるノンバーバルの重要性は、メラビアンの法則を引き合いにしてよく紹介されます。
メラビアンの法則では、バーバル(言葉)が7%、ノンバーバルは93%としています。ノンバーバル93%のうち、声の強弱や口調などの聴覚情報が38%、ボディランゲージや姿勢などの視覚情報が55%です。
ノンバーバルの数字を見れば、非言語の領域の影響がいかに強いかがわかるでしょう。メラビアンの法則は、7%の言語情報(Verbal)、38%の聴覚情報(Vocal)、55%の視覚情報(Visual)という3つのVを合わせて3Vの法則とも呼ばれます。
メラビアンの法則のよくある誤解と注意
先述のとおり、メラビアンの法則は、ノンバーバルコミュニケーションの重要性や第一印象の形成を説明する際によく使われる法則です。メラビアンの法則の結果は、ノンバーバルの重要性を示すという意味では間違いありません。
ただし、活用するうえではいくつかの誤解もあります。
本項では、メラビアンの法則とノンバーバルコミュニケーションに対する誤解と注意点を解説します。
メラビアンの法則における3つの誤解
メラビアンの法則には以下3つの誤解が生じがちなので注意しておきましょう。
・コミュニケーションにおける情報量自体を示したものではない
まず、メラビアンの法則では、視覚情報が55%と、言語情報や聴覚情報と比べて群を抜いて高いです。よって、メラビアンの法則を見ると、人とのコミュニケーションでは見た目で過半数が決まるかのような印象を受けるかもしれません。
ただ、そもそもメラビアンの法則は、「視覚情報・聴覚情報・言語情報のうち、一つでも矛盾した情報を与えた場合に、人は何を優先して相手の気持ちを判断するか?」という内容の実験です。判断の実験のなかで、優先度のウェイトとして示されたのが、以下3つの数値になります。
つまり、メラビアンの法則は矛盾した情報を与えた場合に、55%の比率で視覚情報が優先されるという意味であり、コミュニケーションにおける情報量の過半数が視覚情報、つまり外見であるといったことを示すものではありません。
・あらゆる場面に適用できるわけではない
メラビアンの法則がコミュニケーション全般に適用できるというのも、誤った解釈です。3Vの法則(7%の言語情報(Verbal)、38%の聴覚情報(Vocal)、55%の視覚情報(Visual))は、前述のとおりに矛盾した情報を与えた場合に何が優先されるかという実験になります。
また、3つの数字は、特定の実験環境におけるコミュニケーション、しかも、内容としては“自分への気持ち(好意の有無等)”を扱うというかなり限定された条件で生み出されたものです。
一般のコミュニケーションは、自分への好意や反感だけが話題になるわけではなく、メラビアンの法則の数値はそのまま日常のコミュニケーションに当てはめられるものではないことは、メラビアン自身も語っています。
・言語情報を軽視して良いわけではない
繰り返しますが、メラビアンの法則は、好意や反感などのわかりやすいテーマを扱い、なおかつ視覚・聴覚・言語に矛盾を生じさせるという限定的な環境下での実験です。
メラビアン自身も「言葉の伝達力がたったの7%だなんて馬鹿げたことがあるわけがない」と言っています。
重要なのは言語と非言語を一致させて相乗効果を発揮させること
メラビアンの実験はあくまで限定された意図的な実験であり、数値のパーセンテージをそのまま現実のコミュニケーションに反映できるものではありません。ただし、非言語コミュニケーションの重要性やポイントを学ぶことができる実験結果ではあります。
まず、人との会話やコミュニケーションをするうえで非常に大切なのは、3Vすべてに矛盾がなく一致していることです。いくら巧みに言葉を語ったとしても、声や見た目に矛盾や違和感があると、相手は疑いを持ってしまうということです。
例えば「君の成果は素晴らしいよ!いつも事業部の雰囲気にも貢献してくれて、心から感謝している!」と、相手の目も見ず、パソコンを使いながら、淡々と喋った場合、その言葉は相手の心を動かすでしょうか。
逆に「今期は現在の施策を本気でやる!私自身も徹底するし、みんなにも実行してほしい!現在の施策を本気でやるのが最重要方針だ!」と、メンバー全員を集めて、一人ひとりと目を合わせて、感情を込めた声と表情で伝えれば、相手に本気度が伝わる可能性は増すでしょう
ビジネスシーンにおけるノンバーバルコミュニケーションの活用例
ノンバーバルコミュニケーションは、ビジネスにおいて良い成果を出すために活用できます。
商談の場で信頼を勝ち取る
商談や訪問営業でお客様から信頼してもらうには、まず清潔感のある身だしなみ(視覚情報)で信頼を勝ち取ることが大切です。逆に、関係性があるお客様とカジュアルな場を作りたいのであれば、意図的に服装を崩すことも一つです。
