他人に何かを依頼するとき、どうすれば相手は喜んで協力してくれるでしょうか?
ビジネスでも私生活でも、私たちが何かを成し遂げよう、成果をあげようと思うと、人に依頼して動いてもらうことが必要になることが大半です。
人間関係構築やリーダーシップの分野の世界的権威として知られるデール・カーネギーは、書籍『人を動かす』の中で、人々が喜んで協力してくれるようにする大切な秘訣を紹介しています。
本記事では、相手に喜んで動いてもらうためのカーネギーの原則「喜んで協力させる」を分かりやすく解説します。
<目次>
『人を動かす』とデール・カーネギー
最初に、デール・カーネギーと著書『人を動かす』について簡単に紹介します。
デール・カーネギーの生い立ち
書籍『人を動かす』の著者であるデール・カーネギーは、1888年にアメリカのミズーリ州の農家に生まれました。
幼少期のカーネギーは、貧しい家庭で農作業を手伝いながら学校に通っていました。カーネギーは大学を卒業すると販売職や教師として働きます。
そして、最終的にめぐり合った天職が「コミュニケーション技術(話し方教室)の講師」という仕事でした。
カーネギーは話し方教室の講師を通じて、政治家、軍人、ビジネスリーダー、主婦…あらゆる人が人間関係やコミュニケーションで課題を抱えていることに気づき始めます。
そして、カーネギーはこうしたコミュニケーションや人間関係の課題を改善・解決する方法を体系化して伝えることをライフワークとするようになりました。
代表作である『人を動かす』や『道は開ける』の書籍は、カーネギーのノウハウの集大成と言えるものです。
彼の考え方やメソッドは、現在でもデール・カーネギー・トレーニングというプログラムとして、数多くの人々のコミュニケーションや人間関係構築の向上に活用されています。
デール・カーネギー・トレーニングの受講者は、既に世界で900万人を超え、アメリカ大統領をはじめとする様々な著名人が、カーネギーの講座を通じてリーダーシップやコミュニケーションの技術を身に付けています。
書籍『人を動かす』とは?
デール・カーネギーの代表作『人を動かす』は、人間関係の基本原則を教えてくれる自己啓発書です。
1936年に発売されて以来、世界中で読まれ続けている同書では、人間関係を築き、人を動かすために役立つ30の原則が紹介されています。
『人を動かす』を読むと、人との関係を良くするための心構えや具体的な行動を自分のものにすることができるでしょう。
ビジネスや学校、家庭など、あらゆる人間関係で役立つスキルを身につけることのできる『人を動かす』は、人とのコミュニケーションやリーダーシップを向上させたい全ての人の必読書といえます。
『人を動かす』について知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。
人を変える9原則
書籍『人を動かす』は、「人を動かす3原則」「人に好かれる6原則」「人を説得する12原則」「人を変える9原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。
本記事のテーマである「喜んで協力させる」は、「人を変える9原則」の締めくくりとなる原則です。
「人を変える9原則」では、相手との関係を損ねることなく、相手に自ら変わってもらうために重要な9つの原則が書かれています。
「喜んで協力させる」の詳細に入る前に、本章では「人を変える9原則」の一覧を簡単に紹介します。
1.まずほめる
人に指摘や助言をしたい時に、いきなり改善点やアドバイスを伝えてしまうと、相手は自分の行動や思考を否定されたと感じ、こちらの話に耳を貸さなくなってしまう可能性があります。
「まずほめる」の原則では、相手の良い点や成功した点を率直に褒めたてから、その後に改善点やアドバイスを伝えることで、相手の重要感を満たしたうえで、よりよくなる手段として改善点やアドバイスを伝える方法を提案しています。
2.遠まわしに注意を与える
人間は自分の行動や思考を正当化する傾向が強く、批判されると反発してしまうという心理を持っています。そこで大切になるのが「遠まわしに注意を与える」原則です。
相手に悟られないようオブラートに包んで注意や苦言を与えることで、相手が自分自身で指摘や改善事項に気づいてもらうことが相手を動かすには有効です。
結果として、相手の自尊心を守りながら、相手の言動を変えることが可能になるでしょう。
3.自分の過ちを話す
「自分の過ちを話す」の原則では、相手の失敗を指摘したり改善を指導したりするときに、自分が過去に同じような失敗や苦労を経験していることを話すのがよいと提案しています。
自分も失敗してきたことを伝えることで、相手は自分が非難されていると感じず、こちらの指導を受け入れやすくなります。
自分の失敗を話すことは、相手の共感や信頼につながり、また、上から目線にならず、相手に助言やアドバイスを受け入れやすくする効果を生みます。
4.命令をしない
「命令をしない」の原則は、相手に一方的な指示や要求をせずに、自発的に行動させる方法です。
人は自分の行動を自分で決めたいという本能を持っており、一方的に命令することは、相手に無意識の反発心や不満を生み出すことにつながります。
相手にアイディアだけを提供して具体的なやり方は考えてもらったり、相手の意見や提案を尊重したり、相手に選択肢を与えたりすることが相手のモチベーションを高め、主体的な行動を生み出します。
例えば、「今日中にこのレポートを提出しなさい」と命令する代わりに、「このレポートの納期はいつだっけ?」あるいは「レポートを今日中に提出してほしいのだけど、どうしたら出来るかな?」と問いかける方が、相手の自主的な行動につながるわけです。
5.顔をつぶさない
「顔をつぶさない」の原則では、相手の自尊心やプライドを傷つけないようにすることの大切さを説いています。相手を人前で批判したり、叱責したりすれば、相手には反発心が生じます。
そうすれば、相手はあなたの言葉を聞き入れないモードに入ってしまいます。
それよりも相手の良い点や成功事例を認めたり、感謝や賞賛の言葉をかけたりする、また何か改善してもらう必要がある場合も「相手の顔を立てる」ことが大切です。
6.わずかなことでもほめる
人に対して誠実に褒めることが、相手の自尊心や承認欲求を満たし、さらなる行動を生み出すという原則です。
例えば、部下が目標達成できなかった時、目標未達を責めるのではなく、まずは部下が持っている長所や能力、できたプロセスをほめて、それを踏まえた上で次のアクションを提案していくほうが、部下の行動意欲を高める上では有効です。
このようにすることで、部下は自分の価値を認められたと感じて、アドバイスや助言を素直に聞く姿勢が生まれますし、褒められたプロセスを通じて業務にもより一生懸命取り組むようになるでしょう。
7.期待をかける
相手に対して期待や信頼を伝えることが、その人が良い方向に変わる行動を生み出すようになるという原則です。
この原則は、人は自分に対する他者の期待に応えようとする傾向があるとする、人間心理の法則「ピグマリオン効果」が基になっています。
例えば、教師が生徒に対して高い期待を持って接すると生徒の成績や態度が改善される、逆に、教師が生徒に対して低い期待を持って接すると、生徒の成績や態度が悪化することが実験で明らかになっています。
部下が仕事で成果を出せない場合でも、「あなたはもっとできるはずだ」「あなたは素晴らしい才能を持っている」「あなたに期待している」などの言葉をかけることが、部下の可能性を引き出し成長を促す上での糧になるわけです。
8.激励する
「激励する」ことは、相手のモチベーションや行動意欲を引き出す上でとても効果的です。「激励されている」と感じることで、相手からあなたへの信頼や好意も強まるでしょう。
ですから「あなたならきっとできる!」など、惜しみなく激励の声掛けをするようにしましょう。
ただし、激励する上では「誠実で真摯であること」「具体的で適切であること」に配慮して行う必要があります。言葉だけで相手を操ろうとしてもうまくいきません。
本当に相手を信じる、承認することが大切です。
9.喜んで協力させる
「喜んで協力させる」の原則では、相手に自分の考えや提案に賛成してもらうための方法を提案しています。この原則を適切に活用することで、喜んで協力させる状況を作り出すことも可能になります。
「上司や同僚の力を借りたいとき」「家族や友人に協力や応援を求めるとき」など、様々な人間関係のなかで相手に動いてもらいたいときに効果を発揮する原則です。
「喜んで協力させる」を実践するための具体的なアプローチ・伝え方は、次章で解説します。
「喜んで協力させる」を実践するための具体的なアプローチと伝え方
人に喜んで協力してもらうためには何が大切でしょうか。カーネギーは、人に喜んで協力してもらうために大切なこととして、次の6つの条件を上げています。
- 一、誠実であれ。守れない約束はするな。自分の利益は忘れ、相手の利益だけを考えよ。
- 二、相手に期待する協力は何か、明確に把握せよ。
- 三、相手の身になれ。相手の真の望みは何か?
- 四、あなたに協力すれば相手にどんな利益があるか?