メラビアンの法則におけるノンバーバルは、声やジェスチャーに限定されてとらえられることもありますが、こういった場所や身だしなみも、視覚情報の一部です。
また、商品説明の肝となる部分は話し方を少しゆっくりにして、声のトーンを下げる、相手の顔をしっかりと見るといった形で、伝えたいメッセージと言葉、ノンバーバルを一致させることで、商品・サービスへの自信なども伝えることが可能です。
また、相手の言葉を聞くときには、目を合わせる、ゆっくりと頷く、手を打つなどで納得を示すなどノンバーバルをうまく使えば信頼を勝ち取ることができるでしょう。
面接で求職者の本音を探る
採用面接に臨む求職者の多くは、代表的な質問に対しては回答を用意していることが多いでしょう。しかし、質問のなかで話を掘り下げたり、フィードバックをしていったりすると、想定外の質問をされた驚きや焦りから3Vに矛盾が生じて、以下のような動きになることがあります。
- 目が泳ぐ
- 表情がこわばる
- 声が上ずる など
採用面接に限ったことではありませんが、相手の本音を探ったりする際に相手のノンバーバルをしっかり観察する、というのもノンバーバルを使ったコミュニケーション技法の一つです。
ほかにも、
- 心を閉ざしているときには腕組みをする
- 本音を話していないときには口元を隠す
- 話や相手に興味がないときにはつま先が相手からズレる(ドアの方向を向く)
といったことも、相手の心理を探るノンバーバルのシグナルとして有名な事例です。
テレワークにおけるノンバーバルコミュニケーションの工夫
コロナ禍で普及したテレワークやリモートワークは、カメラと画面越しのコミュニケーションとなるため、対面と比べて微細な表情などを掴みづらく、ノンバーバルを生かしたコミュニケーションが難しい側面があります。
本章では、テレワーク時におけるノンバーバルコミュニケーションの工夫やポイントを紹介します。
聴覚情報の重要性が対面よりも高まる
テレワークにおけるZoomなどを使ったコミュニケーションでは、ビデオをONにしても、対面とまったく同じ感覚にはなりません。相手の表情などが対面に比べれば読み取りにくくなります。
したがって、対面で普段無意識にしている表情や目線の変化を見るようなノンバーバルコミュニケーションは難しくなります。その分、聴覚情報のウェイトが増すイメージとなりますので、発信者としても受信者として、「声」を意識することが大切です。
相槌などリアクションをしっかり取る
テレワークのコミュニケーションの場合、前述のとおり、アイコンタクトや表情などの視覚情報で誠実な姿勢などを見せようとしても、画面越しの相手には伝わりづらくなります。
また、テレビ会議の仕組み上、声による相槌を打とうとしてもうまく打てない、入れすぎると相手の言葉をさえぎってしまうといったケースもあるでしょう。
したがって、テレビ会議に参加するときには、相槌などの身体を使ったリアクション(視覚反応)をしっかり行ない、相手に「自分は話を聴いていますよ」「理解していますよ」といったアピールをすることが大切になります。
声のトーンや身振り手振りは多少大げさに
テレワークの場合、自分の話の伝わりやすさが、相手のヘッドホンやスピーカー、モニターのスペックに依存する部分もあります。
また、情報があくまで「モニターのなか」に限定されますので、話を聴く側の注意力や集中力もリアルよりも低下しがちです。
テレワークのこうした状況を考えると、自分が発言するときには、声のトーンを大きくする、話にメリハリをつける、身振り手振りを取り入れるなどの工夫で、相手が理解しやすい配慮をすることも大切です。
画面共有を使った商談やプレゼンテーションにおけるポイント
オンライン商談やリモート会議特有のポイントが、画面共有の使用です。画面共有すると、視覚情報は共有した画面にいきがちです。話者(スピーカー)の視覚情報(顔や表情)は一気に減少します。
ですから、リモート会議などで画面共有を利用するときは聴覚情報がコミュニケーションに与える比重がとりわけ大きくなります。
したがって、画面共有を利用するときは、対面でのコミュニケーションと比べると、2倍から3倍ぐらいの意識で伝えたい内容やメッセージに応じた声の大きさ、速さ、間などに注意することが大切になります。
まとめ
ノンバーバルコミュニケーションとは、声や見た目、ジェスチャーといった言語以外の情報による非言語コミュニケーションの総称です。ただし、ノンバーバルコミュニケーションの割合が93%とするメラビアンの法則は、あくまで限定的な条件・意図で行なわれた実験です。
したがって、以下のような点には注意が必要です。
- コミュニケーション情報量をありのまま示す数値ではない
- あらゆるコミュニケーションに適用できるわけでもない
- 言語情報を軽視して良いわけではない