- 五、望みどおりの利益を相手に与えよ。
- 六、人にものを頼む場合、その頼みが相手の利益にもなると気づくように話せ。
- (デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
6つの条件を一言でまとめると、「相手にとってどんな利益になるのかを明確にする」ことだと言えます。
私たちが人に協力してほしい、人を動かしたいと思うのは、自分の目標を達成したり、やりたいことを実現させたりするためです。
しかし、「あなたの目標のため」に動くことは、多くの場合、相手にとって意味があることにはなりません。
だからこそ、「相手の利益」を考え、相手に「これをしてもらえれば、あなたが欲しいこれが手に入る」と示すことが大切になるわけです。
本章では、上記を実践する具体的な方法をいくつか紹介します。
1.相手が自分からやりたくなるような理由や動機を与える
方法の1つ目は、相手が自分からやりたくなるような理由や動機を与える事です。やりたくなる理由や動機を与えるには、例えば以下のような伝え方が効果的です。
- ・相手が動きたくなる意味のある目標やビジョンを伝える
- ⇒「このプロジェクトは、私たちの会社の未来を変えるチャンスです。あなたの力が必要です」
- ・相手の強み、相手が誇っていることを交えて、それを刺激するメッセージを伝える
- ⇒「あなたはこの分野の専門家ですよね。私もあなたから学びたいと思っています。ぜひ力を貸してください」
このように伝えることで、相手の心に訴えかけて、行動する気持ちを引き出すことができるでしょう。
2.相手が得られる利益やメリットを具体的に示す
方法の2つ目は、相手が得られる利益やメリットを具体的に示すということです。
例えば、以下のような伝え方をすると、相手は自分がどんな利益やメリットを得られるのか具体的にイメージすることができるでしょう。
- ・相手が望む目標や課題の解決策として、自分の提案がどのように役立つかを説明する
- ⇒「この商品を購入いただければ、悩みを解消できます」
- ⇒「このサービスを導入いただければ、業務効率が向上します」
- ・相手が得られる恩恵について、具体的な数値やデータを提示する
- ⇒「このシステムを使えば、作業時間を3割削減できます」
- ・他者からの評価や実績を伝える
- ⇒「このプランに変更いただいたクライアントの半数で、月々の光熱費が20%削減できたと評判をいただいています」
- ・上司から部下に対して、期待を伝える
- ⇒「君はまだまだ成長できるポテンシャルを持っているし、会社としてもあなたの能力を活かしたいと考えているんだ。
そのためには、自分の強みや弱みを客観的に把握し、目標設定やフィードバックを求めることにも貪欲にならなきゃね。
そうすれば、あなたはより高いレベルで仕事ができて、自分のキャリアもより充実したものになると思うよ」
- ・チームリーダーからメンバーに対して、挑戦を促す
- ⇒「この案件、今月中に何とかならないかな?
もし上手く行ったら、部長もあなたの仕事ぶりを認めて次の主任に推してくれるのは間違いないよ」 - ⇒「このプログラムを業務で活用するプロジェクトがあるんだけど、立候補してみない?
上手く行けば、あなたの仕事の効率やクオリティが上がるのはもちろん、将来的にも他の部署やプロジェクトで活躍できるきっかけになるかもしれない」
上記で挙げたような伝え方をすることで、相手は提案が自分にとって有益であることを理解し、やる気や納得感を高めてくれるでしょう。
3.自分の経験や感情を共有する
方法の3つ目は、相手に自分の経験や感情や価値観を共有する事です。幾つか例を挙げましょう。
- ・ストーリーを語る
- ⇒「この商品は、参加したセミナーで一緒になった人の話から生まれました。その人は、プロジェクトでこんな課題に頭を悩ませていたのですが・・・」
- ・自分が感じた率直な感想を伝える
- ⇒「実はこのサービスは、私自身が使ってみて感動したものなんです。というのも・・・」
- ・相手に賛同や共感を求める
- ⇒「このプロジェクトは、私たちが共通の目標を持っていることを示しています。私たちが目指すビジョンは・・・」
このように、無味乾燥な情報ではなく、ストーリーとして経験や感情、価値観を伝えることによって、相手に同じような感覚をイメージしてもらうことが可能になります。
機能的なメリットではなく、情緒的な共感やベネフィットに訴求するアプローチです。
まとめ
記事では、相手に喜んで動いてもらうためのデール・カーネギーの原則「喜んで協力させる」をテーマにお伝えしました。
私達は、この原則を実践・活用することで、相手に喜んで協力してもらえる状況を作り出すことができるようになります。
上司や同僚、家族や友人など様々な人間関係の中で、自分の目的や利益に沿った結果を得られる可能性も大いに高まることでしょう。
なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。
「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。